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FLOWER SUMMIT2019『「需給マッチング」業界内の無駄を少しでもなくすために』

公開日:2019.10.24 更新日: 2019.10.28

前回に引き続き、今回もFLOWER SUMMIT2019から『「需給マッチング」業界内の無駄を少しでもなくすために』をご紹介します。

今回の議題は、社会問題とも密接な関わりのある消費が軸にあります。志向の多様化により大量生産・大量消費の時代は過去のものとなりつつありますが、需要に対応する過程で捨てるゴミが出たりと、いまも無駄が生じているのが現実です。一方で消費者が欲しい時に欲しいモノを提供する仕組みも生まれています。

需給マッチングの実現について、異業種であるお米業界からの意見も参考にしながら、今後の可能性について探りました。

消費者の嗜好・動向を分析し、必要な時に必要な商品を! 需給マッチングの新たな仕組み作り

80cmの花を70cmにカットする無駄、葉を落とす無駄

モデレーター 三好正一氏(株式会社ミヨシグループ 代表取締役社長):

まずは木本さん、木本生花(株)では仲卸しのほか、加工や小売りも行い、垂直統合されていらっしゃいます。いきなり本題に切り込みますが、そのなかでどのような無駄が発生するのでしょうか。

パネラー 木本孝行氏(木本生花株式会社 代表取締役):

昭和48年から仙台中央卸市場で仲卸しを、平成12年から花束加工をやっていますが、その経験から、主に花束加工の分野について、無駄と感じる部分の話をさせていただきます。

一例として、量販店で並んでいる花束企画商品は70cm以下です。だいたい60cmくらいで並んでいるものが多いと思います。なぜ60cm企画が多いかと言うと、量販店に置いてあるバケツの什器の規格が60cmであり、また、販売価格帯が398円とか598円、高くても980円となり、価格に対するボリューム感、サイズ感から、量販店には60cmクラスの花束しか並びません。

ということは、私たちの工場に届く商品は70cmくらいの規格のもので十分です。ところが市場から買う際、秀2L、秀L、秀Mのいずれもが80cm、もしくは80cmオーバーの商品しか入ってこない。ということは、私たちは仕入れた商品を70cmに裁断しなければいけない。なおかつ、葉っぱを落とす作業が発生します。

元々70cmであれば葉っぱを取るだけで済むのですが、80cmで来たものを10cmカットすると、下に葉っぱが多くついていますから、その分、葉っぱを処理しないといけない。作業時間がかかりますし、ゴミの量も増えます。それについて、加工を始めた頃から非常に無駄だな、できれば産地のほうで切ってくれないかと、感じています。

たとえば、小菊ですと市場に出荷する場合は、通常80cmの200本入りです。それを70cmにカットし、脱葉することにより1本のボリュームがコンパクトになるのではないだろうか、そうすれば200本入りが250本入りになるのではないか、という推測から実際に実行してみたところ250本入りました。

小菊は1本あたり200本入っていたものを短くすることで250本入りにすることができ、そうすることで、もしかしたら生産者さんの手取りも良くなるのではないか、ということでそういったチャレンジをしたことがあります。

三好氏:

200本入りが250本入れば1本あたりの単価や運賃も下がる、という発想ですね。さて、次は黒田さんにバトンを振りたいと思います。

パネラー 黒田高碩氏(株式会社大田花き 営業開発室 室長):

いまの話は量販に特化したものだったのですが、無駄がないのはやはり価格も含めて欲しいときに欲しいだけ供給されることだと思います。

モノがなくて選択肢が少なかった昔は、何を作っても売れる時代でしたので、ドンドン作るという「生産志向」で「作れば売れる」時代がありました。

次に来たのは「販売志向」。モノが大量生産されて売られるようになると、どうやってそれらを売るのか、という流れになってきた。当社も力を入れてそのシステムを作ってきました。そこから今まで、どの市場も、とにかく集めて売れ、というのが一番多いのではないかなと思います。

しかしここにきて、それだけではどうにもうまくいかない、次のステップに進まないとこれ以上の成長はないんじゃないかなという時期に来ていると感じます。

みなさんどうしたらいいか悩んでいるところだと思うのですが、次のステージは「消費者志向」です。価格や仕様含めて、どうやって消費者が欲しいものを作るか、ですね。生産者さんもいらっしゃる中で少々言いづらいのですけれど、今の市場では「売らなければいけない」という使命感がばかりが強くて、いくらでもいいから入ってきたものをさばこうという風になってきていると思います。

お米業界から学べることと食のライフスタイルの変化、ニーズのギャップを埋めるために

三好氏:

今日は異業種からも学ぼうということで、お米業界から(株)神明の田中さんにも来ていただいています。神明の取り組みやお米業界の課題、そのなかでのご苦労話などお聞かせください。

パネラー 田中裕也氏(株式会社神明 アグリイノベーション事業本部 本部長):

