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園藝探偵の本棚

第19回 種子のデザイン~実際に触れる、観察する、育てる

公開日:2019.6.21

『熱帯植物 天国と地獄』

[著者]清水秀男
[発行]エスシーシー
[入手の難易度]易

1930年に書かれた「ライオンゴロシ」の記述

前回、上村登によるライオンゴロシの「名文」を紹介した。その後、『種子のデザイン』(後述)という本の中で、植物学者、リドリー Henry N.Ridley による記述があるというので調べてみると、以下のようなものであることがわかった。

画像 harpagophytum prostratum *インターネットアーカイブ所蔵の資料

《harpagophytum》

It is said that a lion has been found starved to death from one of these fruits having become attached so firmly to its mouth that it quite closed it. It is probable that, having stepped on one of these fruits lying on the ground, it attempted to remove it from its paw by the aid of its mouth, and the fruit became so firmly attached to its lips that it could not open its mouth or detach the fruit.

上村が描いたライオンゴロシの物語は、リドリーの解説とほぼ同じ内容だが、訳文を読むと印象は全然違う。園芸は見えない世界をどう楽しむか、想像力の王国だと再認識する。

*資料は「インターネットアーカイブ」から引用した(インターネットアーカイブは、多様かつ膨大な資料を無償で提供しているアメリカの団体)。
https://archive.org/details/TheDispersalOfPlantsThroughoutTheWorld/page/n2
*『The Dispersal Of Plants Throughout Of The World Ashford, Reeve.』 Henry N.Ridley 1930 (p596,597 *下記サイトのコマ番号654/810インターネットアーカイブ所蔵の資料から)

「ライオンゴロシ」を育てた人の話

僕は上村の本で知ったライオンゴロシの実物を見たいと思った。しかし、当時はインターネットもなく、写真すら見つけ出すのは容易ではなく、やがて探すことも忘れてしまった。

そんなある日、『熱帯植物 天国と地獄』(2002年)という本があるのを知った。たしか、花の卸売会社、FAJの長岡求さんがなにかに書かれた記事で紹介されていた。著者は、熱川バナナワニ園(当時)の清水秀男さんだ。僕は、当時、大田市場内の花の仲卸で働いていて、ハワイのアンスリウムに強い興味を持っていた。ハワイのアンスリウムに品種改良には日系人が歴史的に大きな貢献をしていて、「オザキ」「ミドリ」「オバケ」といった日本語名の名品が数多くあった。清水さんの本にはハワイ大学のカメモト教授が育種した紫色のチューリップ・アンスリウムが取り上げられていた。また、「香りのあるアンス」についても触れられていて非常に興味をそそられた。

ライオンゴロシは、このなかに、一章を設けて取り上げられていた。上村の文章も、「名文」として掲載されていて、僕の記憶も蘇った。

この本には清水さんが、1997年の当時、入手困難だったライオンゴロシの果実を2つ寄贈され、その果実からタネを取り出して播種し、発芽・栽培にチャレンジする過程が描かれている。あの硬く乾いた果実からどうやって種子を取り出せばいいのか、1つ目はカッターやドライバーを使って傷だらけになりながら58粒ものタネをゲット。2個目は、なんと果実が自然と上下にはぜて口を開いたという。自然状態でもこのように開くのだと発見する。そうやって一つひとつライオンゴロシの生態に近づいていく様子が非常に興味深い。

熱川バナナワニ園に勤務し、誠文堂新光社の「ガーデンライフ」などにも記事を執筆され、園芸通のあいだで有名な「園芸ニュースレター」を手掛けた清水さんだが、植物の解説を頼まれる際には、「自分が実際に扱ったもの以外はお断りする」、と書いている。当たり前のことだが、こういうことが守られていないから世の園芸書には間違いが多いのだという。現在はネット検索やSNSで簡単に情報が得られるが、その情報は誰が書いたのか、何を情報源にしているのかまったくわからない園芸情報が氾濫しているし、花店や園芸店のPOPも同様だ。清水さんは「初心者相手の記事なら常識の範囲で充分ごまかせるし、それで99%間違いはないでしょう。でも残り1%に間違いがあれば、それはその記事を頼りにしている読者をあざむくことになります」と指摘する。『農耕と園藝』誌の前身で戦前に多くの園芸愛好家に影響を与えた『実際園藝』の主幹、石井勇義の編集方針も、まさに実際に育てている専門家に記事を書いてもらう、というものだったことを思い出した。

