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東京2020大会を夏花で彩る

第1回 1964年から2020年へ受け継がれる花き研究

公開日:2019.9.23 更新日: 2019.11.28

夏花の研究のはじまり

2013年9月、2020年にオリンピック・パラリンピックが東京で開催されることが報道され、大きなニュースとなりました。56年ぶりの快挙で、大会期間は7月24日から9月6日まで。一生に一度あるかないかの大会が自国で開催されることは大変喜ばしいことですが、大会が開催される期間は、まさに暑い夏まっさかりなのです。

農林水産省では、内閣府の2020年オリンピック・パラリンピック東京大会に向けた科学技術イノベーションの取組に関するタスクフォースの9つのプロジェクトの一つとして国産花きの振興を打ち出しました。その9つとは、スマートホスピタリティ、感染症サーベイランス強化、社会参加アシストシステム、次世代都市交通システム、水素エネルギーシステム、ゲリラ豪雨・竜巻事前予測、移動最適化システム、新・超臨場体験映像システム、ジャパンフラワープロジェクト。

ジャパンフラワープロジェクトの主要技術としては、栽培環境制御による夏場における花きの安定生産技術や切り花の日持ち性向上技術があり、最終目標として、日本の花と緑で大会会場や公共空間を鮮やかに演出することを謳っています。革新的な技術が立ち並ぶなか異質な感じもしますが、農林水産省がいかに本気で花きの発展を国が責任を持って取り組むのか、その姿勢が読みとれます。2014年6月にも日本ではじめて「花きの振興に関する法律」が成立し、花きの発展に向け後押しとなることが期待されています。

しかしながら、東京都中央卸売市場の統計(2017年)によると、夏季の苗物生産量は春季や秋季の多い時期と比べ1/3以下と少ない状況です。当然、公園や公共スペースでも夏花の利用は少なく、夏季高温期に花と緑を積極的に利用するという考えがそもそもありませんでした。

一方、花き業界においても、2020東京大会で緑をつうじた豊かさを国内外の人々に感じさせる日本ならではの「おもてなし」を達成する機運が高まり、これを機に夏季の花壇等への植栽、いわゆる夏花の定着・拡大の推進が提案されました。2014年の夏から試験的に夏花の植え付けが始まり、民間企業に協力する形で研究が本格的にスタートしました。

1964年の東京大会もオリンピック向けに花の研究がなされた

1964年にも日本初のオリンピックが東京で開催されました。その当時の花きによる装飾はどうだったのでしょうか?

前回のオリンピックは10月10日から10月24日までの15日間、秋季開催でした。国立競技場の聖火台に続く階段脇に飾られたボサギクが、会場で使用した花として有名です。オリンピック組織委員会から1万鉢のボサギク栽培の特命を受けたのは、練馬区の花き生産者たちでした。一方、ボサギク以外の種類で10月に咲く花が当時はまだ少なく、ましてやオリンピック開催時期に咲き続ける花の種類については明らかにされていませんでした。そこで、東京都の農業試験場の花きの研究者が中心となって秋季に咲く花を調査しました。

昭和38年の花き試験成績書を見てみますと、鶴島久男氏によりいろいろな種類の花が集められ、開花特性を調査しています。トレニア、サルビアなどは7月1日播種で10月いっぱいまで十分開花しうること、カンナは5月定植で8月~10月開花が可能であることなどを明らかにしています。その研究成果の一部はオリンピックでの園芸装飾に活かされ、マラソンコースの沿道等にカンナやケイトウが飾られ、花によるおもてなしを実現することができたと聞いています。

50年以上も前にも、目指している時期こそ違いますが、私の大先輩がオリンピックという大舞台で花の研究に関わっていたことを知り、大変感慨深いものがありました。

鶴島氏による成績書(昭和38年)(一部抜粋)

