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「平成を振り返る! 令和の時代に向けて」 〜 業界外のトレンド、花のトレンド・サイクル 一般社団法人 日本フローラルマーケティング協会セミナーリポート

公開日:2019.7.23

『平成を振り返り、令和の消費トレンドは?』

マーケティングプロデューサー 辻中俊樹さん

平成から令和になり、社会のトレンドがどんどん変化していくのを感じる毎日ですが、カルチベ編集部が気になっているのが「花の業界のトレンド」です。花ビジネスのマーケティングを実施している日本フローラルマーケティング協会で「平成を振り返る! 令和の時代に向けて」と題した定例セミナーを開催すると聞き、さっそくおじゃましました(2019年6月18日開催)。今回は、マーケティングプロデューサー・辻中俊樹さんの講演を抜粋してご紹介します。

65歳以上シニアが増加し続ける時代

平成30年間で社会がどのように変化したかというと、65歳以上のシニアが激増しました。団塊の世代といわれる1945〜1949年生まれの人たちが2010年頃に65歳を迎え、これによって社会の中心がこの世代に移ったといってもいいでしょう。そして、令和になってもシニアが増える傾向はずっと続いていきます。

平成10年くらいまでは、日本の社会のメインは夫婦2人+子ども2〜3人で形成する“標準世帯”といわれる子育て家族でした。ですが、65歳以上のシニアが増えたことで標準世帯という概念は崩れます。つまり、夫婦+子ども2〜3人の家族が消費と暮らしの中心を占める時代は終わった、ということなのです。

標準世帯を中心とした社会はマーケティングが非常にしやすく、商品の売り場では母の日や父の日といった歳時に合わせて販売が行われていました。しかし、シニア中心の社会になると標準世帯は少数派。おじいちゃんおばあちゃんにとっては、母の日や父の日にそった販売がちょっとあやしいものになっていくわけです。

「52週の販促カレンダー」のズレ

スーパーマーケットやチェーン店などでは「52週の販促カレンダー」に沿ってオペレーションされていることが多く、お花屋さんもこの流れで運営されているのではないでしょうか(編集部注:52週の販促カレンダーとは、1年間を52週に分けてそれぞれの週ごとに一般的な行事や歳時を記したもの。たとえば2〜4月には、豆まき、バレンタインデー、ひな祭り、入学式・入社式といった季節の行事が記載されています)。この販促カレンダーを見ていると、平成30年間で社会の中心が標準世帯からシニアへ移ったということが反映されていないことがわかります。たとえば2月のバレンタインデーは、シニアにはほとんど関係ないですね。豆まきも、おじいさんおばあさんの2人住まいだと、まいた豆をどっちが掃除するんだ、ともめるのでやらなくなります。子どもたちがいた標準世帯の頃にはこういった伝統行事も大切だと思ってやりましたが、シニアには掃除問題のほうが大きくなってしまいます。ひな祭りも入学式・入社式も関係ないし、イースターにいたってはよくわからない。ゴールデンウィークもありますが、学校に行っている子どもたちか、働いている社会人には関係があってもシニアは自由気ままなスケジュールで生活しているので、連休は関係ありません。こういう販促モデルは、学校に行っている人か会社で働いている人の行事・歳時にフォーカスをあてているもの。曜日にとらわれないシニアには目配りがされていないんですね。こうした52週の販促カレンダーに合わせた販売で、はたしてお花は売れるのでしょうか? シニアが中心となったこれからは、販促カレンダーとは別の“花が欲しいと思う生活のリズム、暮らしのリズム”を見つけることが大切ではないでしょうか。

日々のエピソードから見えるもの

僕は、「暮らし気象台」という書き込みサイトを作って、一般の方々に、日々の暮らしがどのように動いているかを書き込んでもらっています。

ある60代後半の女性の書き込みを紹介します。春先のお天気のいい平日に植物観察会に行かれたそうです。森を散策し、草花に出会い、陽が降り注ぐ木陰でお昼ご飯です。この方はアウトドア用のカップを持ち、サーモスのポットにお湯を入れて持っていき、日清のマグカップヌードルを食べてお腹いっぱいになったそうですが、ここに、シニアの暮らしのリズムがあります。小ぶりのマグカップヌードルでお腹いっぱいになる、これがもし、お腹をすかせた息子がいる標準世帯だったらビッグなカップヌードルを買うところですが、その時代を超えたシニアはこうしてカップヌードルを楽しんでいるのです。

もうひとつ、大事なことがここにあります。それは、草花と出会っていること。シニアの暮らしでは、草花との出会いが圧倒的な頻度で登場します。これが暮らしのリズムを作っていると言っても過言ではありません。こういうことからも、スーパーで活用している52週の販促カレンダーはシニアには当てはまらないなあ……と思うのは僕だけでしょうか?

