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東京2020大会を夏花で彩る

第4回 都市緑化に夏花を取り入れるために気を付けること

公開日:2019.12.23

都市緑化ではさまざまな外的環境の影響を受けます

2020東京大会を契機に、夏花の利用拡大が期待されています。前号ではアンゲロニアやメランポジウムなど有望な花10種類について、利用方法を中心に解説しました。

しかしながら、暑さに強い花を適切に選択できたとしても、植え付け直後から長期間、きれいな花を維持できない可能性があります。植え付ける場所によっては日照や土壌・水分条件が異なり、さらに植栽密度や花壇デザインの仕様次第では、他の植物との競合などの影響を大きく受けるからです。

特に都市緑化では、植え付け直後から見映えのする花壇を作らならければならず、狭い場所に多くの種類の植物を取り入れたデザインが主流です。また、都市部では灌水設備が整備されている場所が少なく人工基盤で土層が浅いため、高温期は特に乾燥しやすくなります。

これらに加え、高層建築物や密集した住環境、高木間の植栽においては日光が遮られ、日照が不足しやすくなります。

高層ビル間の植栽(池袋サンシャインシティ)

これらの理由から、都市部で景観性の高い花壇を維持するためには、植栽環境を考慮したうえで、適切な花を選択することが重要です。

本稿では、植栽環境として日照、土壌水分、他の植物との競合に着目し、それぞれに対する植物の適応性を耐低日照性、耐乾燥性、デザイン花壇適性として評価した結果を中心に報告します。

低日照性に対する適応性の評価

日照についてこれまで研究されていたのは、異なる遮光条件下における生育や開花に及ぼす影響といった栽培上の技術開発が中心でした。夏場の高日射に対して、どのくらいの遮光が最適か、シクラメンやプリムラなど高温や高日射を好まない花きなどで研究がなされてきました。

一方、夏花など花壇苗の利用場面を想定し、日照の影響を研究した事例はこれまで皆無で、耐低日照性を評価する方法を構築する必要がありました。そこで、遮光資材を活用し、人工的に日陰条件を作り出し、条件の違いによる影響を調査することで、耐低日照性を評価することにしました。

遮光資材(遮光率90-95%)を用い、タイマー制御で遮光資材を開閉することで低日照条件を人工的に作り出しました。

試験区として、終日日照区(遮光資材を展張せず、終日光が当たる条件)、午前日照区(午前は遮光をせず光が当たるが、午後は遮光資材で日陰を作り出す、12:00-19:00遮光)、午後日照区(午前は遮光資材で光が当たらないが、午後は遮光資材を展張せず光が当たる、5:00-12:00遮光)、終日遮光区(遮光資材を明るい時間だけ展張し、夜間は解放するため、終日日陰となる条件、5:00-19:00遮光)の4条件を設定しました。

ジニア、ベゴニアなどの10.5cmポットサイズの花苗をプランターへ3株ずつ鉢上げし、それぞの試験区に設置しました。

遮光資材により人工的に日陰を作り出す

遮光処理開始から約1ヵ月後に供試した夏花の生育や開花に及ぼす影響を調査しました。耐低日照性の評価は、基本的には終日日照区(遮光処理しなかった区)に対する遮光処理による開花数への影響で評価しました。最終的には生育の状態も勘案し総合的に判断しました。

すなわち、低日照への暴露により開花数が低下し生育が緩慢になりますが、耐低日照性が高いものほどその影響は小さくなります。

耐低日照性の評価(結果の一部を抜粋)

◎:非常に強い、〇:強い、△:普通、×:弱い、××:非常に弱い

15品目39種の夏花について耐低日照性を評価した結果、低日照による影響は品種よりも品目(花の種類)の違いで顕著でしたが、ジニアやペチュニアのように品種間差がみられるものもありました。

耐低日照性は、ニューギニアインパチェンス、ベゴニア、ユーフォルビア、イポメア、コリウスが極めて高く、ジニア、センニチコウ、ビンカ、ペチュニア、メランポジウムが高く、アゲラタム、ポーチュラカが中程度で、ダイアンサス、メカルドニアが低いことが分かりました。

したがって、北側の花壇やビル間植栽などで十分な日照時間を確保できないところでは、ダイアンサスやメカルドニアの利用は避け、ニューギニアインパチェンス、ベゴニア、ユーフォルビアなど耐低日照性の高い花を用いることで長期間きれいな花壇を維持することができます。

日がほとんど当たらない場所でもニューギニアインパチェンスはきれいな花を咲かせます。

乾燥に対する適応性の評価

耐乾燥性に関わる研究は、分子学的なレベルでは多く報告されています。植物ホルモンの一種であるアブシジン酸(ABA)が耐乾燥性の獲得において重要な役割を担っています。特に、気孔の閉鎖、それによる葉からの蒸散抑制に大きく関与していることが明らかにされています。

耐乾燥性以外にも耐塩性や耐冷性などのストレス応答に関与する物質として、種子植物だけでなくコケやシダなど幅広い種類の植物で普遍的に働いています。分子機構もかなり詳細に解明が進んでいて、乾燥ストレスを人為的に制御できるような薬剤の開発や品種改良にも役立つことが期待されています。

しかしながら、どの種類の花壇苗が乾燥に強いか弱いかといった現場レベルで必要となる情報は造園業者の経験や実績によるところが多く、植物個々の乾燥に対する適応性についても耐低日照性同様、明確な研究方法が確立されておらず、研究事例はありませんでした。

