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第35回花卉懇談会セミナー【前編】~誰でも使える花き園芸の情報技術~

公開日:2019.9.2

花き園芸業界の発展のために、30年以上にわたって活動を続けている「花卉懇談会」。2019年7月27日(土)、ICTについてのセミナーが開催され、約100名が参加。いかにしてICTを取り入れるかを学びました。「農耕と園藝 秋号」に続き、内容を抜粋し前編・後編にわたって紹介します(会場/東京農業大学 世田谷キャンパス1号館 141教室)。

施設園芸生産のスマート化〜ユビキタスICTプラットフォームの導入がもたらす産・流・商連携への期待〜

星 岳彦氏(近畿大学生物理工学部教授)

スマート農業は考える農業

スマート農業は考える農業です。例としてCO2施用のお話をしたいと思います。生産者さんは、損得を考え、収益を考えなくてはいなくてはいけません。こうしたひとりひとりのニーズに応えるために考えることがスマート農業の第一歩です。

スマート農業では、ハウスの中に機械を置いて温度、湿度、CO2濃度、日射などを計測します。例えば、CO2濃度を測定したら513ppmだったとします。計測はスタートであって、スマート農業の完成ではありません。測った値を自分のこととして考えないといけないわけです。それが5連棟の施設だったとします。棟高4 m、軒高2 mだと面積972 ㎡、体積2,916 ㎥、そこに空気が詰まっていて、その空気の重さは3.8 tになります。

つまり、温室という構造体の中に3.8 tの空気を所有していることになるのです。そして、その中に重さでいえば2.93kgCO2を所有しているということです。1kgCO2で植物が光合成をすると約680gの糖ができるので、施設内空気に含まれるCO2を全部光合成すると約2kgの糖になります。植物がCO2を吸うために生産者さんは液化CO2、灯油の燃焼などで供給するわけですが、それを買うとCO2kgあたりいくらになるかがわかります。植物の生産量が680g増えれば、それがいくらの売り上げ増になるか考えてみます。そうすると、それだけのCO2を与えるのが損か得か判断できるようになります。こういうふうに考えることによって、どうしたらよいかの判断ができるようになって初めて生産者さんのためになるのです。

考えるためにはソフトウェアが大事です。ハードウェアである機械を入れて測っただけではなかなかわかりません。研究者がデータを一般化する方向性と、生産者がデータを個別具体的な問題解決に利用する方向性の違いにより、「農学栄えて農業滅びる」といったことが起こっています。私は、そうしたスマート農業における想いの違いによる溝を、考えるためのソフトウェアで埋めることができると考えます。そうすれば、農学研究の成果を生産現場で一層活用できるのではと思います。最近では、機械やドローン、計測制御装置などを導入することがスマート農業と思っている方も多いかもしれません。でもそれはハードウェアの話であって、先ほど述べた通り、投資額が増えるばかりで、ソフトウェアがなければ何も変わりません。ハードウェアに頼らず、例えば、100円ショップで温湿度計を買ってきて、温室内のデータを計測して細かくメモして考えたり計算したりするほうが、収益が余程プラスになるかもしれません。スマート農業ってそういうことではないかなと思うのです。

施設園芸は斜陽の時刻

残念ながら、日本の施設園芸は衰退しつつあります。そんななかで私が思うのは、『競争』より『供創』です。そのためにはプラットフォームが重要です。需要が右肩上がりの時代には、施設園芸関連企業は独占を狙い、潰しあうような商売をしてもうまくいきましたが、今はそんな過当競争をすればマーケット自体が縮んでいく中で自滅してしまいます。

共存共栄、得意な分野を持ち寄って、皆でマーケットを創造することが大事です。今は次世代施設園芸など、重厚長大なシステムが広まっていて、それもひとつの方向だとは思うのですが、ダウンサイジングを得意とする情報化というものはそれとは逆に、スケールダウンやロングテールに対して実はうまく動くところがあります。

日本の人口は、200412月の12,784万人がピークで、高齢化率が約2割、5人に1人が65歳以上でした。これまで人口はずっと増えてきましたが、これからジェットコースターのように減り、さらに高齢化が進んでいきます。こうした人口推移が、GDP伸び率、労働力、年金医療費などに大きな問題を引き起こします。同じように、施設園芸も1999年に面積のピークを迎えましたが、その後衰退に向かっており、さらに下がっていくのではないかと私は考えています。

