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東京2020大会を夏花で彩る

第7回 アサガオ、ナデシコ、リンドウで会場を和のイメージに

公開日:2020.3.23

アサガオは花壇でも利用できます

和をイメージする花として何を思い浮かべますか?

樹木では真っ先に桜が挙がるかもしれません。一方、草花では、キクやアサガオが馴染み深いと思います。小学校の授業で鉢植えのアサガオを行灯仕立てにし、夏休みの課題として取り組んだ経験を持っている方も多いと思います。

田旗(2008年、農業技術体系・アサガオ編)によると、アサガオは奈良時代の遣唐使活動の中で薬用として日本に入ってきました。園芸文化が花開いた江戸時代には一般庶民の間でも楽しまれ、花型に特徴がある変化アサガオが誕生したのもこの時期でした。

このように昔から親しまれてきたアサガオですが、花壇材料として使われることはほとんどありませんでした。そこで、市販されている「サンスマイル」という花壇用品種を用い、播種時期と開花時期との関係を調べました。試験では、播種時期を5月1日から2週間毎にずらし、開花時期の違いを明らかにしました。5月1日に播種すると、約2か月後の7月下旬に開花が始まり、オリンピック開会式に合わせることができることが分かりました。

花壇用アサガオ品種「サンスマイル」
播種時期別開花数の推移

街灯の近くにアサガオを植えないようにしましょう

アサガオは短日植物のため、日の長さが短い条件(連続した暗い時間が長い)で開花が促進されます。都心では街灯が設置されている場所が多く、実用場面において短日植物であるアサガオの開花に影響を及ぼすことが考えられました。そこで、街灯がアサガオの開花に及ぼす影響を調査しました。

その結果、街灯の近くであればあるほど開花数は少なくなりました。このことから、アサガオの植栽にあたっては、街灯が近くにあるか確認する必要があります。また、光の明るさの強さの違いは株高、株張、地上(葉と茎)の乾物重、花径には影響を与えませんでしたが、地下(根)の乾物重には影響を与え、明るいほど地下の乾物重が増加しました。明るい条件で開花数が減少したことで栄養分の競合などが起こらず、地下部に生長が集中したためと考えられました。

街灯試験の様子

なお、光質(波長の違い)も検討したところ、赤色の波長域の開花抑制作用が大きく、緑色の波長域は無関係であることが分かりました(青色はその中間)。

光質の影響

シェード処理技術を活用し開花時期をコントロール可能

前述のとおり、アサガオは短日植物であるため、シェード処理(18:00~6:00の間、100%遮光資材により、人工的に暗黒条件に遭遇させる)により開花が促進されることが知られています。その性質を利用して、シェード処理の開始時期を変えることで開花時期をコントロールすることができると考えました。

そこで、アサガオの品種「サンスマイル ピンク」に対し、シェード処理を所定の期日(6月29日,7月8日,7月13日,7月21日の4区)から4日連続で行いました。なお、アサガオの苗は、6月15日に播種し、6月25日に10.5cm黒ポリポットに鉢上げしたものを用いました。

その結果、シェード処理しない場合は到花日数(播種日から第1花が開花するまでの期間)が73日でしたが、シェード処理をすると開花までの日数が短くなりました。シェード処理開始日を6月29日と7月8日にした場合には、到花日数が50日程度となり、シェード処理により到花日数を20日以上短縮することができました。シェード処理開始日が遅くなるほど到花日数は増加しましたが、7月21日にシェード処理を開始した場合でもシェードを行わなかった区よりも1週間程度開花が促進しました。このように、アサガオは栽培の途中でシェード処理することで開花時期をコントロールすることが可能です。

シェード処理による開花促進効果

アサガオを導入・栽培するうえでの注意点

「サンスマイル」 は「姫」と呼ばれるわい性遺伝子を持つ系統で、各色の混合種子が市販されています。仕上鉢に定植された開花株で流通することが多いため、花壇植栽で大量に用いる場合には、予約が望ましいと考えられます。肥切れや乾燥は葉の黄化を助長し、8月中旬以降はヨトウムシやタバコガの食害に注意が必要です。

河原ナデシコも日本で昔から親しまれている花です

河原ナデシコは万葉集にも詠まれるほど古くから観賞され、秋の七草のひとつとして親しまれています。ご存じの通り、日本代表の女子サッカーチームの愛称は、「なでしこジャパン」。凛とした美しさを持つ日本女性を形容する「大和撫子」から命名されたそうです。

これらのことから、ナデシコも和をイメージする夏花のひとつとして取り上げました。花壇苗用の品種「スープラ」シリーズは、ナデシコ(ダイアンサス)の中において、河原ナデシコの特徴である花弁に深い切れ込みと可憐な形をした花を持っています。

しかし、この品種の開花特性については明らかにされていなかったため、播種時期が開花時期に及ぼす影響を調べました。その結果、「スープラ」は播種時期と花色にかかわらず、およそ75日前後で開花しましたが、播種時期が遅くなるほど開花までの期間が短くなることが分かりました。また、定植時期である6月中旬以降に出荷するためには、4月8日以降に播種すればよいことが明らかとなりました。

河原ナデシコ系品種「スープラ」
播種時期と到花日数(播種から開花までかかる日数)※同じ文字間にはTukey法により5%の有意差がない。

ナデシコを導入・栽培するうえでの注意点

美女ナデシコ系の「ジョルト」シリーズは40cm程度の草丈となるため、花壇の中段での利用に向きます。分枝が良く連続開花するため、通常より若干広めに植えるころが可能です。開花期間は長く、露地でも越冬可できます。多く出回る「テルスター」系(わい性、四季咲き性)や、「スープラ」は開花に波があり、ピンチをこまめに行う必要があります。

