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他産地との差別化を模索 旭川でガーデンシクラメンを生産 (有)花の二階堂

公開日:2019.6.4 更新日: 2019.5.30

7月、北海道旭川市で、ガーデンシクラメンを中心に鉢花を栽培する有限会社花の二階堂の二階堂博さんを訪ねた。ハウスでは、隙間なく並んだ直径9㎝の鉢を、女性スタッフが手際よく並べ替えている。

「出荷時には隣の鉢の葉が重なるので、それを見越して今から鉢1 個分くらい間を空けています。でないと大きくなった時に、形が崩れてしまうのです」
十分間隔を空けて生育に適した環境を整える。夏場に欠かせない作業だ。

旭川市で40年近く、鉢花を育て続けている二階堂博さんと孝子さん。

ガーデンシクラメン 北海道では草分け的存在

二階堂さんは、旭川農業高校を卒業後、稲作を行っていたが、昭和40年代、減反政策が始まり、作物と経営の見直しを迫られた。

周囲では野菜に転換する農家が多いなか、旭川園芸センター(当時)は、市内の旭山動物園に植栽するパンジーの花壇苗を作る生産者を求めていた。この時二階堂さんは、「どんな花が咲くのかわからない」状態で、地掘りのパンジー作りに取り組み始めた。

その後、動物園や学校の花壇苗の需要が高まり、生産量は順調に伸びていったが、畑の地面の土ごと出荷すると、下層の痩せた土を使わざるを得なくなり、堆肥を投入しても思うように育たない。地掘りの花苗作りに限界を感じ、購入した培土を鉢に入れ、花を育てる手法に移行していった。

昭和50年代に入り、シクラメンの栽培を開始。4寸~5寸の大型の鉢物を作り、北海道を中心に出荷していた。そして十数年前、埼玉県本庄市の有限会社たけいち農園の田島嶽さんが「変わったシクラメンを作っている」との噂を聞きつけ、現地へ足を運んだ。そこで見たのが屋外に植える、小さな「ガーデンシクラメン」だった。

当時はまだ北海道にその生産者は見当たらなかったので、「これなら自分もできそうだ」と早速取り組み始めた。

ターゲットは本州の消費者。輸送を考えると重い鉢物よりも、ガーデンシクラメンのほうが売りやすい。だんだんガーデンのウエイトが大きくなっていきました」

2016年現在、ガーデンシクラメン8万鉢と、4寸鉢のシクラメン3000鉢を生産している。

自作のプラグ苗から専門業者へ委託

7月末のハウスでは、葉が徐々に生長し、鉢の外に少しずつ広がり始めている。株元をのぞくと、小さな花芽ができていた。

シクラメンは「葉の数だけ花が上がる」といわれているので、1 枚の葉を大きくするよりも、葉数を増やすようにしている。また、室内で育てることが前提の鉢植えと違い、屋外で育つガーデンシクラメンは、「見目美しく、健康的に。そして強く、たくましく」育てることを心がけている。

ベッドにぎっしり並んだ鉢。
生長に合わせて、鉢の間隔をあけていく。

二階堂さんは昨年まで、セルトレイに1粒ずつ播種し、育苗を行っていたが、今年から本州の専門業者に育苗を委託するようになった。

播種が始まる2月の旭川はまだ寒く、育苗には暖房費が必要だったが、今年は業者から届いたプラグ苗をポットに移植。以前より、苗のロスが減り、秀品率も上がった。暖房費や人件費、ロス分等、トータルで考えると、苗代が上がった分を、カバーできたようだ。こうして届いたプラグ苗を、6 月初旬に移植する。

ガーデンシクラメンの場合、購入者は庭やプランターに移植するので、鉢は不要になるが、二階堂さんは黒いビニルのポットではなく、底面に丸い穴が11個開いた、硬質の鉢を使用している。

底に11の穴がある硬質のポット。

「ビニルポットは、手で持つと土の形が変わり、根を傷めてしまいます。また、隙間ができることで、水やりをした時に、隙間から水が抜けてしまうので、この硬質ポットがいいのです」

鉢に入れる培土は、ラトビア産「スーパーテラー」を使用。ピートモスが主体でpH.5、EC1前後に調整されている。これを7割、北海道で産出される火山礫を2割、赤玉土を1割ブレンドして使用している。

「火山礫は、道内で調達できる貴重な素材。気泡がたくさん開いていて、大小の粒が混ざっています。気相が取れるのと水はけが良くなる効果があります」

赤玉土1 割をブレンド。
ピートモス主体の培土を7 割。
北海道産の火山礫を2割。

定植後、与える肥料に含まれる三要素の成分比は「15-15-15」もしくは「20-20-20」のフラットなタイプを使用。水耕栽培用の液肥を、2000~3000倍に希釈して使用している。

