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第4回 園芸に関する名随筆 ~誰が園芸を語るのか~

公開日:2019.3.8

「日本の名随筆 別巻14 園芸」

1992年4月25日 第一刷
[編者]柳 宗民
[発行]作品社
[入手の難易度]易

1冊の本を手にした時に、まず、ぱらぱらっとページをめくって、手を止め、おもむろに一番最後のページを指で押さえて、老眼で見にくくなった眼鏡をずらして「奥付」にじっと目を凝らす。そこには、本のタイトル、著者名、出版社、発行年月日、版と刷などが書かれている。僕が「奥付」を気にして読むようになったのは、月刊「フローリスト」(誠文堂新光社)に書くようになってからで、それまでまったく気にもしていなかった。「フローリスト」の大関真哉編集長(当時)をはじめ、誠文堂新光社の雑誌編集に携わる方々と関わるようになって、みなさんがごく当たり前に奥付を読む姿がとてもカッコよくて、すぐ真似するようになった。どの出版社から、いつ頃出されたという基本情報だけでなく、版や刷りの数字を見ることで、注文がたくさんあって改訂を重ねたこと、つまり読者の評価や影響力も推測できるということらしい。版を重ね改訂が行われることで、内容にも変化があるので、手元にある本が第何版なのか知っておくのも大切なことかもしれない。ただ、あまり詰めていくと肩がこるから、僕にとっては、奥付は読む、ということだけでいいかな。

さて、今日紹介するのは「園芸」というタイトルの随筆集。作品社から出されている日本の名随筆を集めた大きなシリーズものの1冊だ。編者はテレビなどでも活躍された園芸家の柳宗民。本人の作品も含めて、35人の園芸随筆が載っている。櫻井元や龍潭寺雄、中井英夫のような著名な園芸家も含まれているが、あとは、名だたる作家や芸術家、学者ばかりで、さすがにどの話も面白い。味がある。

どこから読んでもいいと思うが、いくつか挙げてみると、まず「のらくろ」の作者、田河水泡の「バラの庶民性」。バラを難しく考えないで、もっと気楽に付き合うことを勧めている。出典は「園芸手帖」だ。この雑誌は、昭和30年代のなかばまで第一園芸が出していた。このつながりでいうと、第一園芸の社長を務めた三井不動産グループの重鎮、江戸英雄の随筆「わが家庭菜園」も載っている。戦前から戦後にかけて三井グループの所有地が食糧増産のために畑に変わっていく様子を当事者の目から書いた。今ある世田谷市場のすぐ近く、世田谷区用賀には現在の第一園芸の前身である戸越農園があったのは有名だが、下高井戸に牧場もあったという。

僕がいちばん興味深く読んだのは、真鍋博の「フラワートピア」だ。昭和30年代から活躍し、SF作家の作品に数多くのイラストを描いた。大阪万博やつくば万博にも関わり、未来の世界をイメージさせる絵や文章を数多く残している。
ここでは、東京オリンピックを機に急激に変化する生活を危ぶみ、高速道路が巡る中に立ち並ぶ高層ビルのような人工的で画一的な環境に暮らすようになると、花や植物のない生活は考えられない、と書かれている。だから、「今日牛乳が毎朝配達されるのと同じように未来には生花の配達があって、毎朝各戸にその日その日違った季節の花々を配達してくるようになるのではないか、そのためには居住区の近くに植物を栽培する花畑の集合団地が必要だ」といった具合に想像を広げている。興味深いのは、これが書かれた1968(昭和43)年の当時、モントリオール万博(1967)のモニュメントとして建設された「アビタ67」について触れているところだ。集合住宅でありながら、四角いユニットを少しずつずらして積み上げたような姿で各戸の日当たりを確保し、同時にプライバシーが守られている。「集合化の中の個人化、高密度化のなかでの自然化が立派に提案されている」。屋上からはパイプを通して各戸の庭の花壇に肥料まで流れてくる(溶液か?)と記している。真鍋は、「アビタ67」を目の当たりにして、テクノロジーの発達によって得られる便利さと、人間らしく暮らせる住環境を両立させる知恵として、植物を暮らしに積極的に取り入れることを夢物語ではなく、実現可能な未来としてに考えていたのではなかっただろうか。実際に6階にある自宅のベランダで試行錯誤しながら植物を育てる。「アビタ67」で検索してみてほしい。現在でもその建物が残っていて使われていることがわかる。

この「園芸」という随筆集では、まるごと一冊「園芸の魅力」、「園芸の価値」について語られている。園芸を仕事にしている人たちなら、きっと共感し、自分たちが言いたいことが書いてあるような気持ちになるだろう。人に何かを伝えようとする時に、「何を語るかより、誰がそれをいうのかが大事」という言葉があるように、この本は、誰もが認める文化人による「園芸のすすめ」だと思う。もしも、今、あなたが、またこの「園芸」を出版するとしたら、いったい誰に書いてもらえばいいと思いますか?

さて、このシリーズには、ほかに「花」、「庭」など園芸や植物に関連するタイトルがあって、なかでも「花」は、本体全100巻に別巻40巻という大きなシリーズ企画の第1巻に据えられたものだ。編者は作家の宇野千代だった。最初に「花」を置くなんてすごくいいと思う。図書館でも、ずらりと並んでいて、タイトルを見ながら興味あるものを開いて読む楽しみがある。たとえば、「商」の最初には、庄野潤三の「石売り」という小作品がある。群馬からやってきた石売りの男が大小17個の庭石を客と駆け引きしながら、結局安く買い叩かれて置いていく、というだけの話だ。男は車から1人で石を降ろし、背負って庭に運び込む。昭和30年代の物語だが、庭師の仕事の厳しさと同時に、なぜ当てもなく石を売りまわっていたのか、という間の抜けている感じがとても不思議な印象で、ほんとうにいろんな商売があるものだと思う。

こんなふうに、1冊に30を超える名人の作品があり、巻末には、それぞれのプロフィールもまとめてある。現在なら、インターネットの「まとめサイト」や「リンク集」のように使うことができそうだ。「園芸」には、編者の園芸家、柳宗民推薦の園芸書がリストアップされている。論文などでは、参考文献リストがしっかりとまとめていることによって、著者の問題意識や研究の方法がわかるという。僕らにとって、このリストを読むのもとても面白いことだと思う。たとえば、誠文堂新光社の本でいうと、園芸家、櫻井元「やぶれがさ 草木抄」(1969)、黄花の朝顔を生み出した尾崎哲之助「朝顔抄」(1971)などがあり、また改めて取り上げることにしたい。

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プロフィール

松山誠(まつやま・まこと)
1962年鹿児島県出身。国立科学博物館で勤務後、花の世界へ。生産者、仲卸、花店などで勤務。後に輸入会社にてニュースレターなどを配信した。現在、花業界の生きた歴史を調査する「花のクロノジスト」として活動中。

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