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露地で育つ青パパイヤは、苗と土作りが決め手!(株)やぎぬま農園

公開日:2019.4.1 更新日: 2021.4.27
青い状態で収穫されるパパイヤ。

10月末、茨城県那珂市にある「やぎぬま農園」を訪れた。数日前に台風が行き過ぎたばかり。
それでも高さ2mを超えるパパイヤの木が整然と並んでいて、グリーンの果実をたわわに実らせている。

ここは北緯36度の関東地域。熱帯作物のパパイヤが鈴なりになっているさまは、まるで南の島のようで、にわかに信じがたい光景だ。しかも、
「この木の苗は、今年4月に植えました。半年で1年分稼ぐんです」
と話す栁沼正一さん。熊本から那珂市に拠点を移し、青パパイヤ専門の農園を開いた。

茨城県那珂市でパパイヤ栽培に取り組む栁沼正一さん。

気がつけば「パパイヤでもやりましょう」

栁沼さんは、福島県田村市の出身。農家の長男だが農業に携わったことはなく、東京でODA(政府開発援助)のコンサルタント会社に勤務し、日本政府が途上国で国土開発や港湾建設などの支援事業を行う際、両国の間に立ち、コンサルタントとして活躍していた。

勤務地は、復帰前の沖縄や東南アジア諸国に始まり、中東、アフリカ、南米まで。ずっと赤道付近の熱帯の国々を巡っていた。いずれの国でもパパイヤは身近な作物だったが、サラリーマン時代はとりたてて「栽培しよう」と思ったことはなかった。それでも熱帯地方には今でも知り合いが多く、親しみ深い。そんな素地ができていた。

25年勤務した後独立し、農業資材の販売のかたわら、農薬を使用しない栽培指導に従事していたが、その時に、トマトの大産地である熊本県で黄化葉巻病が蔓延したのだ。

栁沼さんは、特殊資材を活用して土を作る栽培方法を提案した。すると「病気にかからず栽培できる」と、地元の生産者から評価を受けた。

当時熊本県では、1個1500円という高価格のデコポンを作り販売しようとしていたが、すでにバブル景気は過ぎ去り、設備投資費は高いのに思うように売り上げは伸びず、行き詰まっていた。地元の人に
「何かいい作物はないか?」
と相談された時、栁沼さんは思わず、
「パパイヤでも作ってみたら」
と答えていたという。そんな何気ないひと言が、この道の始まりだった。

パパイヤの白い花。カンキツのようなほのかに甘い香り。

最初から露地栽培。完熟ではなく未熟果を

栁沼さんは、生産者数名と「肥後パパイヤ研究会」を結成。とはいえ日本国内には先進的な産地もなく、商業的に栽培された実績が極めて少ないパパイヤをいきなり栽培しようという生産者はいなかったので、栁沼さんが中心となって、研究と試験栽培を進めた。

熱帯性作物のパパイヤを日本で栽培しようと思ったら、誰もがハウス栽培を考えがち。ところが栁沼さんは、設備投資や暖房費にコストのかかるハウスではなく、最初から露地栽培に挑戦。沖縄の知り合いから種子を譲り受け、実生で苗の育成を始めた。

パパイヤは、熱帯地方では多年生の植物で、苗木を植えたら、通常5~10年は切り戻しをしながら収穫し続ける。しかし、日本では冬を越せない。そこで誰もがハウスで加温して育てようと考えるが、越冬するには「経費がかかりすぎてダメ」だと判断した。

そこで栁沼さんは、「露地で毎年植え替える」栽培法を模索した。
冬の間に暖地で苗を仕立てて4月に露地へ定植。9月中旬~11月初旬の間に青い未熟果を収穫する。そんな栽培方法を5~6年かけて確立していった。

