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第6回 草取りの楽しみ

公開日:2019.3.22 更新日: 2021.4.14

「身近な雑草の芽生えハンドブック」

[著者]浅井元朗
[発行]文一総合出版
[入手の難易度]易

今回紹介するのは『身近な雑草の芽生えハンドブック』だ。
フィールドに持ち出して使えるように軽くコンパクトにつくられた「ハンドブックシリーズ」の一冊で、小さな芽生えの写真が並んだ表紙がとにかくかわいい。小さいけれど、検索一覧表や索引をそなえた優れた図鑑だ。

今すぐ、このハンドブックを持って外に出てみたい。最初はどれも似たような姿に見えるけれど、よく見ると意外とそれぞれに特徴があることにすぐ気づくと思う。
ルーペがあるともっと面白い。僕はビクセンの拡大率10倍のルーペを持って外に出る。
「芽生え」といっても子葉(双葉・第一葉)が出たばかりのものから、本葉が出て幼植物として育ち始めたものまでいろいろな段階が見られるので、観察しながら、このハンドブックの写真と合わせて見るといい。

僕はいま、自宅の小さな庭の5坪ほどのスペースで野菜や花を育てている。ほんの4年くらい前からで、なにをやっても新鮮な感覚が得られるので面白がって遊んでいる。
きっかけは、一緒に暮らしていた義母が亡くなったことだった。85歳。花がとても好きな人だったけれど、亡くなる前、5年ほどの間に急に興味を失ったようになって、庭は荒れていた。

今は少しずつ手を入れて、畝をつくり、88歳になる義父の手も借りながら野菜や花を育てている。タネを蒔き、苗に仕立て、定植し、収穫という一通りのことを自分でやってみると、うまくいくことと失敗することが目の前で日々起きるので、すごく面白い。今は情報もたくさん得られるし、便利な道具が格安で入手できる。あとは、実際にやるだけだ。

自分で庭の手入れをするようになって、最初にわかったのは、草取りがたいへんだということだった。春先など気候のいい時はマメに草取りをして気持ちよく家に戻ることができるけど、梅雨時や暑くなると伸びる勢いもあるし、草も硬くなってたいへんになる。サボっているとあっという間に大きくなる。園芸をやる人には避けて通れない道だ。

やがて、草取りにはタイミングがあることもわかってきた。
道具がいろいろある理由もわかるようになった。
「草抜き」「草取り」「草むしり」「草削り」「草引き」「草刈り」「草なぎ」「刈払い」「抑草」「除草」、いろんな言葉があり、それぞれに微妙な作業の目的や感覚の差を示していることもわかってきた。

春先は草を手で抜いたりむしったりできるし、道具を使うより手でどんどんむしり取ったほうが早く終る。それが草の種類や時期が変わると、鎌などで刈るしかなくなる。
農作物の間に出てくる草は、作物を傷めないように注意して引き抜くだろう。コンクリートの隙間のようなところに出る草は、削るようにして抑える。

草を抜くと土がむき出しになって、そこに眠っていた土中のタネが発芽することもあるし、雑草の根が地中を耕し環境を豊かにしている場合もあるので、草を根から抜かずに上部だけを必要な期間だけ小さく刈る「抑制する」という考えも学んだ。
僕の家の隣が親戚の家なのだが、今は誰も住んでいないので、そこの庭の草をバリバリと刈って堆肥をつくったりもしている。草取りはよい運動になるし、すぐに「結果にコミット」できる達成感もあって、こんなに楽しいことをなぜやらないのか、と世界に向かって叫びたくなる(「草取り」に関するほかの言葉をご存知でしたら教えてください)。

こうして、草取りを遊びにしてみると、「雑草の芽生えハンドブック」は役に立つし、本当によくできていると思う。
著者は大学時代から雑草の研究を始め、雑草のすべての生活環、生長のどのステージであっても葉っぱ一枚あれば、種類を同定し、農家や研究室の仲間に説明できるようにしていたという。図鑑にはそのステージ違いの写真が数枚掲載されていてとてもわかりやすい。まさに労作だ。
最初の出版の数年あとに続編の2が出ており、1と2の両方で、おおよその身近な雑草はカバーできていると思う(2には巻末に通しの索引あり)。夏生、冬生という芽生えが見られる時期によって分けられた巻頭の写真一覧でおおよその見当をつけて、解説ページに飛べばけっこうな確立でたどり着ける。こうした芽生えを観察しながら、盆栽用の芽切りハサミで摘んでから観察するのが楽しみだ。材料は1年中どこにでも、いくらでもある。

去年は、100円ショップでシロツメクサのタネを買って畝に蒔いた。緑肥にしたかったのだ。タネはやがて発芽し、双葉がでてきた。ふつうの双葉だった。
「あれ?三つ葉(三出複葉)の形になるのは本葉が出る時なのか」と思ってまたしばらくしてから見ると、本葉も三つ葉ではなく、そればかりか、「クローバー」ではなく「スペード」のような形をしていたのだ。ようやく三つ葉が出てきたのはそのあとの1枚だった。
「ハンドブック」の解説を読むと、双葉、本葉ではなく「子葉」「第一葉」「第二葉から三出複葉(が出る)」と書いてあった。

先行する参考書として浅野貞夫の『原色図鑑 芽ばえとたね』という大作がある。写真の他に芽生えた幼植物を根の先までペンで描いた細密画に圧倒される。こちらは、大型本で価格も高価だ。
著者は、植物の「タネ、芽生え、成植物」の3態をひとつにまとめた図鑑を目指し、62歳から観察と生態図を描き始めた。中学・高校の教師を長年にわたってつとめ、在野の研究者として過ごしてきた著者は、20余年の歳月をかけた図鑑がようやく出版されるという時に、完成を待たず亡くなった。享年87歳。命を懸けた大作である。

参考

  • 『新装版 原色図鑑 芽ばえとたね』
    浅野貞夫 全国農村教育協会 2005年

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