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令和元年度花き研究シンポジウム「国産シェア奪還に向けたキク類生産・流通の方策」①

公開日:2020.1.6 更新日: 2019.12.25

農研機構野菜花き研究部門主催の花き研究シンポジウムが、2019年11月6、7日の2日間、つくば国際会議場で開催されました。「国産シェア奪還」をテーマに据えたのは3年ぶり。

今回は特にキク類を取りあげ、国産シェア回復を目指すための方策や、キク類の生理生態特性についての最新知見等を討議しました。その内容を抜粋して全4回に分けてご紹介します。

「キク類流通の課題と産地のとるべき戦略」

株式会社日本総合研究所 リサーチ・コンサルティング部門 山本大介氏

国産花きマーケットにおいて、キク類がどれくらい重要であるかを数字で見てみたい。平成28年度の農産物の産出額では、キク類が約680億円。それに近い数字はハクサイやレタスなどの葉物野菜に多くあり、ハクサイは大部分が業務用であることを考えると、その規模感からキクはプロ向けの品目であろうと考えられる。花き類のなかで年間出荷量第1位のキクは14.2億本、2位のバラ2.3億本と比べても圧倒的な本数であり、多様性を支える2位以下の品目とは違った先略ややり方があるのではないか。

過去15年の家計調査から見える切り花消費の特徴は、消費額が下がっているのは確かだが、詳しく見てみると、高収入世帯の購入額が大きく減っており、低収入世帯はそれほど下がってはいない。おそらく維持されているのは、家庭用仏花の需要ではないか。

時代と形が変化しても、故人に花を手向けるという文化に根差すものは底堅い。若い世代がシニアの年齢になったからといって、同じ消費をするとは限らないが、仏花需要は引き継がれると思うので、マーケットのポテンシャルとしては期待できるし、このチャンスを生かすべきだ。

小売業者、流通業者は消費者ニーズ(墓参りのお盆短期集中、販売価格に見合う材料での販売等)への対応を進めているが、国産の供給体制が追いついていないがため、輸入品や造花の輸入が増えている。消費者には、「このモノはこの値段」というイメージがあり、必要な時期に適正な価格でキクがなければ「キクでなくていい」、「生花でなくていい」となる。

先行事例で言うと、コメは産出量に見合うほど単価が下がらず、パンの消費が増え、ゆっくりとコメ離れが進みつつある。ウナギは価格が高騰したことで購入者が激減し、大きく需要を失った。その例に倣えば、キクは生産・出荷が不安定で需要は物日に集中し、価格は物日と平日の差が激しく、国産の需要離れを起こすのではないか。

加工業者・小売業者が消費者ニーズに合う商品を提案しているので、生産者もそのニーズを共有し、商品化の一部工程を分担してはどうか。今ある流通の仕組みを変えるのではなく、並行してある種の「枠組み」を作り、需要情報や出荷情報の共有を進め、マッチングを進める。今までは相場で誰かが得をして同時に誰かが損をする仕組みだったし、量販店が「損をしない」仕組みだった。大事なのは調達価格をコントロールすること。調達価格の変動は大きなリスクである。

産地が組織的に需要に合わせていく商品作りをして、マッチングをしっかりやって、技術をそこに入れていくという経営モデルが伸ばせるのではないか。実需者や消費者とともにマーケットを作って行くという産地経営のモデルになると思う。

量販店事業者の現状と国産品・輸入品選択のポイント【関東の事例】

株式会社メルシーフラワー 取締役副社長 日巻賢二氏

株式会社メルシーフラワーは、スーパーマーケットの1坪あるかないかの面積で、花束に加工した商品を専門のスタッフが陳列し、委託販売という形で販売している。売れ残りのリスクはうちで抱え、スタッフが消費者とコミュニケーションを取り情報交換しながら商品を提案している。取引先は40社650店舗のほか、コンビニ等の小規模店約200店舗に納めている。当社のスタッフが陳列もメンテナンスもすべてやるので、スーパーのパート従業員の人手不足等の理由から、当社に切り替える取引先が増えている。

