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東京2020大会を夏花で彩る

第10回 長尺植物や球根などを取り入れた他にない唯一の園芸装飾

公開日:2020.6.23

創意工夫を凝らした花壇が人気

茨城県にある国営ひたち海浜公園のネモフィラや埼玉県にある羊山公園の芝桜などの花畑は全国的に有名で、最盛期には多くの花好きな方々が訪れます。

公園は憩いだけでなく、癒しの場を提供できる場所として、年々、花装飾による集客力が注目されています。成功している花壇の多くは、同じ種類の花を平面的に壮大に見せることで人の心を大きく引き付けています。

一方、オリパラの会場や周辺施設の植栽場所は狭小なため、面的に広く装飾するよりもさまざまな種類の色や形を有する花をバランス良く配置し、おしゃれに見せる花壇が求められます。ハンギングや壁面緑化などこれまでとは異なる、一つの空間をテーマを持って立体的に飾り付けるレイアウトも取り入れられると考えられます。

このような創意工夫を凝らした多様な花壇を作るためには、定番の花に加え、色んなタイプの花について選定する必要があります。これまでの記事では、ビンカやペンタスなどの1年草を中心とした夏花について取り上げてきました。

ここでは、それ以外の多年生、水生、球根植物などの花き、立体装飾として有望なつる性植物やその利用方法についてご紹介します。

夏花として有望な多年生植物

多年生植物として、下表に示した 26 種を供試しました。2017 年 11 月1日および6日に、株間30cm、条間30cmで露地ほ場に定植し、開花調査は 2018 年6月8日から9月5日まで、1週間おきに1回の間隔で行いました。

供試した多年生植物の開花期間と観賞性評価

供試した 多年生植物26 種のうち、約半数の14 種がオリパラ開催期間中の7月下旬から9月上旬まで途切れることなく開花しました。そのうち、コレオプシス バーティシラータ「ザグレブ」、ヘリオプシス「サマーナイト」、アガスタチ「ブルーフォーチュン」、ルドベキア ヒルタ「サハラ」、カーリメリス、ヘリアンアス「レモンクイーン」の6種が、花あがりに優れるなどが評価され、観賞性が高いと判断しました。

一方、サポナリア「八重咲ソープワードピンク」やスカビオサ オクロレウカなどにおいても、やや観賞性は劣りますが、実用上問題ないことが明らかとなりました。サルビア アゼレアのように開会式前(7月下旬)まで咲いていたもののその後開花しなくなる種類や、アムソニアとプルモナリアのように調査期間中全く咲かない種類もありました。

有望と判定した多年生植物:コレオプシス バーティシラータ「ザグレブ」
有望と判定した多年生植物:アガスタチ「ブルーフォーチュン」

夏花として有望な水生植物

水生植物として、下表に示した 14 種を供試しました。2018 年7月13日、鉢の縁部分以外を地中に埋設した10号サイズの穴なし黒ポリポットに、2017年度に購入し増殖した水生植物を移植し、以降は露地圃場で管理しました。開花調査は7月20日から9月7日まで、1週間おきに1回の間隔で行いました。

供試した水生植物の開花期間と観賞性評価

その結果、熱帯スイレン、シラサギカヤツリ、アメリカアザサ、ポンテデリア、ルドヴィジア、イエローバコバがオリパラ開催時期の7月下旬から9月上旬まで途切れることなく開花しました。そのうち、花の大きさや開花の連続性が評価された熱帯スイレン3種とシラサギカヤツリを有望種としました。

一方、アメリカアサザやポンテデリア コルダータなどにおいても、やや観賞性は劣りますが、実用上問題ないことが明らかとなりました。

有望と判定した多年生植物:熱帯スイレン
有望と判定した多年生植物:シラサギカヤツリ

水生植物は通常、池や湖沼などある程度広大な水域やサイズの大きな陶器製のスイレン鉢で観賞されることが多く、本試験で取り組んだような、30cm程度の穴なしポリポットの一部を地中に埋設することで簡易に花壇装飾として活用する方法は類を見ません。本手法を普及させるためには、蚊を媒介とする伝染病の蔓延を防ぐためのボウフラ対策も講じる必要があると考えられます。

ポリポット埋設による水生植物の花壇装飾

夏花として有望な球根植物

埼玉県農業技術研究センターでは、アジアティック系ユリなど11品目24種の球根植物を鉢や花壇に植え付け、有望な夏花を選定しました。なお、ユリについては冷凍球を解凍後、15℃で芽伸ばししたものを植え付けています。

開花日(オリパラ開催時期から外れていないか)、観賞期間(各品目の中で極端に短くないか)、正常花率(正常に花弁が展開するか)を指標に観賞性を判断し、アジアティック系ユリ「ギロンデ」、LA系ユリ「アルバタックス」、OH系ユリ「バルベルデ」、カラジューム(葉を観賞)、ユーコミス「アロハリリーレイア」など9品目19種を有望な夏花として選定しました。

なお、LA系ユリ「セナ」は正常花率が低かったため、ヤマユリとスプレケリアはオリパラ開催時期よりも開花が早かったため、逆にゼフィランサス「ロゼア」とハブランサス「チェリーピンク」は開花日が9月下旬以降で遅かっため観賞性なしと判断しました。

これらの他に、グラジオラス「祝宴」やクルクマ「ピンクキャンディ」も夏花として有望であることが明らかにされています。

供試した球根植物の開花特性と観賞性評価

開花期間の短いユリ類の観賞性を維持する技術

アジアティック系、LA系などに関わらず、ユリ類を夏花として利用する場合に問題となるのは、開花期間が短いことです。ユリ類は種類によらず、概ね10日前後で花弁が萎凋し観賞性が失われます。

