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仁木町で生まれた「MUSUBI」のワイン 株式会社ル レーヴ ワイナリー 本間裕康さん

公開日:2019.10.9 更新日: 2019.11.15

フルーツ栽培のさかんな仁木町へ

就農4年目。今年7月に初めてワインをリリース。2度目の収穫を迎える本間さん。

北海道余市郡仁木町は、人口約3,300人。昔から生食用ブドウ、サクランボ、プルーンなど、果樹栽培のさかんな町です。

札幌出身の本間裕康さん(42歳)は、4年前にこの町の旭台地区へ移住して、ワイン用ブドウの栽培を始めました。それまで耕作放棄されていた場所を、南向きのながらかな丘陵地に造成。2016年、ボランティアの人たちと、6000本の苗木を植えました。小さな苗木は、本間さんの背丈を超えるまでに生長し、昨年秋に初収穫。今年7月初めてのワインをリリースしました。

「うちの畑は南に向かっていて、日当たりがいいんです。とくにこの場所は、旭台の中でも一番雪どけが早くて、地温が上がりやすい」

仁木町とは、どんなところなのでしょう?

仁木町は、北海道西部・積丹(しゃこたん)半島の付け根に位置しています。道内では比較的気候が温暖なので、昔から果樹栽培がさかんに行われてきました。サクランボ、生食用ブドウ、プルーン、ミニトマトの栽培面積は北海道第1位を占めています。

しかし、果樹の生産者は高齢化が進み、撤退する農家と耕作放棄地が増え、町全体の人口減少が進む中、新たな住民や就農者を呼び込む切り札としての「ワイン」に期待が高まっています。仁木町に隣接する余市町には、元々ワイナリーが多く、2011年、北海道初の「ワイン特区」の認可を取得。続いて2017年12月、仁木町も認可を受けました。

高台に位置する旭台地区からは、ミニトマトのハウスが立ち並ぶ仁木町の光景が一望できる。

通常ワインの製造免許を取得するには、年間最低6000ℓを醸造しなければなりませんが、特区では2000ℓから免許取得を取得できます。また、生産者自身が営む農家民宿や農家レストランでワインを提供する場合、この最低製造基準は適用されません。これによって小規模事業者の参入が可能になり、「小さなワイナリーを作ろう」と、就農を目指す人たちが増えてきました。現在余市町に11軒、仁木町には3軒のワイナリーが誕生しています。

国産ブドウだけで醸造される「日本ワイン」への関心が高まる中、両町は2016年から連携してワインを軸に地域の魅力を伝える「余市・仁木ワインツーリズムプロジェクト」を開始。ワインとそれを育むワイナリーや畑、自然を求めて訪れる国内外からの旅行者はもちろん、ワインの醸造家を目指す就農者を積極的に受け入れることで、今、仁木町の農業は大きく変わろうとしているのです。

医療技術者からワイン醸造家へ

フランスのシャンパーニュ地方で栽培されている「ムニエ」は、霜害にも強い耐寒品種。

「これはムニエ。フランスのシャンパーニュで作られている、スパークリング用の品種です」

本間さんのブドウ畑を訪れた8月30日、収穫まであと1カ月かかるそうですが、垣根式のブドウ畑には、ぎっしりと粒をつけた房が並んでいました。

札幌市出身で、16年間医療関係の技術職に就いていた本間さんは、元々ワインが大好きで、20代半ばから妻の真紀さんと国内外のワイナリーを巡っていました。

「フランスのボルドー、ブルゴーニュ、そしてイタリア……。毎年テーマを決めて、産地を訪ねては、その土地のワインを学んでいました」

国内外のワイナリーをめぐった本間さん。「北海道でもアルザスのようなワインができる」ことを知り、ワイン醸造家の道へ。

最後に残ったのが日本。「日本のワインはあまりおいしくない」というイメージが強かったので、後回しになっていました。ところが、岩見沢市のワイナリーが醸造した「クリサワブラン」という白ワインを飲んだ時、衝撃を受けました。

