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カルチべ取材班 現場参上

カルチベ取材班、野菜・花き種苗改善審査会へゆく① 「冬まきコマツナ(ハウス栽培)の部」を知りたい!

公開日:2019.3.29

今回のカルチベ取材班は、本誌『農耕と園藝』でもおなじみ、東京都種苗会主催の「野菜・花き改善審査会“冬まきコマツナ(ハウス栽培)の部”」に突撃します!

毎年恒例の本審査会は、今年で第61回目を迎える歴史ある会です。

一体どのようにして行われているのでしょうか?

取材班は、早速都内江戸川区にある、東京都農林総合研究センターに参上しました!

カルチベでは普段本誌で取り上げることのない、審査の様子や取り組みなどを中心にお届けしたいと思います!

東京都種苗会主催の野菜・花き改善審査会とは?

野菜・花き改善審査会は、毎年東京都農業総合研究センター立川本場および江戸川分場で開催されています。会場選びは、審査対象となる品種の地域性や産地との関わりなどから振り分けられており、今回行われた“冬まきコマツナ(ハウス栽培)”の部からもその様子が伺えます。

みなさまご存知のとおり「コマツナ」は、江戸川区小松川の地名からつけられた名前。足立区、葛飾区、江戸川区をあわせた通称「江東三区」は、東京都で栽培されているコマツナの作付面積のおよそ半分を占めます。そのため、東京都の東端に位置し、古くから歴史ある下町の食を支えた農産物でもあるコマツナは列記とした江戸野菜です。

また、会場のある江戸川区鹿骨周辺は「鉢花」や「花苗」など江戸時代から伝統ある花きの産地としても有名です。

江戸川分場の研究センター内で育てられているチューリップ。
写真は現在、簡易的な水耕栽培の技術について試作を重ねている様子。

冬まきコマツナの生育経過

さてそんな由緒ある審査会ですが、今回の審査対象品目である冬まきコマツナの出品点数は、18点(内参考出品3点)。

審査対象となるコマツナは、2018年12月27日(播種後6日目)に発芽を始め、1月4日(播種後14日目)にはほとんどの品種で発芽揃いとなりました。播種後1月いっぱいは降雨が少なく、日照が強い日が続きました。さらに、2月中は降雨が少なく日照は弱め、気温が高い日が続きました。今回の生育経過の特徴として、一部を除き、生育期間を通して降雨が非常に少なく、気温も高かったといいます。

また、日照が長かったこともあり、中間地点として生育確認した2月5日の時点でかなり生育が進んでいたため、審査会の開催を早め、2月27日に開催されたとのこと。その後の管理では極端な開放管理は行わず、審査日を迎えました。

発芽後の圃場での揃いは良好で、シャーレ50粒2反復の発芽試験、暗黒下室温6日後の発芽実数は一部を除き95以上でした。しかし、一部やや低い品種の再調査は25℃以下の発芽実数が83(100粒中)との結果も。

審査日は、播種日から起算して68日目にあたりますが、収穫適期は生育の早いもので58日目、生育の遅いものでは78日頃と考えられます。耕種概要については、以下の通りです。

 

[耕種概要]

供試圃場 江戸川分場赤土客土近紫外線除去フィルム展張ハウス2棟(春季土壌消毒、前作コマツナ)
施肥   10aあたりN、P2O5、K2Oを成分量で各10kg(全量基肥)
区制   3.24㎡の2連制(1区当たり2.70mの216株)
播種   12月21日
栽植距離 ベッド幅70cm、通路50cm、条間14cmの4条播き
(5cm間隔、1穴1粒播種)
温度管理 パイプハウスの妻面及びサイド面は、防虫ネット展長。
発芽揃いからサイド下段を最低限開け、上段は随時開閉。
潅水   12月21日、1月11日、1月22日、2月1日。
病害虫防除 土壌消毒(ダメゾット粉粒剤、春季処理、ガス抜き2回)
サイド、出入口に1mm目合いの防虫ネット、
播種時:アクタラ粒剤5、フォース粒剤
1月4日:スピノエース顆粒水和剤、ベンレート水和剤
2月21日:アクセルフロアブル

いざ、審査圃場!

