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ポットカーネーション『応援花』で、新しい需要創造にチャレンジ

公開日:2024.4.25

ポットカーネーションの育種で新しい需要を

星野晃正さん。編集部との出会いは、カネコ種苗(株)のパックトライアル会場。ポットカーネの技術的な話はもちろん、経営、マーケティングについても丁寧にわかりやすく解説してくださった。

花を贈る場面は様々だ。お歳暮や記念日の様な義理や習慣に囚われず、素直な気持ちを伝えるためのモノは、この世にどのぐらいあるのだろう。今回は、がんばっている人や元気になってほしい人、受験生などに向けて、義理やもの日に囚われず、贈る人の思いを伝えるポットカーネーションを育種・栽培するカスカワ・シードリング・アソシエーション星野晃正さん(群馬県前橋市)を取材した。

1月18日の取材当日、出荷を待つばかりの『応援花』

星野さんは、冷暖房を一切使用せず、12月後半から2月一杯までカーネーションSAKEEE®『応援花(おうえんか)』(カネコ種苗(株))を栽培・出荷している。SAKEENE®シリーズの品種の特長は、耐低温性連続開花性だ。従来品種に比べて低温の環境下でも栽培が可能で、地域によっては無暖房で栽培できるので生産コスト低減にもつながる品種だ。また、従来のポットカーネーションの欠点である、消費者の手に渡ってからのつぼみが開きにくい点を大幅に改善し、長期間楽しむことができる。

 

連続開花し、無暖房で栽培できるポットカーネーション

「基本的に咲きやすいというのは大前提。技術の粋を尽くして生産者が苦労して咲かせる花を、エンドユーザー、お客さんに咲かせられるとは思えないのです。なるべくお客さんのところで咲きやすい品種の開発をしています」と星野さん。

取材当日の天候は雪。外気温1℃だったため、凍ったポットカーネを撮影することはできなかったが、この体も芯から冷える状況においても、ハウス内は無加温であった。SAKEENE®シリーズは耐寒性にすぐれる品種群だ

「ポットカーネーションって花持ちがしない代名詞になっています。それを覆すために、連続開花をする品種特性が重要で、かつ、寒くて鉢花が一番売れない時期に売り出すために耐寒性をもたせた『応援花』を売ろうとしているわけです。一方で、本当の目的は、売りにくい寒い時期に『応援花』という売り場を作りたいと思っているのです。日本人は風習や縁起に弱いじゃないですか。例えば恵方巻やハロウィンが全国レベルになりましたよね。そういうことが花の業界もできていいんじゃないかと思います。『応援花』がその季節の必須商品・縁起物になるような場所や機会ができたらいいなと思っています」と語っていた。

出荷する商品を選定する人は決まった人にしかさせていないという。出荷できるクオリティかどうかを見極めるのも経験が必要だからだ。選定した鉢にはラベルが付けられ、それが出荷の目印となる

 

ポットカーネーション生産技術で、問い合わせの多いことは? との問いに星野さんは「開花調節はどうしているのか? が多いですね。納品日に合わせて開花させなければいけない時に、開花させることの技術についてよく質問されますが、このSAKEENE®の品種にしてからは開花時期のことでドキドキしたことはないです。品種毎に、この時期は花摘みをやめなさいよ、という時期があるのですが、それを守っていれば花は咲きます。はっきり言うと、暖房などで開花調節は基本的にはできないのです。定植のタイミングを事前に開花日を合わせておいて、あとは咲くのを待つだけです。心配であったら、早めに花摘みをやめて、早く咲いてきた場合には、その花を摘んで出荷時期を待つようにします」と話していた。SAKEENE®シリーズは品種の特性として蕾の数が多く、積んでも草姿が崩れないので、摘むことで出荷のタイミングをまつことができるそうだ。