4月に定植した苗が、半年で2m前後に生長。3日前の台風にも負けずに並んでいる。

熊本で「露地でも半年でできる」ことを確信した栁沼さんは、この栽培方法と青パパイヤを普及するには、情報発信に有利な首都圏で作ることが必要だと判断。7年前に茨城県の那珂市に拠点を移して栽培をスタート。青パパイヤ栽培は、北関東でも可能なことを実証した。

苗帽子を被せて1ヵ月半そのままに

栁沼さんの栽培法は実にシンプルだ。冬の間、暖地で種苗を育てる。これを4月初旬~中旬にかけて圃場に植えつける。
畝は立てず平地のままでよく、株間は前後左右ともに3m間隔で空ける。

この時、小さなドーム型の「苗帽子」を被せるのがポイント。頭頂部に穴が開いていて、通気と水分調整を行う他、防虫、防菌、さらにひ弱な苗を風から守る効果もある。

苗帽子を被せて1ヵ月半育てる。保温や保水、防風など、様々な効果がある。(写真提供/やぎぬま農園)

「本来パパイヤは樹ではなく草ですから、定植後、枯れない保証はありません。苗の注文は10月末で締め切って、4月にお渡しするだけ。やり直しはきかないので、『庭に1本あればいい』という方にも、2~3本植えることをおすすめしています」

定植後はそのまま1ヵ月半、水も肥料も与えない。
頭頂部の穴から緑の葉が出てきたところで、帽子を外す。あとは外気に当ててそのまま露地栽培に移行する。

その後、月に1~2回追肥を行う。果樹全般に必要な、受粉、摘果、剪定といった作業は必要ない。ただし樹勢が強いので、養分を芯に集中させるため、脇芽かきを行っている。

株間に生える雑草も有効活用。地表を保護し水分を保つ効果がある。さらに伸びたら根元から10㎝程で刈り取り、そのまま敷き込んで、雑草マルチを形成する。

こうして8月には花が咲き、身の丈2m前後に生長して9月中旬から果実をつけ始める。他の果樹に比べても、実に手のかからない作物といえる。

栽培期間半年でこれだけ大きく成長する。
収穫後は樹を倒して、圃場にすき込む。(写真提供/やぎぬま農園)

20種の微生物を選抜。有機質を分解して土作り

ただし、この栽培法は、栁沼さんが提供する苗と、微生物資材を使った土作りを合わせて行った時に初めて実現する。苗の購入者には家庭菜園愛好家も多いが、「1年目は1本につき10㎏、2年目は15㎏、3年目は20㎏の収穫が目標」だという。作り続けるほど収量が上がる。その差は土作りにある。

「私のパパイヤ作りは、苗と土作りで、8割が決まります

栁沼さんの土作りに欠かせないのが、土壌改良用微生物水和剤「菌の恵」だ。乳酸菌13種、納豆菌3種、酵母菌2種を配合。同じ乳酸菌にも多くの菌があるなかで、特に分解力が強く、農薬にも負けない菌を選抜しているという。

10a当たり菌の恵500gを水に溶かし、散布し、ロータリをかける。この時水の量は問わないが、必ず有機物のある場所に撒くこと。栁沼さんの場合は鶏ふんと、米ぬかを使用している。すると微生物が有機物を分解し、植物体が吸収しやすい形になり、施用後1週間から1ヵ月で定植が可能になる。
「要は、土壌菌を作ることなんです」

定植後は基本的に、追肥を与えながら生長を促すように指導しているが、現在栁沼さん自身の圃場では一切追肥を行っていない。微生物がうまく働くようになれば、基肥と「菌の恵」だけで収穫できる。収量は木1本当たり20㎏以上。土作りがうまくいけば、1年分の養分を蓄えられる。
「沖縄の人も、うちの木を見て驚いています。『こんななり方見たことない!』って」