生育経過と耕種概要を確認したうえで、いざ圃場へ!

圃場内で審査区間を1区と2区に分け、生育状況を見ていきます。

ツヤツヤした葉に立派な茎が揃った各社自慢のコマツナがずらりと並びます。
甲乙つけがたいほどに順調に成育した美しいコマツナ。見るからに美味しそうです。
審査員のみなさまは一様に「決めがたい…」という表情を見せながら、真剣な面持ちで採点していました。
何度も往復して、コマツナの生育状態を念入りに確認します。

収穫物の審査

次に収穫方法ですが、ラベルから20cmを除き、中央2条のものを収穫します。収穫物の数量は20株。小さい株も対象とします。

株はそれぞれ根付きのまま抜き取り、根についた土を軽く落とします。

足立区、葛飾区、江戸川区の江東三区では市場出荷が中心のため、荷姿は他産地と異なり、袋詰めではなく、寝付きで平たく結束した束で出荷するそう。多くの農家さんが、畑で抜き取りながら結束し、根についた泥を洗って保冷庫に入れ、箱詰めします。

審査のために収穫して下さっている研究センター職員のみなさま。
収穫したコマツナは品種ごとにカゴに入れ、審査を行うハウスへと運びます。

展示方法はラベルを左上に置き、コマツナは下段の左から右、大きい順に8株ずつ並べます。大きいほうから9番目は上段に並べ、左から右、大きい順に12株並べます。そして最後に異株を並べます。

これだけの株が並ぶと圧巻ですね。根も葉もシャキッとしたコマツナは江東三区の誇りです。

採点方法は、圃場番号1区・2区の平均を太毛100点、収穫物200点満点で計算します。

審査時間は2時間程。収穫物審査のコマツナを並べる作業は、職員の方だけでなく、全体で協力しながら行います。審査中は採点ミスのないよう、事務局の方のアナウンスに沿って慎重に進行していきます。

収穫物審査の様子。こちらでも綺麗に並べられたコマツナの一株一株を丁寧にチェック。
立毛審査も収穫物審査も、時間ギリギリまで悩みます…!

結果発表

さて、いよいよ気になる冬まきコマツナ(ハウス栽培)の部、審査結果の発表です!

多くの審査員の頭を悩ませた今回の採点ですが、結果はご覧のとおりとなりました。

 

[審査成績表]

Ⅰ等・1位 ノウリン交配雪美坂(株式会社 日本農林社)

Ⅱ等・2位 ノウリン交配K‐36(株式会社 日本農林社)

Ⅱ等・3位 MKS‐G002(みかど協和 株式会社)

Ⅲ等・4位 No.1123(タキイ種苗株式会社 関東支店)

Ⅲ等・5位 No.1122(タキイ種苗株式会社 関東支店)

磨かれていく品種と栽培技術

審査結果と審査講評をもって、今回の審査会は無事終了となりました。

審査会はこのようにして、各品目の改善や次世代の栽培技術へと活かされています。

各社選りすぐりの品種は、こういった定期的な取り組みが行われることによって磨かれ、その歴史が脈々と紡がれることによって支えられているのかもしれませんね。

気になる審査講評については、5月23日発売の『農耕と園藝 夏号』でさらに詳しくお伝えしたいと思います!

また、第61回 野菜・花き改善審査会の様子は、今後もスイートコーンやホウレンソウ、キンギョソウにパンジーなど、続々とお届け予定! 年間を通して見逃せない品種が盛りだくさん登場します。

カルチベ取材班に現場参上してほしい! という「品目」、「栽培技術」に関するご意見も随時お待ちしております!

それでは、ぜひ次回の「カルチベ取材班 現場参上」もご覧くださいませ!

 

 

協力/東京都農業総合研究センター江戸川分場

取材・文/編集部

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