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【関西 野菜】水ナス

公開日:2022.7.28

水ナスはアクが少なく甘みがあって生食もできる水分の多いナスで、主に大阪の南部である泉州と呼ばれる地域で栽培されている。

全国的に見ても産地と呼べるところはこの地域を除いてほぼなく、大阪泉州農協といずみの農協の2団体によって「泉州水なす」として地域団体商標にも登録されている。

現在、水ナスとして栽培されているのは品種改良されたもので、大手の種苗メーカーからも改良品種が販売されている。

本来の水ナスは現在のものよりも皮が薄くて色も淡い赤紫色のものが多かった。形も巾着型のものや中長型のものが多く、農家が自家採種したり地域の種子屋が選抜採種したりしながら継承されていったようで、栽培地域ごとに水ナス原種と考えられるものが多数存在する。どれも食味は良かったのだが、皮が薄くて傷がつきやすかったり、色目も悪く形がいびつだったり、漬物にすると褐色になったりと、自家用に食べるには良くても商品としては価値が認められず、昭和の初期頃は百貨店などで販売されてもクレームが多かったため敬遠されていた。

戦後に品種改良が進み、濃紫色で形も良く、漬物にした時も美しい色合いになる「絹茄子」と呼ばれる系統のものが普及しはじめると、徐々に受け入れられるようになっていった。

転機が訪れたのは1988年。この年、クロネコヤマトがクール宅急便の全国配送展開をはじめた。

水ナスの浅漬けやぬか漬けは、漬け込んでから3~4日後くらいが食べ頃で、温度の高いところだと醗酵が進みすぎてしまうため要冷蔵で、それまでは地元消費しかできなかったのだが、クール便の登場で翌日、または翌々日の配送が可能となったことから、全国に普及しはじめたのだ。

水ナスは他に類を見ない大阪泉州特有のものだったことで差別化が実現でき、その食味の良さから人気が高まり、ギフトや大阪土産などにも利用されるようになっていった。

地元消費がメインだった時代には見た目の品質があまり重視されなかったものが、ギフトや土産に利用されるようになると品質重視になっていき、出荷する生産者側も手間をかけたり高い栽培技術が求められたりするようになっていった結果、品質の高いものが高値で取り引きされるようになった。

近年でも水ナス以外のナスと比較してみると、入荷量ははるかに少ないが、単価はシーズン中には水ナスのほうがかなり高いことがわかる。

水ナスの浅漬けやぬか漬けは、消費者が購入したりギフトに利用されたりする以外に、シーズンになると大阪の居酒屋など料理店でも多く利用されている。

水ナスは天ぷらや揚げ出しなどで提供されることもあり、近年ではハーブや生ハム、オリーブオイルなどとともに西洋風のサラダ感覚で食べるメニューも増えてきており、外食を中心に原体販売の可能性も広がってきている。

 

コロナ禍の影響で外食や漬物の需要が激減し、ここ数年は厳しい販売状況が続いているが、人気の高い商材でもあり、安定した生産と供給が実現されることが生産者にとっても流通側にとっても望ましい。

しかし近年の気候変動の影響で、夏の高温やゲリラ豪雨、強風など、水ナスの品質を低下させてしまう事態も頻発している。

品質低下したものは品薄でも価格が安くなってしまうため生産者を圧迫しているが、やはり一般的な需要よりもギフトや外食店などの需要が高いため、なかなか思うような価格での流通は難しい。

ここ何年かで、水ナスの原種と言われている「澤ナス」、「馬場ナス」もその種子が発見され、一部の生産者の間で栽培が復活して、限られた地域と数量ではあるが流通がはじまっている。

気候変動に対応できる新たな品種改良も必要だが、こういった新たなブランド水ナスとしての利用も、今後の普及に期待したい。

著者プロフィール

新開茂樹(しんかい・しげき)
大阪の中央卸売市場の青果卸会社で、野菜や果物を中心に食に関する情報を取り扱っている。
マーケティングやイベントの企画・運営、食育事業や生産者の栽培技術支援等も手掛け、講演や業界誌紙の執筆も多数。

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