単純に仏花と洋花という分類をすると、いわゆる物日の3月、8月、9月、12月は仏花の比率が多少増えるものの、通常は洋花が6~7割。委託販売の業者の中では、ガーベラやバラの比率がかなり多い。安定的に売れる、リスクが少ない仏花というものは、1月12%ぐらい、物日のある12月や3月は3割を超える。物日になると仏花の需要が増えるので通常月の3倍。

ただ、2015年に同じデータを取ったときに比べて、物日でも仏花の割合が減り、洋花の割合が増えた。この傾向は間違いないと思う。

仏花の需要が減っているのではなく、キクを使った商品の売上が減っている。トータルの売り上げは下がっていない、すなわち、お客様はキクを使わない洋花を仏花として買っていると思われる。

当社の商品は大中小があり、小が398円、最も売れ筋の中が598円の商品である。通常は白ギク、黄ギク、コギク、スプレーカーネーション、季節によってリンドウやスターチスなどで、商品の内容まで契約してはいないので、需要期には原価が上がらないように中身を変えて売価を維持している。

原価率は他社より高い。その上で営業利益率が5%を超えているのは良いほうだと思う。

当社で白キクの輸入は、普段は2~3%程度だが、8月と9月だけ30%以上使用している。国産はここ数年、高温障害等で価格が高騰するのみならず、調達できないリスクがあり、供給責任を果たすために不本意ながら中国産を買っている。年間で均すと、国産と中国産の価格差はほとんどない。

加工業者なので、商品の製造コストが上がっている。パート従業員の人件費は、最低時給が上がったこともあり、この5年間で113%増加した。人件費は下がらないので、どこかで工夫してより収益性の高い経営が課題となる。

白ギクを購入すると90cmで葉が着いていてボリュームがある。最初の下処理で丈を65cmに、頭から30cm以下の葉を取り除く。商品と一緒にゴミを買っている状態であり、ゴミ処理代は1kgあたり21円、年間約490tのゴミ廃棄費用は1,100万円にもなる。その処理を、当社に届いてからするのか、輸送前の産地でするのか、無駄を省いてお互いにメリットがある生販連携ができればと願っている。

花束加工会社としては品種のこだわりはなく、白ギクなら白ければそれでいい。出荷量と価格の安定そして出荷コストの圧縮を協力してやっていきたい。

量販店事業者の現状と国産品・輸入品選択のポイント【関西の事例】

株式会社フロリスト・コロナ 代表取締役社長 上野和人氏

当社は大阪を拠点に兵庫、京都、奈良、滋賀県などで生花の直営店55店舗展開、委託販売を150店舗運営、スーパーマーケット等に商品納入、輸入貿易業務、自社開発の切花延命剤シリーズの製造販売等を行っている。中国の消費意欲は旺盛で、切花延命剤の輸出は1回の注文で1コンテナ分にもなる。別会社で農業生産株式会社を運営し、2haの農地でコギクを生産している。

当社の売上を月別に見ると、お盆の8月は閑散期である1月、2月に比べて2.8倍の開きがある。さらに8月を細かく見ると、お盆前の8月12日とお盆後の8月24日では、全店平均で12倍、最も開きのある店舗では実に22倍もの差がある。

我々の業種の最大の特性として、「繁忙期に極端に売れる」ことへの対応が必要である。売上の22倍の差に対して、同じ人員、同じ面積、同じコストがかかっている。繁忙期に極端に売るためには、短期的な処理生産能力の高さが求められ、そのためにはより効率の良い仕入れと素早い加工、物流、供給、人員確保が勝負となる。配送するのは、多くの人が休みを取る時期なので、渋滞や交通事故も多い。

我々を取り巻く状況は、人口減少、消費力と労働力の減少、モノは溢れている、消費税は増税される、という現実だ。日本では年間43万人の人口が減っていて、全国で均すとそうでもないように思えるが、当社のある平野区の人口が約23万人であることを考えると、毎年その数に人口が減るのはインパクトが大きい。その中で商売をして、企業は利益をあげていかなければならない。

