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東京2020大会を夏花で彩る

第8回 鉢サイズやプランターの改善で管理作業をラクに

公開日:2020.4.23 更新日: 2020.7.30

夏花の定着には作業労力の軽減化が必要です

夏の暑い時期に花を利用する場合、高温や乾燥に耐えることができる種類を適切に選ぶことが大事です。しかしながら、同時に現場で作業する人にも焦点をあてなければなりません。どんなに良い花を選んでも植え付けるのもヒト、水やりや花摘みなどの管理作業もヒトなのです。

言うまでもなく、夏の炎天下での作業は大変です。特に都市部では、ヒートアイランド現象の影響で暑くなります。コンクリートのビルやアスファルトの道路は熱をため込み、ビルが林立した環境では風通しが悪く、さらに熱が籠ります。

加えて、夏の高温・高日射条件下では土壌が乾燥し、植物は葉からの蒸散を抑制するために気孔を閉じます。気孔が閉じると、光合成を行うための二酸化炭素の吸収ができなくなり、光合成ができなくなります。

一方、高い夜温は植物の呼吸を促進し、光合成産物を多く消費します。これらの理由から、灌水設備が不十分な場所では、せっかく植え付けた花が咲かなかったり、枯死します。

このように、春や秋の花壇と比べ、夏の花壇は管理上のハードルが高く、この時期の花の利用が敬遠されてきました。そのため、夏花の利用拡大に向けては、花の種類だけでなく、作業労力を軽減する技術も併せて開発する必要があります。

そこで本記事では、暑い時期の作業で負担のかかる植え付けと灌水に焦点をあて、それらの労力軽減を目的とした試験を実施しましたのでご紹介します。

鉢のサイズを変えただけで、植え付けがラクになります

都市緑化では植え付け直後から景観性を高く保つ必要があるため、庭先で作る花壇と比べ植え付ける花の植栽密度が高く、植栽に多くの時間を要します。

そのうえ、炎天下での作業は過酷なため、早期緑化と植栽労力軽減を両立させるような技術開発は必要不可欠です。

現状の花壇植栽では、3.5号(10.5cm)サイズのポットが多く利用されています(関西方面では3号(9cm)サイズが主流)。このサイズは生産者、流通業者や消費者にとって栽培面、ロット管理面(1トレイ20ポット入り)などで扱いやすいといった利点があると考えられます。

しかしながら、これが必ずしも、公園や公共施設、民間の緑地スペース等を日常的に施工・管理している業者にとっても良いものだとは限りません。

そこで、民間の業者の協力を得ながら、植え付け労力という観点からどのサイズが適切か調査することにしました。

試験では、3.5号(10.5cm)、4号(12cm)、5号(15cm)の3種類の鉢サイズを選び、植え付け労力の違いを評価しました。夏花として、ペチュニア「ほおべに(現在は廃番となった品種)」を使用し、各サイズの黒ポリポットへ鉢替えしました。

そのまま、試験場の温室内で栽培し、鉢サイズ別に六本木ヒルズの花壇へ定植しました。

定植作業は、施工業者(お花がかり㈱)の慣行法に従って実施し、サイズごとに定植にかかる作業時間を測定しました。

業者によるペチュニアの定植作業

最初に、鉢サイズ別に植え付け時の品質を調査しました。鉢サイズが大きくなるほど株張が大きく、1鉢あたりの開花数も5号で最も多く、その差は3.5号と4号と比べ、2倍程度でした。当然ながら、鉢サイズが大きくなれば株が充実し、開花数も多くなります。

鉢サイズが苗の植え付け時の株張と開花数に及ぼす影響

※表中の異なる英文字間には5%水準で有意差がある(これ以降の表も同じ)

 

これらの株をサイズ別に植え付けると、5号サイズでは株張りが大きく開花数が多いため、面積(1m2)あたりの必要な鉢数が3.5号の半分以下と、極端に少なくなりました。

しかしながら、1鉢の植え付けに要する作業時間は、植え付けに要する穴が大きく苗が扱いづらくなるため、5号サイズでは38.5秒と、3.5号の22.0秒と比べ1.5倍以上長くなりました。

