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カルチべ取材班 現場参上

千葉県睦沢町に多品目少量栽培の魅力を広める! コスモファームの取り組み

公開日:2019.6.25

関東地方が梅雨入りする直前の64日。カルチベ取材班は有限会社コスモファーム 取締役会長 中村敏樹さんの案内で、千葉県長生郡睦沢町にある圃場を訪ねました。

手がけた野菜は300品種超え「コスモファーム」の取り組み

「コスモファーム」は中村さんと現在、代表を務める息子の裕太郎さんを中心に、香川県高松市で野菜の多品目少量栽培を手がけています。89aの小さな圃場が飛び地で9ヵ所点在する環境で、これまでにおよそ300品種の野菜を栽培してきました。

収穫された野菜は市場に出荷せず、百貨店や高級スーパーと直接契約を結び、ほぼ毎日出荷しています。またレストランとの契約数も700店を超え、こちらはシェフからの細かな注文に応じた野菜を不定期で出荷しています。

なぜ「コスモファーム」の野菜は、高い評価を受けるのでしょう。

品質、品種の豊富さはもちろんですが、それに加え、「見た目の美しさ」「使い勝手の良さ」を徹底していることが大きな理由です。

たとえば葉物なら、かき菜にした数種類のレタスにレッドキャベツとラディッシュを加えた「サラダセット」。ズッキーニと数種類のトマトに、バジルを加えた「ラタトィユセット」。見た目に楽しく料理がイメージしやすい。なおかつ無駄がない工夫で、消費者の心をつかんでいるのです。

自宅に隣接する加工場ではピクルスを中心とした加工品の製造もおこなっています。

こちらも、市場なら出荷できない小さなジャガイモや、多品種ならではのカラフルなニンジンなど、素材を活かした内容と、スタイリッシュなデザインで固定客を掴んでいます。青山のマルシェで話題となったことからバイヤーの目に留まり、現在は高級セレクトショップなどに、年間15千~2万本を出荷しています。

高松の加工所で作られているピクルス。色の組み合わせ、野菜のカット方法などを工夫することで、見ているだけで楽しいピクルスに。セレクトショップで大人気の商品。

中村さんの提唱する「多品目少量栽培」のポイントは次の3点。

①野菜の価格、売り先は自分で決める
②伝統野菜、旬の野菜の味を大切にする
③食べられる野菜を廃棄しない工夫をする

具体的な栽培技術、販売テクニックについては、中村さんの著書『多品目少量栽培で成功できる 小さな農業の稼ぎ方』(誠文堂新光社)に詳しく載っています。

東日本大震災、そして2018年再び多品目栽培へ

中村さんが、これまでのノウハウを生かしつつ新たに手がけたのが、今回紹介する睦沢町の圃場です。

3.5haの土地と、2棟のビニールハウス(4ha)は、高松の圃場と較べ格段の広さ。しかもここは、中村さんにとって深い縁のある場所でした。実は10年前、当時コンサルタントをしていた大葉の生産輸入会社から、自社に隣接する耕作放棄地を借りないかと声がかかり、「それなら多品目栽培の実験場にしよう」と借り受けたのがこの土地だったのです。

荒れ地だった耕作放棄地を睦沢町が、アクアラインの建設残土を利用して開墾。やや砂の多い土地ではありましたが、これほど広い圃場を自由に使えるチャンスは、そうあるものではありません。

当時は早朝から作業をするため近くに家を借り、仕事仲間や野菜ソムリエ、レストランのシェフなどが勉強会を兼ねて作業に加わり、収穫した野菜は週末にマルシェで販売。まさに多品目栽培の実験場として、中村さん自身もここでの作業にのめり込んでいました。

