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新規就農ガンバリズム

地元技術者の協力で、制御機器・IoTを開発 品質と収量が大幅アップ  農園縁側 池渕 崇さん[後編]

公開日:2019.8.7 更新日: 2019.7.31

今回の「新規就農ガンバリズム」は、長野県・原村のニンニク栽培農家、農園縁側の池渕 崇さんを訪ねる。前編後編でお届している後半では、農機導入やIoT活用によるニンニク栽培の効率化と品質向上への試みを伺った。

池渕 崇さんとパートナーの真帆さん。

経営を成り立たせるには、収穫量と商品価値の向上、そして経費の節約の3つが胆だ。まず、人件費を節約するため、崇さんとパートナーの真帆さんの2人だけで作業を完結できるよう、機械を導入することにした。

高冷地の原村は、冬の間は農作業がなくなるため、通年の従業員は雇えない。これまでニンニクの収穫には、近所の友人知人にアルバイトを頼んでいたが、天候に左右されて収穫日が直前まで決まらないことも多く、なかなか安定した人員確保が難しかった。

「今年から作付面積も3倍に拡げたので、去年よりも多くの人手が必要です。来年以降、さらに規模拡大する予定なので、機械の導入は必要な投資だと考えました」

まず、ヤンマーのニンニク収穫機「HZ1」と、乗用型植付機「PH4R」を購入。収穫機「HZ1」は、ニンニクの堀取り、葉茎根の切断、泥落とし、コンテナへの格納を自動化できる。

植付機「PH4R」は2人乗りで、一人2条ずつ種をセットすると、自動でマルチに穴を開けながら4条に植え付けられる。座ったまま作業できるので、腰への負担が少ないのもメリットだ。

ニンニク収穫機「HZ1」。
乗用型植付機「PH4R」。

収穫したニンニクは、2~3週間ほど乾燥させてから出荷する。この乾燥状態が悪いとカビが生えて商品価値が下がってしまう。また乾燥時の温度が高すぎると、皮の変色や味に影響するそうだ。昨年までは、ハウスの中に吊るして、天日干しさせていたが、高温多湿の梅雨に重なり、カビが生えやすいのが悩みだった。

「表面にカビが生えると商品にならないので、カビが生えていたらひとつひとつ手でごしごし拭き取っていました。毎晩夜中まで拭いたり、吊るす場所を変えたり、とにかく手間がかかって管理が大変なんです」

もう一つの問題は、乾燥スペースの確保だ。昨年の収量は約600㎏で、乾燥に使っているハウス一棟がいっぱいになっていた。今年は3倍以上の収穫が見込めるため、天日干しするには、新たに乾燥用のハウスを建てるか、別の乾燥方法を考えなくてはならない。

その解決策として、ドイツのジール・アベッグ社製の送風機を購入。送風機は24時間稼働させなくてはいけないので、近所の迷惑にならないように、動作音が静かであることが必須条件だ。複数のメーカーを比較検討したところ、これがいちばん静かだったそう。

ニンニクのコンテナをファンの後部に置くと、空気を吸い出して、強制的に乾燥させる仕組み。収穫したコンテナのまま、重ねて積んでおけばいいので、干す手間がかからず、省スペースで済む。今年の収穫量は2t弱で、昨年の3倍以上にもかかわらず、ハウスの片隅に収まっている。送風機は最大40tまで乾燥可能なので、まだまだ増えても余裕がありそうだ。

静音タイプではあるが、モーター音がハウスに反響して大きく聞こえてしまう。騒音対策にベニヤ板で覆い、夜間は風量を下げている。
送風機の背後にニンニクを詰めたコンテナを積んでおくだけでしっかりと乾燥される。

乾燥室の温度管理を自動化し、乾燥状態をスマホでチェック

ニンニクの乾燥は、重量比30%程度の減少が目安とされる。また「湿度戻り」といって、乾燥した後で湿気が入ると表面にカビが入ってしまうので、出荷するまでは定期的にファンを回して、風を抜かなくてはいけない。ただし、長期間高温で乾燥させ続けると品質が落ちてしまうため、温度管理が重要だ。理想は、乾燥を始めて1週間ほどは35℃で一気に乾燥させ、2週間目以降は、夜間の温度を25℃に下げて通風し、テンパリング乾燥をさせるのが良いとされている。とはいえ、天候によって湿度や気温が左右されるため、この乾燥状態の見極めと、温度の管理は難しい。

「ニンニクの乾燥状態を調べる重量計をメーカーに問い合わせたら、個人経営では相手にされず。別の会社で見積もりを取り寄せたら、高額でとても手が出ませんでした。そこで、近所で農業IoTのイベントが開催されたので、何かいい方法を教えてもらえるかもしれない、とダメもとで参加してみたのです」