夏花の研究の難しさを実感

さて、話を元に戻します。夏花の研究は2014年にスタートさせましたが、すぐにその研究の難しさを実感しました。なぜなら、苗物の花きを活用した都市の景観維持に関する最も大きな課題の一つは、夏季高温期における植栽に関するものだからです。具体的には、植栽直後の活着・生育不良と、植栽後の維持管理。この問題の原因の一つとして、空調設備や自動車などの排熱の影響で、都市部が他の地域よりも気温が上昇する、いわゆるヒートアイランド現象が挙げられます。

高夜温は植物の呼吸量や蒸散量を上昇させ、光合成産物の消費量を増大させます。その結果、植物の成長が抑制されることが、これまで多くの論文で報告されています。さらに、高層建造物による遮蔽が低日照をもたらし、灌水設備が未整備な地域では乾燥の問題も加わります。これらの要素をすぐに取り除くことは不可能で、短中期的には、これらの条件下での生育に適した植物を選んで使う、あるいは対応可能な利用方法を開発することで解決を図る必要がありました。

しかしながら、これらの問題を解決するような、夏花を活用した高い都市景観を維持するための生産、利用の両面における課題の整理と学術的なアプローチがほとんど行われてきませんでした。したがって、夏花に関する研究はただ単に暑さに強いものを選べば良いのではなく、乾燥や日照など複雑に絡み合った多くの要素も考慮しなければならないのです(耐乾性や耐低日照性など環境耐性については、第4回目の連載記事タイトル:東京2020大会を夏花で彩る~都市緑化に夏花を取り入れるために気を付けること~で紹介します)。

高層ビル間の夏花の植栽(都市部では一日中陽が当たる場所は少ない)

研究手法の開発から着手、そして夏花の選定へ

2014年夏、池袋サンシャインシティ、六本木ヒルズ、東京ドームの緑地スペースに種苗メーカーが推奨する夏花が多く植えられましたが、まず始めに行うべきことは、それらをどのように評価するかについての研究手法を開発することでした。大会期間中の約45日間をオリンピック開会式の7月下旬、オリンピックとパラリンピックの間の8月中旬、閉会式の9月上旬の大きく3つに分けて、それぞれの時期のパフォーマンスの良し悪しを6~7名の審査員(緑化デザイン、市場、園芸店、ランドスケープコンサルタントなど)により点数化して評価することにしました。

優劣の評価は、各審査員個々にそれぞれの立場から生育や開花の状態、病害虫の有無、株のバランス等を総合的に判断しました。そして、3つの時期のいずれにおいても平均して評価の高かったものを有望種としました。つまり、7月下旬から8月中旬まで高評価でも、9月上旬に花数が少ないなど状態が悪いものは最終的に有望な夏花として認定されないのです。同時に、株張や草丈などの生育や開花数や花径などの開花の状況も調査しました。

スケールやカウンターを駆使し多くの夏花を炎天下で調査することは大変過酷な作業でしたが、その分多くの有益なデータを取ることができました。2014年から2018年までの5か年で、ペチュニア、ビンカなど約1200種類の夏花を評価し、250種類程度が優秀であると認定されました。種苗メーカーが推奨する種類でも20%程度しか有望でないという事実には驚かされました。逆に、今まで夏花壇が難しいとされていたのは日本の夏の気候に合った花がきちんと選ばれていなかったからだとも言えます。

ここで選定された花の種類など詳細については、連載記事の第3回目(タイトル:東京2020大会を夏花で彩る~暑い夏を乗り切ることができる強者の花たち~)で報告します。

審査会の様子

植栽・管理作業の軽減化に向けて

景観性の高い夏花壇を作るためには、日本の夏の環境に耐えうる夏花の導入は不可欠ですが、日中の過酷な高温環境下での植え付けや灌水作業が夏季における都市緑化推進の妨げとなっていることは否定できません。特に、都市部では植栽直後から見映えの良い花壇にする必要があるため、通常の花壇植栽と比べ植栽密度が高く、植栽に多くの労力がかかります。

