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カルチべ取材班 現場参上

次世代の八百屋が地域連携を強くする! 新鮮な農産物を届ける移動スーパー「とくし丸」の1日に密着

公開日:2019.7.19

本日のカルチベ取材班は、農産物を販売する八百屋さんのなかでも、移動式という新しい方法を選んだ移動スーパー「とくし丸」の1日に密着。

地域のニーズに合った寄り添い方や、これからの社会にフィットするスタイルと共に、とくし丸の個人事業主として川崎・調布エリアで活躍する家村さんを追った。

川崎市や調布エリアで活躍する家村昌也さん。関東でいち早く「とくし丸」の個人事業主に。

過疎地だけでなく都市部でも急増している買い物難民のニーズに応える、移動スーパー「とくし丸」。地域のスーパーと連携した個人事業主が、顧客の求める商品を確実に届ける、社会性の高いビジネスだ。

高齢化が深刻化する日本では今、買い物難民が急増している。農林水産省の調査によれば、その数約825万人と推計されている。地方のみならず、都市部でも「車がなくて買い物に行けない」、「近くに店があっても、足が不自由で行けない」お年寄りたちが、食料品や生活雑貨等を求めているのに、届けられない事態に陥っている。

そんななか、画期的なビジネスモデルとして、またお年寄りのニーズに合致した社会貢献度の高い事業として、注目を集めているのが移動スーパー「とくし丸」。創業から7年の間に急速に台数を伸ばし、2019年1月末現在、全国44都道府県で369台が走っている。

仕入ゼロの販売代行業 軽トラ1台で開業

とくし丸が誕生したのは、2012年1月。徳島市で「あわわ」を創刊し、全国で最も収益性の高いタウン誌として成功に導いた住友達也さん(61歳)が、自身の両親が徳島県阿波市で日々の買い物に不自由している現実に直面。社会問題の裏側には必ずビジネスチャンスがあると確信し、取り組み始めた。

とくし丸に商品を満載し、顧客を訪ねて販売する「販売パートナー」は、いずれも個人事業主。開業にあたり、専用の販売車両(軽トラック)を約350万円で導入(リース制度もあり)する。

《企業プロフィール》

創業/ 2012 年1月 資本金/ 1000万円 販売パートナー/ 369 台
提携スーパーマーケット/ 106 社 商品の仕入先/各スーパーマーケット
販売先/担当エリアの顧客 約150名

 

とくし丸の商品は、すべて本部が契約を結んだ地元スーパーから積み込まれる。商品を仕入れるのではなく、「販売代行」を行うシステムなので、生鮮食品のロスを心配せずに販売できる。週5〜6日間稼働して、1日40〜50人に販売。10万円前後の売り上げから18%を手数料として受け取る[図参照]。

図 移動スーパー とくし丸の特徴  ※月刊売上200 万円の場合

徳島県で産声をあげたとくし丸は、2016 年6月、オイシックス・ラ・大地株式会社の連結子会社となり、関東に拠点を置く「いなげや」、埼玉県の「ベルク」、大阪の「関西スーパー」など、全国106社のスーパーと提携。株式会社とくし丸営業部長の佐藤禎之さんによれば、販売の拠点となるのは、地元密着型のスーパーマーケット。地域のお客様が通い慣れていたお店にお願いしているという。そんなとくし丸の販売パートナーに適しているのはどんな人だろう?

「真面目で誠実な方。口下手で不器用な人も、1年続ければお客様が育ててくれます」

その現場を訪ねた。

1日50世帯分の商品をスーパーからピックアップ

1月24日朝9時。いなげや川崎登戸店の搬入口では、販売パートナーの家村昌也さん(39歳)が、店頭から次々と商品を積み込んでいた。

牛乳コーナーでは、「おいしい牛乳」を数本。「やはり馴染みのある、定番商品がよく売れます」。それでも「特濃4・4」を1本ピックアップ。「必ずこれを購入するお客様がいるのです」。卵も10個入り、6個入り、ブランド卵、赤玉、白玉、温泉卵……多様な商品が並んでいるが、移動販売の顧客の大半が高齢の女性で、「うちはこれでなくちゃ」と決めている銘柄やブランド、数量がある。それを瞬時に思い浮かべて選び出しながら、賞味期限もチェック。「木曜日のルートのお客様に次にお届けできるのは月曜日なので、できるだけ新鮮なものを選んでいます」

家村さんが担当するのは、川崎市多摩区の中野島、多摩川を越えて東京都調布市、狛江市、府中市など広範囲に及ぶ。月〜金曜日の販売で、1日約50軒分の商品を販売。ピッキング作業は、まるで一度に50世帯分の買い物をしているよう。しかも単に牛乳や卵であれば良いわけではなく、顧客の顔を思い浮かべながら、好みの産地やブランド、量目や賞味期限もチェックして選んでいるのだ。

