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渡辺和彦の篤農家見聞録

番外編「水田転作のポイント教えます! 省力多品目栽培のすすめ」

公開日:2023.7.3 更新日: 2023.6.30

肥料の効力を
詳細に分析してみる

前述した肥料で最も役立っているのは、土作りで使う「ハイグリーン」(表1表2)。味の向上、耐病性、昨今の異常気象のなかでもこれがあると大丈夫と清田さん。ただ、これは誰でも買えるものではない。販売当初から選ばれた販売店への流通となっているためである。N、P、K以外のものは「ハイグリーン」で補っている。化成肥料では、「母肥力10」(表2)。特有の微生物分解型緩効性窒素を含むノンコートロング肥料で、窒素成分の流亡を抑制する機能もあり、肥料成分の利用率が高いことが大きな特長だ。そして次に「腐植無双 極」(表2)。天然腐植酸を約62%含み、わずか2袋30kgで堆肥1t分の腐植酸を供給できるそうで保肥力、根作りに効く。発酵肥料では「ぼかし大王」。高タンパク質の飼料を与えられているうずらの廃鶏をベースに、うずら卵、鰹節の煮かす、植物のかす、コンブかす、カニがら等を添加し、スムーズな肥効を示すように発酵させた有機100%のボカシ肥料である。窒素成分を強化させるため、フエザーミールを追加している。成分は、N:5.4%、P2O5:4.5%、K2O:2.8%で、100%有機肥料だ。この4つがあれば、水稲、園芸、花もほぼうまく栽培できると清田さんは言う。ただ、畑作においての施用量は、水稲作の2~2.5倍と考えておいてほしい。

ただ最近多くの試験で明らかになったことだが、苗作りと最後の収量アップにバイオスティミュラント(BS資材)である日本発、世界初の化学薬品を使わないフルボ酸、フミン酸の水抽出液「HS-2®️プロ」(2000〜5000倍希釈液)と水和タイプの粉体ミネラル肥料「ハニー・フレッシュ」(300〜500倍希釈)との混合液を葉面散布しても良いし、潅注しても良いと筆者は考える。「HS-2®️プロ」は根の発生、成長を促すだけでなく、「ハニー・フレッシュ」に含まれているミネラル元素の吸収を促進してくれる。丈夫な苗ができ、「今までの苗作りは何だったのか」とさえ思う、まさに目からウロコのBS資材だ。苗がしっかり育ち、収穫期に散布すると、収量アップは確実で、その効果に驚かれる方が多い。ただ、費用対効果を考えると、使用量が少なくて済む育苗段階での使用を最初にして、その効果を体感されたら迷いも吹き飛ぶと思う。

また、天然有機肥料はそのままではまったく吸収されないと思われる読者も多いと思うが、本誌2022年冬号の小欄でも紹介した淡路島の落合良昭さんは魚カス肥料を主として使用し、料理店の板長からすばらしくコクのある出汁のとれるタマネギという評判を得ている。さらに大切なことなので繰り返し強調したいが、東京大学の森敏先生、西澤直子先生達はヘモグロビンのみで水稲が登熟まで完全に育てられる実証実験をされ、根部の電子顕微鏡写真で植物根は巨大分子であるヘモグロビンを吸収する能力(これをエンドサイトーシス(細胞貪食)という)があることを45年も以前である1978年に発見し、公表されているのである。

土作りの基本を忘れずに
省力でおいしい野菜を作ろう

意外に思われるかもしれないが、野菜も水稲も同じ肥料で良い。昔は水稲用肥料では秋落ちの発生で悩まされた戦後初期の時代が長くあり、硫黄を含む肥料は水稲では使用しないよう指導されていた。長年そうした時代が続き、現在では多くの水稲栽培で硫黄欠乏が散見されるようになった。水稲も硫黄施肥は必要である。それに本誌2019年冬号の連載「栄養素の新常識」で執筆したように、2015年以前までは稲科植物に必要なことはわかっていたが、岡山大学の馬建鋒先生らのケイ酸トランスポーターの発見(2006年)などによりケイ素研究が世界各国で急激に盛んになり、稲科作物以外も高等植物には価値ある物質と定義され直され、野菜、花などにもケイ素施用が必要であることが世界的に認められたことも大きい。

清田さんが案内してくれた産直所の生産者の売り上げ目標額は、多くが約1000万だという。ハードルは高いが、良い肥料を使えば実現可能である。清田さんは、堆肥を入れれば間違いないと言う人が多いがそれは間違いと断言する。筆者もそれに同意する。多くの皆さんが間違っているのだ。世間で言われている堆肥は家畜ふんで作った堆肥を指している。窒素、リン酸が過剰に含まれ、亜鉛、銅などの元素はリン酸や有機物に吸着・固定され、不可給化している。ホウ素はほとんど含まれていない。それに、微生物活性が高くなるとマンガンも不可給態化する。すなわち、堆肥はミネラル不足が欠点だから、ミネラル肥料を十二分に施用すると収量も品質も良い農産物が収穫できるのである。

取材協力/(株)ネイグル新潟 清田政也
取材・文/一般財団法人日本ヘルスケア協会 土壌で健康部会技術顧問
元兵庫県立農林水産総合技術センター環境部長
農学博士(京大) 渡辺和彦

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