農耕と園藝 online カルチべ

生産から流通まで、
農家によりそうWEBサイト

お役立ちリンク集~カルチペディア~
カルチべ取材班 現場参上

花業界のトレンドと産地の組織運営

公開日:2019.6.3 更新日: 2019.5.28

「ニッポンの農業 ざっくばらんに語るべし」スピンオフ企画

<対談>菅家博昭(カスミソウ生産)☓内藤育子(株式会社大田花き 花の生活研究所)

本誌「農耕と園藝 夏号」の対談「ニッポンの農業 ざっくばらんに語るべし!」では、花業界のトレンドキーワードは“シャンペトル”だとお伝えしました。フラワーショップではこのトレンドをどのように店舗展開しているのかなど、本誌ではお伝えしきれなかった貴重なお話をご紹介します。夏号とあわせてご覧ください!

イノベーター理論で広がるトレンド

編集部 かつて、フラワーデザインの世界では、ボリューム感のある花を詰め込んだラウンドスタイルが人気でしたが、花そのものの姿を活かした自然な趣の“シャンペトル”がトレンドとなったのはいつ頃ですか?

内藤 花業界のトレンドになってきたのは2013年頃ですね。

菅家 私も同意見です。2015年11月に、チェーン展開する花店のコンセプトメイクを担当する方の講演を聞きました。そのお店では、主力デザインをラウンドからシャンペトルに変えるというお話でした。

内藤 2013年頃にはトップのフローリストだけがキャッチしていた小さなトレンドだったので、そのお店で一般に広く浸透させたのが2015年だったということですね。

菅家 海外のトレンドをつかみ、国内の店舗でもシャンペトルを取り入れることを社内で進めたそうですが、当初、同意した店長さんは2割しかいなかったそうです。

内藤 新商品や新サービスを普及させるためのイノベーター理論では、新しいものをいち早く取り入れるイノベーターが2.5%で、次に流行の情報収集をするアーリーアダプターが13.5%。合わせて16%が流行に敏感だといわれています。それを考えると、店長さんの同意が2割だったというのはよくわかりますね。

菅家 そのお店ではその後もシャンペトルを採用し、枝物や葉物だけのブーケを販売したところ、今ではそれに合う花を購入するお客さんが増えているようです。人気なのは、立派な花より小花がたくさんついているスプレー品種ですね。

内藤 店長さんのなかにトレンドを牽引していく人が当初は2割しかいなくても、イノベーター理論でいわれるように、4年たった今、トレンドのフォローが遅めの人にもシャンペトルが伝わり、さらに広がっているのではないでしょうか。

産地視察の大切なポイント

編集部 花の産地事情に詳しいお2人が注目しているのが、JA常陸大宮地区枝物部会ですが(「農耕と園藝 夏号」または「産地ウンチク探検隊vol.126」をご覧ください)、その他に独自の手法で成長している産地はありますか?

菅家 枝物花木の産地でいえば、静岡県浜松市のJAとぴあ浜松でしょうか。お話を伺ってきたのですが、こちらでは「金のたまごプロジェクト」で後継者の育成をされているそうです。次の担い手になってくれそうな若い方に直接電話してメンバーを募り、産地の学習会や、先輩の圃場見学をして管理の仕方を学ぶ機会などを作っています。とぴあ浜松のHPにも書かれているのですが、農協が産地を運営するのではなく生産者が運営し、運営できる人を生産者が育てていかないと産地の未来はない、と。自分たちは何を栽培して産地を育成していくかを自らが考えなくてはなりません。

内藤 それは大切なことですね。

菅家 産地の一番の課題は組織運営です。小規模の生産者で産地を作っている場合は、運営原則が非常に大事です。

編集部 菅家さんはいろいろな産地を視察されていますよね。

菅家 私は、1990年発行の「園芸特産地ガイド」に掲載されている産地に行き、組織運営について聞くということをかなりやってきました。でも、生産者の多くが産地視察をしても、栽培技術やハウス、品種だけを見て、どんな組織運営がされているかを学ぶ人はいません。視察では団体運営の方法を見ることが一番大切なのですが。そこがないと産地の維持ができないのです。

新品目栽培を始めるなら

菅家 たとえば、産地に青年部がある場合、青年部のなかで次の役員を育てます。そしてその青年部は、親の世代とは違う品目を作ることが一般的です。でも、その変化を引っ張っていかれるリーダーがいないのです。次に栽培する作物をどんな人にまかせるかを構築するのが部会運営なので、産地視察もするのですが、多くの場合、同じ作物を栽培しているところにしか行きません。しかし、そうではなく、いろいろな品目で新しいことをやろうとしているところに若い後継者とともに行くことが大切です。

編集部 自分たちとは違う品目を栽培しているところと交流することで、次の世代の産地を作っていくのですね。

菅家 私たちの産地では、7〜8月はカスミソウが咲いてとにかく忙しいので他の花の栽培はやりません。9月以降は少し時間があくので、この時期に出荷できる草花を補完作物として栽培しています。そういった流行が変わるもの、社会変化を見ることができる品目を少し取り入れて、本業のカスミソウを維持しています。

内藤 私も、生産者さんから「新しい品目を作りたいけどどうだろうか」というお話をいただいた時に、菅家さんのようなモデルを提案して、2割は新しい品目、8割は定番を残しては? とお伝えします。2割なら引き返すこともできますから。そして2割を超えたらさらに増やしていくと。花業界では常にトレンドが変化していきます。入ってくるトレンドもあれば出て行くトレンドもあるし、浸透するものもあります。新しいトレンドに対応するためには、消費者の2割がいち早くトレンドを察知するというイノベーター理論を取り入れてみることをおすすめしています。

取材・文/高山玲子
写真/岡本譲治

この記事をシェア