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新規就農ガンバリズム

有機農業で「ゼロ・ウェイスト」を実践中 神奈川県横須賀市 SHO Farm[前編]

公開日:2019.7.26

今回の「新規就農ガンバリズム」は神奈川県横須賀市内で有機農園「SHO Farm」有機農業を営む仲野翔さんを取材した。前編・後編に分けてお届けする。

 

 

人生の転機になった、腰が曲がった祖母の姿

「自分がやらないといけない」

当時、中学3年生の仲野さんが抱いた思いが、農を志す出発点となった。現在の仲野さんの行動力、SHO Farmの姿を見る限り、この言葉はいまもなお彼の中で生きているのではないかと思える。

中学を卒業し、高校に入学する前、仲野さんは三重県にある祖母の家に初めてひとりで遊びに行った。しかし、いつもの遊び相手の従兄弟が遊んでくれなかったため、仕方なく祖母の畑仕事について行くことに。そして、そこで目にしたのは「ふだんから腰が曲がっているおばあちゃんが、さらに腰を曲げて大根を抜いている姿」だった。

「若い人が農業をやらないといけないなと思いました。ほかの人に任せるのではなく、自分がやらなければいけないんじゃないか、という思いから、農の世界に興味を持つようになりました」

祖母思いの、優しい少年に訪れた大きな人生の転機である。

学生時代に経験した有機農業の奥の深さ

その後、本で農業を勉強しつつ、専門的に学ぶため、筑波大学に進学。第二学群生物資源学類で農業経済学を専攻した。

「実践あるのみ」

農のスイッチが入った仲野さんは行動の人になっていた。

座学のみならず、農家でバイトをし、時には海外まで足を伸ばした。ニュージーランドではインゲン、トマト、バジル、リンゴ、シードル(リンゴから造るワイン)を造る多品目のオーガニックファームで働いた。大学4年生のときには自ら畑を借り、栽培した野菜を都内で販売した。

さまざまな人と出会い、それぞれの価値観、農業のスタイルに触れるにしたがい、仲野さんの方向性はより具体的になってきた。

慣行農業ではなく有機農業を志した理由についてこう語る。

「思い返してみれば祖母も農薬を使わず、オーガニックでした。そして、自分で勉強して調べていくうちに有機農業をやりたい気持ちが強くなりましたね。大学で農家さんに派遣される学生バイトをやったとき、有機、慣行農業をやっている農家のどちらにも行くのですが、思想的にも技術的にも有機のほうが優れている、という感覚があったんです。それで僕はそっちの道に行きたいと思いました。農薬を使えば一気に(虫などを)消せるわけなんですけど、農薬を使わずどう改善していくか、というのが技術的に奥が深いと、そのとき感じましたね」

数字、経営面を鍛えようと農業融資の仕事に

大学卒業後、キャンパスがある茨城県ですぐに就農することを考えていた仲野さんであったが、「数字が得意ではない」という自己分析のもと、経営面にも明るくなるべく日本政策金融公庫に就職。宮崎支店に赴任し、農業融資の担当になった。

「学ぶのと実際にやるのとは違いますが、知識とかは勉強になりました。農家さんの決算書を見て考えさせられましたね。儲かっている農家さん、そうではない農家さん。そういうのは見れて良かった」

3年間勤務し、農業経営アドバイザーの資格を取得したのちに退職。在職中も休日にオーガニックファームで研修していたが、より本格的に研修への道を歩み始めた。

若いながらも、地に足がつき計画的。それでいて視線の先ははるか先を見据えている。そんな印象のある仲野さんの生き方はユニークで刺激的だ。

就農したらまとまった時間が取れないと、退職後はまず海外を回り、現地で農業研修をした。オーガニック先進国として知られるキューバのほか、インド、マレーシア、タイ、ラオス、ブラジルにも飛んだ。

就農前、海外へ農業研修の旅に出る。オーガニックの先進国であるキューバをはじめ数カ国を巡る。研修先はそれまでに築いた人脈をたどり紹介してもらうことが多かったという。写真はインド。

