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おこまり鳥獣害 どうする利活用

猟師と考える、山と鳥獣害①

公開日:2019.12.3

野生動物の被害が年々深刻化している。静岡県南伊豆町で猟師として野生動物の管理・活用や、森と里、海のつながりまで考えた環境保全に取り組んでいる(株)森守 代表取締役社長  黒田利貴男さんに、山のこと、野生動物のこと、そしてみんなができる鳥獣害対策についてご紹介いただきます。

株式会社森守 代表取締役 黒田利貴男さん。21歳の時に猟銃免許、猟銃所得許可を取得して以来、狩猟期間は山に入る。(撮影/鈴木さよ子)

野生動物の目線で考えよう

イノシシ、シカ、サル等、野生鳥獣による農作物被害が深刻化するなか、いずこの地域も農作物の被害防止対策を的確かつ効果的に実施する必要に迫られています。

鳥獣害が、ここまで広がって、深刻化しているのはなぜでしょう?

その理由として、狩猟者の高齢化と減少、耕作放棄地の増加、住民の高齢化……などが挙げられますが、それはもっぱら人間目線の考え方です。

くくりわなにかかったイノシシ。70kg前後のオス。この後猟銃で捕獲。

では、動物たちの目に、今の状況はどのように写っているのでしょう?

私は野生動物と話したことはありませんが、自分が彼らなら多分、こう考えているだろうと推察することはできます。もし彼らが人間の言葉を話せたら……

「エサが足りないよ」

「森のなかに、隠れ家になる藪がないよ」

「水の溜まった遊び場がないよ」

「森のなかは、わなだらけで危険だよ」

「里の人家の周りにエサがあるぞ」

そう訴えているように思うのです。
なぜこんなことになってしまったのでしょうか?

今から50年以上前、森の木々は薪炭材や建築材として利用され、人の手が入り、天然更新されていました。木々の新芽やドングリなど、野生動物たちのエサが豊富にあり、隠れ家もまたいたるところにありました。

ところが今、森は資源としての価値がなくなり、人の手が入らず、木が大きくなり、林冠が形成され、動物たちのエサが少なくなっています。

廃業した鮎養殖池に入り込み、出られなくなった仔イノシシ。この後逃した。

高木の枝葉が茂り、林冠ができることで、森の中に光が入らず、隠れ場になる藪が少なくなっています。森の保水力が低下することで、野生動物のお風呂である『ぬた場』や、鼻スコップで岩を起こし、その下に潜むサワガニなど取って仔イノシシが初めて捕食を学ぶ水場も少なくなっています。

一方、野生動物たちにとって、人の手が入らない耕作放棄地は、格好の隠れ家になっています。そこに潜み里に出てきては、住民が栽培している野菜や果物を食べるのです。戦後日本の野菜や果物は、品種改良が進んで栄養価や糖度が高く、小面積で収量が上がるものが増えています。これは動物たちにとって格好の「ご馳走」となり、一度味を占めたらまた食べようとやってくるのです。

人は、住民が高齢化したから、猟師が少なくなったからと、捕獲に頼る人任せの獣害対策を考えがちです。しかし当の狩猟者も高齢化して、人数も減っているので、かつてのように山に分け入り、けもの道を辿るのではなく、里山周辺の比較的楽な場所にわなをかけがちになります。すると野生動物たちはそれを避けるようにして、コンクリートやアスファルト道路の上を歩くようになり、私たちの前に姿を現すのです。

私が知る限り、野生動物は本来臆病な動物です。それがいつしか人や車、灯りを怖いと感じなくなり、それを見ても逃げることもなくなりました。それはなぜか?

人里の空き家には庭があり、手入れされぬまま草が伸び藪になっている。そこは野生獣から見ると格好の隠れ家です。住人はいなくても、庭木の名残りのミカンやカキなどの果物がなり続けます。カラスなどの鳥類はもちろん枝に留まってそれを啄ばみ、そこから落下した果実を、野生獣たちが捕食し、格好の餌場になるのです。

そんな荒れた庭をもつ廃屋には、アナグマやハクビシン、タヌキなどの小動物が住み着き、繁殖や子育てをするようになります。こうして彼らが森ではなく、荒れた畑や庭にエサを求めるようになると、里山から住宅地までが、野生動物の被害に遭うようになってきました。

くくりわなにかかったアナグマ。この後食用に。

私は、伊豆半島の最南端、南伊豆町の里山で稲作、椎茸栽培、林業に従事し、そして長年狩猟者として暮らしながら、自然の移り変わりをみてきました。ずっとここに住んでいるわけですが、子ども時代に比べると、森や里山の風景がずいぶん変わってきたのがわかります。

「獣害駆除」と「有害鳥獣捕獲」

みなさんは「害獣駆除」と「有害鳥獣捕獲」の違いをご存知ですか?