昔の日本の施設園芸面積は世界一と言われていましたが、今は日中韓で最下位になっています。今後も増えていくことは考えにくく、限られた面積のなかでどうやっていくかを考えることが重要です。オランダの施設園芸を見習えといいますが、日本がそういう将来を目指すのは無理があるような気がします。日本のトマト生産を例にすると、FAOのデータでは、生産量は頭打ちですし、平均収量もほとんど増えていません。人口も需要も減りつつあるのに、オランダのような多大な設備投資を伴う大規模な施設園芸を目指すことが果たして持続可能といえるでしょうか? 

日本はこれまで施設園芸の主力は中小規模で、多棟・離散でした。このままの形で生産性を上げて持続するという選択肢もありと思います。莫大な設備投資で借金を背負わせ、そこにICTやスマート農業をくっつけて、労務管理されて、でも所得は変わらない。今の他産業の労働環境の変化に追従するようです。はたして生産者の幸せに結びつくのでしょうか?

スマート農業が今流行っている第一の理由は何かというと、センサが安くなったからです。それは何を変えていくかというと、重厚長大施設にしか導入できなかったものが軽薄短小施設にも導入できるコストになったというダウンサイジング効果になります。また、集団から個別、これはユビキタス化やIoTともいわれ、個々に分散するということです。

これは、多棟・離散という日本の施設の特徴と親和性が良いです。さらに、「売り上げの8割は2割が生み出している」というパレートの法則のビジネスモデルが飽和し、コンピュータネットワークの情報集約能力により、多様な需要に応えることのできるロングテール効果に期待が高まります。もうひとつは、賃金低下でコンピュータとの仕事の奪い合いです。センサやコンピュータにできることを人間がやると、その賃金は同機能の機器を導入した場合の償却費以下になっていくという未来です。こういったことを花き産業にどうフィットさせるのかが腕の見せ所ではないでしょうか。

量産品の大規模需要と高級品の小規模需要があり、供給システムはその住み分けをしてきました。しかし今の施設園芸は大規模が小規模を凌駕するといわれ、大規模化が必要だといわれています。でも私は、高級品の小規模需要への応需こそがICTの活用場面ではないか思っています。

施設植物生産でのICT活用のポイントは次の3つになります。

  1. ICTの参入、競争、選択の自由化と協業を促進するプラットフォームの導入。
  2. 実際の植物生産を支える各地の中小規模施設生産者の持続性を高め、ICTを活用して一層の高収益化・労働軽減を図り、地域活性化を図る。
  3. 設置・保守の人件費コストが大きな負担なので、自分で組立、修理できるようにハウスや環境制御システムのDIYを目指す。

花き施設園芸でのICT活用のチャンス

日本の温室の歴史をご紹介しましょう。17世紀後半に中国からもたらされた温室のご先祖様である唐むろは、『享楽実現装置』でした。つまり、古代ローマ帝国のピットなどの施設栽培と同様に、金や権力を確認・広報したい、常春(ユートピア)を夢見たい、珍しいものを見て元気をもらいたい、季節外れに植物を得る優越感に浸りたいというような欲望を実現する装置でした。そして、温室栽培の主役は花きだったと思います。

それが、終戦の物資がない1945年に、アメリカ軍により2.16haの園芸施設を調布に作らされました。アメリカ軍関係者は野菜を生食するので、寄生虫の心配などない清浄な野菜を生産するための施設でした。これが日本の近代施設園芸の出発点となりました。漬物などに頼っていた日本人の食生活を改善し、生鮮野菜を周年大量安定供給して国民に健康を、といったスローガンも生まれました。かつては享楽実現装置だった温室が、いつのまにかストイックの皮をかぶった享楽の食生産装置に変わったということです。私は、1945年が施設花きの主役脱落の始まりだったと考えています。

花き園芸産業のICT導入のヒントになる特徴は、まず、花は生活必需品ではなく景気に敏感ということです。花は心の栄養だといいますが、歴史を見ると、『花を買えるほどの生活になった』というステータス確認ツールと割り切ったほうが実際的ではないでしょうか。『住食足りて花きを知る』のではないですか。生活に必要なものが足りていないのに、価格を下げて、心の栄養をアピールしたとしても、現実問題として消費は増えないのではないかと思います。『やっと花を買えるようになった』とか、『花で勝ち組になったことを確認』とか、それが本音だと思います。生活必需品ではないため、景気が悪くなると真っ先に切られるものです。

