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渡辺和彦の篤農家見聞録

リン酸の葉面散布でナスを安定生産

公開日:2023.10.24

緻密な観察とダイナミックな農法の合わせ技に感心

今回お伺いして驚いたことは、ナスの顔色(樹勢)、天候・温度などの自然条件を見ながら、ECは0.5~1.0(1:5)を維持し、少なければ前述の硝酸性窒素の比率が高い「稲妻 8-3-4」 や「スーパードリップ 10-3-4」をかなりの量で施用。なり疲れなどで調子を崩し、ナスの吸収が悪いときは、水のみでしばらく様子を見るという、大胆な肥培管理を行っておられたことであった。

またリン酸の葉面散布が現在も実際の栽培現場で実施されていたことは、筆者にとって大きな驚きであった。古くは兵庫県の試験場でもリン酸の葉面散布試験はされていたとは聞いていたが、実際の生産者の現場での実施は今まで聞いたことがなかったからである。

植物体内でリン酸はとくにATPになってエネルギー源となり、作物に力を与える。筆者は、葉から吸収されたリン酸についてラジオアイソトープを用いた実験で確認しているが、 葉面から非常に良く吸収されていた。一般的に土壌に施用すると、根に到着するまでに土壌中に大量にあるアルミニウムや鉄など、種々のリン酸吸収転流阻害物質により固定され不可吸態になるが、葉面散布はそうした障害のない状態なので、非常に効率の良い肥料施用法なのだ。古田社長によると、最近はかなり少なくなったが、葉面散布に よる施肥法は高知県の果菜類の施設栽培では昔から行われていたそうだ。

最新技術も上手に活用しながら伝統的な技術も継承する。まさに現場の作物生育の緻密な観察から生まれた栽培法を実際に見ることができた今回は貴重な取材となった。

取材協力/陸野 貢むつ の  みつぐ
取材・文/公益財団法人日本ヘルスケア協会・土壌で健康部会技術顧問
元兵庫県立農林水産技術総合センター部長
農学博士(京大) 渡辺和彦

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