高冷地で栽培すると開花が前進し、秋花のリンドウを夏に咲かせることができます

リンドウはリンドウ科リンドウ属の多年草です。根は苦みが強く胃薬としても利用されてきました。その苦みから、竜胆(りゅうたん、竜の肝のように苦い)とも呼ばれています。切り花の産地としては岩手県八幡平市が有名で、「安代リンドウ」というブランドで国内シェアの35%以上を占めています。エゾ系とササ系があり、前者は花弁が開かないで筒状に、後者は花弁が反りかえるように開くのが特徴です。切花、鉢花ともにそれぞれの種類を掛け合わせたものも市販されています。

リンドウは、秋を代表する花で、通常の栽培では、開花時期は早くても8月下旬となります。しかし、夏花の中で青色系の花は少なく、アゲラタムやブルーサルビアなどの一部の花に限られています。涼しげな青系の色合いを持つリンドウを夏の暑い時期に咲かせることができることは日本の花文化を伝えるうえでも大変魅力的だと考えられます。

埼玉県農業技術研究センター(リンドウ、ポットマムの試験を担当)では、この点に着目し、高温期にリンドウを咲かせるために、プリムラやシクラメンなどで行っている高冷地栽培技術を検討することにしました。

その結果、6月下旬から戦場ヶ原など高冷地に山あげするとともに、挿し木時期を変えることで、オリンピック・パラリンピックが始まる7月下旬(慣行よりも1か月早い)から咲かせることができることを明らかにしました。さらに、高冷地栽培は、開花を前進化させることのほかに、花色を鮮明に濃くする作用もあることが分かりました。また、高冷地にあげなくても、ヒートポンプで夜間冷房することで同様の効果が得られることも確認しています。

リンドウの高冷地栽培(場所:戦場ヶ原)
高冷地栽培によるリンドウの開花前進効果

なお、ここではリンドウの開花促進技術についてのみ取り上げましたが、ポットマム(洋菊)についても同様の試験が実施されています。そこでは、短日処理と高冷地栽培技術を組み合わせることで秋咲きのものを夏咲きさせることができることや、リンドウと同様に花色を鮮明にさせる効果があることなどを明らかにしています。

高冷地栽培で開花を促進しても花持ちに悪影響を及ぼしません

このように高冷地栽培でリンドウの開花時期を前進化できても、オリンピック・パラリンピック開催時に想定される観賞場所は、夜温も高くなる都心部です。栽培環境と利用環境の急激な変化により花持ちが悪くなるようだと意味がありません。そこで、リンドウを山あげ栽培したのち、高温条件下の平坦地に持ってきたときの花持ちへの影響を調査しました。通常の栽培で秋に咲く花の花持ち期間が10~12日なのですが、高冷地栽培したものでも同等の花持ち期間を維持できること分かりました。また、高冷地栽培後1か月の間に開花した花の色が不良になることも品質が悪くなることもありませんでした。

花持ちを長くするために必要なこと

このように、リンドウの花ひとつが咲いている期間は10日前後ですが、花持ち期間を長くすることができれば、より多くの人に対しリンドウの花の魅力を感じてもらうことができます。そこで、人工受粉、訪花昆虫忌避、果実の鮮度保持や切り花の日持ち延長などとして用いられているエチレン阻害剤について検討しています。

まず、人工受粉で成熟種子を形成させることは、花持ちを悪くすることが分かりました。農薬により訪花昆虫による受粉を防ぐと、花持ち延長効果が認められたことからも、受粉により成熟種子が形成されることが花持ちに悪影響を及ぼすことが明らかとなりました。一方、エチレン阻害剤を施用すると、花が開いている日数と開花から萎凋までの日数がいずれも延長したことから、リンドウの花の老化にエチレンが関与していることも示唆されました。これらのことから、リンドウの利用拡大に向け、利用場面における農薬などの活用で訪花昆虫が来ないようにする工夫や出荷前のエチレン阻害剤の施用(登録に注意)なども今後考慮する必要があります。

リンドウを導入・栽培するうえでの注意点

前述のとおり、リンドウは基本的には秋の花のため、夏季に利用するためには高冷地栽培したものを購入するしかありません。利用する場合は、山あげ栽培を実施している、あるいはヒートポンプを導入している鉢物リンドウ生産者に事前に予約することが必要です。また、リンドウは高温下でも開花しますが、よりきれいに咲かせるためには、高日射・高温条件は避けるほうが無難です。西日が避けられる場所を選んで植え付けることをおすすめします。

和を感じさせる花の利用でオリジナル花壇を

本稿では和をイメージする夏花として、アサガオ、ナデシコ、リンドウの3つの種類の花を取り上げました。いずれも、ペンタスやビンカのような夏花と比べて高温や乾燥に強いというわけではないのですが、外国の方々をおもてなしするためには欠かせないものです。決して主役にはなることはないとは思いますが、わき役として利用しても十分存在感があり、また日本を感じさせてくれますので、一味違う花壇を作る際にはぜひ積極的に取り入れていただきたいです。

 

プロフィー

岡澤立夫(おかざわ・たつお)
主任研究員(博士)。東京都で6年間普及指導員として現場指導にあたる。
平成17年からは花きの研究員として、屋上緑化資材「花マット」や地中熱ヒートポンプなどの省エネ技術ほか、花壇苗の屋内向け商品「花活布(はなかっぷ)」を開発。現在は、オリパラに向けた夏花の研究を中心に取り組んでいる。

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