みなさんそうかもしれませんが、お米が消費されなくなってきました。私自身もお米を買って炊飯器で炊いて、ということをあまりしていません。全盛期より3割から4割は減っている、と言われています。お米の需要が減ってくるとなると、我々も「出口」を持たないと生き残ることができません。非常な危機感のなかで我々が目指したのは、垂直統合型の事業拡大です。

私たちは「M&A」という手段を採りました。

お米を卸す形態から、元気寿司や魚べい、スシローなど、お米を使ってみなさんにお届けする小売り業界まで進出しています。それと同時に、農家さんのお客さんと接していると、野菜や魚の扱いもありますので、横展開しています。水産加工業も企業グループのなかにあります。

中間流通に位置する我々はいま、生産者さんや水産の漁師さん、お客さん一人ひとりと、消費者の間の接点となろうとしています。何をしようとしているのかというと、すべての接点を面で捉える食のバリューチェーンを構築したいというビジョンを抱えています。このままだと美味しいお米が我々の子ども、孫の代で食べられなくなるので、それを守りたいのです。しかし、業界がかなり古く、大きい業界ですので色々な苦労があります。

たとえば、消費者のライフスタイルが変わってきたり、お米の生産現場のやり方が変わってきたりと、いままでのような対応では通用しません。そういった新たな流通構造へと変革できていないことが、さまざまなギャップを生み出しているのです。

そういった問題点をひとつずつ解消していくために、私のところのアグリイノベーション事業本部がやっているのは生産分野への拡大です。具体的にやっているのはデジタルアグリ、スマート農業、アグリテックと色々な言い方をしますが、近年発達するICT技術を農業に持ち込んで、新しいかたちを作ることをやっています。簡単に言っておりますが、実際にはものすごく大変な作業です。新しいことを進めて行かなければ構造が成り立たないなか、四苦八苦しながら一歩ずつ進んでいる状況です。

三好氏:

話を聞いていると、キーワードを変えれば花業界とほとんど似たような感じだと思います。

お米を食べなくなった、炊かなくなった、そんななかでも出口戦略として川下に下りていって、いろんな買収を通じてコネクテッドしながらできないことをやっていこうとされている。

また、全体を面で捉えながら、俯瞰して見るなかでライフスタイルの変化とのギャップを埋めていく作業が生まれている。消費者のライフスタイルが変わるなかで、パッと浮かぶお米といえばコシヒカリ、あきたこまち、ゆめぴりかといったブランド米があるわけですが、そうではないニーズがあるとお考えということでしょうか?

田中氏:

仰る通りですね。お花の業界も似ていると思うのですが、日本人は銘柄が大好きです。

しかし、流通している全国銘柄は数種類。お米を食べる生活シーンを想像していただけると分かりやすいと思うのですが、どこかお惣菜屋さんでお弁当を買って帰ったりと、外食の業界は伸びています。

その場合のお米は商品ではなく原材料なので、どうしても価格的な制約がある。これを業務用米、失礼ですがB銘柄と呼んだりします。

コシヒカリやあきたこまち、ゆめぴりかといったブランド米よりも少し価格の低いお米です。とはいえ、味は美味しくニーズはとても広がっています。ただ、そういったお米はそう多く作られてはいないので、その溝がギャップとなっています。

三好氏:

アグリイノベーション事業本部ではそこに焦点を当てているということでしょうか?

田中氏:


そうですね、そこに焦点を当てています。

日本のお米は都道府県行政が種子栽培の義務を種子法で持っておりまして、民間品種が極端までに少ないのです。みなさんが聞いたことがあるお米も、ほとんどが都道府県の農業試験場が開発した品種です。

一方で業務用米が不足しているので、お客さんにお米がないと怒られるわけですよね。そこで我々が、民間で開発された品種の販売権を得ることで、そのギャップを埋めることを現在進めているというわけです。しかし、これからもこの溝は拡大していく、と考えられています。

三好氏:

花とはニーズが逆ですね。お米の場合は個人消費が落ちてきていて、中食、外食、業務用を提供しなければいけません。花は逆で、業務用が主流のなかで個人消費を伸ばすことが課題です。構造は逆ですが、アプローチは親しいところがあると思います。

消費者目線で商品を作り、消費者のフィードバックを分析することが重要

三好氏:

お花のニーズもライフスタイルの変化に伴って変わってきているのでしょうか。

木本氏:

だいぶ変わってきていると思います。スマートに飾る若い世代の方も多いですし、核家族化で一軒家からマンション住まいが進んでいるわけですから、飾る場所はどんどんコンパクトになっています。

黒田氏:


割合的に住居は小さくなっている、という生活環境の変化もあります。

三好氏:


黒田さんは開発室におられるということで、メインストリームではない、新しい取り組みもされていると思いますが、黒田さんのお仕事の共有をお願いできればと思います。

黒田氏:

ひとつの事例ですが、家庭需要に特化し、定期的に花をお届けする取り組みをさせていただいています。

消費者が欲しいものを作って納める、という仕組みがうまくいっている事例で、年々倍々に会員が増えていっています。同じ内容のものを納めなければいけないため、花材の供給が追い付かず、今は会員数の増加にストップをかけているところです。現在関東中心に4万人弱の会員がいて、10本ずつ月に2回送るので1ヵ月に80万本くらいの花を納めています。

ここで重要なところは「消費者目線で商品を作ること」です。

その取り組みでは、運賃込み980円でお客さんのところにお花を届けます。おそらく、売る側から考えるとそんなの無理だとなってしまうでしょう。そもそも男性目線だと、売れるか売れないか、値段が高いか安いかという話をすることが多いですよね。

一方、女性はこの花を1000円以内で欲しい、という話をします。売れるかで、ではなくて買いたいか、の目線ですね。そこからどうやったらこれができるか。運賃の話や段ボールの話、必要な仕様と1箱の入数等色んなことを市場と産地とお届け業者さんで全部一緒にやったものがこのサービスになっています。

そして、実際に届いてからの消費者のフィードバックがとても重要です。どの市場も、卸屋さんもデータ分析をしていると言いますが、去年荷物が多かったか少なかったか、値段が高かったか安かったか、についてがほとんどだと思います。

うちで見ているものは消費者がSNSでアップする数。人気のある花はやっぱりアップされる数が多いんですね。他にも、バラというキーワードで検索したときに、何色がたくさんあるのかといったことです。

こういったフィードバックを分析した上で、買うか買わないか女性陣と話をして商品を作る。それから産地さんにお花を作ってもらうというのが重要ではないかなと思います。

花が安くなってしまうのはだいたいにおいて、旬の時期です。一番品質がいいときなのにただ数が多いというだけで安くなってしまう。それがもったいないのでこの仕組みを作ったのが、スタートの理由でした。

ですから、依頼して作ってもらった花は全部買い取ります。もちろん要望した仕様に合うものを作っていただくようにはしていただく必要があって、旬ではなく品質が悪いから安くなってしまっているというのではお客様は離れてしまいますよね。

事前に価格を決めて農家からお米を買う取り組み! ICT技術と投資、生産効率アップで回収を図る

三好氏:

次に田中さん、生産までのアプローチについてもう少しお話を伺えませんか。生産者もJAや全農に納めることもあるでしょう。そのなかで神明さんにどう関わって流れていくのか、お話ください。

田中氏:

米の相場は乱高下が激しいため、価格がどうなるかわからないものを作ります。お米を作るのに1年かかりますから、この辺を解決するために事前に価格を決める、ということをやっています。

実は、来年の価格をいま決めてしまいましょうということは米業界ではあまりやらないことです。

たとえば、いま1俵で1万5000円でいいですよ、と決めてしまいます。来年1万8000円になるかもしれないし、逆に1万円になるかもしれません。どうなるか分からない状況のなかで農家さんに約束してあげます。農家さんのリスクを我々が代替するからこそ、農家さんと取り引きできるのではないかなと思います。

実際はしませんが産地の方とよく、「100年契約でもいいですよ」というお話をします。どうしても農家さんは先銭がかかります。最初に種子なんかを購買しますが、現金化されるまで遅いので、やむを得ずキャッシュがいる商売だと思います。そのなかで、いくらお金が入ってくるか分からない不安な状況をなんとかしてあげたい。

どこの農業の業界でもそうなのですが、ICTを使わないとなかなか効率が上がりませんし、コストも下がりません。

我々がやっていることのなかに「センシング」があります。たとえば田んぼなら水位を自動的に計ります。これをやると田んぼの見回りの回数が減ります。

ICTの活用はそういったものと、作り方のノウハウ作りですね。たとえば新規参入した方が収量を取れるよう、腕のいい方の作り方をマニュアル化し、デジタル化していくという仕組みをやっています。

その場合の先行投資についても、我々がしております。かなりの金額になるので、相当な覚悟がいります。回収なんか何年先なんだ、という話ですね。しかし、米の取り扱い量が増えれば、投資分を回収できるのではないでしょうか。

三好氏:

中食、外食、消費者が求める美味しくて値ごろ感のあるお米が流通できるようになるというわけですね。花業界にも通じるのは、そういった取り組みを我々がいかに花でやるのかということですね。現場のみなさんといっしょに今後も考えて行きたいと思います。

 

本日のお話は、消費者が求める規格と価格、それを実現、そして成功させるためにいかに生産者に量産化してもらうかというお話でした。さらには、量産化を促すためのコストダウンと投資、それを守っていただくための契約に関する話題が出ました。

また、前編・後編にわたって『Connected(繋がる)』をキーワードに花文化の発展や、マッチングについて考えてきました。

今後も生産者や産地、卸しと小売店など業界内から他業種に渡るまでさまざまな人々との繋がりを持ち、情報共有や意見交換などの取り組みを行うなかで花業界が活性化して行くことを願います。

 

 

 

取材協力/一般社団法人 花の国日本協議会
取材・文/大地功一

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