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第55回 都市に森を移植する~機械移植工法のはなし

公開日:2020.2.28

『都市緑花 造園の知恵で花と緑の都市再生』

[著者]近藤三雄
[発行]講談社
[入手の難易度]易

近藤三雄・東京農業大学名誉教授の著作を紹介するのは2回目になる。連載第38回で、都市緑花最前線~アーバン・ガーデニング、(1998年)を取り上げた。きょう紹介する本は、2004年に発表された著作だ。この本では、当時の造園と緑化、ガーデニングの現状や変化、問題点について各項目をそれぞれ4ページほどに抑え、数多く提示している。

大木や森を機械で移す

数多くの項目があるなかで僕が興味深いと思ったのは、樹木の重機による「機械移植工法」の話だ。東京ではバブル期ほどではないが、大規模な再開発が続いている。駅の周辺だけ挙げても新宿、渋谷、虎ノ門、大手町など商業施設に住宅を伴う高層ビルへの建て替え、都心回帰が目覚ましい。「地方創生」の謳い文句とは逆に、人口が減り続ける地方がある一方で、東京は相変わらず人を集めている。98年の「アーバン・ガーデニング」では、ヒートアイランド現象抑制のための環境対策などで大型・高層ビルの緑花が義務付けられ、新しい動きが出ていることが報告されていたが、この20年ほどで、都心に「森」が突如として増えてきている。非常に短期間で大きな木が大量に移植され、下草も美しく整えられているのだ。

『都市緑花』によると、特殊な爪(バケット)をつけたブルドーザーなどの重機を使い、根鉢を大きく掘り取って運搬し、移植場所にあらかじめ用意されていた植穴に植え付ける。ここまでの作業を一貫して行うという。通常、樹木の移植では、専門の職人が根鉢を掘り取り、ワラやコモで丁寧に根巻き処理してから寝かせて運び、植え付けられていた。根回しをするのに2、3年かけることもあるし、枝を間引き、植え付けたあとに長期間の養生が必要になることもある。重機による機械移植工法では、根鉢を大きく取ることができ、採取地の土壌や下草などの植生も活かすことができるし、寝かさずに運ぶことで枝の傷みも少なくなる。また移動から植え込みまでが一気通貫で、スピード感や仕上がりの早さに特長がある。機械や輸送の計画など準備が必要なので日単位の仕事からさらに何時何分という精度のスケジュール管理が出てくるというのも興味深い。

欧米の歴史的な農業や開拓事業というのは、まず開拓すべきまっさらな土地があって、そこで何をやるか、という計画に基づいて人(労働)と資材、資本を入れていく、という方式だから、道具や機械の存在や使い方が日本の伝統的なやり方(自然に人間が従うように行動する方法)とは大きく異なっている。それが、現在のような土地の利用の仕方に変わってくると、道具も工法も変わるということなんだろう。人間が5人も10人も出てやっていたことが重機を使えば数人でできてしまう。大規模でコスト削減やスピード、効率化が求められる現場も増えたのだ。そうやって、都市のど真ん中に、やわらかな日差しを落とす森が実現している。大きな木は、環境だけでなく、文化的にも経済的にも、その存在自体が大きな価値だ。伐採せずに活かせる工法は重要だ。

参考
石勝エクステリア(日本における機械移植工法のパイオニア) https://www.ishikatsu.co.jp/

動画 TPM工法による大径木移植 https://youtu.be/S6FCWjV7Ck8

近藤によると、こうした機械移植の工法は、アメリカで1960年代から導入されており、日本でも80年代から徐々に取り入れられるようになった。効率化や安全性を求めて人力から機械への変化だった。ただアメリカと異なり、急傾斜地や狭い場所が多いため、最初はゴルフ場や住宅団地(ニュータウン)開発、高速道路の建設現場などで開発場所の森林の移植、造園といった事業が中心だった。「植栽作業の機械化」は、移植だけでなく、剪定や草刈り作業の機械化にも広がっている。高速道路などの作業では車線規制を行う必要があるため、効率化や安全化は常に改善が求められる課題のひとつだ。

参考
専用の重機で巨木を一気に抜いて運び、植え込む様子を写した動画
https://www.youtube.com/watch?v=xH7xErjPpRo
https://www.youtube.com/watch?v=nLVdqnQPS7c

論文
「緑化工法と資材・管理法の研究開発」長谷川秀三、山本紀久、野間豊 1990年 『造園雑誌』
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jila1934/54/1/54_1_76/_article/-char/ja/

「専用重機を用いた樹木移植に関する研究」ソン・ゼェタク、薛孝夫, 裴重南 2000年 『ランドスケープ研究』
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jila1994/64/5/64_5_517/_article/-char/ja/