店頭で水がかかってしまっても破れない「ユポ紙」を使ったチラシ。配慮がこまやかだ

ほぼ注文出荷であるプレッシャーが、品質を落とさないモチベーションに

星野さんは、直販はせず、出荷先は販売代理を置いて量販等と取引をしており、市場出荷についても注文分だけだそうだ。基本的にセリに出すことはないという。

「セリに出すと、どうしても値段を下げられて、高値で買って下さる出荷先のお客さんを裏切ることになると思っています。なので、注文が減った場合は、生産量もその分減らします。今は、母の日が終わって、5月末から6月の末には、次のシーズンの注文が全量決まります。なので、一年前から注文を頂いているのに、失敗したら恥ずかしいですよね。プレッシャーにもなります。注文の比率を増やせば、代品もなければクオリティもかなり厳しい。けれども、単価は生産者側が決めることができます。市場に出荷してお金の心配をするより、しっかりと単価をとれる商品を作る方を選択しています。経費が決まっているのに、単価を農家が決めることができず利益が少なかった場合、資材費をカットしなければなりませんよね。そうなると品質も落とさなくてはいけなくなる。それは誰の利益にもならないです。なので、単価を農家が決めることは、これからの農業で非常に重要なことになると感じています」

近年の資材費や人件費の高騰もあるので、なおさら今後は、商品単価を生産者が決めてしかるべきだとも話していた。

後述しているが、外張りは梨地のエフクリーン。光がまんべんなく回り、カメラマンも撮影しやすいと言っていた

 

商品の品質や出荷時期に開花を合わせるためには、プレッシャーが大切と話す。

「プレッシャーを常に感じていると、作りを失敗しないですよね。朝起きて圃場にきて様子を見て、夜心配でまた圃場にきて様子を見て、悩んで悩んで。気が抜けないから失敗しないってこともありますよね。調子が良いからと言って浮かれることもないし。なので、チャンスはピンチだと思うようにしてます。調子のいい時ほど大きな穴をあける可能性がありますからね。悪いときの方が、何とかしようと頑張れます」と星野さんは語る。

 

肥培管理・スペーシングとハウスのビニルについて

■肥培管理
肥培管理ついては、定植後3週間後に置き肥をするのだが、ほぼ液肥中心で管理している。気温が低いので基肥や置き肥がほぼ溶出しないそうだ。追肥もするのだが、5カ月タイプのものなので、それはお客さんの手に渡ってからの肥料という位置づけで施肥しているそうだ。
星野さんは「カーネーションって納めて終わりみたいなところがあるのです。そうではなくてお客さんのところで良い状態をどれだけ維持できるかが重要なのです」と話す。

 

■スペーシングについて
スペーシングは、一発で出荷のスペースに広げてしまう。その理由を「スペーシングを何回もやると、移動の振動で根を痛めたり、擦れたりするので、何回も広げ直しをして、下の根にダメージを与えることをしたくありません。なるべく最小限にしたいです」と話す。1月出荷は1ベンチに対して6列にするが、母の日に向けた栽培については、株をコンパクトにすることからも1ベンチに対して7列にするそうだ。

 

■外張りビニルについて
ハウスの外張りは散光型の梨地のエフクリーン。透明タイプほど光を必要とせず、また、拡散光線で日影が少なくなるので、光が安定し開花が揃うので、梨地タイプを選択している。「本来の花色で咲いてこないことが一番怖いのだが、紫外線も透過するし、この外張りで満足してます」。平成3年に建てた外張りが透明タイプのハウスでは、梨地に比べ、内張カーテンなどの痛みが透明タイプだと出てくるそうだ。ちなみに遮光カーテンは植物生産のためではなく、5月の出荷時期に作業者のために展張する装備だ。

今後は、生産を息子さんに任せ、ご自身は『応援花』の普及活動に力を入れていきたいと星野さんは話していた。

『応援花』をもらった人が笑顔になるように、星野さんの活動は続いていく。

 

取材・文/御園英伸

写真/杉村秀樹

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