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第57回 御大典の卓上の花は誰が作ったのか

公開日:2020.3.13

『実際園芸』第6巻第2号(昭和4年2月号)

[発行]誠文堂新光社
[入手の難易度]難

今日は昭和の天皇御大典に関する行事(大嘗祭・饗宴の儀)での花について話をするつもりだが、その前に、若松の苗を植える作業を体験してきたので少し紹介する(第56回参照)。

前回は、苗の取り出しと選別・養生だったが、今回は植え付けになる。広々とした圃場はすでにトラクターで耕され、畝立てされていた。密植にするためにとにかく通路が狭い。この畝には、大きなドラム缶のような道具で穴が11個打ってある。図1から4は、その様子を示している。図5のように、苗を植える穴は10個(真ん中を空けている)。通路に立ってその左右5本ずつ苗を植え付ける。ここは3反半の面積だという。慣れた人は1列を終えて2列めにかかっていたが、僕は一日がんばったが、1列を終わらせられなかった。非常に狭い通路で腰を曲げたままの作業で、慣れた人でもかなりきつい仕事だと聞いた。昨年は春に雨が少なく夏には何度も大雨と台風に見舞われた。苗の生育は悪く、得られた数も例年よりおよそ少なかった。この大切な苗が植えられた畑はこれから3年から4年管理される。苗が小さいうちは雑草に負ける。しばらくは草取りが必要だ。また、新芽が伸びる時期に曲がった芽をひとつひとつハサミで芽摘みをするのだという。こうしたひとつひとつの作業を僕らは何一つ知らない。また、機会を見つけて畑を見せていただきたいなあと思っている。

図1 柔らかく耕した圃場に目印の穴を11個ずつあけてある。
図2 通路(足跡があるところ)が非常にせまい。
図3 特製のヘラを使って根の先端を穴に向かって差し入れるように植える
図4 通路の両側5本ずつ植えながら一列ずつ植えていく。
図5 通路を挟んで5本ずつ植える。腰を曲げたままの根気の要る作業だ。

昭和天皇、御大典の卓上花

大正、昭和両天皇の御大典は、それぞれ大正4年11月(1915)と昭和3年(1928)11月に京都御所で行われた。現在、勤労感謝の日が当てられている11月には、日本の収穫祭である新嘗祭が行われる。その年にできた農作物を神様に捧げ、感謝する儀式だ。天皇の即位儀礼には、即位のための「践祚の儀」、即位を国の内外に宣言する「即位の礼」、新天皇がその年の新穀を神と共食する一代一度の新嘗祭にあたる「大嘗祭」がある。こうした即位の礼・大嘗祭など一連の儀式を合わせて「御大典(ごたいてん)」と呼び、戦前までは、国家的なイベントとして盛大に行われた。当時は御大典を祝う市民による提灯行列や旗行列が市内に繰り出したという。

今回紹介するのは、昭和3年11月に行われた大嘗祭の饗宴の儀で卓上を飾った花についての資料だ。『実際園藝』昭和4年(1929)の2月号(第6巻第2号)で見つけた。記事のタイトルは、「御大典御用花卉に就いて」。著者は京都府植物園の吉津良恭(よしづ・よしやす)とある。吉津は、若い頃、『実際園藝』主幹の石井勇義と一緒に小田原の辻村園芸で働いた仲間だった。園芸全般に詳しく、園芸誌に記事を書き著作もある。戦後まもなく書かれた「花言葉」に関する著作は注目に値する。

大正天皇の即位の儀礼では、宮内省の新宿御苑チームでランを使った装飾を行ったことがわかっている。今回の資料でも、宮内省の関係委員がつくった、と書かれているので、おそらく新宿御苑から大量の花卉とともに装飾チームが京都に出向いたと思われる。

記事はこのような書き出しで始まる。

「昨秋芽出度(めでたく)も我(わが)京都御所に於て取行(とりおこ)はさせられし曠古(こうこ)の御大禮(ごたいれい)に際して記念すべきは吾等園芸に携る者にして関係浅からぬ園芸品の数々が御料として果(か)、又机代物(きだいもの)として多種奉献せられた事である。今この間(かん)直接関係ありし花卉類に就て述べて見度いと思ふ。如何なる品々を、御用になったかを存じて置くことも、緊要な事柄であると考へるからである。」

参考

〈庭積机代物 にわづみのくつえしろもの〉大嘗祭のため、全国の都道府県から納められる特産の農水産物。大嘗宮の主要祭場となる悠紀・主基両殿の南庭にある庭積帳殿(にわづみのちょうでん)の机上に供えられる。明治の大嘗祭に始まり、大正の大嘗祭から各都道府県の特産物に拡大された。(東京新聞2019年10月4日 朝刊)

以下、要点をまとめる。

①大饗宴場や卓子(テーブル)装飾について

・場内に通じる廊下や歩道には公花(こうか)として見事な菊の鉢植えが配してある。

・この菊は、京都市内外の愛菊家(あいぎくか)が心命を賭して栽培したものから、さらに優秀な出来栄えのものを大作り、中作りなど取り混ぜて選抜し奉献した逸品揃いだった。その栽培の極致(ごくち)を表現し等しく当日の盛典を寿ぐように照って見受けられた。