続いて生鮮のコーナーへ。イチゴの棚にはJAハイナンの「紅ほっぺ」、JAはが野の「とちおとめ」等が並んでいる。家村さんは、複数の品種と産地の、イチゴとミカンをピックアップ。微妙に味が違うので、説明できるよう事前に全品種試食している。どちらかといえば定番品種が売れ筋だが、あえて見たことのない商品を選ぶことも。例えばJA豊橋のミニトマト「あまえぎみ®」のクレアレッドは、「もう一度食べたい」とリクエストが多い。高齢者に向け、新商品を提案するのもまた、家村さんの役目だ。

顧客の好みに応じて、複数の産地や品種のイチゴをピックアップ。
高齢者の家庭に欠かせぬ花は、助手席にスタンバイ。
ミニトマトの「あまえぎみⓇクレアレッド」は、リピーターが多い。食べきりサイズ。

自分で選べる商品 1200点を満載

家村さんが販売パートナーを始めたのは、2015年の9月。まだとくし丸が知られていない時期で、関東初の事業主だった。東京都町田市出身で、青山学院大学を卒業後、山梨県北杜市へ移住。農業や地元の道の駅で販売を担当した経験を持つ。

当時から過疎地の買い物の不自由さを実感していて、自身が移動スーパーを利用したこともある。農業で独立することを夢見ていたが、天候に左右される農業を個人で続ける難しさを感じ、34歳で帰郷。介護職に就きながら、とくし丸の存在を知った時、「これから絶対に伸びる事業」だと確信。「自分で商売がしたい」と参入を決意した。

担当しているエリアには、スーパーやコンビニが林立していて、決して買い物の「過疎地」ではない。それでも買い物に不自由を感じている高齢者は増えていて、「うちにもきてほしい」という要望はまだたくさんあるそうだ。

「ずっとお買い物をして、家族のためにちゃんとお料理されてきた世代。野菜や果物、お菓子を目の前で選んで買う行為そのものを、楽しみにされているんです」

そう話す間にも、焼き芋、和菓子、パン、惣菜、煮物、お寿司、生花……どんどんピッキング。荷台に約400品目1200点の商品を満載し、発車した。

SUZUKIキャリイ、DAIHATSUハイゼットの軽トラックを改良した専用の販売車を使用。

移動販売 とくし丸の1日

個人事業主のパートナーは朝お店に並ぶ新鮮な野菜、お刺身、できたての惣菜を持っていける。スーパーの棚からピックアップして売れなかった商品は夕方棚に戻し、値引きして販売できるのもとくし丸ならでは。

09:20 購入率の高い卵は、銘柄とサイズを豊富に。賞味期限の長いものをセレクト。

10:00 キャベツや炒め物用は、カット野菜のニーズが高い。

10:40 店内で製造しているお総菜も人気。できたてをピックアップ。

いざ、出発!

11:40 常連客の好みに合わせ、いつもの商品を手渡す家村さん。

店頭から5個ピックアップした焼き芋は、早くも完売。

12:00 握力の弱いお年寄りには、水のキャップを開栓して手渡す。

12:20 小さなカゴやレジも配置。選択肢豊富なスーパーで選ぶ楽しみも感じられる。

お客様の好みは息子さん以上にわかっている

常連の女性宅へ。魚沼のコシヒカリ(2kg)、洗剤は「キュキュット」。家村さんは、いわれなくても好みの商品を取り出す。

「週2日お会いしていますからね。何がお好きか、息子さん以上にわかっています」

続いて集合住宅へ。とくし丸のテーマソングを流すと、常連客が次々と車の周りに集まってくる。なかには歩行器を頼りに出てくる人もいて、ピンクのカゴを携えて棚からお目当ての商品を探している。小さくてもちゃんとスーパーなのだ。バーコードをスキャンして会計。スーパーの店頭よりプラス10円して、5円をスーパー、5円を販売パートナーに還元する「10 円ルール」がある。1日に20カ所以上回るが、いつものお客様が姿を現さず、家を訪ねてみるとなかで倒れていた。そんな場面にも遭遇する。

とくし丸は、地元の市町村と「見守り協定」を締結。地域包括センターとも連携していて、移動販売を通してお年寄りの安否確認も行っている。ビジネスであると同時に、社会福祉にも貢献できる仕事なのだ。

「お客さんは楽しみに待っていてくれる。持ってくだけで『ありがとう』っていわれるのは、とくし丸ならではですね」と家村さん。地元で確実に収益の上がる個人事業を始めたい。故郷に帰って地域に役立つ仕事がしたい……そんな人たちにぴったり。全国で買い物に悩む、多くの人たちが待っている。

 

 

取材・文/三好かやの
取材協力/オイシックス・ラ・大地株式会社

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