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カルチべ取材班 現場参上

ドメーネ・ダーレムにて〜みんなの農園〜

公開日:2019.5.22

800年の歴史ある農地

ベルリン滞在中、市内にある「ドメーネ・ダーレム」を訪ねました。地下鉄のダーレム・ドルフ駅の目の前にある、エコロジカルな農業と食文化の野外博物館です。

敷地に入ると、ユニークなカカシがお出迎え。石造りの建物や納屋、博物館やレストラン、エコショップが点在していて、まるで昔話の絵本の中に迷い込んだような世界が広がっていました。

ベルリンのドメーネ・ダーレムでは、ユニークなカカシがお出迎え。

一見楽しそうな農業公園ですが、それだけではありません。

「このミュージアムは、1560年に建てられたベルリン最古の建物です。そしてここでは800年前から農業が行われています」
 とガイドの方が教えてくれました。

「はっぴゃくねん??」

日本では鎌倉時代ですが、ここではそんな昔から、ずっと作物が作り続けられてきました。そんな公共の場所、日本にあるでしょうか?

ガイドツアーは100ユーロ。ベテランのガイドさんが案内してくれる。

在来の家畜たちをBioの飼料で飼育

入り口近くのミュージアムや農機具を格納した倉庫、ショップやレストランのあるエリアを抜けると、家畜小屋や放牧地、畑が広がっています。

ツートンカラーの豚、やわらかな毛で覆われた羊、長く美しい角を持つヤギ、鶏や牛など、敷地内で飼われている家畜はみな、絶滅が危惧されている希少な在来種です。

日本で在来種といえば、野菜が大部分ですが、地方ごとに個性的な在来の家畜が存在しているのもドイツならでは。ここではそんな動物たちの種の保存も行われています。

ツートンの豚、毛のやわらかな羊、立派な角の山羊。いずれも希少な在来種。

「動物たちには、牧草も穀物も、みんなBio(ビオ=オーガニック)のものを与えています」

ベルリンの街を歩いているとビオ専門のスーパーをたくさん見かけるのですが、ここでは家畜の飼料もみんなビオなんですね。

日本の牧場で、羊の尻尾にリングをはめて壊死させて短く「断尾」するのを見たことがあるのですが、それを話すと「信じられない」とガイドさん。ここの動物たちの尻尾はみんな長いまま。アニマルウェルフェア(動物福祉)の考えも徹底しているようです。

そんな話をしながら歩いていると、湯気が立ち上る大きな釜から、いい匂いが漂ってきました。「ひとつどうぞ」と差し出されたのは、ホクホクに茹で上がった皮付きのジャガイモでした。「いただきます」と口に放り込むと、とても甘くておいしいので、にっこりしていると、「これは豚たちの餌です」。

ここではこんなに味の濃いジャガイモが穫れて、それをちゃんと茹でてから豚たちに与えている。のんびり暮らす動物たちも居心地がよさそうですが、ここで栽培される野菜もまたおいしいのです。

冬の畑ではケールなどを栽培。畜産系の堆肥を循環させている。

訪れたのは2月だったので、畑の作物は少なく、ケールとフダンソウのような葉野菜など、限られたものしか見ることはできませんでした。それでも、

「夏になると、学生たちがやってきて、畑仕事を手伝っています」
そういえば、私たちと一緒に、近所の小さな保育園児たちも賑やかに豚舎の豚や羊たちを見学していました。そんな風にドメーネ・ダーレムは、いつでも地域の子どもや若者が出入りして、オーガニックな野菜の栽培と畜産を肌で感じることができる場所のようです。

「私たちの農業に、動物由来の堆肥は欠かせません」

動物たちの排泄物は、土着の微生物が発酵、分解して土の中へ——。日本では野菜を栽培する時、畜産系の堆肥は袋に入って運ばれて来ることが多いのですが、ここでは生きた動物と野菜と私たちは繋がっている……そんな命の循環を目の当たりすることもできます。