ところが、畑を改良するための新たな土を購入した矢先、東日本大震災が起き、睦沢での作業は中止を余儀なくされたのです。

それから7年。同じ土地で、ふたたび野菜作ることになったのは一昨年のことでした。

震災前から付き合いのあった、睦沢町役場まちづくり課から、「睦沢町に道の駅を作ることになったので、ぜひ相談に乗ってほしい」と連絡があったのです。これをきっかけに、大葉を栽培する農業生産法人長生あおば農園(株)と協業で、中村さんは「道の駅」のアドバイザーの役割を担いつつ、「睦沢ブランド」の野菜作りも手掛けることになりました。一度はあきらめた土地を再び睦沢町から借り受け、多品目少量栽培を実践することに。

カルチベ取材班は圃場に向かう車中から、建設中の道の駅・つどいの郷「むつざわスマートウェルネスタウン」を見ることができました。ガラス張りのモダンな外観に、レストラン、温泉施設も併設されるとのこと。グランドオープンは101日に迫っています。

極力手をかけない栽培と収穫

広々とした圃場には長い畝が何本も続き、その11本に、ジャガイモ、ニンジン、ズッキーニなど多品目、さらに異なる品種が植えられています。

取材前日にはジャガイモの「レッドカリスマ」、「アンデスレッド」、「シャドークイーン」、「グランドペチカ」などを収穫。さらに「ジャガキッズパープル」、「ディンキー」などが収穫を待っています。

千葉県睦沢町の圃場の一角。初春に植え付けしたジャガイモは十数品種。

畝の向こうで耕うん機が稼働しているのは、6月中に大豆を撒く予定の圃場。

「豆腐やみそだけでなく、リンゴやブドウ、ユズなどのドライフルーツとあわせてグラノラを作ってみる予定です。ドライフルーツは、単品だとなかなか量が捌けませんが、何かと組み合わせれば売れると考えたのです」

ジャガイモの隣の区画は、大豆を播くために耕うん作業が行われている。

農業コンサルタント、日本野菜ソムリエ協会講師の肩書を持つ中村さんは、横浜事務所と高松の圃場のほかにも、全国各地を飛び回る多忙な日々。それでも昨年からは時間を捻出して、週に12度この睦沢圃場に足を運んでいます。野菜ソムリエやマルシェの仲間などが収穫の手伝いをするスタイルは以前と同じ。作業に来られない日は、前述の長生あおば農園から借り受けた女性社員2人が、実作業を担当しています。

「彼女たちも自分の仕事がありますし、私たちも作業できる時間は限られています。そこで、できるだけ手をかけなくていい品種を手をかけずに栽培するよう工夫しています」と中村さん。

収穫が追いつかなことも多々ありますが、だからといって1品種を大量に栽培することはせず、空いたスペースには新しいものを植えていく「多品目少量栽培」の鉄則を守っています。

ハウス内は多品目ランド

出荷についても品種ごとに分けたり、細かい選定をせず、ミニトマトなら、「11パック」といった形で510品種をまとめて箱詰めにしています。これも手間を省きつつ、「魅せる」工夫です。

ミニトマトはまとめて箱詰めで販売。不揃いではあるが、樹で完熟させているので味は抜群。写真は都内のファーマーズマーケットに出店した時の様子。

今年のハウスはどうなっているのでしょうか。さっそく案内していただきました。

1棟目の入り口付近には、非球形レタス、サラダビーツ、うずまきビーツ。バターナッツカボチャ。黄ズッキーニ、サラダカボチャなど。中央奥には白い花がレース状に広がるコリアンダー。フェンネル、バジル。奥にミニトマトと続きます。

ミニトマト
フェンネル
コリアンダーは作も終わりで花が咲いているが、食べても飾ってもよく、レストランやファーマーズマーケットで喜ばれている。

「今年初めて挑戦したのが、特大ヒョウタンと千成ビョウタンです」

育苗用のハウスにある、苗を作るための棚を利用して、ヒョウタンを這わせています。大きいものは、トウガラシを入れる容器にしたい、との考えも。

ユニーク野菜が当たり前になりつつある中村さんの圃場。いよいよヒョウタンがお目見え。

「千成ヒョウタンは、あまり大きくならないうちに収穫し、毒を抜くため塩漬けに。毒が抜けたら、粕漬にします。同じようにそうめんカボチャも柔らかいうちに収穫し粕漬にしようと考えています。今後地元の酒屋さんと組んでできれば、道の駅で扱うこともできますね」