しかし、その一方で、キャベツがいくら安くておいしくても2玉を買うことがないように、食欲には限界が存在します。その一方で、花はいくら買っても物欲の満足度が限界に達することは少ないと思います。逓減はするものの、花き需要の上限はかなり発掘できるのではないでしょうか。

また、現状で花き施設生産は野菜の2倍くらいICT化されています。今後は次の段階、生産と連携したマーケティングツールとしての活用を目指す、一歩進んだ活用が期待されます。花きは野菜と比べると量より種類が多いので、どこにどれだけ花が売れたかの情報が鍵です。需要と供給を結びつけるブローカの存在が大切でしょう。

日本の切り花の得意先は高齢者で、統計によると年間1万円以上使っています。なので、これを伸ばしていくサービスの提案が効果的だと思います。もっと買ってもらう、買いやすくする、そういう仕組みをつくるといいですね。一方、若年層では、最近は女性がマニア向けの高価な鉢物をアクセサリーのように買います。若い女性が、1鉢数万円する多肉植物を「かわいい」といって購入していく姿を見かけます。若者向けのファッション雑誌でも珍奇植物(ビザール・プランツ)などの特集が組まれたりしています。宝石などのようにブランド化してアクセサリーのように売ったら化けるのではないでしょうか。

この時に大事なのは、私だけの一品ものということです。既製服の量販戦略みたいなものは成功しないと思います。むしろ、アレンジメントなどを駆使して、美術品的・箱庭的オーダーメイドの花きとして売って行く方がよろしいのではないかと思います。

物品の取引には、物流・商流・情報流があります。ICT化によって情報流が分離できることがポイントです。生産地から消費地の方向を下り方向とすると、情報流には上り方向の逆の流れで伝わるものが大きな意味を持ちます。出荷した花がどこまで行ってどういうふうに消費されたか、生産者がわかるシステムを作るとマーケティングもやりやすくなるのではないでしょうか。ICTはものすごい勢いで発展していて、JFコードなどに代わってマーケティングに対応できる、生産、流通、消費に関する情報を記載したコード体系の拡張や、スキーマの制定が、今や必要な時ではないでしょうか。また、どこでどんな花きが植え付けられて、いつ出荷予定かといったデータベースシステムの全国的統合も必要でしょう。

『花ソムリエシステム』を提案したいと思います。野菜の場合、八百屋さんと大規模小売りがありますが、大規模小売りで間に合ってしまって八百屋さんあまり残っていません。これは、出回る野菜の種類が少なく、品種も煮炊き生食漬物に使えるオールマイティ化されていて、おいしい食べ方などの細かい情報がそれほど重要でなくなったからだと思います。

花の場合は、大規模小売りでも扱っていますが、種類が多く、また、アレンジ方法も無限にあるため、野菜料理のレシピ本のような使い方の情報源では足りません。小売店が持っていた使い方のスキルと芸術家レベルの飾り方のスキルなどをアレンジして、TPOにしたがいオーダーメイドで提案できるAI、感性工学などを活用したシステムを構築してはどうでしょう。そして流行・需要に生産が後追いするのではなく、服飾業界のように生産見込みを確保してから、トップデザイナーが広報して流行を醸成するのと同じようなメカニズムによるトレンド醸成システムが、花きでも実現できるのではないかと思います。

最後に皆さんに問題提起したいのは、いま盛んに話題に上っているスマート農業は、「重厚長大の『野暮』から、『粋』な生産を目指すべき」ということです。花きは江戸時代に独自の発達を遂げたとても粋な文化です。国内の人口・需要が確実に今後低下し、確固たるアウトバーンズ戦略もない無計画な中で、多大な設備投資、大規模化を進めて商売が大きくなったとしても、いつ償却できなくなるかに怯えながら、労働時間単価が昔と変わらないビジネスの展開は幸せといえるでしょうか。

さらに、スマート農業によって単収が上がるといった目先の利益だけではなく、持続性や地域活性化、日本の将来に向けて夢を持てるような共有、共創といったビジョンも打ち出したいものです。 

 

 

 

協力/花卉懇談会
取材/高山玲子

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