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カルチべ取材班 現場参上

「食べる花」で6次化に挑戦!

公開日:2019.3.6 更新日: 2019.3.7
脇坂裕一さん、よしみさん夫妻は、エディブルフラワーの直売店「ソエル」を開業。

今回の「カルチベ取材班 現場参上」では、新潟県阿賀野市でエディブルフラワーの直売店「ソエル」を営む脇坂裕一さん、よしみさん夫妻のもとへお邪魔しました!

ご夫妻の花への工夫とこだわり、栽培から販売までの道のりなど、
素敵なお取り組みを前編・後編にわたってお届けします!

田んぼのなかに生まれた食用花の直売店

新潟県阿賀野市。越冬しにきた白鳥たちが羽を休める水田地帯のただなかに、小さな三角屋根の直売店「エディブルガーデンソエル(Soel)」があります。

「『ソエル』とは、日本語の『添える』の意味。料理に添える食用花を販売する店として、2014年7月8日にオープンしました」と、代表取締役の脇坂裕一さん(52 歳)。

店内には、専用のキッチンがあり、パンジー、ビオラ、ナスタチウム、ベゴニアなど、自社で栽培した食用花=「エディブルフラワー」を使った、色とりどりのお菓子や塩、ハーブティーなどが並んでいます。

出荷作業では一輪ずつ花を摘み取り、面相筆で汚れや虫を取り除いてパック詰めします。手前は花の種類や色も豊富な「乙女パック」。同色のナスタチウムやビオラをパックに詰めて販売します。

 

鉢物と同じ品種を無農薬で栽培

稲作との兼業農家に生まれた脇坂さんは、高校卒業後、神奈川県の先進的な施設園芸農家に住み込んで修業を積み、鉢花の栽培を学びました。
1983年、故郷の阿賀野市に帰り、ハウスを建てて施設園芸をスタート。徐々に栽培面積を拡大し、5棟のハウス(1320㎡)を2・5回転させて、春はパンジー、ビオラなどの花壇苗、冬にはポインセチア 31 万株を栽培。栽培歴は 32 年を数えます。

まだ誰も取り組んでいない作物を作ってみたい、という思いから、「食べられる花」を栽培しようと考えたのは、20 年程前のこと。それでも鉢物の生産と出荷が忙しく、なかなか実現できませんでした。

「本腰を入れて考えるようになったのは、3年前。2012年から、これまでなぜ日本でエディブルフラワーが普及しなかったのか、いろいろ考えて、事業化を進めてきました」

そんな脇坂さんのハウスは、鉢物用と食用に分かれています。食用のハウスを訪れると、そこではパートの女性が2名、出荷作業を進めていました。11月下旬のハウスでは、エディブルフラワーとして、パンジー、ビオラ、ナスタチウム、アリッサムなどを栽培。品種も栽培方法も、鉢物を作る時とほぼ変わりません。

「ナスタチウム」花だけでなく、小さな葉や、
「しっぽ」のある独特な形をしたつぼみも、食材として販売します。
「ベゴニア」開花前のつぼみには、独特の酸味があります。
花を摘み終えた株は、茎葉をカットして追肥を与えて育成し、再度花を収穫します。
左からアリッサム、ミモトビオラ、ナデシコ。

唯一の違いは、「農薬を使いません。病気や虫が出たら、ひたすら手作業で取り除きます」とのこと。食用に育てた花は、朝のうちに、一輪ずつ摘み取ります。そして水で濡らした面相筆で、花についたゴミや虫をひとつひとつ丁寧に取り除き、リーフレタスを土台に敷いたパックのなかに、一輪ずつ並べていきます。まるで小さな花畑のようです。

数種類の品種や色の花を詰め合わせた「乙女パック」の他、同じものをワンパックに詰めたものもあります。これは脇坂さんが独自に考案した出荷形態で、冷蔵庫でそのまま5日間保存できるといいます。

