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東京2020大会を夏花で彩る

第2回 夏花を活用した優良事例の紹介

公開日:2019.10.23

さまざま場所での夏花の実験的な取り組み

いよいよ、2020年の東京オリンピック・パラリンピックまで残すところ1年まで迫ってきました。花き園芸業界では、緑をつうじた豊かさを国内外の人々に感じさせる日本ならではの「おもてなし」を実現する機運も高まってきており、これを機に夏季の花壇等への植栽、いわゆる夏花の定着・拡大の推進も提案されています。

しかしながら、夏花を活用する事例はこれまで少なく、利用場所も限定的でした。高温環境に適する有望な苗物花き品目・品種に関する情報が不足していたことや、植え付けや花がら摘みなどの管理作業が過酷であることなどの理由で、夏花の利用が敬遠されていたのです。せっかく夏の花にチャレンジしても景観性の高い花壇を維持するためのノウハウも不十分で、失敗する事例も多くみられました。

夏は高温、乾燥に加え、植える場所によっては低日照で花付きが悪くなるなど花の種類による適応性に大きな差があり、秋冬期とは異なり、花壇管理に高い技術が要求されるからです。

そこで、オリンピック・パラリンピック開催が決まった2013年秋の翌年の2014年夏から民間、公共機関を問わず、夏花を活用した植栽実験がスタートしました。そして5年かけて、都心部の緑化スペースに植栽した夏花を評価するとともに生育や開花状況を調査し、真に夏の暑さに強い花を選抜しました。

選抜した夏花の生産者による試験的な栽培も始まり、病害虫や高温による徒長など栽培上の問題点や課題も徐々に明らかとなりました。今まで夏花に取り組んだことのない生産者にも夏花が普及し、栽培技術は年々向上していきました。

同時期に、様々なプロジェクトを活用し、都内生産者が栽培した夏花の多くは、都立公園や公共花壇等に植え付けられました。このような夏花の取り組みは、東京都だけにとどまらず、埼玉県や千葉県でも実施されました。

今回の記事では、2014年以降、関東近県で具体的にどのような取り組みがなされてきたか、主な8つの活用事例について取り上げます。また、新しい園芸装飾技術として、葛飾区が推進する立体花壇「フラワーメリーゴーランド」と、我々が千葉県と埼玉県と共同で実施してきた長尺植物と球根植物を活用したバラエティ花壇についてもご紹介します。

1.都心部の高層ビル間で夏花を活用した事例

プロジェクト名:TOKYO夏花・夏花壇を作ろうプロジェクト(2014~2018年度)

(1)実施主体:お花がかり㈱

(2)実施場所:池袋サンシャインシティ、東京ビッグドームシティ、六本木ヒルズ

(3)参画機関:㈱ミヨシグループ、東京都植木農協、㈱サカタのタネなど

(4)取組内容:2020東京大会を夏花で彩り、東京の日本の花・緑の未来へ向けて、新しい園芸文化を築き継承することを目指し、夏花材・花壇の開発、候補品種のテスト、都民・市民参加の場所の提供、生産の連携などを実施する。

具体的な活動として、池袋サンシャインシティ、六本木ヒルズなど都心部の緑化スペースに種苗メーカー、市場などから入手した苗を植え付け、夏花の実用性を評価。この取り組みにより、高夜温に加え、低日照などの都市圧に対する適応性が明らかとなりました。

例えば、アンゲロニアは日当たりが悪いと場所では極端に花が少なくなること、逆にニューギニアインパチェンスは日の当たりにくい場所でも花つきが極端に悪くならないこと、街頭近くでダリアやアサガオの花が咲きにくいこと、都心部ではコガネムシ被害が意外に多いことなどです。

低日照環境に適応するニューギニアインパチェンス

(品種:「サンパチェンス」シリーズ、場所:東京ドームシティ)

2.臨海部の商業ビル近くで夏花を活用した事例

~花と緑のおもてなしプロジェクト(2015~2018年度)~

(1)実施主体:東京港埠頭㈱

(2)実施場所:シンボルプロムナード公園

(3)参画機関:㈱サカタのタネ、タキイ種苗㈱、㈱フラワーオークションジャパン、㈱リッチェルなど

(4)取組内容: 臨海副都心「花と緑」のイベント実行委員会を立ち上げ、東京オリンピック・パラリンピックの機運を盛り上げるとともに、競技会場が多く立地する臨海副都心地域において、花と緑でお客様をお迎えする目的で、造園・種苗・園芸関連企業団体や都民などと協同で花と緑を活用したプロジェクトを実施。

