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カルチべ取材班 現場参上

廃校を活用したエディブル・フラワーの植物工場で地域の活性化を目指す

公開日:2019.3.13 更新日: 2019.3.15

今回の現場参上は、廃校を活用したエディブル・フラワーの植物工場で、 地域の活性化を目指す脇坂さんにお話を伺いました!

一体廃校にはどのような活用方法があるのでしょうか?
そして地域の活性化とは? カルチベ取材班もドキドキです……!

通年生産と虫対策のため植物工場での花の栽培を決意

少子高齢化が進んだ日本では、過疎化が進む中山間地域のみならず、かつてはベッドタウンとして栄えた都市に隣接した地域であっても、廃校となる小学校が後を絶ちません。生涯学習施設や老人福祉施設にリノベーションされる学校はありますが、再利用されずに放置される小学校も決して少なくないといいます。

そうした廃校を植物工場として再利用する人がいます。
新潟市の東に隣接する阿賀野市で、花の栽培を手がける株式会社脇坂園芸の脇坂裕一さんです。

1983年以来、当地で花壇苗を生産してきましたが、2012年に〝食べられる花〞エディブル・フラワーの生産を開始しています。ビオラ、ナスタチウム、パンジー、アリッサムなど、その時々に咲く花を生産し、主に全国の結婚式場やレストランに出荷してきました。数種類の花を美しく詰め合わせた〝乙女パック〞は、一般消費者の人気も高く、これまでのビニルハウスの生産体制だけでは十分ではなくなってきていました。

「季節ごとに何らかの花は咲きますから、一年を通じてエディブル・フラワーを出荷することは可能です。しかし、特定の花を取り入れたメニューの人気が高まれば、料理店としては、そのメニューを通年で提供したいと考えますよね。特定の花の通年出荷が求められるようになると、ビニルハウスでの生産だけでは対応しきれなくなってきたのです」

そこで、環境制御が可能な人工光を用いた完全閉鎖型の植物工場での花の生産に乗り出すことになったわけですが、脇坂さんにとっては、もう一つ、植物工場でなければならない大きな理由がありました。脇坂さんが植物工場に乗り出す以前から、エディブル・フラワーは結婚式場やレストランの料理に彩りを与えてきたとはいえ、その多くは食べられないまま廃棄されていました。飾りではなく、本当に食べてもらえる花にするにはどうすればいいのか。食べられない理由を考えた結果、脇坂さんは無農薬でエディブル・フラワーの栽培に取り組むことにしました。

ただし、無農薬で花を栽培することは虫との戦いを意味していました。食べ物として出荷する以上、虫の混入は許されません。
出荷作業を行う脇坂園芸では、パートの女性が水で濡らした面相筆で花についた虫やゴミを丁寧に取り除いていました。

取材で訪ねた3月下旬は、まだ肌寒く、ビニルハウス内を虫が飛び回っている印象はありませんでしたが、夏になると虫が増えてしまいます。
いくら注意深く取り除いても、虫の混入を完全に防ぐことは難しいのです。
そこで、脇坂さんは虫の侵入を防ぐことができる植物工場でのエディブル・フラワーの生産に乗り出すことにしたのでした。

「最初はコンテナか、貸倉庫の利用を考えていたのですが、私も参加している『阿賀野ドリームプロジェクト』の活動を通じて、廃校を利用することになりました」

虫の侵入を防ぐ閉鎖型の植物工場でも小さなコバエは入ってきてしまうため、植物工場内には光で虫を誘引する捕虫器が設置されています。
無農薬で栽培しているため、どうしても虫が発生してしまいます。水で洗って出荷できればいいですが、軟弱組織の花ではそうはいきません。
パートの女性が濡れた面相筆で虫やゴミを取り除きながら丁寧にパック詰めしていきます。

公共性のある取り組みにするため関わった企業が共同で所有

阿賀野ドリームプロジェクトは、地域活性化と産業育成を目的に2012年に設立された異業種交流団体で、阿賀野市に拠点を置く企業50社程が参加しています。市内のアミューズメント施設で阿賀野市の産業を紹介するフェアを開催するなど、活発に活動していました。

