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カルチべ取材班 現場参上

「夏花勉強会」で花業界を盛り上げる! ~東京2020大会に向けて~

公開日:2019.8.23 更新日: 2019.8.28

カルチべ取材班は、7月29日に開催された「2019年夢の島公園夏花勉強会」に参加するべく、東京都江東区にある夢の島公園へ向かった。当日の会場には、生産者やデザイナー、緑化施工・管理などに携わる人々、そしてメディアなど約200名の関係者が一堂に会した。

今回は、夏花とはそもそも何なのかといった基本的な側面から、サマーガーデン用の植栽デザインについて、高温期における栽培のコツ、夏花は花店の救世主になり得るのかということなどを深く掘り下げていきたい。

ということで、早速夏の高温期の緑化を目的とした「夏花勉強会」会場の様子をお届けする。

 夢の島熱帯植物館とは

今回「2019年夢の島公園夏花勉強会」の会場のひとつとなった夢の島熱帯植物館は、1988年に開館。高さ25mを超える大温室は、1年を通じて気温が高く、雨の多い熱帯雨林の環境をモデルとして造られている。

A~Cの3つのドームで形成されている大温室。なかには、多くの水性植物が展示されている。
高さ25メートル以上のドーム内の風景はまるで、本当に熱帯雨林に訪れたかのような錯覚すら覚えるエキゾチックな雰囲気。
夢の島熱帯植物館館長の高橋さん。

夢の島熱帯植物館は、『熱帯植物と私たちの生活とのかかわり』を広く紹介するための施設。大温室でさまざまな熱帯植物と植物が生み出す風景を楽しみ、映像ホールやイベントホールで植物や熱帯についての知識を得るなど、館内をひとまわりする内に、知らず知らず熱帯植物と人間とのかかわりが学べるようになっている。

植物館の運営に必要な熱源は、新江東清掃工場のゴミ焼却から得られる高温水を利用することで得ており、こういった点からも私たちの身近な生活との循環が感じられる。

そんな夢の島公園は、2020年開催のオリンピック・パラリンピックの競技会場となることが予定されている。そのため、現在暑さに強い花の試験栽培を行っており、これらの花を使用したイベントも開催されているそうだ。夏花勉強会の実行委員会には、種苗メーカー各社や東京都農林水産振興財団などがかかわり、協力しながら取り組みを進めている。

夏花勉強会の概要

この夏花勉強会は、これまで生産や利用が少なかった夏の高温期(69月)も景観性の高い緑化を実現することを目的とした、生産者やランドスケープデザイナー、緑化施工・管理などに携わる人々に向けられた試みである。

花材を花壇苗、カラーリーフ、グランドカバー、つる植物、球根植物に分類し、花色や葉色、草姿などから、さまざまな利用場面に応じて必要な情報を精査し共有することで、市場の活性化を目指す。

そうすることで、園芸品種の基本的な特性に加え、生産状況、入手規格、利用方法、耐乾性や耐陰性を知り、施工・管理上の留意点や高温期の植栽に必要な技術的課題、これまでの研究成果についても理解を深め、花店などの流通場面でも役立てることができる。

実際の夏花を見る

夏花に対する取り組みの全体像が分かったところで、実際の夏花の花壇を見てみた。いたるところに夏花が植えられた夢の島公園には、花の色一つで植栽場所の表情や印象が異なるということが一目でわかる、緻密な表現と工夫に満ちた花壇が広がっていた。ランドスケープデザインと夏花との親和性を感じずにはいられない、互いの良さが引き立つ風景である。

ちなみに現在、身近な夏花の活用事例として、池袋サンシャインシティ、日比谷公園、幕張新都心、熊谷スポーツ文化公園、夢の島公園、武蔵野公園、シンボルプロムナード公園など、都心を主としたさまざまな公共施設の花壇が挙げられる。

今回取材した夢の島公園から、現場の様子といくつかの品種をご紹介したい。

夏花品種一覧

【トウガラシ】「ブラックパール」

トウガラシは高温条件でも生育旺盛で、基本的には頂点に結実する。果実が細長いタイプ、円錐型、丸型などさまざまである。色変わりするタイプが人気。果実が黒色で、強光と高温で葉色も黒くなる品種もある。

栽培事例と栽培上の留意点

多くの光を要求する。乾燥や肥切れで生育が遅延する。結実したら多めの追肥が必要である。アブラムシ防除は必須である。

効果的な使用方法と留意点

暑さや乾燥に強く、生育も旺盛である。1株でも存在感があるため、花壇のなかのアクセントとして使用されることが多い。また、コンテナや鉢植えでの寄せ植え材料として、使用される。乾燥に強いが、多湿にならないように気を付ける。アブラムシやハダニが付きやすいのでこまめに観察し早めに防除する。

