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東京2020大会を夏花で彩る

第3回 暑い夏を乗り切ることができる強者の花たち

公開日:2019.11.23

2020東京オリンピック・パラリンピック大会は夏季に開催されますが、この時期の花苗の生産・出荷量は少なく、部分的な利用に限られていました。

したがって、2020年のオリンピック・パラリンピックで目指した、日本の花によるおもてなしを実現するためには、利用場面に応じた適正な夏花を選択できるよう研究する必要がありました。

そこで、2014年から2018年の5年をかけて、暑い夏を乗り切ることのできる花の種類や特徴などを明らかにしてきました。本稿ではその成果の一部についてご紹介します。

エリアを分けて夏花を選抜

夏花の調査は、都市部、臨海部、市部の大きく3つのエリアに分けて、それぞれの場所で実用性を評価しました。都市部として、池袋サンシャインシティ、東京ドームシティ、六本木ヒルズ(お花がかり㈱施工管理)、臨海部として、シンボルプロムナード公園(東京港埠頭㈱施工管理)、市部として、東京都農林総合研究センターを設定しました。

都市部における夏花の植え付け(池袋サンシャインシティ)
臨海部における夏花の植え付け(シンボルプロムナード公園)
市部における夏花の植え付け(東京都農林総合研究センター)

夏花審査会で花の専門家がそれぞれの立場で評価

定植用の花苗のポットサイズや用土などは市場流通している規格で、定植や灌水などの管理作業は各施工業者の慣行法としました。夏花の評価は、施工業者、市場、生花店など花き関係者を中心に6~7名で構成した審査会(7月下旬、8月中旬、9月上旬の3回実施)で実施(市部は研究員による評価)。品質の優劣は、生育や開花の状態、病害虫の有無等を総合的に点数化して判断し(優:3点、良:1点、可:0点、不良:-1点)、いずれの審査会においても基準点(平均点1.5点)以上のものを有望種としました。

審査会の様子(東京ドームシティ)

暑い夏を乗り切れた夏花は意外に少ない

暑い夏を乗り切れる夏花を選定するために、夏に強いと言われていた1200種以上の花きについて適応性を調査。その結果、7月下旬から9月上旬にかけて高い観賞性を維持できた夏花は、ビンカやペンタスなど250種類程度、全調査数のわずか20%のみでした。

調査地点を3つのエリアに分けましたが、夏の暑さに適応性が高い種類は調査場所に依存しないことも明らかとなりました。さらに、適応性の強弱は、種類(品目)による違いも大きいのですが、品種の持つ力が顕著に現れることも判明しました。

オススメしたい、夏花10選

選抜された250種類の夏花の中から特に有望と判断した種類を、特徴と管理方法なども含めご紹介していきます。なお、ビンカ(にちにちそう)、ペンタス、アサガオ、なでしこ(ダイアンサス)については次々号以降に個別にピックアップして取り上げますのでここでは割愛します。

1.アンゲロニア

ゴマノハグサ科。高温多湿条件でも生育旺盛で、花は下から順番に開花します(穂状)。花色は、白、ピンク、紫色のみですが濃淡を含めると各シリーズ5色程度は色幅があります。一般に、種子系よりも栄養系の方が生育旺盛で花が大きくなります。

わい性種(「セレニータ」など)は花壇の最前面での利用に向きます。栄養系(「アークエンジェル」など)は花が大きく強健です。密植し、ボーダー的な利用法もありますが、日照時間が少ないと花数が少なくなるため広めに植えることをおすすめします。ハダニが発生しやすいため、葉の上からこまめに灌水するなど対策が必要です。花が少なくなった場合は、切り戻すことで復活させることができます。

2.カンナ

カンナ科。種子系と球根系があります。花は大きく、目立ち、花色は多彩です。葉色も多様で斑入りや銅葉などがあり、葉を楽しむ品種「ビュー」シリーズは有名です。

暑さ、乾燥に強く、水が少ない場所でも枯れることはありませんが、極端な乾燥で生育が停滞します。株を充実させるためには、過湿条件が適します。株元から分枝した新しい芽が連続して出て花が付きます。花が大きく目立つため、密植ではなく、アクセントとして使用すると良いです。種を持つ前に花がらを除去した方が株は弱りません。

3.ケイトウ

ヒユ科。花壇苗として利用されるのは羽毛咲き種が主で、緑葉と銅葉系があります。最近は混色で多粒播きし、ロウソク状に見立てたものが市場に出回ります。そのほか、中高性の穂が槍状となるノゲイトウ系も人気があります。

暑さ、乾燥には比較的強いのですが、過湿に弱いため、水はけの良いところに植えつけます。わい性種は花壇前面に密植し混植で、中高性種(ノゲイトウ)は花壇の後方で密植せず、花壇の中のアクセントとして使用すると面白味のある花壇が作れます。緑葉よりも銅葉系の方が暑さに強い傾向にあります。9月からシロオビノメイガが多発するので注意が必要です。

4.ジニア

キク科。花色、花型は豊富で、一重から八重まで多くの種類が販売されています。花の大きさも小輪のプチランド系から大輪のスウィズル系まで幅広く多様です。一部の品種では、斑点細菌病やうどんこ病に弱く、過湿にしない、風通しを良くするなどの工夫が必要です。

暑い時期でも連続開花し生育旺盛ですが、乾燥が強いと生育が停滞し、花が退色します。耐陰性はありますが、日照時間が少ないと花弁がよれてきれいに展開しません。分枝が良い品種では1株でも十分生育するので株間を広くとります。大きくなり過ぎた場合、株の1/3~半分程度で切り戻すと、再び開花します。花がらは、灰色カビ病の発生源となるためこまめに取り除くことが望ましいです。