植物工場を検討していた脇坂さんは、プロジェクトの仲間に植物工場を考えていると話したところ、とんとん拍子に進み、脇坂園芸を含め、建設、電気設備、水道設備などの施工を手がける地元企業5社が参加して、自分たちだけで植物工場を作ることになりました。しかも、参加メンバーのなかに市の職員から廃校の有効活用を相談されていた人がいて、2009年に廃校にな った旧大和小学校を利用することも決まりました。

給食室があった部屋を利用して作られた植物工場。
一般住宅の 3 倍ほどの断熱性能のある建材で囲った上、3 段の栽培棚が 4 列設置され、上段から下段に養液を循環させることで花が栽培されます。養液にはイチゴの水耕栽培用の液肥を、花の栽培に合わせて希釈率を変えて使われました。
2009年に廃校になった旧大和小学校。
東日本大震災直後に避難された方を受け入れたぐらいで、ほとんど使われていませんでした。
溶液タンク
エアコン
エアコンの室外機

しかし、メンバーのなかに植物工場の施工経験者がいたわけではありません。
まずは植物工場がどんなものかを知るため、2014年に東京ビッグサイトで開催されていた「施設園芸・植物工場展」に出かけてみました。当時を振り返って、脇坂さんがこう語ります。

「誰もが初めて植物工場というものに触れて、呆気にとられるばかりでした。翌年の2015年にも見学に行ったところ、前年とは違い、建設業、電気設備業、水道設備業など、それぞれの専門的な視点で植物工場を開設するには何が必要なのかを見極めることができ、これなら自分たちで作れると判断しました」

植物工場として利用することにした旧大和小学校は、ほとんどが使われていませんでしたが、体育館を地元のスポーツクラブが利用し、一部の教室は近隣の遺跡で発掘された遺物の整理作業に使われていたため、廃校から数年過しても水道は健在でした。
水の利用しやすさを考慮して給食室を選び、断熱性能の高い建材で囲うことで栽培室を作製。そこに栽培棚、電気設備、水道設備を設置して、花を栽培できる施設を整えました。
まさに〝オール阿賀野〞の陣容で作り上げたことで、専門業者に依頼して建設するよりも大幅に安く抑えた約850万円で植物工場が完成しました。
ただし、所有権に関しては関わった会社がそれぞれに資産計上して共同で持つことになりました。こうしてユニークな共同所有になった理由について、脇坂さんが説明します。

「植物工場を使うのは脇坂園芸だけですから、私の会社が出資して、関わってくれた会社に施工を発注することもできました。しかし、それでは阿賀野ドリームプロジェクトで始まった、公共性のある取り組みにはなりません。脇坂園芸が旧大和小学校を利用して植物工場にしたという以上の公共性を持たせたかったのです」

関わった会社が共同所有することで、公の取り組みになり、旧大和小学校を地域活性化の一拠点にしようとしているのです。
そして、2016年1月から水耕栽培での花の生産が始められました。

手探りの試験栽培で適切な光量や波長を明らかに

こうして作られた植物工場を訪ねると、前室で防塵服を着込んだ脇坂さんが、やにわに掃除機に似たブロワーで衣服や頭髪に付着した埃を吹き飛ばし始めました。

「設備の整った植物工場なら、前室との間にエアシャワーがあるのでしょうけど、そこまでの設備は作れませんからね。ブロワーで埃を飛ばしてから植物工場に入るようにしています」

植物工場には3段の栽培棚が4列設置されており、そのうち3列で色鮮やかな花が咲いていました。
植物工場での生産を開始して1年以上が経過し、順調にエディブル・フラワーを生産できているように見て取れましたが、花の栽培に関しては、長年の経験に裏打ちされた高い技術を持つ脇坂さんであっても、植物工場の経験はなく、手探りで栽培技術を確立するしかなかったといいます。

「どの程度の光を当てるのが適切なのかがわからなかったので、最初に設置した2列のうちの1列で花を咲かせるのに必要な光量を探りました。上段には4本、中段には3本、下段には2本と、設置するLEDの本数を変えて花の咲き具合を調べることで必要な光量を探った結果、2本でも十分に栽培できることが明らかになりました」