しかしながら、ユリ類は花が大きく目立ち豪華な印象を与えることから、存在感のある花として夏花壇における利用価値は高いと考えられます。

そこで、まずLA系、OH系ユリの植付時期が開花日に及ぼす影響を調査しました。その結果、LA系はOH系よりも開花が早いこと、品種や植付時期の影響が小さいことが分かりました。

この成果を活かし、早晩性の異なるLA系とOH系のユリを花壇4か所に同時に植え付け、夏の期間、連続して開花させることができるかを検討しました。ユリを10℃2週間芽伸ばす処理を行ったのち、品種の異なる3種が一か所の花壇に入るように、6月上旬に株間20cmの間隔で混植して植え付けました。

異なる品種を植え付けた時の観賞期間

その結果、上図のようにLA系ユリにOH系ユリの中生品種から晩生品種を組み合わせることで開花を連続させ、目標どおり7月中旬から8月下旬にかけて観賞性の高い花壇を維持させることができました。

シンボルプロムナード公園(台場)においても、2018年の夏に実証花壇を設置し、ユリが夏の期間連続して開花するかを検討しました。芽伸ばしした球根を6月20日に定植したところ、LA系の「イエローダイヤモンド」がまず勢いよく伸び始め、8月上旬には黄色の花が咲きました。

その後、OH系の「ソルボンヌ」が8月中旬にピンク色の花を咲かせ、同じくOH系の「シベリア」が8月下旬に花を咲かせました。このように、実証花壇においてもユリ類だけで、夏の間花壇を維持させることが可能でした。

シンボルプロムナード公園でのユリ実証花壇(矢印部分がユリ、写真の左上は撮影日)

夏花として有望な長尺植物

ゴーヤやアサガオなどのつる性植物によるグリーンカーテンは、遮熱効果を期待し一般家庭にも広く普及しています。緑化場面でも空間を有効に利用でき、かつ日陰を作り出すことから、多くの場所で活用される可能性はあります。

しかしながら、グリーンカーテン化には播種してから時間がかかるため、オリパラ会場など早期施工・緑化を必要とする現場ではなかなか導入することができません。生産者段階であらかじめ播種し生育させ、大きくした状態(長尺化)で出荷できれば、グリーンカーテン形成までの日数を短縮できると考えられました。実際、下に示しましたように早期緑化が可能でした。

長尺植物によるグリーンカーテンの早期形成(左:長尺植物、右:通常の苗)

このような長尺植物を活用する場合、輸送する技術も開発しなければ普及が見込めません。

そこで、千葉県農林総合研究センターでは、つる性植物をネットに誘引し大きくしてから、ロール出荷する技術開発に取り組みました。長尺植物として有望なアサガオやゴーヤなどを調査し、アサガオとツンベルギアでロール適性が高いことを明らかにしています。

長尺植物のロール化

つる植物の下葉黄化による観賞性低下を防ぐ技術

グリーンカーテンの利用場面において、特にミナ・ロバータやアサガオでは下葉黄化が問題となっています。播種時期をずらしたものを補植することで黄化をある程度防ぐことができますが、最初に植えた植物の影響で、上手くいかない場合があります。その場合、下図のような仕切りを入れることが有効です。

例えば、プランター(65cm程度)にアサガオを植え付ける場合、木板などであらかじめ3区画に区切っておきます。3月中旬頃播種した苗を4月中旬頃に定植し、約1か月後の4月下旬頃に播種した苗を5月中旬頃に、最初に植えた苗の両側に植え付けます。これにより、下葉黄化による観賞性低下を防ぐことができます。

下葉黄化防止に向けた仕切り栽培(左:仕切り栽培方法、右:仕切りの有無による下葉黄化抑制効果“ミナ・ロバータ”)

竹で編んだトンネル+つる性植物で和テイストを演出してみては

オリパラ開催時には海外から多くの方が訪れます。竹と長尺植物を活用することで和テイストのある装飾ができます。試験場では長尺化した琉球アサガオとユウガオを竹で編んだトンネルに誘引し、アサガオによる和のトンネルを作り出しました。千成瓢箪も実がかわいらしく面白いでしょう。2020年のシンボルプロムナード公園の花装飾においてこの技術を活用した展示を行う予定です。

長尺植物を活用したトンネル:琉球アサガオ+ユウガオ
長尺植物を活用したトンネル:千成瓢箪

唯一の園芸装飾を目指して

本記事までの10回にわたって、さまざまな夏花の種類や装飾方法等についてご紹介してきました。夏の時期は気象条件が厳しく敬遠されがちですが、多くの種類の花が利用できることを理解していただけたかと思います。

一方、ここでご紹介した球根植物では芽伸ばし技術が必要であったり、長尺植物については受注生産のため入手が困難な場合があります。技術的にも難しい点があるかもしれませんが、余裕をもって事前に準備し、ぜひ一歩進んだ、他では真似できない園芸装飾に取り組んでいただければ幸いです。

プロフィール

岡澤立夫(おかざわ・たつお)
主任研究員(博士)。東京都で6年間普及指導員として現場指導にあたる。
平成17年からは花きの研究員として、屋上緑化資材「花マット」や地中熱ヒートポンプなどの省エネ技術ほか、花壇苗の屋内向け商品「花活布(はなかっぷ)」を開発。現在は、オリパラに向けた夏花の研究を中心に取り組んでいる。

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