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FLOWER SUMMIT2019『「オリンピック・パラリンピック」新しい花文化の創造へ』

公開日:2019.10.15 更新日: 2019.10.28

今年で5回目を迎えるFLOWER SUMMITが、一般社団法人 花の国日本協議会の主催により、品川のTHE LANDMARK SQUARE TOKYO(2019年9月6日~9月8日)で開催されました。

FLOWER SUMMITとは、「FLOWERING Japan!」世界一、花や緑が身近な日本に!という基本理念に沿って、各分野のリーダーが集い、お互いに視野を広げ、日本の花き業界の将来を考えるプログラム。一方向のインプットだけでなく、参加型のセッションを行うことで、参加者全員の経験や知恵を集めて考えることをポリシーにしています。

また、参加者には、学びや交流を通じて将来のビジョンを掲げて終わるのではなく、同じ志を持った仲間と共に次の行動に繋げてもらうということを目的としています。

開催5回目を迎える「FLOWER SUMMIT」、今年は『Connected(繋がる)』をキーワードに

2020年、花の国日本で行われる東京オリンピック・パラリンピックでは、近年あまり見ることのできなかった「勝者の花束」、ビクトリーブーケが採用されそうだと言います。実際にビクトリーブーケが採用されることになれば、花業界の生産や消費、物流、商品化、業種業態など多くの流れが変わることになりそうです。

しかし、まだまだ業界内は関係するすべての人と人とがしっかり手を繋いでいるとは言い難い様子。今後は、異業種の最先端のテクノロジーを導入したり、ロジスティックや労働力不足などの問題解決をしたりと、外部との交流も含め、より多くの人との繋がりが必要になっていくはずです。

このビクトリーブーケをきっかけに、いかにして新しい花文化を創造していくのでしょうか。そして、スポーツ界などの外部との連携をいかに整えて行くべきなのでしょうか? さらに、パネリストたちからはどのような案が出たのでしょうか。

さまざまな視点から、今後の花業界について考える「FLOWER SUMMIT2019」、今回は『「オリンピック・パラリンピック」新しい花文化の創造へ』の様子をお届けします。

東京オリンピック・パラリンピックで採用されるかもしれないビクトリーブーケを、新しい花文化の創造に繋げるためには

リオ、平昌五輪ではビクトリーブーケの姿はなかった

モデレーター 和田幸一氏(一般社団法人 花の国日本協議会 事務局長):


そもそもビクトリーブーケとは何なのか。まずはそこからお話させていただきます。

世界では色々なイベントが行われていますが、オリンピック・パラリンピックは世界最大、最高峰のイベントです。テレビなどを通じて48万人もの人が観ます。最も影響力のあるイベントだと思っていただいてもいいのかもしれません。

ビクトリーブーケは五輪のメダルと同じく、勝者に渡されてきました。何年から始まったか調べるのも大変なくらい、ずっと使われてきました。ビクトリーブーケは「勝者の花束」ですから、東京五輪でも渡さなければならないと、我々の業界でも盛り上がっています。

勝者の花束(ビクトリーブーケ)はずっと使われてきたのですが、2016年に開催されたリオ五輪でどんな花束が出てくるのかと思っていたら、鉛筆立てみたいなのが出てきました。2016年といえば、東京都花き振興協議会がビクトリーブーケのコンテストを開催していた最中なのですが、リオではブーケが採用されていないのか、と(愕然とした)。

その後、2018年に行われた平昌の冬季オリンピックで渡されるものは、ギフトになってしまいました。パラリンピックでは過去2回、ぬいぐるみを贈答していました。

パネリスト 磯村信夫氏(日本花き振興協議会 会長):

リオ、平昌五輪でビクトリーブーケがなくなった理由は、使われる花がMPS(花き業界の総合認証システム)の一定レベルの品質基準を満たし、国際認証を受けたものでなければいけない、ということにあります。