4本すべてを灯せば、より早く開花させることができるかもしれませんが、花を生産しながらの試験では、光量の違いによる収量の変化を調べることは難しく、現在は電力コストを抑えるため、上段、中段も2本のLEDだけが灯されています。花の栽培に適した波長については、光に含まれる紫外線や赤外線の量が異なる3タイプのLEDを用いて生育の違いを調べましたが、どのLEDでも花を咲かせることができました。光の波長について詳しく調べれば、どのLEDが花を咲かせるのに最適なのか明らかになりますが、コストダウンが進んだとはいえLEDは安いものではありません。最適な波長が明らかになったといっても、新たにLEDを購入していては生産コストは増大してしまいます。花を咲かせられないならともかく、花を咲かせてくれさえすれば十分に使えるわけで、最初に設置した3タイプのLEDが使われ続けています。

栽培棚ごとにLEDの本数を変えることで、花を咲かせるのに必要な光量を探る試験栽培が行われました。2本でも十分に花を咲かせることがわかり、今では4本の棚、3本の棚でも2本のLEDしか灯していません。
LED4本、IED3本
草丈の高さに合わせて、チェーンで LED の高さを調節します。

開花時期の異なる花を同じ環境で咲かせるには……

では、植物工場内の温度設定については、どのように決められたのでしょうか。前述したとおり、植物工場に乗り出したのには、周年収獲が目的の一つになっていました。
ただし、元給食室の一部屋だけを利用している以上、花の種類ごとに栽培温度を分けることは難しいのです。
そこで、脇坂さんは暖かい時期に咲く花と寒い時期に咲く花の両方を咲かせる温度帯を探ることにしました。

「例えば、マリーゴールドは暖かい時期に、ビオラは寒い時期に咲きますから、常識的に考えれば、同じ場所で周年収獲することは不可能です。ですが、花を咲かせるのに適した温度には幅があるので、マリーゴールドが花を咲かせる下限の温度と、ビオラが花を咲かせる上限の温度を狙えば、同じ場所での周年収獲ができるはずです」

こうした考えの下、脇坂さんは多くの種類を一つの植物工場内で咲かせられる温度帯を探り、栽培を行いました。
その結果、一室しかない植物工場でも10種類程度の花を咲かせています。これで収量がともなえば、植物工場からも出荷できるのですが、今はまだ収量は少なく、植物工場で摘み取られた花はビニルハウスに運ばれ、施設園芸で栽培された花と一緒にパック詰めされています。

植物工場で栽培される花
パンジー
マリーゴールド
ナデシコ
アリッサム(白)
アリッサム(ピンク)

植物工場で花を生産するようになってから1年以上が経ち、照明や空調のための電気代が把握できるようになると、改めて植物工場が高コストであることが明らかになりました。それでも虫を排除するための人的コストが抑えられるなら、十分に手がける価値はあるというのが、現在の脇坂さんの評価です。そのためには、まず植物工場だけの収穫で出荷できるようにすることが求められますが、周年収獲や虫対策以外にもメリットが得られるかもしれないと脇坂さんは期待します。

ナデシコの花を収穫する脇坂さん。
花を収穫しても株全体を刈り込んで養生させることで、
新芽が出てきて、再度花を収穫することができます。

「花壇苗と異なり、エディブル・フラワーは、花を収穫するだけですから、ビニルハウスでも株全体を刈り込んで養生させ、同じ株から何度も花を咲かせていました。植物工場なら暖かい春のような気候を持続させられるので、より長く花を咲かせられるかもしれません」

植物自体の寿命を考えれば、何年も同じ株から花を咲かせ続けることは難しいと思われますが、環境制御次第で同じ株から長く花を収穫できるでしょう。
そうなれば育苗コストを削減できるはずで、電気代などで生産コストが増大しても、植物工場は十分に採算が取れるものになると期待されます。脇坂さんにとっての当面の課題は、植物工場だけでエディブル・フラワーを出荷できるように生産を軌道に乗せることですが、旧大和小学校の活用という点では、教室を活用して野菜を乾燥させる施設も稼働するなど、広がりを見せています。

今後、脇坂さんの植物工場を先行事例として、空いた教室を利用しようとする者が増えていけば、阿賀野ドリームプロジェクトが目指した地域活性化の拠点としてもどんどん活気づいていくのではないでしょうか。その際には、またぜひカルチベ取材班も参上できればと思いました。

「農耕と園藝」2017 年 5 月号より転載・一部修正
取材・文/斉藤勝司

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