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栽培技術の研鑽を積み、生産性を高めたい! 神奈川県横須賀市 SHO Farm[後編]

公開日:2019.7.31

本日の「新規就農ガンバリズム」では、神奈川県横須賀市でオーガニック農園「SHO Farm」を営む仲野さんを訪ねる。前編・後編と分けてお届けする今回の後編は、仲野さんの栽培作物や堆肥作り、経営などに焦点を当てる。

草をあえて生やすことで虫の被害を抑える

無農薬、無化学肥料の有機農業を実践するSHO Farmは、年間100品目以上を生産する。圃場の総面積は1町7反。取材で訪ねた7月上旬はトマト、キュウリ、インゲン、ズッキーニ、トウモロコシ、カボチャ、長ネギ、エダマメなどを育てていた。

山に囲まれたSHO Farmの入り口付近にセンスの良いセルフビルドの小屋が立ち、その隣にはハウスの姿がある。不要になったと茨城県の農家から譲り受けたハウスを解体し、自ら横須賀まで運び組み立てた。

セルフビルドで建てた作業小屋。
知人から譲り受けて移築したハウス。入り口にはWWOOFで訪れ得た外国人が絵を描いてくれたという。

そのハウス(150㎡=30m×5m)では大玉トマトの「パルト」、「麗夏」、ミニトマト「スイーティーミニ」などが草の緑の絨毯のなか、整然と並ぶ。

「うちの畑は無農薬、無化学肥料なので、とにかく病気にならないように気をつけています。気をつけるといっても自然に任せているかたちですが」

風通しを良くするため、ハウスの換気は必須。植え付け間隔は通常45cmだが、 70cmと倍近くにすることでなんとか収量を確保する。ハウス内も草を生やすことでダンゴムシの被害を抑える。作物のほうではなく、草のほうにダンゴムシが寄って行くからだ。味がのるからと、ハウスの中も外も潅水はしない。

ミニトマト「チェリートマト」(スイーティーミニ)。潅水は行わず糖度をあげる栽培方法。実は小粒になるが凝縮されて食味は良くなる。

露地ではキュウリ「Vアーチ」などを栽培。連作だが、懸念される連作障害はないという。

「トマトは栽培を初めてから5年くらい連作ですけど全然大丈夫。うちはいろいろな草の根が生えているので、1品目に偏るということはないと思っています。連作でうまくいっているところもあるので、『ここの部分だけは連作でやってみよう』というのはあります」

トマトやキュウリなどF1品種を栽培するが、品目によっては自家採種するものもある。

堆肥は木材チップと米ぬか、少量の鶏ふんで

有機農業の基本であり、生命線でもある土作り。木材チップと米ぬかを混ぜて発酵させ、堆肥を作る。そして少量の鶏糞と野菜残渣。継ぎ足しては混ぜ、継ぎ足しては混ぜと繰り返す。堆肥を混ぜる際、土も一緒に混ぜるが「土着菌で良い堆肥になる」と仲野さん。

堆肥は畑の隅に、大きな山となって積み上げてられている。これを半年から1年間寝かせてから使う。

木材チップは地元の造園組合から2tのダンプで1000円と安い値段で、米ぬかも地元の米屋から仕入れる。鶏糞は鶏にとって良い環境で育てている、信頼できる養鶏農家からのもの。

堆肥も鶏ふん、木材チップ、米ぬかなど、地元のものを使っている。

施肥は、微生物が少なさそうなところに重点的に入れているという。

SHO farmの特徴として仕入れる材料も地産地消を実践していて、たとえば堆肥で使う木材チップや米ぬか、鶏ふん、そして養鶏の鶏のエサとなるぼかし(三崎のマグロ、横須賀の乾燥ワカメ、米ぬか)、クズ米、は地元のものだ。牡蠣殻は国産のものを購入している。

鶏舎には、ウコッケイとアローカナが30羽ほどいる。

養鶏も営むSHO Farmには30〜40羽のウコッケイとアローカナ数匹がいるが、悩みはそれだけいても「1日4、5個しか採れない」こと。来年は違う鶏種を入れることを検討している。

「卵はいまの鶏種だと1個80円と高い。それだけ産まないということ。味はものすごく美味しいですけどね。もうちょっと皆さんの手が届く値段、1個50円とはいわないですけど、それくらいは目指して平飼い有精卵を作っていきたい。いたずらに安くして自分たちの首を絞めるのはよくないので。そこは気をつけようと思っています」

取得した有機JAS認証はSHO Farmに必要なのか

土作りと生産ときたら、次は野菜を売る番。当然ながら客はゼロからのスタート。野菜セットを売りたい仲野さんは積極的に動いた。

「一番最初は誰もお客さんはいなかったです。でも、地元ではあったので『買ってくれませんか』と知り合いに声をかけました。あとは隣町の葉山や、藤沢、横須賀などのマルシェにたくさん出て、 SHO Farmでたくさん野菜セットを売っているよ、と知ってもらうようにしました」