「獣害駆除」は、捕獲に猟銃を使うとき、警察にその旨を届け出る際に使われます。一方、「有害鳥獣捕獲」は、猟銃でもわなでも、捕獲手段に関係なく、行政機関に捕獲そのものの許可を得る際に使われます。人や農作物に被害をもたらす野生獣を捕まえるという意味では、同じなのですが、私には「害獣駆除」の方がしっくりきます。

「有害鳥獣捕獲」には、あたかも有害なものを捕獲するというイメージがつきまといます。私も捕獲したシカやイノシシの肉を販売するとき、よく、「有害なものを食べるんですか?」と聞かれます。そんなときは、「いや違います。害獣駆除で捕獲したものです」と、答えるしようにしています。

ちなみに有害鳥獣捕獲の許可は、かつては各都道府県へ申請していましたが、2015年の地方分権改革により、国から地方への事務・権限の移譲が行われ、各市町村で事務・許認可届出ができるようになりました。

以前は申請から許可が下りるまで1週間ほどかかっていたのが、これによってわずか1〜2日で下りるようになり、被害が出てからすぐ対応できるようになったのです。野生動物は、移動する生き物です。許可を得てすぐ捕獲できるようになったので、スムーズな捕獲につながりました。

有害鳥獣捕獲の対象はあくまでも農地

住民が耕作を諦めてしまうと、以後作付けの見込めない「耕作放棄地」や「遊休農地」が増えていきます。そこで被害が起きても捕獲の申請をしないのは、一般の方にしてみれば「なぜ?」と思うかもしれません。

そもそも有害鳥獣捕獲というのは、基本的に栽培を続行している農地で被害が起きて、はじめて申請できるのです。つまり、基本的に山林や人家の庭先、栽培していない耕作放棄地や遊休農地は、その対象になりません。その結果、地方の被害の多い地域では、耕作を諦めた放棄地が増え続け、野生動物たちは駆除もされず野放しにされ、里に出やすい環境が生まれる……そんな悪循環が起きているのです。

[図1]の農林水産省による「野生鳥獣による農作物被害金額の推移」を見てみましょう。2017年度の野生獣による農作物被害金額は、約164億円。2010年度は239億円だったので、統計上は7年の間に約3割減少したことになります。本当に被害は減っているのでしょうか?

[図1]

有害捕獲許可申請書には、被害金額と被害面積の記入欄があり、それを提出しなければ許可が下りません。

統計の元になっている数値は、耕作されている農地限定の有害捕獲のみのデータで、申請時に被害金額や被害面積を記入した数値をまとめたものなので、山林や空き家の庭先、ときには住民が居住している家の庭先や、石垣を崩され、被害が出ても有害捕獲の対象にはならないのです。

しかし、実際の被害は山林や耕作放棄地、空き家、民家の庭先なども含めると、膨大なものになっているはず。数字だけが一人歩きしないように、現状に目を向けることも大事ではないでしょうか?

猟銃よりわなに捕まる野生獣

環境省の調査によれば、2018年度のニホンジカの捕獲頭数は、56万1千頭。うち14万1900頭が狩猟、41万9100頭がわな等で捕獲されています。イノシシは60万2千頭。うち13万8100頭が狩猟、46万4100頭がわな等。つまり猟銃よりも、わなに捕まる野生獣の方が断然多くなっているのです。

[図2]

70年代には全国に50万人以上いた狩猟者は、2015年には19万人。約3分の1に減っています。うち60歳以上の割合は約12万人で、18〜59歳は、約7万人。3分の2が高齢者ということになります。

ですが捕獲頭数は驚くほど増えています。2015年の捕獲数は、なんと1975年の9.2倍!

私は、国や都道府県がいうように、狩猟者が減少して捕獲圧がかからなくなったために、農業被害や森林被害が増えたわけではなく、人間が積極的に山に入って手入れをしなくなったことが、原因だと思います。

それでも国や自治体は、将来狩猟者がいなくなり、森や耕作放棄地が野生動物に占拠されることを危惧して「狩猟者の育成を」と呼びかけています。

ですが、現代人のレクリエーションは屋外で自然にふれることから、室内での遊興に変わってしまいました。そのため、狩猟などの野生動物の命を獲るという行為は、どうしても敬遠されがち。職業としての林業も同様で、国産材は急峻な山に生えているので、どうしても高値になり、輸入材に販路を奪われてしまいます。それが日本の林業衰退の原因ですが、近年は機械化が進み、少人数で事業が回るようになってきました。

しかし、こうした現状は都市部に住む人には伝わりにくく、余所事や他人事と考えがちです。獣害というのは、本当にケモノが悪いのでしょうか? 都市に暮らす人にも鳥獣害の問題を「私ごと」として考えてもらう。それが一番大切だと考えています。

三者間で堂々巡りの繰り返し

野生獣とその被害は増えているのに、それを捕獲する狩猟者は高齢化して、減っている。そんな状況のなか、本当に我々に打つ手はないのでしょうか? 長い間山と獣と農業に関わってきた私の耳には、こんな声がよく聞こえてきます。