作業全体にかかる時間も鉢サイズが大きくなるほど長くなりましたが、3.5号と4号の差は小さく、5号では2倍程度長くなりました。

鉢サイズの違いと植栽作業時間の軽減効果

これらの結果を総合して、1m2を植栽するために必要な作業時間を計算してみると、4号も5号も慣行の3.5号と比べ作業時間を短縮できることが明らかとなりました。

特に、4号で削減効果が高く3.5号の4割程度、同じ面積を植え付けるための作業時間を短縮することができました。この結果は、ほかの植物を用いても同じような傾向を示しました。

このように鉢サイズを現状の3.5号よりも大きくした方が植え付け労力を軽減できますが、生産者や流通業者にもメリットがあるのか検証する必要があります。

鉢サイズが大きくなれば、それだけ生産者が栽培できる量が減り、鉢あたりの流通コストが高くなるのです。

現状では、生産された花苗は市場へ流通し、施工業者は仲卸業者等からそれらの苗を購入し調達します。施工業者は生産されたものをただ利用するほかなく、情報やモノの流れが一方向でした。

鉢サイズの事例は一部に過ぎないのですが、生産者と利用者で求めていることが大きくかけ離れていることが多くみられます。園芸業界の発展のため、今後は、双方向に情報を共有できるような仕組み作りが必要だと考えます。

底面給水型プランターの利用で、品質を落とさず水やり労力が軽減されます

夏季高温期は日射量、温度ともに高く乾燥しやすいため灌水頻度が多く、景観性の高い緑化を維持することが困難となっています。特に、競技会場やその周辺施設等での利用が期待されるプランターは、培地量が制限されるため乾燥しやすく、水やり回数を多く必要とします。

最近、灌水労力を軽減できる底面給水型プランター(底面に水を貯留できるプランター)が販売されています。しかしながら、底面給水型プランターの水分特性や花きの生育・開花に及ぼす影響については明らかにされていませんでした。ここでは、3種類の底面給水型プランターを用い、慣行のプランターとの違いを明らかにしました。

試験に使用したプランターと試験区の設定

※写真左:対照区・Nシャンティ ワイドプランタープランター65型 右:底面①区うるオンプランター65型

底面給水型プランターは基本的にサイドに給水口があり、そこから水を補給する形状となっています。下部には排水口があり必要に応じて水を抜くこともできます。給水タンクの容量はプランターのサイズにより異なり、底面③は2ℓ程度ですが、底面①では17ℓ入ります。

小売り希望価格は、サイズの小さい底面③で対照と比べ3割程度高くなっていましたが、同サイズの底面①と②では、3倍もの価格差がありました。

これらのプランター水分含量の変化を測定してみると、対照区の通常のプランターでは降水の影響を強く受け、含水量が上下に大きく振れましたが、底面給水型プランターはプランターの種類によらず、含水量の変化が小さいことが分かりました。

底面給水型プランターにおける含水量の推移

底面給水型プランターのの生育・開花に及ぼす影響を調査するために、7月下旬に購入苗アサガオ「サンスマイル レッド」およびペンタス「バタフライ ディープローズ」を各プランターに3株ずつ定植しました。

アサガオでは対照区と比べ底面給水型プランター①、②で生育が旺盛となりましたが、ペンタスではプランターの種類の違いによる生育・開花への影響は見られませんでした。

プランターの種類の違いが生育・開花に及ぼす影響
プランターの違いによるアサガオの生育の様子

これらのことから、底面給水型プランターは培地中の水分変動が少なく、通常のプランターよりも安定して水分を供給でき、さらに植物の生育への悪影響がみられず、実用性が高いことが明らかとなりました。ここでは示しませんでしたが、底面給水型プランターで潅水回数も大幅に減少し、潅水労力を軽減できました。

底面給水型プランターには通気性の良い培養土が向きます

底面給水型プランターでは、常時水が供給されるため、根腐れ防止のためには使用する培養土には水持ちしすぎない高い通気性が要求されます。

また、東京2020大会の会場等でのコンテナの新設に際しては、軽量で処分も容易な培養土の検討が必要です。

そこで焼却可能な木質資材(床材の再利用)とやし殻(ココピート)の配合比をかえて、底面給水型プランターにおける有機質培養土の利用可能性を調べました。

ビンカとジニアを用い、各培養土における生育・開花に及ぼす影響を調査したところ、赤土を主体とした水持ちの良い培養土では生育不良株も生じましたが、木質資材とやし殻を半々に混合した培地で良好な生育を示すことが分かりました。

