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リンゴは味と中身で勝負!青森県弘前市・片山りんご株式会社

公開日:2019.4.15 更新日: 2019.4.18
「光合成に必要な葉を取らずに、最後まで残して育てますよ」と話す片山さん。

1024日の朝、青森県大鰐町にある小さな選果場で、片山寿伸さんが、選果担当の女性たちと打ち合わせをしていた。
人の目視を経て、1玉ずつ選果機へ。検査項目は、糖度、熟度、酸度、蜜の有無、目視等級、着色度、褐変と多岐にわたっている。
「生産者から預かった商品だから、極力加工に落とす分を少なくしなければ」
この日選別していたのは、「葉とらずサンジョナゴールド」。樹に葉をつけたまま栽培しているので、葉の下になっていた部分が黄色い。そんなリンゴを手にして、
「一般市場に出すと二流品といわれるけれど、色ムラがあっても味は最高だよ」
見た目の美しさで高値を狙う「皮リンゴ」よりも、味わう人に栄養とおいしさを届ける「中身リンゴ」を。片山さんはずっとその思いでリンゴを作り続けている。

左が無袋、右が有袋で葉を取って育てたジョナゴールド。色ムラはあっても無袋のほうが味が濃い。

葉を1枚も落とさない「葉とらずサンふじ」を定着

選果場を後にして、弘前市高杉地区の「コープファーム」へ。樹の下に「コープ東北」、「コープ九州」等の看板がある。全国6つの生協に提供するリンゴの標準木を、片山さんらが栽培を担当。組合員はいつでも園地を訪ね、農作業や収穫を体験できる。収穫を3週間後に控えた葉とらずの「サンふじ」が実をつけている。
「色ムラがあっても、この葉がいっぱい糖分を作っているからおいしい。10年かけて説得してやっと定着させました」

コープファームには、組合員の消費者が収穫や農作業体験に訪れる。

葉を取らない代わりに、樹間を開けて植栽し、果実を回して陽を当てることでじっくり味をのせていく。リンゴの葉を裏返すと、葉脈の一部が紫色になっていた。
「光合成して糖を果実に蓄える役目を終えた葉っぱは、葉脈全体が紫色になります」
こうして育てた「サンふじ」は、1110日から収穫を始める。

自分たちのリンゴを自主規格で販売

片山さんの祖父寿男さんは、岡山県出身。大阪で青果商を営んでいたが、戦禍を避けて大鰐町へ疎開したのを機に、1947年大鰐青果を設立し、リンゴを商うようになった。当時の津軽地方はリンゴ景気に沸いていて、生産者も競い合うように栽培や剪定技術を磨いていた。

家業を継いだ父の信光さんは、産地でリンゴを商うかたわら、栽培も手がけるようになる。売り手の祖父と作り手の父、両者を見て育った寿伸さんは、どちらかといえばリンゴを作るほうが好き。「できればずっと畑にいたい」そうだが、収穫時期の9~11月は、集荷と販売に忙しくなる。

津軽のリンゴ生産者の売り先は大きく3つに分かれている。地元の農協、セリで価格が決まるリンゴ専門の産地市場、そして片山さんたちのように、生産者がグループを組み、直接買い手と交渉するケースだ。

片山さんは14haの農園でリンゴを栽培する他、リンゴ農家62人(栽培面積合計約20 ha)と「津軽りんご組合」を結成。独自の選果基準を設け、全国の生協を中心に販売している。

消費者の窓口が、街の八百屋から量販店が主流になったことで、10㎏箱に3640玉入りのサイズばかりが売れていく。片山さんは、買い手主導ではなく、担当者と話して選果基準を決めることで、味と中身重視のリンゴの魅力を広めようとしているが、
「自分たちのリンゴを自分たちで売る仕組みをなんとか作ったけれど、なかなか簡単にはいかなくて」と、苦笑いを見せた。

無袋の「青いむつ」を世に広める

リンゴの価値は、外見か中身か? それを象徴しているのが、有袋と無袋の「むつ」だ。リンゴはどの品種も赤、黄、緑に発色する性質を持っていて、緑と黄色は夏、赤は秋に発色する。この性質を利用して、6月の小さな果実に袋をかけて日光を遮り、秋になって袋を外すと鮮やかなピンク色の果実になる。これが「有袋むつ」だ。

 もともと「むつ」は緑色に発色しやすい品種なので、夏に陽光を浴びて育つと鮮やかなグリーンになる。1970年代、見た目重視の市場で有袋むつが主流のなか、本来の色と味を生かした無袋の「サンむつ」の価値を見出し、世に送り出したのが寿伸さんの父、信光さんだった。「二色のむつ」は、当時の雑誌「暮らしの手帖」にも81年に「赤いりんごと青いりんご」として取り上げられたほど。同時に食べ比べるとその差は歴然。食味に勝る「サンむつ」は、今も根強い人気がある。