5.センニチコウ

ヒユ科。わい性種から高性種まであります。いずれの品種も強健で揃いが良く栽培が容易です。グロボーサ種が主流ですが、鮮紅色のハーゲアナ種(高性)もあります。花壇、切り花、ドライフラワーで利用されています。

分枝が良く、開花期間も長いため、コンテナやガーデンの縁取りに向きます。わい性種は寄せ植えで利用されることが多いのですが、高性種は花壇後方のアクセントとして利用されます。日当たりが良くやや乾燥したところを好みます。高性種は窒素過多で軟弱徒長し強風で倒伏しやすくなるため、注意を要します。

6.トウガラシ

ナス科。高温条件でも生育旺盛で、基本的には頂点に結実します。果実が細長いタイプ、円錐型、丸型など果形は様々です。色変わりするタイプは人気があります。果実が黒色で強光と高温で葉色が黒くなる品種もあります。

暑さや乾燥に強く、生育も旺盛です。1株でも存在感があるため、多くは花壇の中のアクセントとして使用されます。また、コンテナや鉢植えでの寄せ植え材料として使用されます。乾燥に強いのですが、多湿にならないように気を付けます。アブラムシやハダニが付きやすいため、こまめに観察し早めに防除する必要があります。

7.ベゴニア

シュウカイドウ科。暑さ乾燥に強く、春から秋まで長期間花を楽しめます。わい性種センパフローレンスは定番ですが、最近はより耐暑性に優れる「ワッパー」シリーズなど巨大輪種が多く出されています。葉色は、緑色と銅色の2種類があります。

多く流通しているセンパフローレンス種は揃いに優れるため、広い面積を景観形成するのに利用されています。色合いが明るいため混植や鉢の寄せ植えにも使用されます。乾燥に強く、長雨でも株は傷みにくいのですが、花がらが葉の上に残ると灰色カビ病が発生するため、なるべく取り除くようにします。木立性のベゴニアは生育が早く花が大きいため、花壇の後方的利用やアクセントして使うと良いです。銅葉系品種は高日射と高温に特に強く、高温が続くと葉が赤みを帯びてきます。

8.ペチュニア

ナス科。直射日光に強く乾燥にも比較的強いのですが、過湿に弱く、耐雨性を付与した小輪多花系の品種改良が進んでいます。花色、花型が豊富。栽培が容易で分枝に優れ、種子系や栄養系、立性やほふく性など多様な品種が出回ります。

ほふく種は花壇の最前面、あるいはハンギングでの利用に向きます。立性種も主に最前面で利用されますが、栄養系の小輪・多花系の品種は、草丈が50cm程度となるため、中段での利用も可能です。特に大輪系の品種では、極端な乾燥と梅雨時期の降雨に弱く、株元から葉が枯れ上がり、花付きも悪くなるので注意が必要です。長雨が続くと灰色カビ病が発生しやすいため、こまめな摘花が必須です。

9.マリーゴールド

キク科。マリーゴールドには基本的にフレンチ種とアフリカン種があります。前者は株が小さく多花性で、後者は株が大きく大輪の花を咲かせます。市場に多く出回っているのは前者で、最近は黄色、オレンジ以外に赤色が入った品種もあります。夏の暑さにはフレンチ種よりもアフリカン種の方が強い傾向です。

最近のフレンチ種のマリーゴールドは、3~4本植えや多粒播きのボリュームのある苗が中心で、株間を狭くしすぎますとすぐに株が混み合います。その影響で、蒸れにより下葉が枯れあがったり、土壌病害やハダニが多発しやすくなるため、古い枝を取り除くなどして風通りを良くするよう心掛けます。暑い時期でも比較的活着が良いため、大きくなりだらしなくなってきたら新しい株に更新するのも一つの手です。

一方、アフリカン種は生育旺盛でボリュームが出るため、1本植えの苗が販売されています。花が大きく見栄えがしますが、茶色に変色した花がらが目立ち、また病気の元となるため、ハサミなどで早めに取り除くようにします。

10.メランポジウム

キク科。夏の暑さに強く、連続開花性があり、草姿が自然とボール状にまとまります。花色は基本色が黄色で、濃淡で品種が異なります。

分枝が良く、開花期間も長いため、コンテナやガーデンの縁取りに向きます。草姿のまとまりがよいため、単独で鉢に植えられることもあります。日当たりが良いところを好みますが、半日陰でも問題はありません。極端な乾燥を嫌い、乾燥で葉先が枯れることがあります。新しい花が上に次々と咲くため、花がらは目立たず摘まなくても良い、ローメンテナンスの花です。肥料切れに注意すれば長期間花を楽しめます。

以上のように、ここでは、特におすすめの10の夏花について取り上げました。基本的には、品種にかかわらずいずれも夏の暑さには強いのですが、ペチュニアやジニアなど花の種類によっては、耐暑性に対して品種による差が大きいものもあります。

(公財)東京都農林水産振興財団ホームページの「夏花による緑化マニュアルや東京港埠頭株式会社ホームページの「お台場おもてなしセレクション実施報告書に夏の暑さに耐え評価の高かった品種について記載されています。

ぜひ、夏花えらびの参考にしてください。

プロフィール

岡澤立夫(おかざわ・たつお)
主任研究員(博士)。東京都で6年間普及指導員として現場指導にあたる。
平成17年からは花きの研究員として、屋上緑化資材「花マット」や地中熱ヒートポンプなどの省エネ技術ほか、花壇苗の屋内向け商品「花活布(はなかっぷ)」を開発。現在は、オリパラに向けた夏花の研究を中心に取り組んでいる。

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