帰国後は地元・横須賀にて、環境保全型農業で農林水産大臣賞を受賞した農家で1年間研修を受けた。

三浦半島での新規就農、とくに「横須賀はとにかく難しい」という事情がありながらも、この地での就農を選んだ理由は、「やっぱり地元だから」。

生まれも育ちも横須賀の地だからこそ、学生時代の知り合いもおり、お客さんになってくれたりと、その後の支えとなった。

地域に溶け込む姿勢が実を結び

新規就農したものの、最初に借りることになったふたつの畑が実に遠い……。

「それぞれ片道30分はかかる。距離のある大きな三角形を回るような感じです。通勤がすごく大変でした」

しかし、収入源は農業1本のみ。畑があればとにかく借りないと生活ができない。遠い畑でなんとか栽培を始めるが、今度は農薬をかけられたり除草剤を撒かれるといった嫌がらせもあり、踏んだり蹴ったりである。

結局、それらの畑は清算して返すことになったが、同時に地域に溶け込む努力も惜しまなかった。町内の副会長に立候補したり、運動会など地域のイベントには必ず参加するようにし、地域の人たちと少しずつ信頼関係を築いていった。そして研修先が近所であることも良い方向に働いている。

「一番上に師匠というか研修先が地域で信頼されている方なので、その人のところで研修させてもらったことがわかると、『ああ、あの人ね』と師匠のおかげで自分も受け入れてもらえる。それが大きいですよね」

理念は「千年続く農業」、そしてゼロ・ウェイストを実践中

冒頭で触れた、「自分がやらないといけない」という思いを抱いてからおよそ10年。仲野さんはSHO Farmと名付けた農園で自らの想い、価値観を畑で表現すべく、無農薬、無化学肥料の野菜を作り始めた。

SHO Farmのハウス内。果菜類を中心とした多品目栽培。雑草は草丈が出てきたら刈り取って畝間へ。

SHO Farmの理念は「千年続く農業」で、農業の持続性を訴えている。物事を決めるときも、千年続くか否かが判断の基準だという。具体的には以下の6つを挙げている。

①有機質肥料
化学肥料は使用しない。有機質肥料を使い、可能な限り少量の施肥
②無農薬
化学合成農薬を使用しない
③自家採種
土地にあった品種を未来世代に残すため、可能な限り在来種、固定種を使い、種を取り続ける
④鮮度
販売するその日、また前日に収穫し届ける
⑤作り手
野菜を心から愛する家族が作る
⑥ゼロウェイスト
プラスティックは原則不使用。ゴミの出ない野菜生産を目指す

たとえば、ゼロ・ウェイストはそのなかでも中心の軸で、たとえば、畑を覆うためのビニールマルチを使用せず、その代わりにござなど自然由来のものを使うようにしている。また包装に関してもプラスティックを使用しない徹底ぶりだ。

「海外の人は、特に有機野菜がプラスティックで包まれていることにすごく抵抗があります。私も野菜の出荷は全部、新聞包み。プラスティックは止めたんですよね。日本に住みながら、そういう野菜がここで買える、と海外の人が紹介してくれました。ゼロ・ウェイスト・ファームみたいなかたちで、たぶん先駆的にやっていると思います。野菜ボックスの段ボールもリユースです」

しかし、マルチや防草シートを使用しないのは想像以上に手間がかかるという。とにかく、手作業による草取りが増える。SHO Farmでは農福連携にも取り組んでおり、この草取りをはじめ収穫や自家採種の種採りをお願いすることもある。

ビニールマルチは使わずに稲藁などを利用。ゼロ・ウェイストを実践。

また、社会問題となっているプラスティック製のストローの代わりとなる、オーガニックのストローを模索中で、そこので農福連携も検討しているという。
「いま大麦を生産していて、それをストローとして販売することを考えています。オーガニックのストローでやりたいなと。切る工程とかを農福連携で、お付き合いしている会社とやりたいです」

仲野さんは農業で福祉に貢献することも考えている。

「ストローをちゃんと事業化するとなると、福祉の方にいかに賃金を払えるか、というところを重点的に考えたい。一次産業と福祉が、お金を生み出せるよう、きちんとつながる。環境に良いストローで循環させたい」

ゼロ・ウェイストから広がる波にも注目したい。

(次回に続く……)

取材協力/SHO Farm 仲野翔
取材・文/大地功一

SHO farm
http://sho-farm.sunnyday.jp/

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