酸味、辛味、渋味花にもちゃんと味がある

脇坂さんが、赤いベゴニアのつぼみを摘み取り、「食べてみて」と花びらを1枚差し出しました。

口に入れて噛んでみると、そのすっぱさに驚きました。花にもやはり、それぞれ「味」があるのです。従来のエディブルフラワーは、主に結婚式場などの料理の「添え物」として使われることがほとんどでした。それはあくまでも料理の脇役で、食べられることなく、宴会が終わると捨てられてしまうことが多かったのです。

「食べないエディブルフラワー。それをちゃんと食べてもらえるようにするには、どうすればいいのか。まずそこを考えました」

ベゴニアには酸味、ナスタチウムには辛味、他の花には甘味や渋味、それぞれに味を持っています。野菜のように大量に食べるのには適さないのですが、料理のなかの一素材としてスパイス的に加わることで、見た目がカラフルになるだけでなく、味のアクセントになります。

「えっ、ベゴニアってこんな味なの? それを知ると、料理人の人たちは驚いて絶対使いたくなる。そんな形で提案してきました」

味はなくても香りがあります。色と形がきれい、食材としての花が持つ、多様な要素をうまく料理に取り入れられるよう、卸業者やレストラン、結婚式場の担当者に直接伝えることで、顧客を開拓します。すべて直接取引で、その販売先は全国に広がっています。

培土を最大限に活用しひと鉢から何度も収穫

花も葉も食べられるナスタチウムは、エディブルフラワーの代表格。
脇坂さんは、以前ポットで栽培していましたが、今年から土を入れたコンテナに、プラグ苗を5 〜6株定植して栽培し、開花した花や、適度な大きさの葉を摘んで、食用として出荷しています。

「ポットで育てると、土の量が限られてしまいますが、この方法だと株の根が、隣の根域に入り込めるので、育ちが良くなります」

また一度花を収穫したら、株全体を刈り込んで養生させ、追肥を与えて新芽を吹かせ、再度花を収穫することもできます。ベゴニアは、同じ鉢で1年半。これまで4回収穫しているものもあります。そこが1回花をつけるたび、土も一緒に販売していた花苗や鉢物との大きな違いです。

「鉢花の場合は、資材費が種子と土、両方かかります。毎年小さなポットで『畑ごと』売っている感覚でした。できるだけ培土をムダなく活用したい。エディブルフラワーの導入は、資材費の削減にもつながります」

エディブル用のハウスには、高知県の㈲見元園芸オリジナルの品種で知られる「ミモトビオラ」の苗も栽培されています。独特の色使いやウサギの耳のような形の花弁がついた品種は、お皿を飾る彩りとしても、人気を集めそうです。またナデシコの花は、花を崩した時の花弁の形が美しいのです。

「このまま豆腐やヨーグルトのような、白い食べ物に飾るときれいなんです」

ニオイスミレのポットの間から、タネツケバナ(種漬花)が伸びていました。田んぼや畑では雑草として除去される存在ですが、脇坂さんはこれもまた食用として出荷しています。

「どこにでも生えている草ですが、ある人に『食べられるんだよ』と教えられました。実際に食べてみるとおいしい。食べられる花はまだまだあるはずです」

マリーゴールドやコスモスも食用として栽培。ひとつの鉢から4〜5回収穫できるとなれば、鉢物よりもずっと利益率が高くなるはずですが、それには着実に販売数を伸ばして「売る」ことが必要です。

しかし、エディブルフラワーは青果市場にも生花市場にも、流通ルートが確立されていないので、独自に販売先を確保しなければなりません。そこで脇坂さんが活用しているのが、SNSのFacebook。レストランのシェフ、料理店専門の卸業者、結婚式場の担当者などとダイレクトにつながり、新商品の案内や注文をやりとりしています。