「北海道で、フランスのアルザス地方みたいな、きれいなワインができるんだ!」

余市町に新しいワイナリーができたと聞いて出かけたところ、そのオーナーに「君たちみたいな若い人が来て、ワインを作ってくれたら、盛り上がるのに」と言われたそうです。その時はあまり気に留めなかったのですが、なぜかその言葉が引っかかり、いろいろ調べるうち、

ワイン醸造を新たにはじめている方は、異業種からの参入が多いんだな。もしかすると自分にもできなくはないのかもしれない。調べれば調べるほど、だんだん自分にもできる気がしてきて…」

最初は既にワイナリーがある余市町を中心に、土地を探し始めましたが、なかなか見つかりません。そんな時、隣の仁木町の旭台地区にワイナリーを集めようという動きがあり、大企業や個人の醸造家を誘致していることを知りました。

「同じ場所に大小のワイナリーが集まれば、ワインツーリズムも盛り上がる。仁木は果樹で栄えてきた町だから、ワイン用ブドウも間違いなく育つはず」

と確信。こうして本間さんは、仁木町へ移住してワインを作ることを決意しました。

本間さんは、2015年から2年半、余市町のワイナリーで働きながら栽培と醸造技術を学びました。と同時期に旭台の耕作放棄地を取得。ブドウ栽培に適した水はけの良い南向きの傾斜地になるよう土木工事を行って整備し、翌年に苗木を定植しています。このとき「耕作放棄地再生利用緊急対策交付金」を活用。農地の造成費用や、栽培に必要な杭等の資材の調達に充てることができました。また、就農に際し「青年就農給付金の開始型(当時)」も利用しています。

「自己資金1500万円を準備しましたが、使える補助金を自分でちゃんと調べて、利用した方がいいと思います」

欧州生まれの8品種を栽培

本間さんのブドウ畑は、現在1.9ha。赤ワイン用4種と白ワイン用4種、合わせて8品種を栽培しています。

フランス・ブルゴーニュ原産の「シャルドネ」をはじめ、白ワイン用の4品種を栽培。

元々余市町、仁木町周辺のワイン用ブドウは、寒さに強いドイツ系の「ケルナー」「ミュラー・トゥルガウ」、オーストリア系の「ツヴァイゲルト・レーベ」等の品種が主力でした。

ところが本間さんの畑では、白ワイン用の「シャルドネ」「ピノ・ブラン」「ピノ・グリ」、スパークリング用で寒さに強い「ムニエ」、赤ワイン用では世界で2番目に生産量が多い「メルロー」、高級ワインの原料で、最も栽培が難しいとされる「ピノ・ノワール」と、8品種のうち6品種をフランス原産品種が占めています。

「この面積で8種類は多いかもしれません。でも、いいこともたくさんあります」

まず、品種によって開花時期が違うので、作業を分散できます。開花時期に雨が当たると「灰カビ病」で花が腐れ落ちたり、「花ぶるい」といって、花落ちして果実がまばらな房ができてしまいます。もし単一の品種しか植えていなければ、全滅するかもしれません。多品種栽培は、リスクの分散にもつながるのです。

また、妻の真紀さんは看護師として勤務しているので、ふだん農作業は裕康さんが一人で担当しています。これから本格化するブドウの収穫時期も10月の上中下旬と、分散しているので、人手が少なくても可能に。こんな風に多品種栽培は、時間差をつけて作業に当たれるだけでなく、品種の特性を生かしたワインを醸造したり、異なる品種をブレンドして、商品のバリエーションを増やすこともできるのです。

耕作放棄地を、南向きのなだらかなブドウ畑に造成した。

栽培方法は、フランスの「リュット・リゾネ」というやり方を採用しています。

「フランスでの減農薬栽培です。ここは山が近いので、春先になるとどうしても虫が出てしまう。無農薬栽培は難しいと考えています」

厄介なのは害虫だけではありません。予想外だったのは、近くの山から獣がやってくること。アライグマが出没して食害を起こす上に、春はエゾシカが現れて、ブドウの新芽を食べるので、「今年は電柵を張って、ブドウを守らなくては」と考えています。