諏訪は、精密機器メーカーが集まる地域でもあり、有志のエンジニアによる農業IoT推進活動が盛んだ。池渕さんは、農業IoTのコミュニティと信州ぷ組との合同勉強会に参加して、ニンニク乾燥の悩みを伝えたところ、重量と温湿度のモニタリング装置と、ヒーター用の制御装置を開発してもらえることになった。

重量と温湿度のモニタリング装置は、長野県茅野市の精密機器メーカーに勤める武田さんが休日を利用してボランティアで開発してくれたもの。市販のデジタル台はかりをベースに、SORACOMのIoTキット、温湿度センサーを組み合わせた装置で、スマホのアプリからニンニクの重量と、コンテナ内の温度と湿度がグラフで確認できる。

「朝起きたらすぐに夜中の温度をチェックしています。畑に出ているときもデータが確認できるのは精神的にラクですね」

デジタル台はかりに接続したマイコンに温湿度センサーとSORACOMの通信SIMが組み込まれており、クラウド経由でコンテナ内部の温湿度と重量データを確認できる。材料費は8万円程度。

ヒーター用の制御装置は、元エンジニアで伊那のブドウ園を継いだ浦野さんの自作品。ハウス内の温度をセンサーで検知し、設定温度内に収まるようにヒーターの電源スイッチを自動で切り替える。また照度センサーで、昼間は35℃、夜間は25℃に設定温度が切り替わる仕組みだ。

設定した温度でヒーターを稼働させる制御装置で留守中や夜間もハウス内の温度をキープ。

開発にあたり、農業IoTコミュニティのメンバーが設置場所や必要な機能の打ち合わせに何度も集まり、完成後も設置と使い方のサポートや稼働状況の確認にも来てくれたという。

「メーカーに注文したら数十万円はするし、そもそも、うちの品目と規模にちょうどいい製品自体がない。本当にありがたい。何かお返しできるようにがんばらないとね」

多品目の野菜セット販売で収入を支える

今年収穫したニンニクは、2Lサイズが中心でこれまでで最高の出来。順調に乾燥が進んでおり、間もなく長野県内の中華料理チェーンへ納品する予定だ。出足は上々だが、機器の購入に加えて、乾燥ハウスへの電気工事も施した。トラクターや収穫機、植付機を収納するためのハウスも建築し、相当の費用がかかっている。さらに新しい農地を借りるための資金も必要だ。しっかりと利益を上げていかなくてはならない。

「最近は青森ニンニクが不作で高騰気味ですが、いつ暴落するかわからない。ニンニク一本では不安なので、今年から野菜セットの販売も始めました」

野菜セットは、月に2回の定期便と不定期に注文できるタイプのサイズ違い4種類があり、栽培から発送まで、パートナーの真帆さんが担当している。真帆さんは、2年前に崇さんと結婚し、崇さんの独立を機に農業を始めたばかり。崇さんから農業のイロハを教わりながら、家の周りの小さな畑で野菜セット用にいろいろな品種の栽培している。

野菜セット用に時期をずらして多品目を栽培。

「お客さんは地元の方が多いので、直売所に並んでいる野菜と同じではつまらない。海外品種やハーブなど、ちょっと珍しい品種を育てています」

と真帆さん。自然農法に向く病害虫に強い在来種を中心に、さまざまな野菜やハーブ、花の種を通販で取り寄せて、栽培を楽しんでいる。まだ初年度で、予定していたものがなかなか収穫できずに同じ野菜が続けて入ってしまうこともあったそうだが、今のところの定期便の契約は10件程度なので、どうにかやりくりできているそう。来年から契約数を増やすべく、安定して収穫できるような品目選びと栽培計画を立てることが課題だ。

野菜セットの一例。箱を開けたときにサプライズがあるように、毎回エディブルフラワーなどの花を同梱している。

畑の片づけが終わるのは12月。翌2月には苗づくりがスタートするが、畑仕事がない時期は、真帆さんはアルバイトをするつもりだ。

「彼は思い立ったら後先を考えずにすぐ行動する。共倒れにならないように、せめて私ひとりが食べていける程度は自分で稼ぐようにしておかないと(笑)」と逞しい。

旧来のやり方をなぞるだけでは、農業での自立は難しい。事業を成長させていくには、多少のリスクをとっても、新しい技術やアイデアをいち早く取り入れていく必要がある。

「自然農法も絶対に無理だと思っていたけれど、僕がやり方を知らないだけだった。IoT機器もそう。最初は、エンジニアの人が話している内容がさっぱりわからなかったけれど、すごくいいものを作ってくれた。どんなことでも否定はせずに、まずはやってみると、意外とうまくいったりする。失敗したら、また別の方法を試せばいいだけです」

まずは、農業だけで経営が成り立つようにするのが目標。自立した農業経営へ向けて、お世話になった先輩農家や新規就農の仲間、開発者コミュニティとも協力しながら、チャレンジし続けていきたい、と語ってくれた。

 

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