具体的には、夏場の過酷な生育環境に対し、適合した品目・品種を選定する「トライアルガーデン」と夏花の利用方法等を提案する「修景ガーデン」の製作展示を行いました。この成果はお台場おもてなしセレクション実施報告書(夏花利用マニュアル)としてまとめられました(http://www.tptc.co.jp/cms/tptc/park/omotenashi/omotenashisasshi.pdf)。

様々な夏花が植えられたトライアルガーデン

景観を美しく彩ります。

 3.都立公園の花壇で夏花を活用した事例

~花と緑の夏プロジェクト(2016~2020年度(予定))~

(1)実施主体:東京都産業労働局

(2)実施場所:日比谷公園、そのほか都立公園

(3)参画機関:東京都花卉園芸組合連合会、(公財)東京都公園協会など

(4)取組内容:2020東京大会に向け、東京都を訪れる旅行者へ都内産花きによる「おもてなし」機運作りを行うとともに、実証試験で得られた優良な品目の花苗を供給し、都内産花きの利用を促進する目的で実施。

2019年度は都立公園29か所約40、000ポットを都立公園に供給し、夏の公園を花と緑で彩いました。

武蔵野公園の夏花壇

写真は手前からコリウス、ジニア、ビンカ、ペンタス、センニチコウです。

4.各町会のボランティア団体が夏花を活用した事例

~夏季の花壇・庭づくり花苗配布事業(2016年度)~

(1)実施主体:(公財)東京都公園協会

(2)実施場所: 江東区、中央区、品川区など

(3)参画機関:江東区、中央区などの各地域で花の維持管理をしている団体

(4)取組内容:ボランティア団体等による公共的な場所での花壇づくりや、野草・樹木の保護活動、小中学校での緑化活動などに対して、都内産の花苗を提供。

これにより、一般都民に対して夏花の認識が高まりました。

小川町1丁目南部町会による夏花の植え付け

小川町1丁目南部町会では、白色と紫色のアンゲロニアを植付けました。

5.商店街と連携し夏花を活用した事例

~幕張新都心地区における花壇づくりコンテスト(2016~2020年度(予定))~

(1)実施主体:千葉県花き振興地域協議会(千葉県)

(2)実施場所: 幕張テクノガーデン、幕張メッセなど

(3)参画機関:㈱幕張メッセ、三井アウトレットパーク幕張、幕張ベイタウン商店街振興組合など

(4)取組内容:参加企業による植栽デザイン、管理を審査・評価することで、夏花の利用促進につなげる。

幕張テクノガーデンでの夏花の植栽・管理

カラフルなビンカと鉢植えの赤いサルビアが目を引きます。

6.2019年ラグビーワールドカップに向けた会場周辺の植栽事例

~夏色花壇提案プロジェクト(2016~2018年度)~

(1)実施主体:埼玉県、さいたまの花普及促進協議会

(2)実施場所: 熊谷スポーツ文化公園

(3)参画機関:鴻巣花き㈱、(一社)日本ハンギングバスケット協会埼玉支部、テクノ・ホルティ園芸専門学校、埼玉県農業技術研究センターなど

(4)取組内容:埼玉県の生産者や花業界による夏のモデル花壇の設置、高温期に適した花植木品目の選定、維持管理技術の実証などを行う。

熊谷スポーツ文化公園におけるモデル花壇

今、まさに注目のラグビー会場付近にも、夏花が植栽されています。

 7.観光地で夏花を活用した事例

~花の都プロジェクト事業(2017~2019年度)~

(1)実施主体:東京都環境局

(2)実施場所:区市町村(2018年度は葛飾区、台東区、江東区)

(3)参画機関:区市町村

(4)取組内容:2020東京大会を見据え、区市町村と連携し、都民等や観光客で賑わう場所に「花と緑」を創出する社会実験を実施する。それを通じ、夏花利用のノウハウを収集し、社会実験の成果を広く発信する。