「あったらいいな」を少しずつ

そんな本間さんのブドウ畑の高台から下界を見下ろすと、こんな風景が見えてきます。

ブドウ畑から、カフェとゲストルームを併設したワイナリーが見える。

「正面のあの建物は何ですか?」

「カフェ&ゲストルーム&醸造施設、そして自宅です」

本間さんは就農と同時に、畑の麓に自宅を建てました。そこにはワインと食事を楽しめるカフェがあり、宿泊可能なゲストルームもあります。

かつて美味しいワインを求めて世界を旅していた頃、せっかくワイナリーを訪ねても、車で移動していると、その場で試飲できなかったり、夜は心ゆくまで味わいたいのに、帰りの時間を気にしなければならなかったり、残念に思うことがたくさんあったそうです。

「広大なブドウ畑を眺めながら、お客様にゆったりとくつろいで頂ける空間やゲストルーム。自分たちが旅していた時に感じていた『あったらいいな』を、少しずつ実現しています」

カフェの客席からブドウ畑を望む。ゲストルームは2人まで宿泊可能。

そんな「あったらいいな」を形にした「ル・レーヴ・ヴィンヤード」のカフェ&ゲストルームは、2018年6月にオープン。手作りの「ケーク・サレ」(塩味のケーキ)や「セイボリータルト」(塩味のタルト)、スープ等を提供しています。客席からの眺めは、まるで生きた絵画のよう。ブドウ畑を眺めつつ、軽食とワインが楽しめます。

自らカウンターに立ち、料理とワインのサーヴを手がける本間さん(10〜4月は休業)。

初リリースの白ワインは「MUSUBI」

こうして3年前は膝丈ほどだった小さな苗木は、昨年の秋、ようやく収穫を迎え、今年7月、初リリースとなるワインを世に送り出しました。その名も「MUSUBI」といいます。

「僕自身、いろんな方のご縁があってワイン作りに携われたので、そのご縁に感謝して結び。それからここへお見えになった方にもいろんな結びがあればいいなと」

まだ自前の醸造施設がないので、岩見沢市の10R(トアール)ワイナリーへ、片道2時間かけてブドウを運び、泊まり込んでワインを仕込みました。

ワイン醸造には、いろんな手法がありますが、本間さんはブドウそのものに付着している野生酵母のみで発酵させています。温度管理だけではなく人間がコントロールできない部分も多いので、神経を研ぎ澄まして、醸造管理します。

「野生酵母で醸造すると、オフフレーバーといって、ちょっと不快な香りが出る場合もあります。でも、今回はそんな香りは一切なく、とてもきれいなワインに仕上がりました」

夢の実現を後押ししてくれた人たちとのつながりに感謝。初リリースの白ワインを「MUSUBI」と名付けた。

昨年は天候不良のため生産量が思いの外少なく、7月にリリースしたのは451本。9月に新たに129本をリリースしました。それでも初めて醸造したワインは、上品でブドウ本来の果実味を感じられる味わい。ボトルからグラスに注ぐと、キラキラ輝く美しいワインに仕上がり、納得のいく出来だったようです。

ただいま、カフェの隣の斜面を削り、新たに畑を造成中。樹の成長に従って生産量を増やし、将来的には年間15,000本を醸造したいと考えています。

「品種が多いのがうちの強み。いろんなバリエーションのワインを作ります」
来年は自前の醸造施設を作り、いよいよ自社ワイナリーでの醸造を開始する予定。こうして本間さんは、世界を旅しながら感じていた「あったらいいな」をひとつずつ、形にしていきます。

ル・レーヴ・ワイナリー(カフェはランチタイムのみ。10〜4月は休業)
https://le-reve-winery.com/

 

取材協力/北海道余市郡仁木町農業委員会
取材・文/三好かやの
写真/杉村秀樹

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