もちろん、標準世帯は少数派になってはいきますが、なくなるわけではありません。僕がお伝えしたいのは、標準世帯を中心にした考え方と、シニアの暮らしのリズムとを重層化してはどうでしょう、ということです。どちらがいい悪いではなく、両方を組み合わせて考える。それが新しい暮らしのリズムになるのではないでしょうか。

また、先程ご紹介した書き込みは、1つの事実でありエピソードに過ぎませんが、エピソードからどのようなことが見えてくるかという仮説を立てることが、今いちばん求められています。標準世帯の考え方の場合は、○月○日はこういう日と決まっているので仮説を立てる必要もないのですが、先程の書き込みのような微細なところからものごとを見ることが基本だと考えています。これを僕たちはエスノグラフィー的なアプローチと呼んでいます。

自然のリズムとのシンクロ

母の日を過ぎて、僕の家のお隣の方がカーネーションをたくさんくださいました。なんでも、お隣の方はお知り合いにカーネーション生産者さんがいらして、そこで大量に余ってしまったものが送られてきたので、おすそ分けしてくれたのです。私はあいにくカーネーションがあまり好きではないのですが、いただいた花を見たら、これがきれいなナデシコだったんです。ナデシコはかわいらしくていいなあと思います。そして、なぜカーネーションが好きではなくてナデシコがいいと思うのか分析してみたら、カーネーションはコンビニのパック売りの商品のように見えてしまうからなんですね。ナデシコは季節になるとうちの近所にいっぱい咲き、「また1年ぶりにナデシコに出会えたね。そんなナデシコに感謝。1年間生きてきた自分にも感謝」という気持ちにさせてくれるのです。

このように、自然のリズムとシンクロすることで暮らしのリズムも成り立ち、気持ちのスイッチが入ります。シニアになればなるほど、こういった自然のリズムとのシンクロがじょうずにできるようになっていきますが、若い人にもこういう傾向があることもお伝えしておきましょう。

“名残り”という気持ちのスイッチ

2月の下旬には、「暖かくなってきたね」という書き込みもありました。最高気温はまだ10度を超えていないのに、前日より気温が上がると「暖かくなってきた」と人々は思います。つまり、人間は前日比で自然のリズムを感知するようにできているのです。3月になってさらに気温が上がると、鍋料理の比率が下がります。ですが、3月上旬に鍋比率がぐっと上がる瞬間があるのです。これには「名残りを感じたい」とコメントされていました。名残り、いい言葉ですね。こういう忘れ去られるものに自然とのシンクロがあります。名残りという感覚は、暮らしのリズムの中でとっても大事なことです。自然のリズムと暮らしのリズムはシンクロして、気持ちのスイッチが入ります。気持ちのスイッチからずれているものはいいものだとは思われないし、買おうと思う人もいないのです。

名残りの正反対の言葉は、「走り」とか「旬」ですね。「初物」ともいいます。この言葉で売り出すとすごく売れそうですし、値段を高くしても大丈夫という感じがします。でも、名残りのものは言ってみれば残り物ですから、高い値段をつけて売ることはできませんね。ところが、走りと名残りを組み合わせると、価値になる可能性があるのです。たとえば、3月下旬に春野菜をたっぷり入れたしゃぶしゃぶをすると、走りと名残りをうまく合わせた食べ方になります。このように、走りと名残りを協奏曲のように組み合わせることで価値が生まれることがあります。

花の売り方も、走りと名残りを合わせると新しい価値を提供できるかもしれません。茶花がそうですね。茶花は走りだけを追いかけるのではなく、うまく名残りを取り込まないと価値がありません。走りや旬ばかりでは売りのしかけが単純化しすぎていると、僕は考えています。

サイエンスとテクノロジーを使い倒す

こんな書き込みもありました。3月に、「今日は暖かいのでひさしぶりに白いパンツでお出かけしました」。女性はこういう感受性がビビッドですね。でも、自然のリズムとシンクロしたいのだけど、白パンツではまだ寒いんです。そこでどうするかというと、インナーはダブルヒートテックにします。アウターは白パンツにして季節を感じたいけれど、インナーは、ユニクロのヒートテックの重ね着で完全武装するのです。これはとても大事なことです。僕は、ユニクロは平成30年間で暮らしを変えた革命児だと思います。ヒートテックやウルトラライトダウンを作ったことによって、寒さや暑さに防衛力を働かせて、なおかつ気持ちの良さを実現させました。

ここで言いたいのは、サイエンスやテクノロジーは徹底的に使い倒す、ということです。自然のリズムとのシンクロといったエコロジカルなことを実現するためには、サイエンスとテクノロジーによって開発したものを、どれだけ土の匂いをさせて売るか、です。サイエンスとテクノロジーだけを追求すると、自然のリズムとのシンクロが欠落するので、両方をうまく使っていく、ということなのです。

エモーショナルスイッチが入る時

2月下旬の早朝5時半に、キッチンに差し込む朝日を感じ、暖かさを感じた方がいました。春の到来を感じ、ハイテンションになり、何をしたかというと、お弁当作りを頑張ろう、朝食にいいものを1品作ってみよう、でした。日の出が早くなったことに気持ちのスイッチが入ったのです。そんな時に、この場所にお花があるともっと素敵と思ってもらえるかもしれませんね。

こういった気持ちのスイッチのことを“エモーショナルスイッチ”といいます。どこでどうやって気持ちのスイッチが入ったかを追いかけていくことは、僕が普段やっている仕事の一部です。

52週の販促カレンダーでいえば、朝食フェアやお弁当フェアは4月の頭です。しかし、4月ではなく2月下旬に、朝日を感じてお弁当作りを頑張ろう、おいしい朝ご飯を作ろうと思った人に、「こんなものを作ってみてはどうですか?」と提案すれば、自然のリズムにシンクロした暮らしのリズムに沿った販売ができるのではないでしょうか。

最後にお伝えしたいのは、豆腐という商品を売ることだけを考えてはダメ、ということです。春先の寒さが戻った時に湯豆腐を食べられるように豆腐3丁まとめて買っておきましょう、という暮らし方を売らなくてはいけません。花も同じですね。花という商品だけを売るのではなく、花のある暮らしを売る、ということなのです。

 

取材協力/一般社団法人 日本フローラルマーケティング協会
取材・文/高山玲子

 

 

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