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第6回 獣がいフォーラム 「市民の力で変わる  獣がい対策への新しいアプローチ」レポート(前編)

公開日:2024.4.5 更新日: 2024.4.12
第6回獣がいフォーラムが開催された、丹波篠山市の四季の森生涯学習センターには多くの人が集まった。

生産者が丹精を込めて栽培しても、収穫前に野生動物に農作物を食べられては、すべての努力が水泡に帰してしまう。そのため圃場周辺に野生動物が生息する地域では、確実な獣害対策が求められるが、農村地域の過疎化が深刻化するなか、獣害対策に取り組もうにも、その担い手を確保することが難しくなっているのが実情だ。

そこで兵庫県丹波篠山市では、農家ではない市民や、地域外に暮らす人達など、多様な人材が関われるよう、「害」の漢字を敢えて平仮名の「がい」と表記して、2018年以来、「獣がいフォーラム」を開催してきた。そして去る3月2日に第6回目のフォーラムが開催され、朝早くから多くの人が詰めかけた。その様子を紹介する。

広がりを見せる市民参加のヒグマ対策

今回のフォーラムでは、まず、酪農学園大学佐藤喜和教授による「市民によるヒグマ対策 すみ分けによる共存を目指して私たちにできること」と題した基調講演が行われた。

「大都市の札幌では、近年、人間の生活圏にヒグマが出没することが増えています。その背景には、ヒグマの個体数が増加したことに加えて、人間の生活圏に隣接した地域で育ったクマは、道路を往来する自動車の騒音などの街の喧騒に慣れ、人に対する警戒心が低下していることが関わっています」

一度、人と接触するようなことになれば、人身事故になりかねない。札幌市では防護柵を設置するなどして、人とクマの遭遇を防ぐ対策が講じられてはいるものの、市街地へのクマの侵入を完全に阻止することは難しい。市街地に出没したクマは駆除されるが、一方で札幌市には自然豊かな環境を好んで暮らしている人が多く、市街地に侵入したからと言って、クマを駆除することに納得できないと感じる人が少なくないという。

「行政任せではなく、市民も何かできないか……と考えられるようになり、人が暮らす市街地とクマが生息する森の境界地域の管理を、市民参加で行うようになりました」(佐藤教授)

2013年に札幌市を流れる豊平川を伝ってクマが市街地に侵入したことを受けて、翌年から市民参加の取り組みがスタート。それまでは豊平川の河畔では草が伸び放題で、クマが身を隠せる状態であったのを、草刈りが行われて遠くまで見通せるようになった。活動を開始してからの10年間、豊平川を伝って市街地に侵入した事例は発生していない。

行政には充分な対策を講じてもらうにしても、予算が限られるなか、できることには制限がある。その点、行政とは違った形で市民参加の対策も進めば、より効果的なクマ被害の防除が期待される。こうした市民参加の取り組みは、他の地域にも波及しており、その一例として、観光客が参加してクマ対策が行われている知床の事例を紹介してくれた。

「知床半島はクマが高密度で生息しており、市街地を囲うように電気柵が設置されています。それでもクマが市街地に入ってしまうため、あるリゾートホテルが『自分たちできることをやっていこう』と草刈りをはじめました。2年目にはホテルに関係する関係企業の方々を巻き込み、3年目にはホテルのお客さんにも草刈りに参加してもらうようになっています」

旅行の目的に知床を選ぶような人は自然保護への関心も高く、クマが駆除されるのなら草刈り作業を手伝いましょう……と体験型の旅行として楽しんでいるという。これまでに600人もの人が参加しており、獣害対策の担い手が不足している地域にとっては、関係人口を増やしていく上で大いに参考にすべき事例と言える。

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