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第14回 庭は草取りを楽しむためにある

公開日:2019.5.24 更新日: 2021.4.20

『草取りにワザあり!〜庭・畑・空き地、場所に応じて楽しく雑草管理〜』

[著者]西尾剛
[発行]誠文堂新光社
[入手の難易度]易

日本文学の巨匠、森鴎外のガーデニングについては、青木宏一郎による著作に詳しい。鴎外の住んだ文京区の団子坂の坂上には、その住居「観潮楼」が区立の鴎外記念館となっている。ここにおよそ20坪の庭があったという。

鴎外と同時代の人、正岡子規は、そこから数キロ離れた台東区根岸、現在の「子規庵」に住んでおり、不思議なことに、ここの庭もまた約20坪ほどの「小園」だった(根本文子の論文参照)。

子規は『小園の記』で

「今小園は余が天地にして草花は余が唯一の詩料となりぬ」

と述べ、

「花は我が世界にして草花は我が命なり」(『吾幼時の美感』)

と記した。

鴎外は、種を播けば自然と育って開花するような、いわば「易しい草花」を好んだ。子規もとくに難しい植物は育てていない。

僕は、この二人がさほど広くない20坪ほどの庭をいつくしんでいた、ということにすごく興味をそそられる。さらにその20坪というのは、だれでも丁寧に面倒を見ていける広さであり、意外と奥深く楽しめる庭のサイズなのではないか、と思うのだ。

僕が鴎外や子規の庭について興味があるのは、僕のうちの庭もまた、ほんの5坪ほどしかない小さな場所だからだ。
その僕にとっての小宇宙である庭で、この3年ほど、熱を入れて草花や野菜を育てている。草花は仏壇に供える花を、野菜は家で食べて楽しめるように、あまり面倒でないものを少しずつ植えている。

このように、自分で植物を育てるようになると、種播き・育苗・植え付けから草取りと病害虫対策、日照りや暴風雨対策といったふうに、収穫までに必ず超えなければならない課題と向き合うようになる。僕は、この課題のなかで「草取り」が一番好きだ(連載第6回参照)。
草取りが面白いのは、結果がすぐに見られること。そして、その成果は、つねに僕らに気持ちいい印象を与えてくれる。

鴎外や子規が草取りしてたかどうかは知らないが、「草取りは我が世界にしてきれいな草取りは我が命なり」と叫びたいくらいのエンターテイメントであり、心とカラダに効く健康のためのアクティビティなのだ!

草取りは大人の楽しみ

今回、紹介する本は出たばかりの新刊。「草取り」についてここまで体系的に書かれた本は類がないと思う。まさに、新時代「令和」のいま、必要とされている大人のための園芸知識なのだ。

著者は1952年生まれの東北大学名誉教授。農業試験場の若手研究員だったころ、草取りはもっとも苦手な仕事だったという。
それが、だんだんと年齢を重ねるうちに「楽しい」と思えるようになった。

著者はこんなふうに言っている。

楽しく草取りをするためには、まず、その雑草のことをよく知ること。雑草を知ると、食べられるものもあれば、花が美しいものもある。野菜や花として人間が栽培している植物と縁が近いものもある。

この本は身近な植物を「今すぐ」観察し、なるほどと納得しながら草取りできる面白い案内書になっている。著者は、草取りが楽しい活動だということを知り、公園などパブリックスペースの草取りをボランティアでできれば公費は削減され、きれいな環境を維持できると書いている。

「草取り=たいへんですね」という固定観念を「草取りは大人の楽しみ」「大人のたしなみ」というふうに変えてみよう。人生100年時代に学ぶべきことの筆頭に掲げたい!

「草取り」を哲学する……土地の利用、生活圏からの距離、植物、道具のことなど

このユニークな「草取り」本は、大きく分けて3つに構成されている。
1つは、「雑草とはなにか?雑草図鑑」
2つ目は「草取りのために必要な道具と使い方」、
3つ目は「場所に応じた草取りの仕方」。
身近に見られる「雑草」という植物のひとつひとつを解説し、その対処の仕方について書かれている部分は図鑑としても使える。

「雑草」は、たくさんのタネを自ら播き、多様な環境で生き抜く知恵を持っている。僕らはその素晴らしい生き物に道具で対応している。
刈払い機などの農機や「防草シート」の使い方や、趣味家一般には好まれない「除草剤」は、広い面積の除草や農家の仕事を効率的に進めるためにはとても役立っていると客観的に説明をしている。

そのうえで、人間が「ねじり鎌」や「三角ホー」「窓ホー」「草取りヘラ(アルミサッシの溝の掃除道具)」などシンプルな道具でつきあっていくことの面白さを説明する。

僕も、最近、ドイツの世界的なメーカー、スティール社の軽量刈払機を購入した。同時に、135cmの柄をつけた大鎌や三角ホー、窓ホー、ねじり鎌などを揃えて、まるでゴルフのキャリーさんのように、草取りする場所によって道具をこまめに替えて使っている。草取りの楽しみは、適所に最適な道具を合わせることでもある。

日本各地にさまざまな草が生え、土地それぞれに合った草刈り鎌(地鎌)がある。
鎌には、大きく分けて広刃型(半月型=信州鎌など)と細刃型(三日月型=草をつかんで刈る)の2つがある。
http://www.alps.or.jp/uchihamono/ploduct-1.html

雑草は草取りで光合成できず、衰える

著者は、草取りを植物の生態によって7つの方法に分類する。
その多くは、「根っこごと抜く」というよりも「かき取る」「削る」というものだ。

草取りとは、雑草を絶滅させる方法ではなく、雑草とほどよくつきあっていくということだ。地上部を刈る(削り取る)ことで、光合成をさせない、タネをつくらせない。「がんばらない」こと。根っこごと抜いても、土が乾燥し、ホコリが舞うし、そこに眠っていたタネが発芽する。
それよりも、根を残して地上部を刈り「抑制」することを目指す。

草の刈りかたにしても、地面ギリギリで刈るか、5cm残して刈るかで違ってくる。
たとえば、地際で刈ると成長点が低いイネ科雑草が専有するようになりよりやっかいな状況になることもあるという。それで、少しだけ高刈りして双子葉植物も残すことでイネ科など単子葉植物を抑えていく、といったことだ。

いずれにしても、園芸で重要なのは植物を「よく見る」、観察するというセンスだと思う。明日と言わず、いますぐ観察できる雑草から1つひとつあたってみようよ。

参考

園藝探偵的検索ワード

#雑草#草取り#鴎外#子規

プロフィール

松山誠(まつやま・まこと)
1962年鹿児島県出身。国立科学博物館で勤務後、花の世界へ。生産者、仲卸、花店などで勤務。後に輸入会社にてニュースレターなどを配信した。現在、花業界の生きた歴史を調査する「花のクロノジスト」として活動中。

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