たとえば、北京五輪ではオランダからMPSの本部が乗り込み、100農場にMPS基準の花づくりをするよう依頼する、という事態が起きました。品種、農薬、水それぞれが環境に優しくなければなりません。MPS本部側からすると、北京五輪を機会に国際認証の形をきちんと根付かさせたかった。北京に続くロンドン五輪ももちろんそうです。

我々は、リオ、平昌五輪ではそれらの基準を満たせる力が、生産者、流通業者になかったからやらなかったんじゃないかと、勝手に思っていたんです。しかし、それは違っていて、選手の「持って帰れるものがいい」という意向であったことが、後になってから分かりました。

パネリスト 安部喜方氏(財団法人日本水泳連盟 副会長):


磯村先生が仰られたようにリオ五輪でブーケがなかったのは、私も非常に残念に思っております。リオのときはブーケが持ち出せないので、ゴミになってしまうという環境問題が一番の原因でした。

もうひとつには、「花粉」というアレルギーの問題がありました。その辺も加味して出さなかった、というふうに聞いています。そのあとの平昌五輪もブーケは渡していません。2020年の東京五輪もやらないとなると、非常に残念だなと私も思っていました。

ビクトリーブーケではありませんが、実はいろいろな会場で装飾をやっています。たとえば、水泳だとアーティスティックスイミングのステージにお花を飾っています。体操やレスリングの会場でも、必ずお花で装飾しています。今後、五輪会場を装飾する上での花の需要というのは、必ず出てくると思います。

表彰関連はセレモニーという部署が担当していて、「花き管理人」、「国旗の管理人」、「プレゼンターの管理人」と3つに分かれています。オリンピック33の会場、パラリンピック22の会場には、ひとりずつ花き管理人がつかなければいけない、ということになっているのです。

2021年国体のビクトリーブーケを高校生にデザインしてもらいたい

パネリスト 奥田誠氏(株式会社花やの六さん 代表取締役、花キューピット58三重支部 広告ICT室 室長):

私たちは「花キューピット58三重支部」の活動をしています。3年くらい前まで、母の日のPRを新聞折り込みなどで行っておりました。しかし、新聞折り込みだけでは効果が薄いという調査結果が出てきました。

そこで、お客さんの前に出向き、汗をかいてPRをしようと方向転換したのが始まりです。

そして去年、お花のラッピングカーを作って60名の会員が乗り継ぎ、三重県を北から南まで一周するイベントをさせてもらいました。昨年は私たちがお花、車のデザインをしましたが、今年はもう一歩踏み込みました。地元の農業高校生にラッピングカーの元となるお花をデザイン、そして車のレイアウトもしてもらい、一台の車を作ったのです。

それでは終わらず、異業種も巻き込もうと地元のトヨタ自動車さんから約半年間、車を無償提供していただきました。そして高校生、トヨタ自動車、花キューピットの車を走らせました。

2021年は三重県で国体が開催されます。国体でもビクトリーブーケを担当させてくれ、と県の関係者と打ち合わせをしています。できることなら国体のビクトリーブーケを高校生にデザインしてもらい、そして作ることにも協力していただきたい。そんな野望を抱いています。

ビクトリーブーケを新たな花文化に繋げるには

和田氏

2020年の東京五輪でビクトリーブーケが復活採用されるとなると、その先の花業界の動きも変わっていくのではないでしょうか。たとえば、花文化やそれらを繋いでいくための取り組みについてどうするのかを、本気で考えなくてはいけない。そういった意味では、スポーツを象徴するものだけではなくて、生活にも溶け込みやすく、何かちょっとした時に気軽に贈れるものがいいんじゃないか、という話を日本花き振興協議会でもしています。

まずは磯村さん、日本花き振興協議会の考えだけでなく、独自の考えもあると思いますのでお聞かせください。

磯村氏:

東京五輪で我々日本花き振興協議会ができることの範囲が、随分と明確になってきました。一括りにビクトリーブーケを提供する立場と言っても、デザインや花材などの権利は、IOC(国際オリンピック委員会)、IPC(国際パラリンピック委員会)に属することになってしまいます。このままですと商売ができません。