複数の微生物を配合した「菌の恵」。これを水に溶かし、圃場に散布して有機物の分解を促す。

フルーツではなく、野菜の青パパイヤを

パパイヤには、グリーンの未熟果は野菜、黄色く色づいた完熟果はフルーツとして味わう2つの利用法がある。実際に東南アジア諸国では7~8割、沖縄では9割が野菜として利用されている。栁沼さんは、最初からフルーツではなく、日本で野菜としてのパパイヤを育て広めることを主眼として栽培技術を追究してきた。

日本の気候で完熟させるには温度が足りず、ハウスが必要でコストがかかりすぎるから。また「露地野菜」としての青パパイヤには、人々の健康に役立つ酵素や成分が豊富に含まれているので、高級フルーツではなく、誰もが普段から当たり前のように食す、手頃な価格の野菜として広めていきたいと考えている。

パパイヤの特徴は、とにかく酵素を多く含んでいること。リパーゼ(脂質分解酵素)、プロテアーゼ(タンパク質分酵素)、アミラーゼ(糖質分解酵素)で、三大栄養素を分解する他、活性酸素を除去し、アルコールの分解を促進するカタラーゼ、免疫力を高めるトレハラーゼなど、多様な酵素を合わせ持っている。これが完熟すると、栄養価は変わらないものの、酵素はほとんどなくなってしまうのだ。
「地球上の植物でも、酵素がダントツに多くて健康機能性が高い。最強の作物です」
未熟果はパリパリとした食感を持ち、加熱するほどやわらかくなる。サラダ、和え物、漬物、炒め物、鍋物……あらゆる料理に利用できる。

千切りにしてドレッシングであえたサラダ(左)、漬物(右)。いろいろな食べ方を提案している。

栁沼さんは、日本人の食文化にこれまで馴染みの薄かった青パパイヤをなんとか根づかせようと、農林水産省の6次産業化総合化事業計画の認定を受け、加工販売にも着手。つくだ煮、甘露煮、しょうゆ漬け、ドレッシング、焼肉のタレ、乾燥パパイヤ、葉を乾燥させたお茶……。次々と加工品を打ち出していく。

ドレッシングや焼肉のたれのセット。6次加工にも力を入れている。

焼肉のタレは、硬い肉でも5~10分漬けておけば、酵素の働きでやわらかくなっておいしくなります。ただし、しゃぶしゃぶ用のような薄切り肉はボロボロに。漬け込んだまま、冷蔵庫に1週間しまっておくと、分解されてなくなります」

パパイヤの焼肉のたれで漬け込んだ焼肉。10〜15分程度で味がなじんで、酵素によりやわらかくなる。
収穫直後、樹から白い液体が流れ出る。この液体は酵素が豊富で、タンパク質を分解する。果実にもこの成分が含まれている。

全国に仲間を増やし「普通の野菜」に

パパイヤの持つ酵素は、食べる人の健康維持に役立つと考えた栁沼さん。現在は5haで3000本栽培しているが、青パパイヤそのものの全国的な普及を目指し、「那珂パパイヤ普及推進協議会」を結成。南は鹿児島県から北は宮城県まで広がっている。個人から農協、自治体で加入するケースもあり、栁沼さんから苗を購入して栽培している会員は、全国に500人以上。着実に広がっている。

熱帯作物を毎年植え替えて、露地で栽培。栁沼さんはなぜ、そんな型破りなことを実現できたのだろう?

「それは私が農業の常識を一切知らなかったから。だけど、農家に生まれて南方の国を回りながら、心のどこかで、農業の衰退を食い止める起死回生のアイテムを、ずっと探していたのかもしれません」

かつてゴーヤがそうだったように、日本人に馴染みの薄かった南方の作物を、「普通の野菜」として定着させたい。それによって食べる人の健康に役立ちたい。そんな栁沼さんの願いの「北限」は、北へ北へとさらに進んでいる。

「農耕と園藝」2017年12月号より転載・一部改変
取材協力/(株)やぎぬま農園 栁沼正一
文/三好かやの 写真/杉村秀樹

 

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