植物が乾燥に耐えることができるのは水分を体内に溜め込む能力と蒸散により水分を失わない能力が関係すると考えられます。そこで、潅水間隔を変えて植物を育てた時の反応と灌水をストップしたのち枯死するまでの日数を調査することで、耐乾燥性を総合的に評価することとしました。

具体的には、次の2通りの乾燥処理方法を用いました。①灌水間隔を3日、8日、13日に設定し、乾燥処理開始から一定期間後に枯れ具合を数値化、②灌水を断ち、株全体が委凋、完全枯死するまでの日数を調査しました。

耐乾燥性の評価(結果の一部を抜粋)

◎:非常に強い、〇:強い、△:普通、×:弱い

その結果、耐乾燥性はビンカなど品種によって異なるものもありましたが、品目間で似たような傾向を示しました。イポメア、カンナ、ダイアンサス、ビンカ、ベゴニア、マツバボタン、ユーフォルビアは耐乾燥性が極めて高く、アサガオ、アンゲロニア、ジニア、バーベナ、ペチュニア、ペンタスは比較的高くなりました。

一方、ニューギニアインパチェンス、サルビア、ツンベルギア、ハゲイトウは耐乾燥性が低いことが分かりました。

これらの結果から、都心の灌水設備が不十分なところや土層が浅く乾燥しやすい場所ではイポメア、カンナ、ビンカなどの利用が有効と考えられます。一方、ニューギニアインパチェンスやサルビアを植え付ける場合は、潅水が十分行えるか確認する必要があります。

多種類の花を混植するデザイン花壇に不向きな花もある

デザイン花壇ではさまざまな花を組み合わせカラフルに飾り付けますが、花によってはデザイン花壇に不向きな種類もあると考えられます。そこで、7~9月の観賞期間中に、開花性(開花連続性)と侵食性(他の植物との競合に勝ち侵食する能力)を調査し、デザイン花壇への適応性を総合的に判断しました。

花壇のデザインは花火が打ち上がるイメージで、デザインと定植は都内の施工・管理会社(お花がかり㈱)の協力のもと実施しました(10.5~12cmサイズの夏花を6月下旬に定植)。

花火をイメージしたデザイン花壇(日比谷公園)

デザイン花壇における開花性,侵食性および適応性評価

a)7~9月までの開花連続性、開花数などを達観により判断。開花性に最も優れるのを5、劣るのを1とした

b)他の植物との競合に勝ち侵食する能力がどれいくらいあるかを達観により判断。侵食性の最も高いものを5、低いものを1とした

c)園芸店、設計・施工業など花き産業に携わる専門家7名により、点数化。審査会は2018年8月4日と9月4日の2回実施。優:3点、良:1点、普通:0点、不良:-1点とし、2回の平均値を示す。◎:2.0~3.0点、〇:2.0~1.0点、△:1.0~0.0点、×:0.0点未満

 

注)供試品種:上から、アサガオ「サンスマイル混合」、インパチェンス:「サンパチェンス オレンジ」、カリブラコア「シャル・ウィ・ダンス ピンクスター」、カンナ「サウスパシフィック スカーレット」、クレオメ「カラーファウンティン ホワイト」、コリウス「ゴリラJr. ガーネット」、コリウス「ゴリラJr. グリーンハロー」、サルビア「ビスタ レッド」、ジニア「プチランド ホワイト」、トウガラシ「ブラックパール」、トレニア「サイクロン ホワイト」、ハツユキソウ「氷河」、ブルーサルビア「フェアリークィーン」、ベゴニア「セネタIQ ホワイト」、ペチュニア「スプレッド ホワイト」、マリーゴールド「プラウドマリー オレンジ」、ランタナ「レインボー オレンジ」、ルドベキア「プレーリーサン」

 

その結果、インパチェンス、カンナ、クレオメ、コリウス、トウガラシ、トレニア、ルドベキアは開花性、侵食性および観賞性に優れ適応性が高く、デザイン花壇でも十分活用できることが明らかとなりました。

適応性の高かったインパチェンス、カンナ、クレオメ、コリウス、トウガラシは9月時点で草丈が80cm以上あり、他の植物との競合に打ち勝つことができました。トレニア、ルドベキアは草丈は60cm程度でしたが、開花性と浸食性に優れ、適応性が高くなりました。

一方、カリブラコア、サルビア、ジニア、ペチュニアなどは草丈が50cmよりも低く、侵食性の高い種類の影響を強く受け開花性が低く、デザイン花壇には不向きであることが分かりました。したがって、これらの花を用いるときは浸食性が低いもの同士を組み合わせるか、同じ種類のものを面的に利用するなどの工夫が必要です。

本稿では植栽された花がさまざまな外的要因によって影響を受け、本来の開花特性を発揮できない可能性があることを解説してきました。これは夏花にかかわらず、他の季節の花でも当てはまります。

しかしながら、例えば冬花はもともと日照が少ない時期に適応した種類が多いため、低日照の影響を夏花ほど受けません。このように植え付け時期の違いで外的環境に対する適応性に差はありますが、ここで解説してきましたように、デザインありきで花の種類を決めるのではなく、どのような環境に植え付けるのかきちんと把握したうえで花を選ぶように心がける必要があります。

プロフィール

岡澤立夫(おかざわ・たつお)
主任研究員(博士)。東京都で6年間普及指導員として現場指導にあたる。
平成17年からは花きの研究員として、屋上緑化資材「花マット」や地中熱ヒートポンプなどの省エネ技術ほか、花壇苗の屋内向け商品「花活布(はなかっぷ)」を開発。現在は、オリパラに向けた夏花の研究を中心に取り組んでいる。

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