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カルチべ取材班 現場参上

新たな特産品を目指して! 産官学の連携でキイチゴの産地化に取り組む

公開日:2019.3.27

本日のカルチベ取材班は、秋田県南秋田郡五城目町に現場参上!

キイチゴの産地化の取り組む「五城目町キイチゴ研究会」のみなさまに密着しました。一体どんなお話が伺えるのでしょうか…!?

五城目町でのキイチゴ産地化に取り組む面々。左から今西弘幸准教授、腰高孝子さん、佐々木一朗さん、佐々木雄幸さん。

キイチゴを栽培したい者と栽培技術を普及したい者の出会い

ラズベリー(キイチゴ)は洋菓子やジャムなどの原料として広く消費されているにも関わらず、これまで国内に産地がなく、国内消費のほぼ全量を輸入品に頼ってきました。

寒冷な気候での栽培に適していることを考慮すると、北日本でなら十分に栽培が可能であり、国産品の生産が期待されてきました。

そこで、近年、注目を集めているのが秋田県南秋田郡五城目町でのキイチゴの産地化の取り組みです。五城目町でのキイチゴの生産はどのようにして始まったのでしょうか。その経緯について同町でキイチゴ栽培に携わる生産者を中心に、洋菓子店などの実需者も参加する「五城目町キイチゴ研究会」で会長を務める佐々木雄幸さんがこう説明してくれました。

「2007年に町から新しい特産品を作れないかと相談を受けて、五城目町の生産者が集まって話し合う機会がありました。そこで研究会の前会長が、東京のデパートでキイチゴが1㎏6000円もの高値で売られていたのを見てきたというのです。上質なキイチゴを生産すれば特産品になるはずだと考え、キイチゴの栽培を検討することになりました」

といっても、佐々木さんらにキイチゴの栽培技術があったわけではありません。

当然、栽培指導などの支援策が求められますが、偶然にも五城目町のキイチゴ栽培を支援する動きが始まっていました。その原動力となったのが秋田県立大学生物資源科学部の今西弘幸准教授です。キイチゴ生産に関わるようになった経緯について今西准教授がこう語ります。

「ラズベリー栽培の盛んなイギリスで、その栽培研究を終えて、帰国したのが2007年でした。キイチゴの栽培技術を普及させたいと考えていたところ、五城目町の道の駅で『キイチゴソフト』というソフトクリームを売ることを示すノボリが掲げられているのを目撃したのです。ただ、そのソフトクリームは地元で獲れたキイチゴを使ったものではなく、市販品を使っているというので、さっそく道の駅の指定管理会社の社長に『キイチゴ生産に興味はありませんか』と提案しました」

その指定管理会社の社長が研究会の前会長だったため、五城目町でのキイチゴ栽培は一気に進むことになりました。また、秋田県立大学には産官学連携事業を推進する制度が用意されていました。外部からの助成を受けられれば、大学が予算を組んで支援する制度があったため、五城目町が支援に乗り出すことで、大学、町を巻き込み、「五城目町キイチゴ研究会」が設立されました。同町農林振興課参事の越高孝子さんがこう続けます。

「新たな特産品を求めていたので、町としても積極的に支援しようと農林振興課に研究会事務局を置くことになりました。町の広報を通じて募った参加者25人により、キイチゴ生産がスタートしました」

ハウスの様子。キイチゴ栽培でのハウスの目的は雨除けのため、サイドはフィルムが張られていません。
株分けされたキイチゴの苗木。早ければ秋ごろに収穫を始められますが、本格的な収穫は来シーズンになるそう。開花前であるため雨除けのフィルムは掛けられていません。
佐々木さんの農園ではコストダウンを目的に、プラスチックポットの代わりに土嚢袋が使われています。キイチゴには水はけの良さが求められますが、市販の培養土では水はけが良すぎるため、佐々木さんは山土をベースに珪石やピートモスを独自に配合してキイチゴ栽培に使っています。