水やりは、ハス口の穴を変えて微調整

給水は2日に一度の割合で行っているが、苗の生長段階に応じて、給水する「ハス口」の穴の大きさや数を変えていて、作業小屋には何種類もタイプの異なるハス口が並んでいる。

生長段階に合わせて、ハス口の穴の数や大きさを変えている。

「ドリルで穴を開け直して作っています。やっと芽が出た時は小さい穴でふわっとかかるように。生長段階に応じて、穴の大きさ、数、量を調整することも大事です」

最近悩まされているのは、土に付着して繁殖する「コケ」。見つけると手作業で取り除いている。病気や害虫も風や土が運んでくることが多い。育成中は常に風通しを良くして、湿気を避けるよう、環境整備を心がけている。

旭川でも30℃を超える夏が過ぎ、9月中旬になると、葉も鉢をはみ出すほど大きくなり、いよいよシクラメンのつぼみが上がってくる。この時期になると、肥料のバランスも栄養生長から生殖生長重視の比率の液肥に切り替わり、「12-20-20」のものや、花の生長具合にあわせてカリ37%のものをスポット的に投入する場合もある。

液肥は同じ濃度でまんべんなくフラットにかけるのが原則だが、それでもなかには生長が遅れ気味の株もある。

「そんな時は、液肥を補うために、粒状の『置き肥え』を。最終的にはこれで他の株とほとんど変わらない大きさになります」

生長が遅い苗には、鉢の上に「置き肥」を施す。

一株ずつ観察して、微調整を行い、出荷に備える。

5色のカラフルなアソートを出荷

1013日、すでに出荷が始まっていた。夏場はグリーン一色だったベッドの上が、赤、白、ピンク、紫、グラデーション入りなど、カラフルなガーデンシクラメンで埋まっていた。

9月中旬から出荷スタート。多彩な花が咲き始めている。

出荷作業には二階堂さんと妻の孝子さんはじめ、総勢9名で当たっている。花持ちを良くするために、出荷前に液肥を与え、20個入りのトレイに4~5色並べていく。鉢は直径9㎝。余分な花を取り除き、花とつぼみを中心に寄せ、葉組みをして形を整える。

主力は「スーパーコンパクト」、「ベラノ」、「ピコラ」、「ゴブレット」など。いずれの品種も、複数の色を組み合わせた「アソート」の形で出荷している。

ベラノ
スーパーコンパクト
4寸鉢のシクラメンも生産。北海道内へ出荷している。

行先は、関東、関西、中京方面の市場が中心。年末のニーズが高い大鉢のシクラメンと違い、ガーデンシクラメンは屋外の作業に適した秋に販売のピークを迎える。出荷は9月中旬から始まるが、10月を過ぎると旭川では気温が10℃を下回る日も。そんな時は暖房を入れて加温するが、「ガーデンシクラメンは、アウトドア商品なので、ある程度寒さに慣らしておかなければ。過保護は禁物です。ギリギリまで暖房を入れずに頑張っています」さらに4寸鉢のシクラメンや、ゼラニウム、 ヒューケラなども栽培。2016年、北海道は台風や日照不足に悩まされたが、二階堂さんのハウスは被害もなく、例年どおりの出荷を見込んでいる。

今、頭を悩ませているのは、輸送コスト高騰の問題と、他産地との差別化だ。トラックドライバーの労働環境改善のために、規制が厳しくなっていて、その分経費が輸送費に上乗せされている。また、シクラメンの産地は、愛知、埼玉、山形……と、日本各地に点在していて、他産地との差別化が難しい。

そこで二階堂さんは、オリジナルの「あさひやまからの贈りもの」と書かれたタグをつけるようになった。そこに描かれているのは全国的に有名な旭山動物園の動物たち。シロクマは「おもいきり飛び込んじゃえ」、カバなら「それでいいんだよ」等のメッセージつきで、全部で7 種類ある。

旭山動物園の動物たちからのメッセージ入りのタグをつけて、出荷している。

「このタグを見かけたら、動物たちのいる旭川を思い出してもらえるように」と二階堂さん。旭川で花を作り続けて約40年。どんな地域でも屋外で元気に咲き誇るガーデンシクラメンを目指し、栽培を続けている。

「農耕と園藝」2016年12月号より転載・一部改変
取材協力/(有)花の二階堂 二階堂博 二階堂孝子
取材・文/三好かやの 写真/杉村秀樹 中島宏章

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