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【関西 果実】清見

公開日:2024.3.28

中晩柑類と呼ばれるカンキツがある。いわゆるミカン(ウンシュウミカン)とは別の品種で、年末頃から翌年の初夏にかけて出荷されるカンキツの総称であり、前回紹介した「紅ハッサク」もその一つだが、ブンタンやイヨカン、オレンジ系など様々なものがある。

突然変異や枝変わりなどで自然発生的に新品種が生まれることもあるが、農研機構や県などで育種も進められており、掛け合わせにより次々と新しい品種が生まれてくる。そのなかで商業価値があると認められたものだけが品種登録されて世に出てくる。

育種によって生み出されたもので認知度が高いもので言うと、「デコポン(不知火)」、「せとか」、「はるみ」などが挙げられるが、実はこの3種類のカンキツには共通点がある。すべて同じ育種親の「清見」から生まれたのだ。

「清見」はミカンとオレンジの掛け合わせである「タンゴール」に属するのだが、1949年に交配育成されて誕生した日本ではじめての「タンゴール」なのだ。しかし、すぐには世に出されず、様々な試験を重ねて登録されたのは約30年後。育成地であった静岡市清水区には清見寺(せいけんじ)があり、その付近の海岸は清見潟(きよみがた)と呼ばれていたことから命名されたそうだ。

その食味の良さから人気が高まり栽培地も広がっていったのだが、「清見」の価値が高まった理由は別のところにある。

前述の通り、いろんな品種の育種親となっているのだが、「清見」は雄性不稔性といって自らの花粉では受粉ができない性質を持つ。つまり、他の品種との掛け合わせでしか種子が作れないので、新しい品種を生み出すにはピッタリなのだ。

また、「清見」はカンキツのなかでは珍しい単胚性という性質を持つ。多くのカンキツは他胚性という性質を持っており、交雑によって生まれた種子であってもなかに多数の胚が含まれており母親の胚の性質が優勢なため、元の親の性質を持った個体になる確率が極めて高く、新しい性質を持った個体が生まれにくいのだが、単胚性の種子は交雑によって生まれた胚だけが存在するため交雑個体が生まれやすい。

「清見」は奇跡的に育種に最適な2つの特徴を持った上に、ウンシュウミカンとオレンジの長所をあわせ持ち、しかも食味が良くて病気にも強いので生まれてくる新品種にも期待が持てるスーパー品種だったのだ。

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