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ベルリンと東京の市民農園

公開日:2019.5.1 更新日: 2019.4.24
2月のベルリンのクラインガルテン。どの区画にも小さな家と畑がある。

ベルリン滞在中、市内を電車で移動していると、不思議な光景が目に入りました。線路沿いに、畑と小さな家がセットになった区画が、いくつもいくつも連なっているのです。家はそれぞれペイントされていて、まるで絵本の世界のよう。
「クラインガルテンだ!」
ドイツ語で「小さな庭」。日本でも何度か耳にしていた都市住民のため農園で、それぞれの区画に畑と作業小屋があり、庭には木や花も植えられていました。

せっかくなので、現地で通訳とのコーディネーターをお願いした松永明子さんの案内で、冬のクラインガルテンを訪ねました。訪れたのは2月上旬だったので、冬の作業はお休み中。訪れる人もなく、ひっそりしていましたが、全体の様子を伺うことができました。

私は東京の調布市で、市民農園を耕しています。一昨年申し込んだ時は、抽選に漏れて84人待ち。東京に市民が自由に耕せる農地がいかに少ないか、思い知りました。

去年は15人待ちで「またも落選」とがっかりしたのですが、なぜか辞退者が続出したらしく、5月に入っていきなり「繰り上げ当選」。慌てて野菜苗を植えだして、やっとこ収穫にこぎつけました。

夏の調布の市民農園。カボチャとサツマイモを植えたら、一面グリーンに……。

念願の畑の面積は4×4m。年間6千円を市役所に支払って借りています。初心者の常で、狭い畑にちょこちょこいろんな野菜を植えてしまい、上から見るとまるで幕の内弁当のよう。勝手に「幕の内ガーデン」と名付けて通っていますが、ベルリンのクラインガルテンとは、えらく様子が違います。

三好「まず、道具を置く場所がない。スコップや鍬は雨ざらしです」

松永「ええーっ、クラインガルテンには小さな家があって、みんなそこに置いていて、休憩もできます。借りた時点で建ってる場合もあれば、自分で建てる人もいます。ドイツ人はDIYが大好きなので、これくらいはお手の物です」

なるほど。松永さんのクラインガルテンは、1区画200㎡。年間400ユーロほどで借りているそうです。場所によっては400㎡のところもあるのだとか。3〜4歩あるくとおしまいの東京の市民農園とは、面積が違います。

三好「調布の市民農園は、1区画3年契約だから、果樹は植えられません」

松永「クラインガルテンにはみんなリンゴの木を植えていますよ。利用者が代わる時は、その樹もそっくり受け継ぎます」

たしかに。どの区画を覗いても、果樹が植えられていて、そこには冬の鳥用のエサが下がっていたりします。

松永「クラインガルテンは、基本的に期限はなくて、空きがあったら管理事務所へ申し込むシステム。元々建っている小屋も土も木も、そのまま受け継いでいきます」

三好「いいなあ」

クラインガルテンには、かなりの巨木が生えている区画も。

調布の市民農園は、3年の期限付き。「原状回復」が条件なので、果樹や植木を植えることはできません。リンゴやベリーを植えられたら楽しいだろうなあ。それに木があれば葉っぱをたくさん落としてくれるから、土に還すこともできます。

そんな様子を見ているうちに、仙台の実家の庭の柿の木と、その下にある父のダイコン畑を思い出しました。

日本で庭の果樹といえば柿。根元のダイコンも育てている。

私の中学入学記念に植えたもので、樹齢は40年以上。毎年たくさん実をつけて干し柿にするのが父の楽しみになっています。足元を見ると、実はこの木が育ててくれたのは、柿の実だけではなかったことに気付かされます。

団地に里山を作った老夫婦のドキュメンタリー映画「人生フルーツ」に登場する津端夫妻も、ご高齢ながらせっせと落ち葉を集めて、土に還す姿が印象的でした。

「木と畑はセットなんだ。葉っぱが地上と地下を巡っている」。

木のない東京の市民農園では、狭いエリアを何度も行き来して踏みつけるので、どうしても土が硬くしまりがち。みんな畜産系の堆肥や腐葉土を購入して土に入れ、なんとかふかふかにしたいと苦心している横で、私はコーヒーかすと生ゴミの堆肥、さらに周囲の草を刈り敷いて、なんとか踏ん張っています。

一方、ベルリンでは……

「秋になると、リンゴがたくさん実をつけて落としてくれる。実は完熟が当たり前だし、ちょっとくらい虫が喰っていても、ベルリン市民は平気です」

と松永さん。ドイツでは日本より「Bio」や「オーガニック」が根付いているのは、都会に暮らしていても、有機物が循環する様を感じられる場所が、身近にあるからなのかもしれません。

埼玉県三芳町の農家では、現在も落ち葉堆肥でサツマイモを栽培。

落ち葉を土に戻して作物を作る習慣は、日本にもちゃんとあります。東京の西側や埼玉県の「武蔵野」と呼ばれるエリア。屋敷と畑のそのまた奥に雑木林があり、そこから集めた落ち葉で堆肥をつくり、土に戻して作物を作っていたのです。

去年、埼玉県の三芳町のサツマイモ農家で見せていただいた落ち葉堆肥は、大量の落ち葉を積んで2〜3年寝かせたもの。掘り返すと真っ黒な腐葉土が現れました。

「東京にも、木と落ち葉はあるのにな」

冬になると、コンクリートやアスファルトの上に舞い降りて、マンションや公園で集められ、ビニール袋に詰め込まれた落ち葉は、いったいどこへ行くのでしょう? 市民農園の一角に地元の落ち葉をどんどん積んで堆肥を作る、「落ち葉ステーション」あるといいのに……。

道の両側に小さな区画が続くクラインガルテンは、市民の憩いの場として定着。

第一次大戦期のドイツの飢饉と民衆の食生活を綴った藤原辰史先生の『カブラの冬』によれば、食糧難にあえぐドイツで1916年「クラインガルテン蔬菜栽培中央局」が設立されるずっと前から、都市の近郊で市民が耕す小菜園が存在していたそうです。2度の大戦を乗り越えて、食糧不足の不安は解消され、東京と同じように都市化が進んだ現在も、クラインガルテンは、週末を過ごす市民の憩いの場として存続しています。

びっくりしたのは、松永さんがクラインガルテンを利用する前、簡単な「審査」があったというお話。区画ごとに決められたルールを守って利用できる人かどうか確認されるそうです。100年以上前からずっと市民が耕してきた場所だから、丁寧に循環させて、次の人に渡す責任がある。そんなことも学びました。

後から知ったのですが、東京とベルリンは姉妹都市なのだそうです。都市でこれからどんな形で農地を残していくのか、学ぶところは大きい。こと市民農園に関しては、ベルリンが大先輩。自分の利用期間だけ穫れればいいわけじゃない。小さな農地を大事に循環させて次の人へ……そんな点を見習いたいと思います。

文・写真/三好かやの

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