「最初に、いろんな花が入った『乙女パック』をサンプルでお送りして、それからナスタチウムだけとか、ビオラの何色が欲しいといった注文をいただいています」

2〜3度ダイレクトメールでやりとりしたら、書面が残るFAXで注文を送ってもらうようにしています。闇雲に有名シェフにアプローチするのではなく、一度面識のできた料理人や担当者に、商品情報や使い方を電話でプレゼンテーション。
まだまだニッチなジャンルのエディブルフラワーを必要としている人たちと連絡を取り合い、着実に販売していくために、とても有効なツールなのです。

直売店「ソエル」をオープン、加工品を製造販売

エディブルフラワーの新たな可能性を広めるために、脇坂さんは花き業界では珍しい、6次化にも取り組み始めました。こちらは妻のよしみさんが中心です。

2013年6月3日、農林水産省から「6次産業化・地産地消法」に基づく「総合事業計画」の認定を受け、エディブルフラワーの加工所、直売所である「ソエル」が誕生しました。

「エディブルガーデンソエル」は、彼方に五頭山を臨む水田地帯の一角にオープン。

 

カフェ風の店内で加工品を販売。金~日曜日に営業します。
㈱木原製作所の食品乾燥機で花びらを乾燥させます。
米粉で作った生地の上に、生の花弁を乗せて焼成。

 

6次化に向け、新たにスタッフを採用。製菓や調理の経験はなくとも「お菓子や花が好き」と話す女性を即採用し、3〜4ヵ月かけてパンやお菓子の試作に取り組みました。

脇坂さんは鉢花や食用花の他に、コメも栽培しているので、クッキーとケーキ、パンは米粉で製造。それぞれにエディブルフラワーを加えています。
例えば、黄色や紫色の花弁を乗せたパンジーのクッキー。当初は乾燥機にかけたドライフラワーを生地に乗せて焼いていたのですが、

「ある時、生の花びらをそのまま乗せても、色褪せずに焼けることがわかりました」

ハウスで栽培したハーブにマリーゴールドの花弁を加えたハーブティーや、新潟産の自然塩やフランス産のゲランドの塩に、ドライフラワーをブレンドした「フラワーソルト」も開発しました。いずれも色鮮やかで美しい商品ですが、そのなかでひときわ人目を引くのが「ベゴニアのソース」です。花に砂糖と水を加えて加熱しただけですが、鮮やかな赤色の酸味のあるソースができ上がりました。

開業に向け、着々と栽培と商品開発を進めてきた脇坂夫妻にとって、ひとつだけ「予想外」だったことがあります。

「ここでは飲食の許可が降りないのです」

当初は、ハーブティーを飲みながら、お菓子やケーキも味わえるカフェとして開業する予定だったのですが、「ソエル」のある場所は農業振興地域であるため、農地転換ができず、飲食も認められません。その「縛り」を外すことができませんでした。

当面は金〜日曜日の営業で、加工品の販売のみ。近隣の農産物直売所に商品を卸し、市役所へパンの出張販売を行う形で営業を続けています。

真っ赤な色と、独特の酸味があるベゴニアのソース。
フラワーソルトや全量自家栽培のハーブティーも販売。

50歳を過ぎた時、「60歳までの10 年で、新しいことにチャレンジしたい」と、エディブルフラワーに取り組み始めたよしみさん。
「カフェが営業できないのは残念ですが、いずれできる日が来ると思います。それまで、加工と卸に力を注いで、ノウハウを蓄積していきたいと思っています」と、裕一さん。

味、香り、色、形……花には、見るだけではない可能性があります。人の心を癒す存在として、エディブルフラワーのニーズはこれから高まっていくはずです。
「食べる花」の可能性を信じて、脇坂夫妻のさらなる挑戦は続きます。

次回のカルチベ取材班現場参上では、裕一さんの職場、なんと廃校を活用した植物工場に参上します。 [後編]もぜひお楽しみに!

 

 「農耕と園藝」2015 年 1 月号より転載・一部修正
取材・文/三好かやの 写真/白石ちえこ

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