特にオリンピック・パラリンピックでは、短期間に集中して植栽されることが予想されますが、既存の花苗規格では早期緑化が実現できないと考えられました。そこで、早期緑化と植栽労力軽減を両立させた技術開発を目指し、鉢サイズが植栽労力に与える影響を調査しました。現在主流の鉢サイズは9~10.5cmですが、12cmで通常のサイズと比べ40%程度植え付けにかかる時間が軽減できることが分かりました。

また、2020東京大会、そして大会後も多くの場所でプランターによる夏花の植栽が予想されますが、夏季は日射量、温度ともに高く乾燥しやすく、培地量が制限されるプランターでは、きれいな花を維持することが困難であると考えられます。そこで、灌水労力の軽減が期待できる底面給水型のプランター(底面に水を貯留可能)の水分特性と花きの生育・開花に及ぼす影響も調査しました。

その結果、通常のプランターと比べ生育・開花に影響を与えず、しかも灌水労力が大幅に軽減できることが明らかになりました。これらの詳しい内容については、連載記事の第8回目(タイトル:東京2020大会を夏花で彩る~鉢サイズやプランターの改善で管理作業をラクに~)で報告します。

底面給水型プランターの活用例

ついに1年を切った、2020年オリンピック・パラリンピック東京大会

これまでに、民間施設や都立公園などの至る場所で、研究で認定された夏花を試験的に導入し、日本の猛暑にも耐え美しい花壇を形成できることを証明してきました。次号で、夏花を活用した優良事例としてご紹介します。しかしながら、夏花の生産量は依然として少なく、ビンカやジニアなど初夏に一般的に利用されている品目でも7月以降の入手は困難です。苗の入手にあたっては事前に予約することが望ましいのですが、2020年に向け供給体勢を把握できるような情報管理も必要です。

そもそも造園業を生業にしている方々にとって、花壇や街路樹下などの植栽マスに苗物花きを導入することはハードルが高く、取り扱いや維持管理が容易な緑化木中心に植栽しているのが現状です。その理由として、花きの管理技術に関しての知識不足とメンテナンスに多大な労力がかかることが挙げられます。

通常、施工管理は造園職種の方々が大きく関わっていますが、園芸職種との情報交換などの機会を増やすとともに、花きに触れる機会を設け、取り扱い方が身につけば利用も促進されると考えられます。そこで、2018と2019年度は農林水産省の補助事業を活用し、アーチェリー会場である夢の島公園において夏花の実証実験を行いました。2019年7月29日には夏花の勉強会も開催され、園芸関係者を中心に150名もの方々が参加しました。残り1年となった2020年にかける期待の大きさが伺えます。

美しい花壇を維持するためには定期的なメンテナンスが不可欠です。最近は民間企業や都立公園などではボランティアを上手に活用する事例が多く見られ、地域活性化の手段としても一翼を担っています。今後は、緑化スペースに彩りを添えるためにも積極的な花きの利用を期待します。

1964年に東京でオリンピックが開催されるまで、日本での花き利用は春季が中心でした。先に述べたように、当時の農業試験場の研究員は秋季に開花する花きを調査し、多くの場所でその成果が活かされました。これを境に、秋季に咲く花が当然のように一般家庭でも利用されるようになりました。それと同じように、夏花が2020年のオリンピック・パラリンピック東京大会においても活用されることを期待するとともに、その先のレガシーとして夏花が定着することを願っています。

プロフィール

岡澤立夫(おかざわ・たつお)
主任研究員(博士)。東京都で6年間普及指導員として現場指導にあたる。
平成17年からは花きの研究員として、屋上緑化資材「花マット」や地中熱ヒートポンプなどの省エネ技術ほか、花壇苗の屋内向け商品「花活布(はなかっぷ)」を開発。現在は、オリパラに向けた夏花の研究を中心に取り組んでいる。

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