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新規就農ガンバリズム

手作りの無添加ジャムが高級志向の客層とマッチング 軽井沢発地ベリー園・後編

公開日:2019.9.25

本企画は新規就農者を訪ねる「新規就農ガンバリズム」。今回は軽井沢発地ベリー園の後編です。ベリー栽培、手作りジャムの加工・製造を行なう園主・山田さんにジャム作り、今後の展望について話を伺った。

観光農園の積極的宣伝はせず、ジャム作りを軸に

前編でお伝えしたとおり、軽井沢発地ベリー園は3年前、2反の圃場を地主の依頼で返すことになった。その年は苗植えから7年と、木が成長してきて収量がアップ。そのため、園主・山田さんは生食用のブルーベリー、ジャム作りに加えて、摘み取りの体験もスタートさせることにした。

しかし、畑を返却するにあたり、ベリーの木を移植させたのだが、畑が凍る12月に行ったため、根が折れたりとトラブルが発生。その後の収量がダウンした。そのため、いまは摘み取り体験はホームページなどでの積極的な宣伝はせず、連絡があれば対応といった具合に落ち着いているようだ。

園の外観。試行錯誤しながら、経営を軌道に乗せようと奮闘中。

「何年か前に外国人観光客から『摘み取り体験は食べ放題ですか?』と問い合わせがあったのですが、『うちは300g摘んで1000円です。摘みながら味見するのは構いません』と答えると、「じゃあ、いいです」と断られました。そして、なぜかそれを境に外国人観光客がパタッと来なくなりました。ほかの農園で食べ放題があるのか知りませんが、うちはそうではないので。300g1000円は割高ではないのですが……。

うちの農園では300g1000円、オプションでプラス1000円でジャム作りが体験できます。ブルーベリー以外のカシス、ハスカップ、ブラックベリーだと1500円です。たった2000円で楽しい時間を過ごせる、という声をお客さんからいただきました。でも、儲けを考えると、この値段設定でやるのは難しい。食べ放題はなおさらです。

摘み取り体験の積極的な宣伝はしてませんが、軽井沢発地ベリー園のホームページにサービス内容のひとつとして摘み取り体験を掲載していたり、『軽井沢 ベリー』でネット検索すると軽井沢発地ベリー園は上位に表示されるので、摘み取り体験についての問い合わせはあります」

観光農園主体でやるのか、あるいはベリー栽培・ジャム作りを軸にしてやるのかが明確であれば経営にブレが生じることはない。仮に観光農園にも力を入れるとなれば人を雇わないといけなくなる。それは山田さんにとっては人件費が発生するなど規模拡大のリスクもあるので「観光農園をやるとなると、規模感が違ってくる」という。

「自分が信頼できるベリーで、混ぜ物なしのジャムを作る。そして、それを売る。ということをメインにしようと最初から思っていました。そのため観光農園の積極的な宣伝はしていません」

手作りのジャムは自宅にある工房で製造・加工している。ジャムはビン詰めするのに営業許可が必要なため、佐久の保健福祉事務所から営業許可を取得した。

商品と客層とのマッチング、手作りジャムは高級志向で

いまの売上の中心は、地元農産物直売所の軽井沢発地市庭(いちば)。2016年にオープンしたこの発地市庭で手作りジャムを販売するようになってから売上が伸びた。

「私のジャムは添加物を一切使用せず、手作りなので、それなりに値段は高くなります。大量生産はできません。私のジャムのコンセプトと品質を理解してくれるお客さんと出会わないとダメ。発地市庭にはマッチするお客さんが来て、『無農薬、手作りがいい』と言ってくれたりする。『サジー(を使ったジャム、)いいわね』とか。発地市庭だと、一見さんとか別荘族とか、そういった人が来るイメージです」

ジャム作りに取り組む山田さん。

なお、北軽井沢にも夏だけオープンするスーパーがあり、そこにも別荘族は来るが「あまり売れない」とのこと。相性が良くないようだ。

「2018年にできたルグラン軽井沢ホテル&リゾートという発地にあるホテルに、私のジャムを置かせてもらっています。大量ではありませんが、それなりに売れます。発地市庭とルグランが高級志向。他にも置いていた店もありましたが、客層とのマッチングの問題で売れないところは止めました。手作りジャムは嗜好品なので」

農産物直売所の軽井沢発地市庭では、高級志向のお客様が多い。

山田さんは以前、セレブに売れるようにするにはどうしたらいいかと発地市庭の管理者に相談したことがあった。すると①高級感を出すため価格を上げる、②ラベルのデザインを変える、③ビンを変える、といった具体的な提案され、すぐにそれを実践した。ラベルは以前、自らパソコンで作成していたがプロのデザイナーに依頼してセンスアップ。ビンも見た目にユニークな洗練されたものに変えた。結果、売り上げは伸びたが、コストがかかったしまったため、その年の収益はトントンだったが、翌年は着実に伸びたという。

手作りで無添加、珍しい実を使ったジャムで差別化

山田さんのジャムは特殊だという。まずは品目。ブルーベリージャムやブラックベリージャム、カシスジャム、ハスカップジャムなども作っているが、サジー、アロニアといった珍しい実も使ってジャムを手作りしている。サジーはユーラシア大陸原産で、栄養価の高さゆえに「スーパーフルーツ」と呼ばれているとか。