僕がぜひともやりたいのは、自分自身が掲げた目標にチャレンジして、成功した人にビクトリーブーケを贈ること。受験勉強に挑戦した人やウォーキングの習慣化に成功した人へ向けて、ブーケを贈る花文化があると素敵だと思います。それには仕様も大切です。片手で持てたり、一定の大きさだったり、それを商品として作っていけるようにしたいですね。

安部氏:

表彰の際、ビクトリーブーケはプレゼンターから『おめでとう』と「祝福」を込めて渡されます。受け取った選手は、そのあとミックスゾーンを通ってスタンドに戻ったり、チームに戻ったりしてからブーケをコーチに渡すのですが、そこからは「感謝」のブーケに変わります。

スポーツだと「祝福のブーケ」が「感謝のブーケ」に変わって、家族やコーチ、お世話になった先生、最近は彼氏彼女に渡すこともある。現場の裏方を見ていると、ブーケがそういう風に変わっている、繋がっているということがわかります。

和田氏:

それは、僕ら花業界が忘れている視点ですね。勝者に与えるだけではなく自分がお世話になった人に、『ありがとう』と感謝の気持ちを込めて渡す。まさにビクトリーブーケですね。

奥田氏:

先ほどもお話がありましたが、オリンピックが開催された翌年には、三重県で国体があります。そこでは、高校生のみなさんと一緒にコラボレーションしていくことが出来ればと思います。

まずは花文化の素晴らしさ、そして花を贈ることの素晴らしさを、花に携わっている高校生のみなさんにしっかりと伝えた上で、共に取り組みながら業界を盛り上げていきたいですね。

オリンピック・パラリンピック、そして国体でも、見る側と参加する側、そして支える側の3者が揃って競技が成り立つと思います。選手がいても観客がいないと成立しない。裏方の支える側が欠けたら、競技は成り立たない。我々は花という商品を通じて、大会を支えているという意識を感じ取ってもらい、三重県内の学校や花業界、さらには地域の活性化に繋がれば、と考えております。

和田氏:

ビクトリーブーケを高校生が作って渡す。ブーケを制作する側も、国体に参加しているような気持ちになるのではないでしょうか。良い視点だと思います。

最後にまとめです。今回は東京五輪でのビクトリーブーケをきっかけに、新しい花文化を創造するためにはどうしたらいいか3つの視点が出ました。

  1. 日々の生活の中でも、何かに挑戦した人にブーケを贈るスタイルを築くことで、ブーケの定義をさらに広げる。

  2. ブーケをもらった人が、成功に結び付くまでにお世話になった人や感謝の気持ちを伝えたい人に渡す。

  3. 高校生などが自らブーケを作り、競技の勝者に渡すことで、スポーツイベントなどに積極的に参加し祝福に加わる。

 

日本は類まれなる花き生産技術を持つだけでなく、それに伴う花文化も同時に育んできた、世界に誇れる花に溢れた国です。来たる2020年、東京オリンピック・パラリンピックという大舞台では、ぜひそれを世界へと発信していきましょう。そしてオリンピック・パラリンピックをきっかけに、新たな花文化とその先の未来を創造していきましょう。

引き続き「FLOWER SUMMIT2019」の様子をお伝えする後編では、『「受給マッチング」業界内の無駄を少しでもなくすために』がテーマ。製造から小売まで、ノンストップで垂直統合しているSPA(製造小売業)が広まってきている一方、私たちの業界は生産と小売との間で企画や品種をはじめとしたミスマッチが多発しています。

我々はこういった問題に対し、どのように対処し繋がっていくべきなのかといった問題について、市場や種苗会社のみなさんだけでなく他業種の方も交え、一緒に考えます。市場拡大のためのノウハウや、専門家の意見を交えた花業界の今後など、引き続き熱い討論が続きます。

次回もお楽しみに!

 

 

取材協力/一般社団法人 花の国日本協議会
取材・文/大地功一

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