大阪府下で1年にスーパーマーケットがどの程度増えているのか調べると、2018年は23店舗だった。この23店舗すべてに花の売り場がある。だいたい1店舗で売上はおよそ1億円、それは新たな需要ではなく、どこかのお花屋さんで買っておられたのがスーパーでの購入に移ったものだと思われる。お客様からすると、花を買う場所がどんどん増えているというのが我々の認識である。消費税は増税され、当社はキャッシュレス決済にも対応した。

そういう状況で、かつては「売上と仕入れ」という二大要素で仕事をしていたが、今は「販売管理費」が無視できなくなっている。販売管理費に含まれるのは、人件費、物流費、資材費などで年々高騰し、例えば2010年には779円だった大阪府の最低賃金が今では964円と、10年弱で200円程度、単純計算で25%ほど上昇している。

当社の売上のうち35%ほどを占める関西仏花の上代は、2010年の380円から徐々に値上げして現在は398円、価格は5%程度しか上げていない。競合があり、ホームセンター等では安く販売されるので、我々だけが値上げしたら同じだけの数量が売り続けられるとは限らない。

そこで、仕入れの選択のポイントがどう変わっていったかというと、まずは商品の品質、そして納期である。納期も品質の一部と考えている。先ほど22倍という話があったが、22分の1しか需要のない時期に大量の納品があっても、申し訳ないがそれは不要なものである。次に大事なのが規格であり、最後に結果として単価という順である。

写真の真ん中が当社が販売する関西仏花である。左が市場を通じて滋賀県の産地と一緒に取り組んでいる40cmの短茎コギク、右が従来からの80cmのコギク、これを見てどちらが仏花を作るのに適しているか、一目瞭然だと思う。

花の消費は、この15年20年でガラッと変わっているにもかかわらず、多くの産地では30年も40年も、作り方も箱もサイズも変わっていない。現行の2Lサイズは、我々が入荷してから使える規格に加工している。

当たり前のことだが、無駄な人件費、ゴミ代、物流費、倉庫代、冷蔵庫の冷房費がかかっている。80cmのコギクのうち、使うのは30cmであり、要らない50cmを冷蔵庫で冷やしている。これがもし、適した規格になれば、無駄がなくなる。今は1000ケース入荷したとすると、700ケース分を捨てている。生産コストにこれほど無駄がある業界は他にないと思うし、ここが解決すればものすごい利益が出るのではないか。

コギクの他に、岡山県ではリンドウを、もともと捨てていた規格を商品化して仕入れている。従来は1000ケース入荷していたものが、今は300ケースで済んでいる。こういった取り組みをやることによって、お互いに新たな利益を出していこうという取り組みをしている。

海外からも仕入れている。欲しいとリクエストする規格に応えてくれたのが、海外の生産者だった。水つけ輸送で、現地で束を組んで発送してもらう取り組みを、現在トライアルとしてやっている。

海外の生産者は対応力がある。こちらの季節に合わせて、「今、何が必要か?」と聞いてくる。この時期はカーネーションが余っているから要らないと言えば、カーネーションをはずして送ってくる。

当社ではもう、無駄な仕入れをやめたい。現在の一次加工(頭30cm以下を脱葉して丈を短くカットする)の手法を、誰が決めて誰がやらせているのか。そのことを、7年ほど前から言っているが、なかなか生産側からの反応が薄いこともあり、3年前、自社の関連会社として農業法人を作った。適した規格で出荷する生産者を、自ら作った形だ。

現在は、草丈が長くても単価が安いという理由で80cmを仕入れて加工していたが、今後はそれも困難になるだろう。生産者での選別・加工と、仕入れた後でまた加工をするのなら、かぶっている作業を共同で減らして、そうすれば生産者にもメリットがあると思う。

我々のいる花き業界は、仕入れの部分でものすごい無駄が隠れている。今は売上の数字を追う時代ではない。産地と花屋の役割を再定義したい。当社に適した商材を作っていただける産地さんとつながって、無駄をひとつでも取り除くだけですごく変われると思う。当社が挙げる選択のポイントは、もう単価ではなく「規格です」とはっきり言える。

取材・文/高倉なを
協力/農研機構野菜花き研究部門

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