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おこまり鳥獣害 どうする利活用

新人ハンターを育成しながら ミカン園をヒヨドリから守る!

公開日:2019.2.13 更新日: 2019.2.22

今回の『おこまり鳥獣害 どうする利活用』では、 猟師の虎谷健さんにお話を聞きました!

かつて農産物流通に従事し、農家との親交も深かった虎谷健さんは、東京町田市在住の猟師。 11 月 15 日〜2月 15 日の狩猟期間中、狩猟に関心のある人や、免許を取得したての新人ハンタ ーを対象に、狩猟の魅力や野生動物たちの現状を伝え、そしてその「入口」を体験できるワークショップを開催しています。

ミカン園で狩猟の“入口”を体験

神奈川県丹沢山麓の伊勢原市にあるミカン畑で行われた「鳥猟体験プログラム グッドハンティング」。

虎谷さんは、園主の許可を得て、ここでエアライフル(空気銃)を使用した鳥猟を実施しています。当日の参加者は、狩猟に関心のある一般人3名と、エアライフルの新人猟師が1名。まず、ミカン畑の散策からスタートしました。よく見ると、丸く小さな穴の空いた果実があります。

「これが、ヒヨドリの食害です」

小さな穴は、ヒヨドリがクチバシで啄んだ跡。つついた果実が落下すると、それに誘引されて山からイノシシがやってきます。イノシシは落ちた実を食べるだけでなく、ミカンの木に体当たりを食らわしたり、寄りかかったりして木を倒してしまいます。そんな被害に悩む果樹農家は少なくありません。

猟体験の現場は、丹沢山系のミカン園。
ヒヨドリの食害は、イノシシの害にもつながる。

狩猟の初心者に適した猟場を探していた虎谷さんが農園主に「イノシシが来る前に、ヒヨドリの段階から対処が必要です」と説明すると、園主は狩猟の現場として利用することを承諾してくれました。
現場では、ミカンの木の合間を縫って、できるだけ「気配」を消して散策を続けます。ヒヨドリが留まっている枝を見つけて、静かにスタンバイ。獲物に向けてエアライフルを構えます。

「パスン!」

乾いた音が響きます。
周りの鳥たちが一斉に飛び立ちました。 どうやら外れたようです。

気を取り直して再び歩き出し、次の獲物を探します。通常、猟の大半は撃つことよりも、獲物を獲物を探すことと、じーっと息を潜めて待機する時間の方が長いのです。

虎さんの鳥猟体験プログラム
鳥猟には、発砲音の小さなエアライフルを使用。
回転式の銃なら連続して発砲できる。
経験の浅いハンターも、エアライフルを使った鳥猟の研修として参加。

園内にはさまざまな鳥が生息していますが、捕獲できるのは、鳥獣保護法に定められた 29 種の鳥類に限られています。ヒヨドリとムクドリは狩猟可能ですが、ツグミは対象外。キジバトも可能ですが、ドバトは対象外。フォルムが似ていても撃てない鳥もいるので、虎谷さんは、ターゲットをヒヨドリとキジバトに限定して猟を行なっています。

エアライフルには小さなキノコのような形の弾が込められていて、飛距離は約 50m。屋外で撃つと風に流されるので、実際は獲物に届く距離は 30m が限界といいます。イノシシやシカなど、大物猟に使用される散弾銃の方が飛距離は長く、エアライフルに比べ、威力も発砲時の音も格段に大きいといいます。しばらくして雑木の林のなかにヒヨドリの群れを見つけましたが虎谷さんは撃ちません。

「ドーンと撃ったら、一斉に逃げてしまいます。エアライフルは音が小さいので、じっと待っていれば次の群れがきます。あそこにヒヨドリが落下しても、藪が深くて取りに行けません。そういう場所では、最初から撃たないのです」

獲物の回収と処理もまた、猟師の仕事、ということでしょうか。

動物愛護派から猟師に新人猟師に入り口を

「元々僕は、自然保護派で動物愛護派なんです」

そう話す虎谷さんは、5年前まで「大地を守る会」で働いていました。
オーガニック食材を産地で調達し、消費者へ送り届けるのが仕事。だから農産物の生産者との付き合いも多かったのです。農薬や化学肥料を使わず栽培する生産者は、ドリフトを避けるために人里離れた場所で、野菜を栽培することが多いのです。そのため、10 年ほど前からイノシシやシカが急増し、畑の作物を荒らしている実情もリアルに知っていました。
山里の農家には、銃を所持して狩猟を行い、冬場のタンパク源として確保している人もいて、「虎ちゃんも、銃を持てばいいよ」と、狩猟のいろはを教えてくれたとのこと。