Bioの種子も販売

園内のショップではビオの農産物やハチミツを販売。

入り口近くにあるビオショップを訪ねました。中にはパプリカやズッキーニ、カボチャなど、カラフルな野菜が販売されていました。冬だったので自家栽培の野菜は少なく、産地はいろいろでしたが、いずれもビオのものです。調味料やジャムなどの加工品も、みんなビオ。ドメーネ・ダーレムでは養蜂も行われているので、ハチミツも販売されています。

さらに野菜や花の種子も販売されていました。種子袋には、グリーンの葉っぱに12の星が散りばめられたEU認証マークがついています。それは化学肥料や農薬を使わず、種子消毒を行わず、遺伝子組み換えもしていない証。

ショップで購入した花の種子には、EUの有機認証マークがついている。

ここを訪れた人は、ビオの野菜を買って家で料理したり、ビオの種子を買って家の庭やクラインガルテンに撒いて育てたりしているのですね。都会で暮らしていても、ドメーネ・ダーレムやビオの種子が身近にある。そんなベルリン市民が、ちょっとうらやましかったりもします。

これまで日本で新規就農者が有機農業に取り組む事例を、何度も見てきました。元々農家出身ではないので、それまで慣行農業が行われていたり、耕作放棄に近い場所を借りて始めるケースも少なくありません。だけど、それを短期間で肥沃な土地に変え、有機物を循環させるのは至難の技です。ドメーネ・ダーレムのように、農薬も化学肥料もなかった800年前から循環型の農業をずっと続けている。そんな土と環境は市民の宝物。大切に受け継がれているのが、伝わってきました。

生ごみが作物になって還る場所

東京にも、そんな場所はないかな? と考えて、思い出した場所があります。

八王子市のユギムラ牧場。現在は市民が集う体験農園になっていて、会員の皆さんがそれぞれの区画で野菜を栽培しています。私は、その共有地で、2年前から福島県飯舘村で育種されたカボチャの「いいたて雪っ娘」を栽培しています。ここの土はふっかふか。何年も前から牛糞由来の堆肥を投入されているおかげで、無肥料で立派なカボチャができています。

 

八王子のユギムラ牧場。みんなでカボチャの播種を実施。

もうひとつ忘れられないのは、日野市「まちの生ごみ活かし隊」のみなさんが活動しているせせらぎ農園。ここは市内の約200世帯から生ゴミを回収してそのまま畑へ。微生物資材を振りかけて、手押しの耕運機で撹拌。ビニールシートを被せて3カ月ほど時間をおくと、土に還っていくそうです。

生ゴミをコンポスト等で発酵・減量させる方法はよく見ますが、いきなり土に鋤き込むのを見たのは初めてで、びっくりしました。それでも野菜や花、フルーツもちゃんとできていて、農作業をお手伝いした人が、みんなでシェアするシステムがすばらしい。

農作業の初心者はベテランに野菜作りを伝授され、近所の保育園児や幼稚園児、小学生、お年寄りもやってくる……コミュニティの核としても地域のみなさんに愛されています。

日野市の「せせらぎ農園」では、200世帯から回収した生ごみを畑に投入

日本でも農業体験や教育ファームなど、子どもたちや市民が食と農の現場に関わる機会は増えています。みんな自分で栽培するなら「有機栽培がいい」といいます。そこに要求されるのは、無農薬、無化学肥料と考えがちですが、こうした化学合成資材を抜くだけでは、作物は作れません。大事なのは、有機質を分解してもう一度作物に吸ってもらうこと。それは、どんな栽培方法でも一緒です。

 家畜の排泄物や自宅のキッチンから出ていった生ゴミが、ふたたび作物になって還ってくる。ドイツのドメーネ・ダーレムや日野市のせせらぎ農園のように、「おかえりなさい」と命の循環を肌で感じられる農園が身近にあれば、東京もまだまだ豊かな都市になれる。そんな気がします。

取材・文/三好かやの

 

ドメーネ・ダーレム
http://www.domaene-dahlem.de/home/

まちの生ごみ活かし隊「せせらぎ農園」
http://ikasitai.info/

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