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園藝探偵の本棚

第1回 連載を始めるにあたって

公開日:2019.2.14

「園藝探偵」は、人の名前ではなく、「読む園芸」のことです。

「園芸の探偵」ってどんな仕事ですかって聞かれるたびに、いや、聞かれる前に、まず「園藝探偵とはなにか」を押さえておかないと。なぜなら、これを書いている僕は、現在まで30年ほど花の仕事にたずさわってきたにもかかわらず、園芸の実際に詳しいかというと、まったくもってそうではないからだ。ここ数年、自宅の庭で野菜や花を育てるようになったくらいで、正直、ものすごく経験不足だと思う。それでも、「園藝探偵」という小冊子3冊の制作に関わることができた。なんだか不思議な気がする。

僕は、2008年ごろから誠文堂新光社の雑誌、月刊「フローリスト」で、花の仕事の周辺についてあれこれ書かせてもらっている。ここ数年は、明治から昭和(とくに戦後あたりまで)にかけての日本のフラワーデザインの歴史、なかでも伝説のフラワーデコレーター、永島四郎(第一園芸)に強い興味があり、今も追いかけ続けている。連載のために集めた資料から面白そうな断片をピックアップし、さらに調査を加えて「フローリスト」と「農耕と園芸」編集部協同のとてもユニークなフリーペーパーにまとめてもらった。そのタイトルが「園藝探偵」だ。なんでもすぐにネットで検索できる時代に、古い資料にあたって少しずついろんなことがわかる、人と人のつながりが見えてくる、そういう面白さを表す言葉として、「探偵」という言葉は、とても合っていると思う。

園芸や植物の世界は間口も広く、奥が深く、楽しみは尽きない。スポーツの世界で例えるなら、高い技術と経験を持つスーパースターとしてのプロ選手がいて、そのすばらしいプレーを見る観客がいる。たくさんのファンがいるからそのスポーツ全体が支えられている。園芸も同じだ。栽培するひと、飾るひとたちはもちろん、ご近所の庭に咲く花を見るだけだっていい。「プランツウォーキング」というような散歩と観察を組み合わせたアクティビティも話題になった。花を食べる「エディブルフラワー」などは、目も舌も喜ばせるものだ。そもそも家庭菜園は、自給自足のためというより、もっと大きく多様な楽しみのためにある。こんな理屈でもって、園芸初心者である僕のような人たちが「誰でもすぐに楽しめる」活動として「園藝探偵」をおすすめしたい。

まずは、自分に何かつながりを感じられるところから始めるといいと思う。僕の場合は、どんどん興味が広がりすぎるのが問題なんだけど、先日は、50年前の東京オリンピックを調べていて、NHKの放送センターがその当時にできたことを知った。まさにオリンピックの放送センターだったんだ(現在老朽化のため建て替え計画がある)。だから、代々木の体育館や国立競技場に近い場所に置かれた。それが渋谷駅から公園通りの坂を登った、渋谷駅から少し遠い場所にある理由だ。1964(昭和39)年10月10日、この放送センターから世界に向けてオリンピックの開会式が伝えられるのだけど、これは、この年の夏に始まったばかりの国際衛星放送のシステム、とくに人工衛星が打ち上げに成功したおかげだった。興味深いと思ったのは、通信放送衛星の名前が「シンコム3号」という。日米間で初めての衛星放送が実現したのは、オリンピックの前年だった。そこで伝えられたニュースがアメリカのケネディ大統領の暗殺事件だったというのは有名だ。

ところで、僕はこの「シンコム3号」という名前を聞いて、ハッとした。それは、鹿児島で生まれ育ったからなんだ。「シンコム3号」は、鹿児島の地元の製パン会社である池田製菓のクリームパンの名前で、知らない人はいない。袋にはゆるい感じの衛星のイラストがついていた。そうかあ、宇宙開発で僕らの生活が便利になって、新しく可能になることはたくさんあったんだなあ。