その後近くの銃砲店で、丹沢周辺を猟場にしているグループを紹介され、そのメンバーに加わりました。狩猟期間中は、猟犬とともに獲物を追う巻き狩りにも参加しています。

元々アウトドアが大好きで自然保護派な虎谷さん。猟師として山を歩き、その荒廃ぶりを見るにつけ、「日本の自然を守るには、狩猟という手段が必要だ」と考えるようになります。

虎谷さんのレクチャーによれば、1970年代、日本の猟師は約 55 万人。40 年後の2010年は半分以下の約 20 万人で、大部分が 60 歳以上。5年後に現場で活躍する猟師は、最盛期の10 分の1以下になるといわれています。
猟師の高齢化が進む一方で、「狩猟に関心はあるが、猟銃所持申請をする前に一度体験したい」若者や、「エアライフルを所持したけれど、練習する機会がない」という人も少なくないといいます。

「僕の仲間にも、何年も前からエアライフルを所持したけど、1羽も獲れないからもうやめようという人もいました」

虎谷さんは、群馬県で新規就農者の支援に携わっていたことがありますが、若手の育成が急務なのは、狩猟も農業の世界も一緒。

「新規就農者が地元に溶け込む手段として、狩猟技術が役立つと思います」

猟期は冬場の農閑期に当たります。そこでシカやイノシシを撃ち、食肉を自給して近所に配り、しかも獣害対策に貢献できれば、自然に交流が生まれ、地域に溶け込むこともできるからです。

人間と野生獣の関係をデザインしていく

結局この日、ヒヨドリを捕えることはできませんでしたが、狩猟の現場の時間の流れや緊張感を体験できました。参加した新人猟師も、「新米猟師には、得難い機会です」と話していました。

虎谷さんの狩猟体験は、これだけでは終わりません。虎谷さんは、が3日前に仕留めたヒヨドリを取り出し、手袋をはめて羽毛を抜くと、真っ赤な胸肉が現れる。翼や足を切り取り、内臓を取ります。表面の羽毛をバーナーで焼き切って、ナイフで解体。胸や腿肉、小さな砂嚢も取り出し、塩コショウで味付けしてフライパンでロースト。これを口に入れるとなんとも香ばしい味がします。そして、ここまでが「狩猟体験」。
その間虎谷さんは、車の荷台を利用して、シカ肉のカレーを作ってくれました。

虎さんのヒヨドリ解体&クッキング
虎さんが仕留めたヒヨドリを取り出し…
胸元から羽毛を抜く。
尾羽を残して、表面に残った羽毛を焼き切る。
食用部分は手のひらサイズ。これを解体しローストして味わった。
軽自動車の荷台で、シカ肉のカレーを料理する。
野生獣の肉の味や料理法を伝えている。

「脂質は豚の 20 分の 1。鉄分は家畜の3〜5倍で女性にぴったり。みなさんにシカ肉をもっと食べてほしい」

こうして獣害で捕獲が続く、シカ肉の魅力も伝えています。現在は環境コンサルタント会社に所属して、調査目的の狩猟に従事。狩猟期間中は、狩猟体験やシカの解体など、ワークショップを開催しています。

人口減少が激しい中山間地域では、野生動物の勢力が日に日に増しているのを感じます。日本の人口が減少し続ければ、動物たちはさらに生息域を広げていくでしょう。これから人間と野生獣と自然、この関係のバランスをとりながら、環境全体を「デザイン」する人間が必要になります。

「まだわからない部分も多いですが、今後面白い時代になっていくと思います」と、虎谷さん。その時、農業にも詳しい虎谷さんのような猟師が果たす役割は、さらに大きくなっているのではないかと感じました。

私、山の猟師になりました。

著者名: 三好かやの
発売日: 2016-09-09
ISBN: 978-4-416-51619-5
判型: 46
副書名: 一人前になるワザをベテラン猟師が教えます!
ページ数: 168
定価: 本体1,500 円+税

本書では、虎谷さんをはじめ、実際に猟師になり狩猟を実践できるようになった人の体験談から、どうしたら技術を体得できるかを紹介します。
また、狩猟や罠に興味を持つ人が実際に免許を取得してから技術を体得する方法や、捕らえた獲物を肉として食べるための処理方法、衛生管理までを網羅。
なぜ猟師として狩猟をするのか、山と獣と人間の関係・いとなみについて、ハンターからのリアルなメッセージを読みたい方にもオススメの1冊です!

『農耕と園藝』2016年5月号より転載・一部修正
取材・文/三好かやの

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