●地域住民→行政

「畑が荒らされて困っている。どうにかしろ!」

「危なくて仕方ないから、追い払え!」

●行政→地域住民

「対策をしっかりやってください」

「獣害対策の補助金があるので、活用してください」

●地域住民→狩猟者

「お前たちがどうにかしろ!」

「お前たちが殺さないからだ!」

●狩猟者→地域住民

「あなたたちが畑に動物を入れるのが悪い」

「畑のまわりは柵だらけ。これじゃ山に入れないだろ!」

●行政→狩猟者

「この地域で被害が多発しているので、有害鳥獣駆除でお願いします」

●狩猟者→行政

「そこは自分の縄張りじゃない。あっちの人にやってもらえ!」

そんな先の見えない堂々巡りの繰り返し。誰もが被害者意識ばかりが先に立っていて、お互いがみんなの手で地域を守るという考えがなくなってしまっているのです。例えば、

「自分のとこだけ柵で囲っておけば大丈夫」

「あの人の畑は柵をしていないけど、自分の畑じゃないし」

「あの人は気に入らないから、動物にやられればいい」

「あのやり方だと、荒らされるだろう」……

こんな風に、地域がバラバラ。まとまっていないと、そのすき間を突くように動物たちがやってきて、被害は拡大します。それを防ぐには、何よりも「おらが地域には、動物たちを近づけない!」という意識を持つことが大事なのです。しかし、残念ながら、今はそれにはほど遠い状況にあります。

狩猟免許を持っている狩猟者は、野生動物の生態に関するエキスパートです。

行政の職員は、有害鳥獣捕獲の許認可権者です。

狩猟免許を持たない地域住民、山林や農地の所有者、農業者にもできることはあります。

鳥獣害対策で大切なのは、地域住民、行政、狩猟者が、一丸となって行うことなのです。

鳥獣害対策の指導者は?

鳥獣被害の原因となっているのは空き家です。空き家の庭にはエサがあり、縁の下は彼らの棲家になります。空き家が多ければ多いほど、地域に耕作放棄地が増えます。そのため、耕作を続ける農地は飛び飛びに広がり、住民はそこだけ柵で囲むようになります。

また柵で畑を囲む際も、思い込みで「ここまでやっとおけば、大丈夫」という意識が働きますが、それだけでは決して被害を減らすことはできません。

それはなぜか。地域全体を見渡して対策を練ることができる指導者がいないためです。本来は、猟銃を所持し、始終山歩きをしていて、野生獣の生態や習性に詳しい狩猟者がいれば、地域全体を見渡して対策を講じられるはずです。

しかし、今は鳥獣被害が増えたから、狩猟免許のなかでもわな猟の免許を取得して、捕獲することで、生息頭数を減らせば被害が減るだろう。そんな考えの狩猟者が増えています。が、山に入って先輩猟師に山のいろはを教わって、巻き狩りに参加する。そんな“鉄砲撃ち”の修業をしていない狩猟者が、指導者になるのは土台無理な話なのです。

今では、多くの狩猟者が単に「野生動物を捕獲して殺す人」という位置づけで、野生動物のエキスパートではなくなっていて、知識的にも地域住民とさほど変わらぬ存在になってしまいました。やはり死ぬまで狩猟を続け、森から学んでいる狩猟者の指導者の元、個々にではなく、地域全体で「総合対策」を行う必要があるのです。

畑の作物が荒らされると、ほとんどの人は柵の張り方を行政に相談します。柵を張るには資金が必要になりますが、その際「野生鳥獣被害対策交付金」が、全国の市町村で活用されています。資金の目処がついたら、次は柵の張り方ですが、これについて行政担当者はある程度は答えられます。ただ3年ごとに部署を変わってしまう職員が、細かいところまで指導するのは、なかなか難しいと思います。補助金の原資は税金なので、有効に使わなければいけないことを、忘れてはいけません。「補助金だから目一杯使って、柵で囲めば大丈夫」ではなく「補助金だから絶対動物に入られないようにしっかり張ろう」そんな気持ちが必要なのです。

ここでもう一度考えてください。

今、日本全体で起きているのは本当に「獣害」なのでしょうか?

人間が安易に野生動物たちを、里山や住宅地に近寄らせているのでは?

知らず知らずに彼らの餌場を、人里近くに作ってしまっていないでしょうか?

さまざまな要因を考えながら、「みんなができる鳥獣害対策」をお伝えして、本来の野生動物と共生できる環境を取り戻していきたいと思います。

文・写真/(株)森守 代表取締役社長 黒田利貴男
構成/三好かやの

 プロフィール

黒田利貴男(くろだ・ときお)
1965年静岡県生まれ。小学4年生の時から、猟師の父の後について山を歩く。
21歳で狩猟免許、猟銃所持許可を取得して以来、狩猟期間は猟を続ける。南伊豆の山を知りつくす猟師であると同時に、稲作や林業、しいたけ栽培の経験も持つ。野生獣の管理や活用に留まらず、それを囲む森と里、海のつながりまでを視野に入れ、活動を続ける。2015 年7月株式会社森守を設立。現在は病気療養を続けながら、森林資源の活用、耕作放棄地の再生、狩猟者や加工処理の人材育成、自然を活用したエコツーリズム等、幅広く活動中。農林水産省が任命する農作物被害対策アドバイザー、南伊豆町町会議員。

 

 

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