そういえば最近、テレビドラマでずっと見ていた、そうだ、帝国重工の準天頂衛星「ヤタガラス」7号機が打ち上げに成功し、GPS機能の精度が格段に向上。これによって無人の農業用自動運転トラクターが実用化するという「下町ロケット」までがつながってきた。50年前の出来事が、未来のすぐ隣りにあるような感じだ。

こんなふうに、僕がいま「園藝探偵」が面白くなってきたと思うその前提として考えているのは、3点ある。

1つは、人生100年時代になってきたこと。

2つめは、情報環境がものすごく便利になってきたこと。

3つめは、「業界」という枠組みが見えにくくなってしまったこと。

人生100年時代は、後半が長い。仕事にしろ、趣味にしろ、学びが大事になってくる。そのために、生涯学習とか社会学習、あるいは、社内でのスキルアップのための学びに費やす時間が増えている。園芸という視点は多方面のジャンルと繋がっていける面白いテーマになるだろう。

2つめの情報環境の発達や低コスト化は、誰もが知的な資料に近づきやすくなっていることを表している。それに現代はあらゆる歴史的な情報をとてもフラットに見つめることができる。新しいアイデアを見つけるためにそれらを自由に使えばいいと思う。

3つめは産業としての園芸に関することだ。「業界」の枠組みが見えない、意味をなさなくなってきている、というのは、作り手の現場と使う側の距離が縮まって、流通が過去と比較してものすごく多様になっていることを表している。このような状況で指針になるのは人々のライフスタイルであり、産業に関わる誰もが、消費者一人ひとりに合わせてアイデアを出し、行動することが求められているのではないかな。園芸について、共通のテキストをもとに、関係する多様な人々がさまざまにそれを読み、書き、語ること。このささやかな取り組みこそ未来を形づくっていく力になると信じる。現在は、過去の経験と歴史を含んで成り立っている。過去に語られていることを少し詳しく見ることで、埋もれてしまったニーズや未来に向けてのヒントを得ることがきっとできると思う。

この読書案内が、園芸に関わる人たちにとっての何かしらの刺激となって行動につながること、楽しみを見いだすきっかけになるとうれしい。まずは、本の紹介だ。心ならずもメチャクチャに積み上がった本の山(棚ではなく積んである……)から、手当たり次第に引っ張り出して読んでみよう。

もう1つは、僕の、僕自身の好奇心に従って勉強したいこと、それは、「東京オリンピック」と「大阪万博」だ。その前後の約10年をトレースしてみようと考えている。具体的には「農耕と園芸」、「ガーデンライフ」あるいは、「子供の科学」といった誠文堂新光社の歴史ある雑誌を当時の時間軸に沿ってみんなで一緒に読んでいこうと思う。何が出てくるか、何が見つかるのか、いまの時点ではわからないけれど、冊子「園芸探偵」をつくるときに、すでにいくつもの発見があった。当時は今とは違った未来への真っ直ぐな期待や熱望があった。きっと何か面白いことがわかるはずだ。

最後に、この連載は、僕が1人でやっていくのにはもったいない企画だし、第一つまらない。だから、読んでくれるあなたにも、ぜひ参加してほしいと思う。おすすめの本や資料があったら、ぜひ、『カルチベ』の編集部にメールしてほしい。繰り返しになるが、「読む園芸」は誰でもできる。誰もが「園藝探偵」になれる。教えてもらったことは、なんらかの形で紹介させていただきます。それでは、いよいよ新しいページを開いていきましょうか。

 

プロフィール

松山誠(まつやま・まこと)
1962年鹿児島県出身。国立科学博物館で勤務後、花の世界へ。生産者、仲卸、花店などで勤務。後に輸入会社にてニュースレターなどを配信した。現在、花業界の生きた歴史を調査する「花のクロノジスト」として活動中。

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