チッ素を調節。食味を上げるバクタモン

 40年前、「サンむつ」に取り組み始めた時、生産者を悩ませていたのが、リンゴの果皮や果肉に黒い斑点が出る「ビターピット」だった。カルシウム欠乏が原因とされるが、その解決法がわからない。そんななかで唯一佐藤邦光さん(故人)のリンゴだけ、ビターピットが出なかった。
「なぜ邦光さんだけ出ないのか? 聞いてみたら、バクタモンを使っていると」
「バクタモン」は微生物資材で、当時は弘前市周辺の稲作農家で使われていた。
「バクタモンにはチッ素を好む性質があって、チッ素過多で稲が倒伏しそうな時、パラパラ撒くと倒れません」

地表に撒くと、土中の水分と温度により活動を始め、肥料を栄養源に繁殖し、肥料成分を分解して有機態で放出する。佐藤さんは、その性質をリンゴに応用し、開花時期、収穫前、収穫の1ヵ月後、豪雨で圃場が浸水した時などに、10a当たり10㎏前後、直接圃場に撒いていた。するとビターピットが低減されるだけでなく、食味も上がった。

驚異の着果率。「大紅栄」の名人ベテランが支える剪定技術

津軽では、「岩木山の見えない場所で、リンゴを作るな」といわれている。山裾の日当たりの良い場所に、リンゴ畑が続く。鶴田町の山形耕一さんは、「津軽りんご組合」の組合長で、長年「サンむつ」に取り組んできたベテランでもある。

剪定名人山形耕一さんと妻の勝子さん。

「これを見てくれ」
と指差す先にはふたつに割れたリンゴの樹。山形さんの祖父が80年前に植えたものだ。現在でも20㎏箱3040個分の実をつけるという。この樹に限らずいずれも着果率が高くすずなりの状態、しかも実が大きい。

80年前に祖父が植えた樹。中心から割れても、すずなりの実をつけている。

「これだけ実をならせている人は珍しい。しかも大きさが揃っているのは剪定の技だ」
と片山さん。山形さんの樹は、昔ながらの開心形で、樹齢30 年を超えるものが多い。
「人と同じで若いうちは、体は大きくなるけれど、実はならない。30年を超えると円熟味を帯びてくる。昔はマルバ台木の樹は寿命が6070年が限界だったけど、今なら100年はもつかもしれない」と話していた。続いて片山さんの圃場へ。赤黒く大きな実がついている。「これが大紅栄だ」 

「大紅栄」は、弘前市石川地区の生産者工藤清一さんが育成した大玉品種で、05年に品種登録。果皮の赤色が濃く、1玉が500g 前後と大きい。中国や台湾では旧正月を祝う果実として人気を呼び、高値で取り引きされている。そんな「大紅栄」を担当するのは須藤和男さんだ。

「玉の大きいリンゴほど、がっちり切らねば」と力説する須藤さん。

「今年は小玉傾向で、本来はもっと黒光りしている。もっとハサミを入れねばダメだ」果実が大きな「大紅栄」は、他品種よりも剪定が難しく、その枝を切りこなせる人は、なかなかいない。驚異の着果率を誇る山形さん。大紅栄を切りこなす須藤さん。産地を支えてきたベテランに学ぶところは大きい。

GAP認証を受けリンゴを世界へ

片山さんは99年、商社の力を借りず、自力でイギリスへリンゴを輸出したことでも知られている。いち早く世界の農産物の安全標準であるグローバル・ギャップ(当時はユーロ・ギャップ)の認証を受け「大紅栄」を中国へ輸出した。

片山さんとグローバル・ギャップを研究し、五所川原農林高校の生徒を指導するなど、その普及に尽力している山野豊さんは、山野りんご株式会社を設立。輸出を担当し、その売り先は、スイス、ドバイ、中国、台湾、香港、タイ、シンガポール、ベトナム、ロシア、タヒチ等10ヵ国を数える。

さらに酸味の強い青リンゴの新品種「はつ恋ぐりん」や、皮を剥いても褐変しないので、生でケーキに使えると、パティシエに人気の「千雪」など、期待の持てる新品種の栽培もスタート。今後の動向が楽しみだ。

はつ恋ぐりんは「グラニースミス」と「レイ8(東光×紅玉)」を交配した、酸味の強い青リンゴ。研究会のメンバーが栽培している。
千雪は、皮をむいても褐変しないので、「生のままでケーキに使える」とパティシエの間で評判に。

片山さん自身、販売上のトラブルで経営のピンチに陥った時期もあったが、盟友山野さんや仲間の生産者の後押しで乗り切った。目下の課題は人手不足。「脚立に乗れなくなった」ベテランたちから引き継いだ畑の、行く末を案じている。
「摘花や収穫の時期に150人ぐらい手伝いに来てほしい。素人でいいから」

12月に入り、リンゴ畑を雪が覆うと、来年の剪定作業に没頭する。4月初旬、雪が溶けると鶏ふん堆肥と合わせてバクタモンを散布。リンゴと生産者の負担が少なく、食味と栄養価に優れた「中身リンゴ」作りは、そこから始まる。

 

「農耕と園藝」2017年1月号より転載・一部改変
取材協力/片山りんご株式会社 片山寿伸
文/三好かやの 写真/池上勇人

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