浅草雷門通り(台東区)の夏花を活用したアレンジ

台東区のシンボルであるアサガオと、グリーン植物およびセンニチコウを組み合わせました。

8.オリンピック会場で周辺企業や住民とともに作る夏花壇

~夏花プロジェクト2019(2019年度)~(2018年度も同様の取り組み)

(1)実施主体:アメニス夢の島グループ

(2)実施場所:夢の島公園

(3)参画機関:㈱サカタのタネ、お花がかり㈱、㈱フラワーオークションジャパンなど

夏花実行委員会

(4)取組内容:2020東京大会を見据え、暑さに強い花の実証実験を行う。花を使ったおもてなしを成功させるために夏花勉強会や、周辺企業や住民等と植栽イベントを開催。また、夏花を利用したアレンジ教室も実施し、夏花の認知度向上を図る。

ボランティアの方々との共同植え付け作業(2018年度)

花壇デザインをベースに各自が好きなように植え付けます。

 新しい園芸装飾

事例1.花壇苗の立体装飾を可能にする「フラワーメリーゴーランド」

葛飾区内の中小企業がコラボし、それぞれの強みを活かし花の立体装飾を可能にする「フラワーメリーゴーランド」を開発しました。開発には区内の農産高校や、オブザーバーとして千葉大学も関わりました。太陽光パネルを備え、自立してポンプによる給水が行えます。

また、装飾部が回転するため、日が当たりにくい北側に同じ花が来ないようにすることで、方角に関係なく、均一に開花させることができるように工夫されています。2019年度はシンボルプロムナード公園や日比谷公園で活用されました。

フラワーメリーゴーランドを活用したペチュニアの立体装飾

葛飾区役所での取り組みの様子です。

 事例2.長尺植物や球根植物など多種多様な夏花を取り入れた園芸装飾

国産花きの国際競争力強化のための技術開発研究委託事業(2015~2019年度)の中で、東京都農林総合研究センター、千葉県農林総合研究センター、埼玉県農業技術研究センターが共同研究開発した園芸装飾技術を組み合わせた実証花壇をシンボルプロムナード公園に設置・展示しました。

具体的には、長尺植物(ユウガオなどつる植物をネット栽培し1~2m程度生育させたもの)による早期グリーンカーテン化、ユリの早晩性の違いを利用したずらし栽培技術、底面給水型プランターの利用など研究開発した技術を組み合わせたバラエティ花壇を作製しました。

シンボルプロムナード公園での実証花壇

実証花壇のポイントを以下にまとめました。

<実証花壇の取り組みまとめ>

  • 開花期の異なるユリを組み合わせることで、期間中、ユリが常に開花し続ける
  • 夏の暑さや乾燥に強い花壇苗やグランドカバー植物
  • 長尺直物を活用し早期グリーンカーテン化
  • 底面吸水型プランターで潅水労力を軽減

本稿では、夏花を活用した主な事例をご紹介しました。以前は利用の少なかった夏花ですが、これらの取組を通じて、猛暑の中でも景観性の高い花壇を維持できることが実証されています。勉強会、シンポジウム、現地検討会も併せて実施され、花き業界全体で「夏花によるおもてなし」の気運は着実に高まっています。

先に示したように、都立公園の一部では、周辺企業等に対し植え付けボランティア作業を呼びかけ、また夏花を活用したワークショップを開くなど、単なる夏花の植栽だけで終わらせるのではなく、イベントを通じ夏花の魅力を伝える活動も行われました。

このように、2020年の東京オリンピック・パラリンピックに向けて公民一体となって、さらに都民を巻き込みながら、夏花の利用拡大に努めています。

これらの活動が実を結び、本番である2020年には、より多くの場所で夏花が活用されるよう期待しています。

プロフィール

岡澤立夫(おかざわ・たつお)
主任研究員(博士)。東京都で6年間普及指導員として現場指導にあたる。
平成17年からは花きの研究員として、屋上緑化資材「花マット」や地中熱ヒートポンプなどの省エネ技術ほか、花壇苗の屋内向け商品「花活布(はなかっぷ)」を開発。現在は、オリパラに向けた夏花の研究を中心に取り組んでいる。

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