メカルドニア】「イエロージュエル」

「イエロージュエル」は黄色系である。メカルドニア属には白色花もあるが、流通していない。ほふく性で耐病性、耐暑性を有する。

栽培事例と栽培上の留意点

営利農家向けの種子販売はなく、プラグ苗のみの扱い。排水性重視の水はけの良い用土で育てる。ポット苗生産の際は枝の伸長が早いので適宜摘芯が必要。肥料不足で花つきが悪くなるので注意する。

効果的な使用方法と留意点

ほふく性で横に成長しながら花をつけるため、グランドカバーとして利用する。多湿により蒸れて下葉が枯れあがることもあるため、水はけの良いところに植えつける。多日照を好み、日当たりの悪い場所では極端に花数が少なくなる。一度植えてしまえば花摘み作業など必要としないため、管理が容易である。

 【コキア】

ホウキグサとも呼ばれる。小さな茎葉が密集した丸みのある草姿が特徴的。樹木のような外観であるが、一年草で冬には枯れてしまう。紅葉すると鮮やかな赤色を呈し、秋の植栽にも利用できる。

栽培事例と栽培上の留意点

多肥管理は草姿の乱れにつながるため、控えめにする。根が傷むと枯れやすいため、移植は早めに行う。

効果的な使用方法と留意点

一年草であるが形状は樹木に近く、コニファーのような使い方もできる。丸みのある草姿が自然とできるため刈り込みなどの作業が必要なく、ローメンテナンスである。品種によっては地上部の生育に比べ地下部の発達が弱いため、風が強い場所に植える際は深植えなどの対策が必要である。

ミナ ロバータ】「ジャングルクイーン」

赤~白のグラデーションが美しい花穂が楽しめる。咲き始めはやや遅いが、1花あたりの開花期が長く、非常に華やかなグリーンカーテンとなる。

栽培事例と栽培上の留意点

短日植物であるため、播種期を前進すると株が充実する前に開花し、早期に枯れあがる。ハダニが発生しやすい。

効果的な使用方法と留意点

他のつる植物に比べて開花期が遅いが、12cmの花が連なって大量かつ長期間咲く。長尺化すれば、6月中旬頃の定植が可能である。植栽密度は1m幅のネットに3株程度が目安。早く花を楽しみたい場合は、他の品目も組み合わせると良い。

 【センニチコウ】「ラスベガス」シリーズ

センニチコウには、わい性種から高性種まである。いずれの品種も強健で揃いが良く栽培が容易である。グロボーサ種が主流であるが、鮮紅色のハーゲアナ種(高種)もある。花壇、切り花、ドライフラワーで利用されている。

栽培事例と栽培上の留意点

過湿に弱いのでやや渇き気味に管理する。湿度が高いと赤紫色の斑点が葉に出るので(斑葉病)、殺菌剤で防除する。

効果的な使用方法と留意点

分枝が良く、開花期間も長いため、コンテナやガーデンの縁取りに向く。わい性品種は寄せ植えで利用されることが多い。高性種は花壇後方のアクセントとして利用してもおもしろい。日当たりが良くやや乾燥したところを好む。高性種は窒素過多で軟弱徒長し強風で倒伏しやすくなるので注意。

【ニチニチソウ】「タイタン」シリーズ

マダガスカルやジャワ、ブラジルなどが原産国ということもあり、卓越した耐暑性と開花性、丈夫さが特徴。乾燥に強いだけでなくプランターとの相性も良い。

栽培事例と栽培上の留意点

播種、育苗など栽培中は温度管理に気をつける。低温で生育が停滞し、開花が遅れる。乾燥や肥料切れで下葉が黄化する。

効果的な使用方法と周囲点

1株でも存在感があり、寄せ植えのメイン素材、単色での寄せ植えで使用される。乾燥で葉と蕾が落ちるため、高温期はほぼ毎日潅水する。一方過湿には強く根腐れすることは少ない。夏花の中では耐陰性が強く、日当たりが悪くても花数は極端に少なくならない。下葉が枯れあがったり、花が終わった株は半分程度切り戻すと復活する。

当日は、多くの関係者が訪れた。花業界における夏花の関心の高さが伝わってくる。

気になる夏花の選定方法は、以下の通り。2014~2018年に行われ評価方法を優(:3点)、可(:0点)、不良(:-1点)として市場関係者、園芸研究家、緑化施行デザインなどを行う6~7名によって、7~9月の期間内に2~3回の頻度で行われた。そこでは潅水頻度による耐乾性の評価や、利用技術の開発として、サイズの違いによる植栽労力の軽減化など、あらゆる項目から影響や適性などが確認された。

