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第94回 「胚軸(はいじく)」とは何か―『農業用語の基礎知識』で読んでみた

公開日:2020.11.27

『農業用語の基礎知識』

[著者]藤重宣昭
[発行]誠文堂新光社
[発行年月日]2020年10月25日初版
[入手の難易度]易

今日は、新刊書を読む。先日、注文していた本の分厚い包みが届いた。ちょっと早めの自分へのクリスマスプレゼントか。さっそく開けてみると、黒っぽい深緑のカバーでいい感じにくるまれた本が出てきた。厚みが3.5cmもあって非常に好ましい。ただ、手に持ってみると、案外軽くて、何より、ばらららとめくってみるとわかるが、とても心地よい。右から左、左から右へとしばらくばらららとやってみた。

(1)辞典というものは、厚みがあると安心感がある

「胚軸」とはなにものなのか

今日、僕が調べたいのは、「胚軸(はいじく)」という言葉である。それに決めてある。なので、まず巻末の「索引」をめくってみた。「索引」は用語の索引の他に「植物名索引」がある。「胚軸」が載っていないはずがないので、「は」の項を探すとすぐに見つかった。「廃材堆肥」と「胚珠」「胚熟」の間にあった。「胚軸」が掲載されたページは26、69、101、102、113、114、125、127、144、145、147、148、289、300、301、390、414。けっこうなページ数だ(「胚珠」はもっと多い)。付箋を貼りながらざっと見てみよう。

【第1章 植物生理・生態】P26「上子葉休眠(子葉上茎休眠)」、P69「春化」

【第2章 植物形態】P101、102「貯蔵根」、P113、114「胚軸」、P125「実生(芽生え)」、P127「地上子葉と地下子葉」、P144、145「一次皮層の剥離と根の肥大」、P147、148「子葉鞘」

【第5章 園芸技術Ⅰ、栽培管理/生育】P289「抽根性と吸い込み性」、P300、301「芽物」、P390「断根挿し木育苗」、P414「白根苗と接ぎ木苗」

こうして概観をながめてみると、ほどんど何ひとつコメントできないことがわかった。

(2)図はなく、文字だけの縦書きで3段組、非常に読みやすい。ネット、スマホ時代らしい体裁だ。

「モヤシ」という名前で売られている胚軸

写真(3)は、白菜の胚軸が見えるように撮影した。定植するときに土を寄せるのだが、なぜ胚軸が伸びてわざわざグラグラするように生長するのだろう。よくわからない。以前、薬草を栽培する農家を手伝っていたとき、マルチに開けた穴に向かって雑草の芽生えが胚軸を長く伸ばして移動してきていたのを見て驚いたことを思い出す。「胚軸」は、ものすごく変化し、多様な役割を持った器官なんだろうと想像する。

「胚軸」という言葉そのものを読んでみたい。P113には、次のような説明がある。

種子の中の胚における子葉から幼根までの部分、また種子が発芽して胚から芽生えとなったときの子葉から直根までの部分を「胚軸」という。胚および芽生えにおける子葉より上の幼芽の軸は上胚軸という。

幼芽は胚の段階では、未分化の柔組織である種類と、すでに数個の葉の原基が分化して幼芽を形成している種類とがある。

芽生えでは幼芽が展開して若いシュートとなるが、一般には子葉から第一葉までの部分が上胚軸とされる。

また、胚軸を下胚軸と呼ぶことがあるが、植物学用語では使用されていない。

イネ科の植物だけにみられる中胚軸は、幼葉鞘の下部と胚軸とが合着している部分をいう。

若い胚軸が主たる食用対象となるのがモヤシであり、胚軸と子葉を対象にするものがカイワレである。肥大した胚軸と直根が食用とされるのがニンジンやダイコンなどの貯蔵根である。側根が発生している部分が直根で、発生のない部分が胚軸の肥大部とされる。カブの肥大部の大部分は胚軸である。

果菜類の接ぎ木苗においては、芽生え後の幼植物をセル成型苗として生産して、胚軸や上胚軸部分で接ぎ木をする方法が行われている。この場合、胚軸の伸長程度と太さが重要視される。従来の自家苗として生産された接ぎ木苗は、ナスやトマトでは2~4節間の茎で接ぎ木された。

(3)近所の農産物直売所から買ってきたハクサイの苗の根本を見ると、胚軸が見えている。
ここがなぜ地上部に長く出ているのかが、不思議。グラグラする原因になっているのだけれど。

地下で発芽するユリの仲間

ヤマユリやヒメサユリ(オトメユリ)、ボタンなど種子から発芽するも、地下にもぐったままであり、そのまま一年目は上胚軸休眠してしまう植物がある。この本ではこれを「地上子葉と地下子葉」という項目で取り上げている。地下子葉(潜伏型子葉)は発芽しても種皮内から外に出ない。子葉の先端は種皮内に留まり、それ以下の部分が地上に露出して光合成をするもの、子葉の一方が種皮内に留まり、他方が地上で光合成をするものなど中間型のものもあるという。

オトメユリ、ササユリ、ヤマユリやカノコユリは夏に花を咲かせ秋に地上に種子が落ちるわけだが、すぐに寒い冬になる。発芽はするものの一定期間の休眠に入る。このときの子葉は胚乳の養分だけで地中に米粒のような小鱗片をつくり、やがて休眠から覚めると第一葉を地上に出してくる。自然だと、秋に種を播いて翌々年の5月ころに葉が出てくるというから1年半もかかる。それから1、2年経ってようやく茎立ちし、30cm程度になる。根出葉(※これも本に載っている)の基部はすべて鱗片で球根になっていき、さらに1、2年経ってようやく一輪の花を付ける(ここまで5年)。

今回、藤重宣昭先生の『農業用語の基礎知識』を紙の本で読んでみてわかったこと。それは、用語の量、複雑さは、植物の不思議がそれだけ多岐にわたって存在し続けていることを僕らに保証してくれるということだ。ページをめくりながら、出てくる用語がわからないことばかりで、うれしくなる。この本は教えてくれる―安心しなさい、勉強すべきことは死ぬまで終わらないほど十分にここにある。

 参考
清水基夫『日本のユリ』誠文堂新光社1971

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『園芸用語の基礎知識』藤重宣昭[著]
誠文堂新光社 定価:本体4,000円+税

検索ワード

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著者プロフィール

松山誠(まつやま・まこと)
1962年鹿児島県出身。国立科学博物館で勤務後、花の世界へ。生産者、仲卸、花店などで勤務。後に輸入会社にてニュースレターなどを配信した。現在、花業界の生きた歴史を調査する「花のクロノジスト」として活動中。

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