育苗も打ち合わせも、多品目を成功させる大切な仕事

中村さんの多品目栽培は少ない人数で効率を上げるために、高松の圃場の苗は、付き合いの長い信頼できる苗屋さんから購入していますが、睦沢では育苗に取り組んでいます。いろいろな品種を試してみたいということで、今年は国内・海外問わず様々な種子を購入し、育苗しているそうです。

「日本の種苗メーカーの種子は、色も形も均一で品質が安定していますが、海外の種子は色も形もバラつきがある。本来は揃いがいい方が効率はいいですが、揃わない、バラつくことが面白いんだと発想を変えてみると育苗の楽しみが広がります。種子の価格も安いですからね」

種子から始めることで、品種を増やすこともできます。品種を増やすことは、まさに多品目栽培の醍醐味。また、お客様を飽きさせないために日々新しい物を見つけていかなければなりません。

新しいことへの挑戦は、栽培だけではないようです。この日、収穫の手伝いをするつもりで来た取材班でしたが、午後から睦沢町役場の道の駅担当者と打ち合わせがあるとのことで、同席させていただきました。今年、令和元年10月にオープン予定、道の駅・つどいの郷「むつざわスマートウェルネスタウン」の打ち合わせです。

現在中村さんは、この道の駅のプロジェクトにも参加しています。道の駅オープンに向けて、役場の担当者、地元でカフェやイベント事業を営むプロジェクトメンバーとともに、直売所で販売する品目・品種決めや、レストランに提供する野菜について細かな打ち合わせが行われました。できるだけ地元で取れた野菜が食べたいという家庭は多く、また、睦沢でレストラン経営をする若手シェフたちからも、地元産の珍しい野菜がほしいとリクエストがあるそうで、道の駅プロジェクトにおける多品目栽培への期待はとても大きいそうです。

道の駅・つどいの郷「むつざわスマートウェルネスタウン」は、令和元年10月にオープン予定。販売品目や圃場でのイベント開催について睦沢町役場や地元のプロジェクトメンバーと打ち合わせ。

多品目栽培の魅力を伝え、町を元気に

中村さんが睦沢での作業に熱心に取り組むのは、自身のコスモファームのためだけではありません。「多品目少量栽培」を町の活性化に結び付けてほしいという願いがあるからです。

「睦沢周辺は、ほとんどが昼は都心に働きに出る、兼業農家です。不動産維持のために、米を作って、でも売り上げはマイナスという農家も少なくない」

そんな状況では、農家も田畑を手放し、ますます耕作放棄地が増えてしまう。そこで一歩踏み込んで、圃場のほんの一画でいいから「多品目栽培」にトライしてほしい、と中村さんは言います。

「米を10a作っても売り上げは10万円ほどでしょう。でも、多品目栽培で成功すれば、たった10aの畑から200万円の収益が上がるんです」

しかも、市場流通が難しい多品目栽培にとってカギとなる「売り先」が、この秋にオープンするのですから、こんなチャンスはありません。

「震災前からご縁のある睦沢町がもっと元気になれるならば、多品目栽培の魅力を地元のみなさんにお伝えしていきたい」

道の駅オープンを前に、睦沢町の方々に向けて多品目栽培の講演会も行われているそうです。
中村さんの『農耕と園藝』での連載記事「実践! 中村塾」から4年。農業に対する攻めの姿勢は今も変わっていません。扱う品種は増え、圃場も増え、育苗にも挑戦。そして今、「町単位で野菜と加工品を売る」ためのノウハウを模索し続けています。その根底にはごくシンプルな思い、「食べられる野菜を廃棄処分にしない」という、中村さんの明快な思いが変わらずにあるのだと感じました。

取材協力/(有)コスモファーム 中村敏樹
農業生産法人長生あおば農園(株)
取材・文/古田久仁子

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