夏花としての役割

選定基準によって厳選された品目の確立が行われる一方、夏花には2020年へ向けた課題も数多くある。例えば、夏花生産の発注時期のリミット。

夏花生産のリミットは2019年12月。市場関係者も来春の発注では、夏花確保が約束できないという。そこで、現在は品種と数量の把握のため、プランを明確にした上で施工時期から逆算し計画的に概算量を確保している。こうした地域密着型の取り組みやランドスケープに特化した動きは、今後の花業界へさまざまな影響をもたらすと言えるだろう。

花店が一軒減ると花農家は三戸減ると言われている今、造園材料としての花をいかに活用するかは重要なカギとなる。一般ユーザーに花の魅力を知ってもらう数少ない場面のひとつとなるからだ。20~30年後には国内の花農家・花店が消失する勢いで減少している昨今の花需要を受け、夏花という新たな商材の可能性について考えていくきっかけが生まれる。

また、夏花には以下のような「役割」があるのでは、と夢の島熱帯植物館の管理業務全般に携わる株式会社グリーバル アメニス夢の島グループ 公園植栽担当の酒井絢也さんが話す。

 夏花が持つポテンシャル

■社会的・地域的課題に対し役割を持つこと

2020年夏、世界中の注目が集まる中、鮮やかに美しく、日本が誇る花卉生産によって彩ることができる

■すべての世代、人種に対して開かれていること

→花は世代や人種にとらわれずポジティブな反応を得ることができる

■地域コミュニティの拠点となり、根差していく

→多くの人に受け入れられる花を使った取り組みは地域コミュニティにも受け入れられる

酒井さんは、日頃夢の島熱帯植物館の運営管理を行っており、イベントの企画や今回の勉強会など総合的な取り組みをまとめている。夏花によって地域の繋がりだけではなく、世界へと拡がる花卉生産の核を育てていこうという強い意思や明確な目標が伺える。

また、今回の取り組みを担う中心的人物として、花壇探索とプランター紹介の後に行われた講座では園芸・造園・建築・アート・農など、異なるジャンルとのコラボレーションを得意とし、ガーデンショーなどでも多数の受賞実績がある株式会社お花がかりのガーデンデザイナー竹谷仁志さんも登場した。

そして、東京都で6年間普及指導員として現場指導にあたり、平成17年からは花きの研究員として屋上緑化資材や地中熱ヒートポンプなどの省エネ技術ほか、現在は東京2020大会に向けた夏花の研究を中心に取り組む公益財団法人 東京都農林水産振興財団の岡澤立夫さんもこれまでを振り返る。

お二方は、それぞれが夏花について感じている思い、そしてこれまでの取り組みへの経緯と意気込みを語ってくれた。

(左)公益財団法人 東京都農林水産振興財団 研究員の岡澤立夫さん、(右)株式会社お花がかりのガーデンデザイナー竹谷仁志さんが夏花について語る。

今後の夏花が目指すもの

「花を育てる」という一連の作業は、非常に手がかかるものだ。しかし、その果てしない手間と付随する時間の流れとの裏を返せば人と人とが関わるためのコミュニケーションツールになりやすい、ということでもある。今回の夏花プロジェクトによる取り組みが、多くの人と人とを繋いでいくコンテンツとして語り継がれていくことをイメージしながら、取材を終えた。

この「夏花プロジェクト」に関する取り組みは、東京2020大会はもとより、その後に続くレガシーとして、夏花による緑化施行場面で多くの方々に活用されることが期待されている。

カルチべ取材班もこれらの活動を通じ、暑い時期にも街全体が花と緑で溢れること、そしてより多くの人々の心が癒されること、さらには営農を中心とした業界が今後より活性化することを願っている。

そこで、来月9月23日(金)より、今回ご紹介した夏花プロジェクトの中心的存在として活動されている公益財団法人 東京都農林水産振興財団の岡澤立夫氏による新連載「東京2020大会を夏花で彩る」が始まることをお知らせしたい。

毎月23日に更新される本連載は、来年7月の東京2020大会開催までの1年間を通し、夏花に特化した取り組みや優良事例、選定された品目に関する網羅性のある栽培・管理方法、作業労力の軽減技術などをご紹介する。

最後に、今回改めて花業界の過渡期を感じ、営農の最前線を追いかけていく者として、切迫した何かを感じた。今後も共に走り続けるなかで消費者には花への関心を、栽培や流通にかかわる業界関係者には更なる活気をもたらすことができればと考える。

 

 

文・写真/編集部

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