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カルチべ取材班 現場参上

無農薬・有機野菜をヴィーガン料理に

公開日:2019.3.26 更新日: 2020.2.26

本日のカルチベ取材班は、熊本・山都町の「土のめぐみ」さん、そして東京・下北沢の「KLASINA」さんにお話を伺うため、現場参上しました!

巷で話題のヴィーガン料理にまつわる無農薬・有機野菜についてたっぷりお話を聞いてきましたよ!

アパレル商社での野菜販売

熊本県の無農薬・有機野菜を全国に販売する「株式会社 土のめぐみ」。代表取締役の土田賢一さんは、23年にわたってこのビジネスを育て続けてきました。大阪出身で、大学卒業後には大阪のアパレル商社に勤めていた土田さん。なぜ熊本の野菜を販売するようになったのでしょうか。

「アパレル商社では着物の営業販売をしていて、1年のうち300日くらいは地方出張でした。食事はジャンクフード、たばこは1日70本、お酒も昼間から。体調も悪かったので市販の薬が大好きで(笑)。体重は95㎏ありました」

不摂生の末、出張先のホテルで倒れ生死の境をさまよった土田さん。

病を克服した後、会社に復帰したが着物営業からは退くことに。その頃、友人から「野菜作りっておもしろいよ」と誘われました。それが自然農でした。それまでは野菜にも農業にも興味はありませんでしたが、山のなかでクワとカマとスコップだけで野菜を育ててみたら、これがとても面白く、はまってしまったそう。そして、はまりすぎて自分が育てた野菜以外を口にしなくなってしまったのだとか。

「肉、魚、酒、たばこ全部やめて。2ヵ月で体重が58㎏になりました(笑)」

その頃、直属の上司が熊本にある実家に連れていってくれました。そこで、数十年にわたって無農薬栽培を続けている生産者に出会ったことが、今のビジネスにつながります。

「いい野菜を一生懸命作っているのに販路がないために収穫せずに畑に残しておくんです。それを見て、アパレル商社の流通にのせて野菜を販売することを考えました」

「土のめぐみ」の野菜セット。宅配の場合、様々な野菜をバランスよく届けることを考えながら、スタッフが主婦目線でセレクトします。
熊本・山都町のサツマイモ圃場。熊本大地震で大きな被害を受けましたが、仮設住宅に住みながら現在も栽培を続けています。
カラフルなミニトマト。味はもちろん色も形も美しく育てることが信条です。

自分は栽培ではなく流通に専念すると決め、社内に野菜販売部門を立ち上げ、アパレル取引業者に熊本・山都町の無農薬野菜を買ってもらう仕組みを作りました。八百屋を作り、自らが店頭で販売もしました。この野菜を使った料理を出す飲食店もオープンしました。デパートのイベントにも出店しました。しかし、しだいに売れ行きは落ちてしまいます。

「その頃、世の中にインターネットが広がり、私もパソコンでホームページを作ることができるようになり、ネットショップをオープンしたんです。そうしたら、この無農薬野菜が売れる、売れる!」

インターネットを通じて、どこの生産者がどんな方法で、どんな思いを込めて栽培しているかを伝える販売方法は、消費者の厚い信頼を得ることとなったのでした。

古くから伝わる無農薬栽培

その後、アパレル商社から独立して「株式会社土のめぐみ」を設立。現在、山都町とその周辺の生産者は約200人となり、年間300品目以上の無農薬・有機野菜を栽培しています。主な販売方法はインターネット通販、固定客への定期宅配、飲食店や販売店への卸の3つ。山都町の集荷場に生産者から収穫物が届けられ、スタッフが1個ずつきめ細かく検品して箱詰めします。こうして、産地直送の新鮮な野菜が全国に発送されます。

掘りたてのタマネギ。この後、集荷場でパッキングされ、消費者の元へ。
有機JAS 認証を受けたニンジン。非常に甘くて食べやすい!
サニーレタスは歯ごたえと甘さが評判。どの野菜も品種や種のセレクトは各生産者にまかせています。

「山都町周辺は、何代にもわたって無農薬で栽培している生産者さんが多いです。標高の高さ、土の性質、湧き水がすごくきれいなこと等が、この地に無農薬栽培を根付かせた理由かもしれません」

害虫には天敵を利用したり、捕殺したり。手間のかかる除草は、草が伸びないうちに対処して“先手必勝”。

「イノシシやシカの食害にはやはり悩まされています。イヌを放して防除している方もいます。水田では9月の収穫間際に被害にあうことも多く、最近では8月中に収穫できる品種に切り替えたりもしています」

肥料には、自身で堆肥を作り施用する人が多いといいます。クオリティの高い野菜の仕上がりに、その農法をたずねてみても「わからんたい!」と、いたっておおらか。その人柄が、味わい深くて色も形も美しい野菜を育てているのかもしれません。

湧き水を利用した棚田で栽培される無農薬米。地域で協力して収穫します。

大阪と山都町を行き来する土田賢一さん。心理カウンセラーによる「カウンセリングルーム・コパン」も運営し、心のサポートも行っています。

ヴィーガン料理で味わう

レストランやカフェ等で利用されている「土のめぐみ」の野菜。

東京・下北沢にある料理のアトリエ「KLASINA(クラシナ)」では、ヴィーガン(ベジタリアン)料理として「土のめぐみ」の野菜を味わうことができます(予約制)。

ヴィーガン料理とは、動物性食材を使用せずに作る料理のこと。オーナーシェフの倉科広子さんに「土のめぐみ」野菜の魅力を聞きました。

7種の惣菜が入ったヴィーガンサラダボウル。前出のミニトマトやニンジンが彩りを添えます。

「土のめぐみさんの野菜はKLASINA料理のお守り。味もうまみも強いので、調理法は蒸したりグリルしたりするだけ。特別なことはしていません。塩等の最低限の味付けだけでおいしく食べられるんです。お客様から、何を入れるとこういう味になるの? と聞かれることもあるのですが、これが土のめぐみさんの野菜の味なんですね。同じレシピでも他の野菜ではこの味は出ないんです」

倉科広子さん。「土のめぐみ」の野菜をきっかけにヴィーガン料理への探求が始まったそう。アトリエの予約制食事会はパーティーや同窓会等の利用で4 名以上から予約可能(http://klasina.tokyo/dinnerparty)。

自家製のジンジャーシロップには「土のめぐみ」のショウガを使用しており、深い味わいが愉しめます。左はヴィネグレットソース。要望に応じて卸販売も行っています。

注文は、週1回送られてくる100種類以上もの野菜リストからセレクトします。

「旬のもの、めずらしいものがあれば注文するのですが、想像とは違った野菜が届くことがあって、それも面白いですね」

無農薬玄米と「土のめぐみ」の野菜が詰まったヴィーガン弁当も提供。イベントや企業等へ配送します。

倉科さんの料理は色合いも美しくとても素敵です。

地味になりがちな野菜オンリーの料理も「土のめぐみ」の色鮮やかな野菜をアクセントにするとぐっと華やかに。味もうまみも彩も兼ね備えた野菜が揃えばこそ、肉好き、魚好きも満足するヴィーガン料理が完成するのですね。またぜひ、次の機会でもお邪魔したいと思う取材班なのでした。

それでは、次回の「カルチベ取材班 現場参上」もお楽しみに~!

 

 

「農耕と園藝」2019年2月号より転載・一部修正
写真提供/熊本・山都町「土のめぐみ」╳ 東京・下北沢「KLASINA」
取材・文/編集部

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