・式場には、宮内省関係委員によって制作された目をうばうような卓子装飾は大式場第一の見事さであった。

・その主なる種類は、バラ(コロンビア)、カーネーション、ベゴニア・グロアードの温室花卉、カトレア、バンダ、シプレペデューム(※パフィオペディラム)などの洋蘭が見られ、あしらいにアジアンタムの麗葉(れいよう)を以てした。

・これらの花卉は小判形の二尺、銀製亀足と称する花器に、水苔とかヒムロの花芯に挿花(そうか)された見事なものである。

・一盆中に活けられた本数はバラ50本、カーネーション50本、ベゴニア30本、洋蘭類に各種取合せ20本を要した。

・その艶麗にして高尚なる盛花は到底拝観せずして想像だに及ばざる美観であった。なお銀盆には、それぞれ竹製の台が敷かれてある。

・前記の亀足の他に、ところどころ亀足高台という花器が配置されている。

・これは高さ一尺の脚に、カットガラス製の受(うけ)を備え、銀製の丸型一尺余の容器を据えられたもので、挿花(さしはな)の種類は前記と同様であるが、高さがあるために、たくさんの花の盛り方を異にしたものになっていた。

・これらの花器を結ぶ敷花(しきはな)としてベゴニアの花束が散らされており、その間には、青紫蔓(せいしかづら/シッサス・ディスカラーCissus discolor)が用いられていた。この青紫蔓は、新宿御苑内で培養されたもので「全長三百五十尺」にもなった。培養の苦心が窺(うかがは)れる。

・この青紫蔓は文字通り蔓性植物でインドやジャワ地方の原産にして一寸から三寸位の全葉は全く白、紫、藍、赤など複雑な極彩色を現(あらは)し、祝典には相応しいものである。

・また、皇族殿下をはじめ外国使臣夫人方には特に洋蘭、バラ、カーネーション及びアジアンタムを配した七寸丸の特製等(など)の花束の準備があったよしである。※特製の筒=ハンドルのブーケではないか?

②第二日、夜宴の儀

・二條離宮(二条城)において特に栽培された大小菊花の黄、白花のみを卓子装飾用として竹簾籠(たけすだれかご)に盛られ御用になった。

・朝集所(ちょうしゅうじょ)には大小黄菊、白菊の挿花(さしはな)がある。嵯峨蘭、伊勢蘭の竹籠に見事に挿しものを配し装飾とされてあったのである。

・此上(このうえ)は大饗宴場の大体の御装飾を用ひたのである。

③陛下が御常御殿(ごじょうごてん)にいらっしゃる際に、御食卓用として当園(※当園=京都植物園)より上納された花卉類について記す(日付は上納の日を示す)

11月7日
露地薔薇10本、温室カーネーション10本、同 黄毬小蘭30本(※小菊の間違いではないか?)、アジアンタム

*バラは仏国より輸入の優良品種を選び各色取混ぜ、小菊は殊に御料として培養せしものである。

11月10日
温室バラ7本、小蘭20本(※小菊の間違いではないか?)、ネフィロレピス5本(※ネフロレピス=タマシダ?)、花アカシア5本

*バラはコロンビア種各色を一本宛。小蘭は白黄一重物を用いた。(※小菊の間違いではないか?)

11月13日
カラー3本、マーガレット6本、青寒蘭1本、スーヰトピース5本(スイートピー)、玉しだ5本

*青寒蘭は佳香馥郁支那原種のもの。ピースは秋作の初花である。

11月16日
アスパラガス・プルモサ3本、アスパラガス・スプレンゲリー3本、アンスリューム2本、シプリペデューム(パフィオペディラム)3本、ガーベラ3本、ダーリア6本、シクラメン5本

*ダーリアは仏国産一重星咲珍種、アンスリュームは白花、ガーベラは肉色種を選べり。 

宮中行事のデザインと要素

昨年は、平成から令和へと元号が変わり、皇位継承に関するさまざまな宮中行事が行われた。テレビや新聞などで報道されていたのだが、多くを見逃していた気がする。即位の儀礼に関する「践祚(せんそ)」のための建物であるとか、平安時代に戻ったような衣装については数多くの報道があったが、その場を演出する数々のしつらい、道具についての記事もたくさんあったのだ。昭和、平成の即位の儀礼でも使われた道具も紹介されていた。こうした道具には歴史的に大切にする価値であるとか、その意匠にこめられた意味が込められている。たとえば『園藝探偵』2、3で「島台」「洲浜台」について述べたが、この洲浜台もまた皇位継承の儀式のなかで繰り返し慶事の祝儀を表すシンボルとしてあちこちにそのモチーフが登場する。

 

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著者プロフィール

松山誠(まつやま・まこと)
1962年鹿児島県出身。国立科学博物館で勤務後、花の世界へ。生産者、仲卸、花店などで勤務。後に輸入会社にてニュースレターなどを配信した。現在、花業界の生きた歴史を調査する「花のクロノジスト」として活動中。

 

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