「緑豊かな街づくりのための都市緑化技術とその課題」 最近の街づくりと緑の導入方法―東京ミッドタウンの実例から― 雨宮克也 2006年 『日本緑化工学会誌』
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjsrt/32/2/32_2_324/_article/-char/ja/

東京ドイツ村のイルミネーション 2020年1月

ライトアップに負けない緑花を

クリスマスの電飾、イルミネーションにはそうとうな歴史がありそうだが、屋外での大規模な光の装飾は、防水性能のあるミニLED電球が普及する90年代から本格化した。都心部だけでなく、地方のクルマやバスで出かけるような場所でも夜間のイルミネーションが人気を集めるところが各地にある。近藤は、こうした園内の樹木や植え込みは非常に貧しく「何となくダサイ」。まるでイルミネーションを飾るための専用の資材かと皮肉りたくなる、と書いている。しかし現実は、花や緑以上に経費がかかっているとは思えないライトアップやイルミネーションのほうが、断然、集客効果がある。このままでは、花や緑の存在意義そのものが危うい。僕らができることは、夜のライトアップに負けないように、そしてそれ以上に、人々を感動させられるような緑花を公園や町に創り出すことに英知を集結させることだ、というのだ。

写真1は、東京でもなくドイツでもないというキャッチフレーズの「東京ドイツ村」の夜の様子だ。89歳になる義父をつれて家族で出かけて撮影した。日が暮れるころについて、一巡りしたときには、ただ広々としているだけで、非常に殺風景で、ただ寒いだけではないかと感じたのだが、山の向こうに陽が沈むにつれて鮮やかに灯された電飾が非常に美しく、特にケータイで写真を撮ると別世界のように映る。いわゆる「映える(バエる)」というやつだった。しばらく歩いたが、そのうち視覚がぐらぐらし出して、天地があやしくなり、ふらふら歩くようになった。最後には、義父がころんでしまったので帰ることにした。今回は真冬だったから、植物による修景は見られなかったが、今度は、草花が一面に咲き誇る時期にまた来よう。

「メンテナンスフリー」が事業をダメにする

近藤は、緑化の空間や植栽地の健全性と快適性を保持するにはしっかりとした維持管理が欠かせないと強調している。緑化技術の売り込みのために「手間がかかりません」「メンテナンスフリーが特長」だとして維持管理の経費を小さく見積もることがあって、そのせいで、施工後に大きな失敗をすることがあったという。本来ならば、四季それぞれに花を入れ替え、手を入れて刈り込んだ美しい芝生を提案したいところだが、メンテナンスがたいへんで、コストがかかるというと二の足を踏まれてしまう。とはいえ、この30年でさまざまな提案がなされてきている中には成功例も数多くあるので、そうした事例を参考に手法の開発と提案を続けたい。繰り返しになるが、植物の植栽後の管理、メンテナンスは必要なのだ。その維持管理の削減化をすこしでも工夫し進めていくということが重要だ。近藤はこうした技術を「省管理型緑化」と呼び、今後の緑化ビジネスのキーワードとしている。

緑化ではなく「緑花」

緑に「化ける」ではなく、緑と花を合わせた「緑花」という言葉は、著者の造語だという。都市を緑化するにあたって、ただ単にたくさんの樹木を植えればいいのではなく、そこから脱皮して、広義の「花」等を用いて色彩豊かな空間をつくりたい。そのためには、まず、考え方から変えていかなければならない。こうした必要性を訴えるために、「緑花」という言葉を使い始めた。1980年代からだ。広義の花とは、一年生草花や多年生草花、花木などに限らず、斑入り植物、葉もの、実もの、ドワーフコニファー類、グラウンドカバープランツ、オーナメンタルグラスなど、色彩的に美しい植物の総称だ。戦後の荒廃した都市空間を緑化するということは、どうしても量を重視する傾向があった。質よりも量だった。それが1980年代ともなると様々な問題が出てきた。密植された樹木はそれぞれ2倍にも3倍にも生長し、うっそうとした緑地になっていた。それらは見通しの悪い死角をつくり、非行や犯罪の現場になるなどマイナスの現象が顕在化してきたのだ。この本のなかで繰り返し述べられているのは、毛深くなった緑を手入れし、「引き算」で工夫し、明るく心地よい空間に変えること。さらに花と緑で四季の変化や彩りを生み出す。名刺の裏に「造園命」と刻印し、「造園伝道師」の肩書を掲げる著者の熱い思いを託した言葉が「緑花」なのだ。

検索キーワード

#緑花#移植#剪定#根回し#アーバン・ガーデニング#造園

著者プロフィール

松山誠(まつやま・まこと)
1962年鹿児島県出身。国立科学博物館で勤務後、花の世界へ。生産者、仲卸、花店などで勤務。後に輸入会社にてニュースレターなどを配信した。現在、花業界の生きた歴史を調査する「花のクロノジスト」として活動中。

 

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