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弘前大学発、リンゴ品種 〜赤肉からクッキングアップルまで〜

公開日:2020.2.7

リンゴの生産量日本一を誇る青森県。ここから全国に出回るのは、「ふじ」や「王林」「つがる」などが中心ですが、県内の研究機関には、地元の人も見たことのない珍しい品種が数多く存在しています。日本では、甘く、大きく、生食に適したリンゴが求められますが、世界を見渡せば、お菓子に適した酸味の強い「クッキングアップル」もたくさんあります。

2019年の12月1日、弘前市で、リンゴの加工品の普及を進めるAプロジェクトが主催する「WAのりんご〜もっとりんごを身近に〜 りんご作りに感謝をこめて」というイベントが開催されました。前半は弘前大学農学生命科学部附属藤崎農場助教の林田大志さんによる「リンゴ産業勉強会」。後半は、神戸で「仏蘭西菓子研究所」を主宰する、三久保美加さんが、リンゴを使ったフランス菓子「タルトタタン」の作り方を実演。日本でおなじみの「ふじ」と、フランスで昔からお菓子に使われている「カルヴィル・ブラン」のタルトタタンの食べ比べも行われました。

弘前大学生まれの新品種たち

弘前大学農学生命科学部附属生命教育研究センター藤崎農場は、1938(昭和13)年藤崎町に設立された、農林省園芸試験場東北支場が前身です。「ふじ」はここで生まれ、1962(昭和38)年に品種登録されました。東北支場が盛岡市へ移転した後、弘前大学附属農場となり、そこで初めて育成されたのが、「弘大一号」でした。

「弘大一号」

このリンゴは、1972(昭和47)年、台木標本園の中から発見されました。両親は「スターキングデリシャス」×「ゴールデンデリシャス」。当時人気を博していたスターキングなみの大きさがあり、斑点落葉病に強いことから、交配親となる品種として育種されました。こうした品種を元に、弘前大学では1981(昭和56)年からリンゴ育種プロジェクトがスタートしています。

その「弘大一号」×「ふじ」を交配育成して生まれたのが、明るく黄色い果皮の「こうこう」。1999(平成11)年に品種登録されています。

「黄色系の中でも濃厚な甘味があって、蜜も入る。ファンの多い品種です」と林田さん。

「こうこう」

この「こうこう」。親品種の果皮は父母ともに赤いのに、なぜか黄色をしています。

「リンゴは、赤と赤を掛け合わせても黄色くなります。これはMYB(ミブ)遺伝子の発現によるもので、成熟度と気温、そして日光によって合成されます。リンゴの不思議ですね」(林田さん)

続いて「弘大一号」と「ゴールデンデリシャス」を交配し、2010(平成22)年に品種登録されたのは大果系の「弘大みさき」でした。当時の学生が、その年に日本で一番多く女の子の名前に付けられた名前が「みさき」であることを調べ、それが育成者の塩崎雄之輔名誉教授の「崎」、弘前大学の「さき」、農場のある藤崎町の「崎」と、3つの「さき」に合わさっていることから「弘大みさき」。それが品種名の由来です。

「弘大みさき」

この品種は、さっぱりした甘味があり、ジュースに適しています。また、袋をかけて栽培すると「むつ」のようにほんのりピンク色に着色するので、これを「あけぼのみさき」としてブランド化し弘前大学の文化祭で限定販売しています。

付加価値の高い赤肉品種

弘前大学のリンゴ育種プロジェクトは、以下の3つの目標を掲げています。

赤肉品種…高付加価値をつけて販売
黄色品種…摘葉や玉回し不要で省力化を図る
大果系…贈答用として高価格が望める

この①を最初に実現させたのは、塩崎名誉教授が「紅玉」×「赤肉親系統A」を交配させて育成した「紅の夢」。2010(平成22)年に品種登録されました。

「紅の夢」

カットすると果肉が赤く色づいていて、生食用としてはもちろん、この色を生かしたジュースやジャム、お菓子など加工原料として活用すると、全体がほんのりピンク色に染まる特性があり、産地の期待が高まっています。

「リンゴの赤みはポリフェノールの一種のアントシアニンなので、抗酸化作用もあり、体にもいい。酸味が強いのも特徴です」(林田さん)