「実際に栽培してみれば、どんな植物でも新たな驚きがあり、文献では得られない何かを得られるのです。植物を解説する場合、その実際に栽培して得られた何かを書くことが大切」「どうせ書くなら読んで面白く、かつ役に立つ実用的な内容でなければならない」。清水さんはこのような姿勢を貫いている。それだから、記事の内容はいつまでも新鮮で古びることがない。

のちに、清水さんは発芽から開花させるところまで成功されているようだ。

「学芸員の独り言」2016年  ライオンゴロシの到来

https://44876950.at.webry.info/201602/article_1.html

 

『種子のデザイン―旅するかたち』

[著者]岡本素治、小林正明、脇山桃子
[発行]LIXIL
[入手の難易度]易

旅するタネ 本物の衝撃

僕がようやく、「ライオンゴロシ」と初めて対面できたのは、2011年の冬。日本橋のリクシルギャラリー(かつてのINAXギャラリー)で行われた世界の面白い植物の種子を集めた展覧会の会場だった。

名古屋を皮切りに東京と大阪の3会場を巡回する企画展で、多くの人が足を運んだと思う。展示は、「風に乗って旅をする」「漂流する冒険者たち」「動物との巧みな駆け引き」といった魅力的なテーマで区分されていた。言うまでもなく、ライオンゴロシは動物との関係で取り上げられている。初めて見るそのトゲだらけの姿をした「果実」は、想像していた以上に大きなもので手のひらにしっかりと乗りそうなサイズだった。時間をかけてじっくり見ることができてほんとうによかった。

この展示会ではまるで「お尻」のような形をした世界最大の種子「フタゴヤシ」や、山火事で焼けることで発芽する「バンクシア」、グライダーのように空を滑空するアルソミトラ・マクロカルパや旋回しながら落ちるフタバガキの実もあった。

そう言えば、大田市場の仲卸で働いていた頃、お客さんの前でアルソミトラを飛ばしてみんなに見せたことがあったなあ。市場には、さまざまな実ものが入荷する。7月の東京盆の飾りに用いるために、夏にはさまざまな色や形をした「おもちゃかぼちゃ」や千成ひょうたんが「ホウズキ」などとともに入荷していた。当時は、ときどき「ツノゴマ」や巨大な「ジャイアントビーン(モダマの鞘)」や「パームボート(ヤシの鞘)」「モンキーポッド(お猿さんが手を入れると抜けなくなるという木の実)」が入荷していたのだが、最近はどうなのだろう。モダマの生息地の北限は日本の屋久島あたりになる。若い頃、屋久島に行ったときに、その生息地を調査した。手の届かない高いところに、若い豆のさやがたくさん成っていた。

フタバガキは、輸入商社から一度たくさん入荷したのを仕入れた。あとにも先にもその時だけで、あとから知ったことは、東南アジアの熱帯雨林で主要な樹種(高木)であるフタバガキの仲間は、広い地域に生息しているのだが、数年に一度、一斉に開花し実をつける。こうすることで、実を食べる動物や昆虫の必要量以上の果実を生産し、子孫を残す戦略なのだ。

 

参考
『植物の私生活』 D.アッテンボロー著 門田裕一監訳 山と渓谷社 998
『The Dispersal Of Plants Throughout Of The World Ashford, Reeve.』 Henry N.Ridley 1930
https://archive.org/details/TheDispersalOfPlantsThroughoutTheWorld/page/n2

2011年LIXIL巡回企画展「種子のデザイン‐旅するかたち」展
https://www1.lixil.co.jp/gallery/exhibition/detail/d_001949.html

 

園藝探偵的 検索ワード

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プロフィール

松山誠(まつやま・まこと)
1962年鹿児島県出身。国立科学博物館で勤務後、花の世界へ。生産者、仲卸、花店などで勤務。後に輸入会社にてニュースレターなどを配信した。現在、花業界の生きた歴史を調査する「花のクロノジスト」として活動中。

 

 

 

 

 

 

 

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