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松山でアボカドの産地化を実現する、 愛媛県松山市農業指導センター

公開日:2023.6.16

栽培技術の難しさ

柑橘農家を中心に、農業指導センターが苗木を分譲することで広がりを見せてきたアボカド栽培ですが、まだまだ課題は尽きないようです。

「アボカドは、苗木を植えても、立地や栽培条件で数年後2〜3年で実がなる人もいれば、なかなか実らない人も。また数年なり続けた後、ぱったり実をつけなくなるケースもあり、安定的に栽培するのが実に難しいのです」(橋口さん)。

これまでの取り組みの中で、アボカドの栽培には、水はけと日当たりがよく、寒さが滞留しない場所で栽培することが大事であることがわかってきました。

露地栽培の様子。土台を盛り上げ、排水をよくしている。

同じ果樹でも、柑橘の場合は寒波に襲われて果実が凍ることはあっても、樹体は生き伸びるのに対し、アボカドは寒波に見舞われると樹体まで凍ってしまう。そこが弱点です。

松山市農業指導センターがアボカドの苗木の分譲を開始してから15年。その事業は、現在も続いています。

毎年センター内の圃場で苗を育て、市内の農家に分譲している。

もうひとつ、松山市でアボカドを栽培し続ける中で、ひとつ問題がありました。マイナー作物であるために、登録農薬がないのです。

「これまでアボカドの炭疽病に使える農薬がありませんでした。そこで、松山市と愛媛県が協力して2021年11月、『ICボルドー』を登録。使用できるようになりました」(橋口さん)

こうした長年の取り組みが実を結び、現在は183人の生産者がアボカドを栽培。総面積は13.5ha。生産量は年間6,860kgを数えるまでになりました(2021年現在)。市内ではアボカド料理を提供する飲食店も登場。徐々に産地としての連携の輪が広がって「松山産アボカドを盛り上げよう」という気運が高まっています。

ユーカリの挿し木技術も

そんな松山農業指導センターでは、他にも農家の経営に役立つ作物を育てています。そのひとつが「グニーユーカリ」。丸く小さなシルバーグレーの葉が特徴で、フラワーアレンジメントやクリスマスリースを彩る花材として人気です。

松山市が特許を取得した「ユーカリ挿し木技術」で、安定的な栽培が可能に。露地で栽培可能で軽量なため、高齢者や女性が取り組める作物として、市内で栽培する人が増え、2017年9月には、「まつやま農林水産物ブランド」に認定されています。

シルバーグレーの葉が美しいグニーユーカリを独自の挿し木技術と共に普及させた。

さまざまな農産物の産地化を推し進めてきた松山市では、いよいよ2022年10月18日、「松山アボカド」が、「まつやま農林水産物ブランド」に認定されました。センター内の施設では、フィンガーライムやグレープフルーツの試験栽培も行っています。
柑橘農家を中心に栽培しやすく、経営的の安定に役立ち、そして市民に愛される作物を……。松山市農業指導センターを起点に、新しい作物がひとつ、またひとつ増えています。

センター前のアボカドの鉢植え。丸い種子が割れて、芽を伸ばし、生長する。

 

2022年10月26日取材
参考文献/「ふれあい」2022年春号(全国農協観光協会)

取材協力/松山市農業指導センター
取材・文/三好かやの

撮影/杉村秀樹

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