酸度が0.9%と高いのは、加工適正も高い印。この品種のポテンシャルを生かして、広く普及していくには、生産者はもちろん、育成者である弘前大学、企業、種苗会社、加工業者の連携し協力することが不可欠です。同学では「紅の夢」を活用して得た利益を、リンゴ生産者に還元する仕組みを作ろうと、HPを通じて情報発信を行っています。

「HFF33」

続いて登場したのは、赤肉の「HFF33」。酸度は0.4%で「ふじ」と同程度。貯蔵性が高く、生食でも食べやすいのが特徴で、2016年に品種登録されています。

さらに同じ年に品種登録された「HFF60」も登場。こちらは果皮の黄色いリンゴですが、ほんのりピンクに色づいているのがわかります。

「それは中の果肉から赤いから。ほんのり透けて見えているんです」

黄色いリンゴをカットすると、中は赤くてびっくり! そんなリンゴもあるのですね。

「HFF60」

「シナノゴールド、トキ、ぐんま名月……。今、黄色いリンゴの戦国時代に入っています。赤色のリンゴと違い、摘葉や玉回しなどの作業がいらないので、産地の高齢化が進む中でこうした黄色い品種も求められているのです」(林田さん)

そんな省力栽培可能な黄色品種として登場したのは「東光」と「ふじ」を交配させて生まれた「きみと」(HFF63)。2016年に品種登録された新しい品種です。さわやかな甘味が特徴で蜜も入るのが特徴。「こうこう」は蜜が入るとどうしても貯蔵性が低くなるのですが、「きみと」は普通冷蔵で120〜150日貯蔵可能で、蜜褐変を起こさない。そんな面からも「王林」に代わる品種として期待が高まっています。

「きみと」

林田さんによれば、この「きみと」は「今、非常に苗木の売れゆきがいい」とのこと。この日はそれぞれのリンゴを試食できたのですが、子どもからお年寄りまで、誰もが食べたくなる味わいのようで、「きみと」の試食はどんどんなくなっていきました。今後の展開が楽しみです。

昔なつかしい品種たち

新品種が続々登場する一方で、藤崎農場には市場から姿を消した古い品種もたくさん残されています。たとえば「印度」。会場の女性たちから「うわあ、なつかしい」という声が上がっていました。

昔なつかしい品種たち。

これらの品種は、農林省時代から農場に残されていたもの。グリーンに紅色がさした果皮が特徴的な「印度」は、その後ゴールデンデリシャスを母にもつ大果系「むつ」の花粉親品種となりました。

丸いフォルムが印象的な「旭」は、英語名「マッキントッュ」。アップル社のロゴマークのモデルとして知られています。さらに金色に輝くような果皮が美しい「金星」、戦前に「国交」と「紅玉」を交配させて誕生した「恵」の姿もありました。

「こうした昔ながらの品種は、病気に強い特性を持っていたりします。なので、ゴールデンデリシャスのような品種に掛け合わせると、病気に強く、しかもおいしい品種ができるのです」(林田さん)

店頭で見かける機会はめっきり少なくなりましたが、こうした昔ながらの品種の性質は、食味、大きさ、耐病性を兼ね備えた、「いまどきのリンゴたち」の中にも生きているのです。

クッキングアップルとしての可能性

昔ながらの品種の中でも、育種に利用される親品種とはまた別の目的で、注目を集めているリンゴたちがいます。たとえば青リンゴの「ブラムリー」。

「プラムリー」

イギリス生まれの品種で、生食ではなく、もっぱらアップルパイなどのお菓子の材料として利用されています。生の果実を食した人の感想は、「おお、すっぱい!」。それでもお菓子にした時の味と香りは、他の品種に代え難く、日本でも長野県の生産者や愛好家を中心に、ファンクラブができるほど。リンゴの新しい市場を開拓する存在として、着目されています。

この他、明治初期に導入されたアメリカ原産の「青竜(英名:White Pippin)」、「白竜(英名:White Winter Pearmain)も、並んでいました。

「これまでは、生で食べるとおいしい品種を選んで育種が進んできましたが、今は、お菓子や料理にすることでその価値が高まる『クッキングアップル』として、昔ながらの品種をもう一度見直そうという動きをしていこうと考えております」(林田さん)

「カルヴィル・ブラン」というリンゴ

そんなクッキングアップルの中に、淡いグリーンうっすら紅がさし、肩の張った、リンゴに詳しい弘前の人たちも「見たことがない」という不思議なリンゴがありました。その名もフランス生まれの「カルヴィル・ブラン」。いったいどんな品種なのでしょう?

