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持続可能な窒素施肥の実現を目指して……温室効果ガスを発生させる硝化反応を抑えるメカニズムを解明

公開日:2024.4.1 更新日: 2024.4.3

安定して作物を育てるために三大栄養素の一つである窒素の施用は欠かせません。ただし、窒素肥料の主成分であるアンモニアが土壌中の硝化細菌によって亜硝酸に変換する過程で、温室効果ガスの一酸化二窒素(N2O)が放出されることが、近年、問題視されるようになっています。

そのため硝化抑制剤を肥料に混ぜて使用されてはいるものの、既存の薬剤では硝酸反応をどのように抑えているかは分かっていませんでした。そこで農研機構と株式会社アグロデザイン・スタジオの研究グループは、硝化反応が抑えられる仕組みを解明し、新たな硝化抑制剤の開発に必要な知見を得る研究に取り組みました。

この研究に取り組むに当たって、研究グループは硝化反応の担い手であるヒドロキシルアミン酸化還元酵素(HAO)に注目し、HAOの働きをジュグロンと呼ばれる物質が抑えることを明らかにしました。ジュグロンはクルミ科植物の分泌物で、他の植物の生育を阻害するアレロパシー物質として古くから研究されてきました。

イラスト/坂木浩子

硝化抑制剤と類似の作用を持つことから、研究グループがHAOに対する作用を実験的に調べたところ、HAOからシトクロムc554(Cytc554)というタンパク質での電子の受け渡しをジュグロンが阻害して、硝化反応を止めることが明らかになりました。

この研究成果は硝化反応が抑制される分子メカニズムを明らかにした世界初の研究成果です。この成果を参考にジュグロンの化学構造を改良するなどして、これまでにない硝化抑制剤が開発されれば、窒素肥料を施用しながら、温室効果ガスの発生を抑えた持続可能な農業の実現に貢献できるでしょう。

文/斉藤勝司

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