田植え後の育苗ハウスでキイチゴ栽培を始めたが……

キイチゴの世話をする佐々木雄幸さん。作業効率を考えて、キイチゴの背丈はこれ以上、伸ばさないようにしているといいます。

ただし最初から大規模にキイチゴの生産が始められたわけではありません。秋田県立大学で生産されたチルコチン、スキーナ、ヘリテージ、ハノーバーといった苗木を数株ずつ提供してもらっての小規模の門出でした。佐々木さんを含め、五城目町でキイチゴ生産に乗り出した者の多くが米農家だったため、まずは田植え後の稲の育苗ハウスを活用して、そこに鉢植えのキイチゴを持ち込んで栽培することになりました。

「キイチゴは開花期に雨に降られると、灰色カビ病が発生しやすくなるため、雨よけのハウスが必要なのですが、最初からキイチゴ専用のハウスを建てるのは大きな出費です。田植え後には使われない育苗ハウスに鉢植えを持ち込むことを提案しました」と今西准教授。

鉢植えの理由として水はけの問題が関わっています。キイチゴは水はけが良い土壌を好むため、水田のような水はけの悪い土地は適しません。鉢植えなら水はけのよい培土を選べば良いというわけです。

これなら初期投資を抑えつつ、水はけの問題を解消できそうですが、佐々木さんの場合、標高が高く融雪が遅い地域かつ、点在した15haの水田を管理しており、町内の一般的な水田農家に比べて、田植えを終えるのが極端に遅く、移動が間に合わないため、育苗ハウスの活用にも課題はありました。

キイチゴには夏どり品種と秋どり品種があります。田植えを終えてから育苗ハウスにキイチゴの鉢植えを持ち込んでいては、夏採りには間に合いませんでした。生産規模が小さいうちはともかく、株分けや取り木によって株数を増やしていけば鉢植えを移動させる労力も無視できません。本格的にキイチゴを生産するなら、キイチゴ専用のハウスを建てる必要がありました。

ただし、佐々木さんは15haの水田に水稲作付けしており、小規模ならともかく、新たに専用ハウスを建てての大規模なキイチゴ栽培との両立は難しかったのです。

「私一人では栽培規模の拡大は難しかったのですが、息子の一朗がキイチゴの管理をしてくれるということで、専用のハウスを建てることにしました。私以外にもハウスを新設しようとする者がいましたので、研究会として秋田県に陳情し、ハウスを新設する場合、3分の1までの補助が得られるようになりました」と佐々木さん。

現在、佐々木さんは一朗さんとともに、5棟のハウスで約1000株のキイチゴを栽培していますが、これほどの数になる1個200~300円程度のプラスチックポットでも、そのコストは大きなものとなります。佐々木さんはプラスチックポットの代わりに土嚢袋を使ってコストダウンに努めました。

<キイチゴの品種>

「チルコチン」
鮮やかな赤色が特徴的。1 粒が大きめで、ほどよい甘みと酸味を楽しむことができます。
「ハノーバー」
黒色のキイチゴ。甘みが強く、野性味のある味。アントシアニン含量が豊富。
「ワンダーイエロー」
珍しい黄色のキイチゴ。酸味が強いかと思いきや、甘みが強く食味に優れます。

鮮度を落とさず遠方に出荷するために

洋菓子店などの需要が見込めるとはいえ、五城目町のキイチゴ生産者の多くは水稲の単作農業を営んでいたため、販路といえば農協に一括納入するだけで、自らが販路を開拓することは難しいはず。

しかし、販路の開拓でも産官学連携がうまく機能したとのこと。何か成功の秘訣があったのでしょうか?

「研究会には洋菓子店などの実需者にも参加してもらうことで販路を開拓できましたし、大学の農業経済の研究者にも参加してもらい、販路の拡大に取り組んでいます」と越高さん。

研究会とは別にキイチゴ生産者だけが参加する販売会が組織され、五城目町産のキイチゴは販売会を通じて販売されています。その価格は生鮮で1 ㎏4000円、冷凍で1㎏2000円に統一され、秋田市内などの近隣地域には販売会に参加する生産者が持ち回りで配達しています。

果托を取り除いたキイチゴは、1㎏毎にパック詰めして冷凍保存されます。
佐々木さんの冷凍庫には80㎏程度しか入らないため、冷凍庫がいっぱいになると、秋田市内の冷凍倉庫に運んで保存しているそう。