加えて、半々に混合した培養土は1ℓあたり150g程度で軽量なため赤土主体の重い培養土(1ℓあたり800g程度)よりも作業性に優れます。このように、底面給水型プランターを利用する場合は、通気性の良い有機質主体の培養土を用いることが有効でした。

通気性の良い有機質培地で順調な生育を示す(上:ビンカ、下:ジニア)

花の種類の組み合わせを考えることで、管理作業が軽減されます

都内のデザイン花壇などの実用場面では、植え付け直後から観賞可能となるように密に植えつけられており、違う種類の花との競合により、生育不良や開花数の低下が生じることが危惧されます。

競合に弱い植物により光があたるようにしたり、肥料が不足しないようにするため、違う種類の花を隣同士で植え付ける場合は、性質の近い植物を植えなければなりません。これにより、枯死による植え替えや枯葉の処理等の管理作業が軽減できると考えられます。

夏花によるデザイン花壇(日比谷公園)

そこで、10.5~12cmサイズの花苗を日比谷公園第2花壇へ6月に定植し、7~9月の観賞期間中に、開花性(開花連続性)と侵食性(他の植物との競合に勝ち侵食する能力)を調査し、デザイン花壇への適応性を総合的に評価しました。

その結果、インパチェンス、カンナ、クレオメ、コリウス、トウガラシ、トレニア、ルドベキアは開花性、侵食性および観賞性に優れ適応性が高く、デザイン花壇でも十分活用できることが明らかとなりました。一方、カリブラコアやサルビアなど侵食に弱い種類では、侵食性の高い種類の影響を強く受け、花付きが悪く、生育不良となりました。

デザイン花壇における開花性、侵食性および適応性評価

z) 7~9月までの開花連続性、開花数などを達観により判断。開花性に最も優れるのを5、劣るのを1とした
y) 他の植物との競合に勝ち侵食する能力がどれいくらいあるかを達観により判断。侵食性の最も高いものを5、低いものを1とした
x) 園芸店、設計・施工業など花き産業に携わる専門家7名により、点数化。審査会は8月4日と9月4日の2回実施。優:3点、
良:1点、普通:0点、不良:-1点とし、2回の平均値を示す。◎:2.0~3.0点、〇:2.0~1.0点、△:1.0~0.0点、×:0.0点未満

管理作業を軽減できる技術開発は今後も必要です

公園や公共施設等の花壇をボランティアで管理する活動は全国的に広がりつつありますが、花は植木と比べ管理に手間が多くかかることから、花の利用に消極的な業者の方も多く見受けられます。

これまでの花の研究は生産者を対象にし、いかにコストを下げて高品質な花を栽培するかといった生産技術を中心に取り組まれてきており、利用者目線での技術開発が行われてこなかったことが、その要因の一つとして考えられます。

花きの振興を図るためには、生産技術の向上技術開発も必要ですが、ここで取り上げた管理作業を軽減するための利用技術や耐環境性(耐乾性や耐病性など)を付与した品種開発などの研究も今後重要になってきます。

特に夏の時期は管理作業に多くの労力がかかるため、いかにローメンメンテナンスで長期間花を楽しむことができるかが大きなテーマとなります。東京2020大会を契機に、今後は生産者、流通業者、緑化施工業者などが一体となって、業界をあげてこの課題について真剣に取り組んでいく必要があります。

プロフィール

岡澤立夫(おかざわ・たつお)
主任研究員(博士)。東京都で6年間普及指導員として現場指導にあたる。
平成17年からは花きの研究員として、屋上緑化資材「花マット」や地中熱ヒートポンプなどの省エネ技術ほか、花壇苗の屋内向け商品「花活布(はなかっぷ)」を開発。現在は、オリパラに向けた夏花の研究を中心に取り組んでいる。

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