収穫間近のベリー。

「個人的においしいと思うのはハスカップのジャムですが、商売として一押ししているのはサジージュースが入ったブルーベリージャム。サジー・イン・ブルーベリージャムと銘打ってます。日本はサジージュースを中国、モンゴル、ロシアから輸入しています。高いですけど。サジーはほぼ液体ですから、ペクチンがないとソースにしかならない。種子も口に残る。ジュースを取り出すのも大変な作業です。そのジュースをブルーベリーに混ぜます。サジーの酸味が生きたブルーベリージャムはおいしいですよ。酸が甘さを引き立てるので」

しかし、サジーやアロニアといった珍しい果実を使うと、一般的なジャムのイメージとは異なるだけに知らないで買った人から、クレームがくることもあるという。

「アロニアは変わった実です。健康にいいというので、ネット上ではアロニアとサジーが有名です。アロニアもジャムにしているのですが、アロニアは水分がない。一方のサジーは水分だらけ。アロニアで普通にジャムを作ると、ぽそぽそになります。さらに、アントシアニンが多くて渋くなる。売れるわけがない。売れるどころか逆に文句を言う人がいる。『こんなのジャムじゃないだろ、なんでカスを売っているだ』と。買った人はアロニアを知らないで買っている。でも、ポソポソの渋さがいいという人も中にはいます。実際、少数ですがリピーターもいるようです」

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売上の割合としては、ブルーベリージャム5割、ハスカップジャム2割、そのほかサジー入りブルーベリージャム、アロニアジャム、カシスジャムなどで3割ほどだそうだ。その年の収量によってもジャムの生産量は変わってくる。

山田さんのジャムが特殊なもうひとつの理由は「正真証明の混ざりけなし」であること。ペクチンは使用せず、砂糖のみを使う。「ペクチンはリンゴの芯からも取れるから自然由来のものもあるんでしょうが、私のこだわりでリンゴ由来のも含めて、ペクチンは使っていません。ベリーの砂糖煮込みをジャムとして売っているような感じです。ジャムにするにはペクチンと酸、砂糖の3要素が必要。ペクチンを入れないので結果的にゆるかったり、かたかったりとまちまち。品質不安定とも捉えられますが、それが私の手作りジャム。無添加にこだわっていきたい」

午前は収穫で午後はジャム作り、7月は繁忙期

山田さんにジャム作りについて伺ったが、その前段階の作業である収穫の時期がわずか数ヵ月で、収穫作業自体もかなり大変だという。実はたくさんなっても熟すタイミングはバラバラ。それをひとつずつ摘んでいくのは小果樹ならではの難しさがある。そのうえ、ハイシーズンには収穫に加えジャム作りもある。

「ジャムは売れる時期に作ることが多いです。なので、7月はメチャクチャ忙しい。午前に摘み取って、午後はそれぞれ4kgのふたつの鍋で、ブルーベリーと他のジャムを作る日もあります」

山田さんによると、摘み取り体験のお客さんは「少ない」とはいえ、シーズンの7〜8月は1日おきくらいに来るという。摘み取り体験のお客さんに日時を指定、予約してもらい、その時間に合わせて作業の段取りをする。例えば、お客さんの来園が10時だとしたら、その前に収穫を済ませ、10時からはお客さん対応。一時間くらいで摘み取り体験・ジャム作り体験は終わる。午後には商品となるジャム作りをし、その後、前日に作ったジャムを発地市庭などに納品。夜にはその日に作ったジャムのラベル貼り。草刈りは来園がないときなど空いた時間にするという。お客さんが来る時間帯はまちまちだが、収穫、ジャム作り、ラベル貼り、ジャム納品は必須の作業で、作業状況を見て草刈りをする。

ジャム作りについて山田さんは次のように教えてくれた。

「摘み取ったベリーは即冷凍します。ジャム作りするときは、その冷凍されたものを潰すのですが、果実はマッシャーで潰します。ミキサーにかけると均質な液状になってしまうから、多少、皮や実のゴロゴロ感が残るようにマッシャーでつぶします。多い時で銅なべで3〜4kg分です。そして沸騰するまで30分ほど煮込みます。本格的なところは蒸気釜を使うそうですが、私のところは銅なべ。入れる砂糖はブルーベリージャムの場合は果実の3割、ハスカップジャムは果実の4割です。もちろん、瓶詰めするビンや鍋などの道具は煮沸消毒しています」

就農前から試行錯誤を重ねながらも一歩ずつ前に進んできた山田さん。ベリー栽培、ジャム作りを軸に自ら農園を営むという目標、そして小遣いや趣味代はベリー栽培やジャム作りなどから稼ぐという当初の目標は達成。オフシーズンには旅行や趣味のパラグライダーをすることもあるとか。次々とやってくる試練を乗り越えながら、山田さんは自分自身が目指す農業スタイルを追い続けている。

取材協力/軽井沢発地ベリー園 山田重夫
取材・文/大地功一

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