田園調布のマルシェにも参加したことがあったが、その頃にはこれまでの努力が実を結び、ある程度、SHO farmの野菜セットを買ってくれるお客さんがついてきていた。

現在、月に野菜セットを250セット販売。2000円のセットが売れ筋で、レストランからの注文だと3000円のセットが多い。配送は週に1回、2週に1回、月に1回と選べる。個人のお客さんは地理的に近い葉山や横須賀が多く、鎌倉、横浜の人もいるとのこと。

また個人客以外にはレストランにも「常時出しているのが20件くらい。お任せの人もいれば、これが欲しいという人もいる。どちらかというと神奈川県内よりも東京都内のイタリアンやフレンチのレストランが多い」。

また、平成29年度4月から有機農産物JAS規格認証を取得しているが、取引先のレストランからお願いされたことがきっかけだ。SHO Farmとしては取得する必要性は全くないと考えていた。

「レストランのひとつで、結婚式場なんですけど、そこは東京オリンピック(・パラリンピック)に向けて認証をとったものを扱っていかないと、ということから話がありました。うちは取らないですよ、と話はしていたんですけど、そこがお金を出すからということでやることになりました」

更新の費用もレストランが負担することになっているが、仲野さんの事務負担は増える。

SHO Farmとしての考えとしてはお客さんとの信頼関係は、有機JAS認証があるから成り立つのではない。あくまでSHO Farmの考え方や価値観、安心安全で美味しい野菜、仲野さんの人柄などで成り立っているものである。

なお、毎年11月3日にSHO Farmで感謝祭のイベントが催されるが、「毎年150人くらいのお客さんが来てくれる」とのこと。信頼関係を語るには十分な人数である。

SHO farmの方針や考え方は月刊のSHO  Farm通信で発信。45号(令和元年7月1日発行)では前編で触れた大麦ストロープロジェクトについても、44号(令和元年6月1日発行)では農薬についての考えを伝えている。

この通信を読むことでSHO farmの考えを知識として知ることができ、それと同時に畑を見学し、五感でSHO Farmを感じると「なるほど」と一層理解が深まる。そうすると、その考えを支持したい、応援したい人たちがファンとなり、互いの信頼が深まっていくのかもしれない。

人の往来があるのもまたSHO Farmの特徴であり、タイニーハウスを作ってからは特にWWOOF(畑仕事を手伝う代わりに飲食・宿泊が無料)の外国人が来たり、福祉の人や援農(手伝い)に来る知り合い、と誰かしら人がいて、 SHO Farmならではの光景といえるかもしれない。

作業場の横に作られたタイニーハウス。WWOOFで訪れた外国人に大人気の宿泊施設。
タイニーハウスの中は二段ベッドが設置されている。太陽光発電でパソコンや携帯の充電ができる。

 

向こう3年はネックである生産を強化したい

大学で農業を学び、数字や経営にも強くなろうと農業融資の仕事に従事、その後研修、就農と計画的に物事を進めてきた仲野さん。そんな彼の今後もまた計画的である。

「向こう3年の目標は畑の生産の強化が目標。まだまだ生産にネックがあると思っているので、自分自身も研修に行ったり、あるいは近くの農家さんに教えてにもらいに行ったりと、そういう形で生産の力を増やしていきたい」

「有機栽培の栽培技術はとても奥深い。まだまだ学ぶことがたくさんある」と技術向上に意欲的な仲野さん。

目下、 SHO Farmではダンゴムシ、発芽の管理が悩みの種。土中に虫が多く、冬に収穫する葉物野菜を秋に蒔くと、芽をすぐにダンゴムシに食われしまうという。それをどう改善していくか。仲野さんは有機農家と限定せず、技術力、観察力に優れた人から学ぶつもりでいる。

「研鑽を積まないといけない」

仲野さんには、会社員時代の、ある出来事が胸に刻まれている。

日本政策金融公庫の宮崎支店に赴任したとき、新規就農した25歳の男性の存在を知った。ハウスできゅうりを作り、就農1年目から JA生産部隊でトップの生産量を叩き出した。その後の数年間もトップを維持。その若手実力者はとにかくいろんな農家に行って、いろんな技術を盗んできたことに成功の秘訣があったと仲野さんは知った。

「農業って見せたくない世界じゃないですか。それを破って自分で勉強しまくって、自分で見まくってきた人だからこそ、それだけの技術があるんだなと思いました」

5年後には飲食の店やシェアハウス、牛やヤギの畜産も考えている31歳の仲野さん。しばらく彼には休みはなさそうである。

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