輸入品に比べ決して安くはないのですが、数少ない国産品として多くの実需者に購入されています。今後、さらに販売量を増やすには、首都圏をはじめとした遠方の実需者への販路の開拓が求められますが、そこで課題となるのがキイチゴの鮮度保持であり、鮮度を保つための取り組みも進められています。

「軟弱なキイチゴは、人が手で触れるほど、傷ついて鮮度が落ちてしまいます。そのため、手で触れずに収穫できるハサミを東京農業大学の馬場正先生と共同研究し、園芸用具メーカーの株式会社サボテンにお願いして開発してもらいました」と今西准教授。

このハサミには刃が3枚あり、2枚の歯で芯(果柄)を把持した後、もう1枚の刃で枝を切り落とします。これなら果実に触れなくて済むため、果実が軟弱なキイチゴを傷つけることなく収穫することができます。

こちらは収穫の様子。軟弱な果実を傷つけないよう、専用のハサミを使います。
五城目町産のキイチゴの品質を統一するため、カラーチャートに見合った色づき具合のものだけが収穫されます。
手で触ることなくキイチゴを収穫します。

さらに、キイチゴの鮮度を保つために果托を取り除くかどうかについても検討が行われました。

キイチゴは果托を取り除いて出荷するのが一般的ですが、果托を取り除くと内部に空洞ができるため、自重でつぶれて鮮度が落ちてしまいます。冷凍品では果托を取り除く一方、生鮮で出荷するキイチゴについては果托を残すことにしました。果托を残すことで鮮度を保てるとはいえ、長時間の輸送で揺られ続ければパッケージに擦れて果汁が染み出るドリップが生じてしまいます。

そこで、包装資材のメーカーの大石産業株式会社に依頼してドリップが起こりにくい宙吊りパッケージを開発してもらいました。果実の形に成形したフィルムにキイチゴを入れることで、人間がハンモックに寝るように宙づり状態になって、振動が加わっても果実の損傷が起こりにくくなりました。現在、県外への発送に活用されています。

収穫後の調整作業中。
収穫後、果托を取り除き、冷凍されるキイチゴ。
一つひとつ、丁寧に取り除いていく作業はとても根気のいる仕事ですね。
最盛期には1日に10kg程度のキイチゴが収穫されますが、果托を取り除く作業まで行うと早朝から深夜までかかることもあるといいます。

産官学連携で加工品の生産も支援

さらに佐々木さんの農園では、傷がついたキイチゴを有効利用するため、奥さんの千佳子さんがジャム作りに取り組んでいます。千佳子さんがこう説明します。

「かつて、(佐々木雄幸さんの)お母さんが弁当屋を営んでいたので、食品衛生法に適った厨房施設がありました。そこを活用してジャムを作っているのですが、製品開発では研究会の産官学連携や、町の支援制度に助けられました」

通常、ジャムの製造では大量の砂糖を加えることで保存性を高めますが本来の果実が持つ風味は損なわれかねません。千佳子さんは研究会を通じて食品加工の専門家の指導を仰いで、キイチゴの風味を生かしつつ、保存性を高めたジャムを開発しました。傷物の有効活用では賄えないほどの人気を博しているといいます。

このようにして五城目町でのキイチゴの産地化は順調に進んでいますが、産官学連携の支援は実にきめ細やか。園芸施設の整備の支援に留まらず、月に一度、研修会が開催され、今西准教授の他、秋田県果樹試験場などの専門家を招聘し、その時々で実施すべき栽培管理を紹介しているそう。

月に一度開催される研修会では、今西准教授だけでなく、キイチゴ栽培の専門家により、その時々に実施すべき栽培管理などが紹介されます。
座学の後は、研修会用に建てられたハウスで栽培されているキイチゴを実際に見ながら栽培に関する解説が行われます。また、その後、研修会に参加している人の圃場にも視察へ向かいます。

今後、こうした研修会などの支援策によってさらに生産量が増加していけば、これまで輸入に頼ってきたキイチゴ消費の一翼を五城目町産が担うことになるのではないでしょうか。これからがもっともっと楽しみですね。

 

それではみなさま、次回の「カルチベ取材班 現場参上」もお楽しみに!

 

 

「農耕と園藝」2017年10月号より転載・一部修正
取材協力/佐々木雄幸、佐々木一朗、今西弘幸、越高孝子
取材・文/斉藤勝司
写真/大村仁

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