「カルヴィル・ブラン」

神戸在住で、フランス菓子の文化研究家の三久保美加さんによれば、「カルヴィル」というリンゴは、フランスで14〜5世紀に存在していた古い品種とのこと。ノルマンディー地方の「ブルドゥロ」や「ブルダン」などリンゴのお菓子に欠かせない品種として現在も使われていて、白い「ブラン」と赤い「ルージュ」があります。

こうしたお菓子を取材するため、フランスを訪れた三久保さんは、何度か現地のマルシェで見かけましたが、この品種はあまり市場に出回っていないそうです。

「カルヴィル・ブランの樹」(提供/弘前大学 藤崎農場)

また、フランスには「タルトタタン」というリンゴをふんだんに使ったお菓子があります。

19世紀末。フランス中北部、ラモット・ブーヴロンという町で「ホテルタタン」というホテルを経営していたタタン姉妹がはじまりといわれています。

アップルパイを作ろうとしていたのに、生地を敷き忘れ、リンゴとバター、砂糖だけを入れて焼いてしまった姉のステファニーは、慌てて後から生地をのせて焼き、お皿にひっくり返して出して取り出した。そんな逸話が伝わっています。

現地へ赴き、タルトタタンの歴史を調べた三久保さんによれば、タタン姉妹の友人マリー・スーションが残した手書きのルセット(レシピ)には、「レネット種かカルヴィル種のリンゴを使う」と書かれているそうです。

しかし、90年代、タルトタタンに使う品種としてカルヴィル・ブランを挙げる人は少なく、最近はフランスでも「ゴールデンデリシャス」を使うことが多いとのこと。

ところがある時、三久保さんは元弘前大学助教の松本和浩さん(現在は静岡大学准教授)に出会い、「うちの農場にフランスの品種がある」ことを知りました。それがなんと、「カルヴィル・ブラン」だったのです。

実は青森にも50年以上前からひっそり残されていた「カルヴィル・ブラン」。いったいどんなリンゴなのでしょう?

三久保さんはタルトタタンの作り方を実演。

「カルヴィル・ブラン」は、たしかに生の状態で味わうと酸味があるのですが、「ブラムリー」よりはマイルドな味わいです。

「第一に加熱した時の香りが高く、適度に酸味があります。そして加熱しても煮崩れず、あまり水分が出ません。よって加熱時間があまり長くなくてよく、煮詰まる度合いが少ないので、甘くなりすぎない。だからお菓子に適しているのです」

この日は藤崎農場で栽培された「カルヴィル・ブラン」と、みんなにおなじみの「ふじ」で、三久保さんが作ったタルトタタンの食べ比べも行われました。

右が「カルヴィル・ブラン」、右が「ふじ」のタルトタタン。

会場では、「おお、私は酸味のあるカルヴィルの方が好き」「ふじの方が甘い」など、さまざまな意見が飛び交っていました。

こうした三久保さんの努力もあって、50年以上ひっそりと藤崎農場に残されていた「カルヴィル・ブラン」の存在意義が見直され、貴重なクッキングアップルとして大事に広めていこうという新しい波が生まれています。

弘前市周辺の若手や女性のリンゴ生産者が集まり、2019年11月5日の「りんごの日」に「カルヴィル会」が誕生。弘前大学と連携して普及に向けて、活動が始まっています。

「カルヴィル・ブラン」の普及を目指す三久保さん(左)。「きみと」を手にした林田先生。

生のまま消費者に届くリンゴと違い、クッキングアップルは、どこかで・誰かがおいしいお菓子にしなければ、商品になりません。生食用、大量にジュースやジャムに加工する業務用、そして大切に丁寧にお菓子にするクッキングアップル。日本のリンゴは「第三の道」を歩み始めています。

Aプロジェクト
https://www.facebook.com/A.project.hirosaki/

「紅の夢」について
http://nature.cc.hirosaki-u.ac.jp/kurenainoyume/

三久保美加さんのブログ
https://leroiboit.exblog.jp/

カルヴィル会Facebook
https://www.facebook.com/craftringocalville/

 

文・写真/三好かやの
取材協力/Aプロジェクト
弘前大学農業生命科学部附属生物共生教育研究センター 藤崎農場

 

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